↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
戦わずに世界を変えた男――教育と物流で“循環国家”を作ったら、いつの間にか大陸が一つになっていた  作者: 慈架太子


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

218/311

218 建国

 十三億五千万人への教導は順調に進んでいた。


 百万人の教導教師が用意されたとはいえ、十三億五千万人を一人ずつ教える必要はなかった。


 最初の者へ教える。


 覚えた者が次の者へ教える。


 教えたことで《教導》が発現する。


 今度はその者が、さらに次を教える。


 教導する側そのものが増え続けていた。


     ◇


 最初に狩りを体験する者が百人ほど選ばれた。


 教師とともに森へ向かう。


「まず索敵です」


 百人が周囲へ意識を広げた。


「いました」


「鑑定してください」


 魔物の種類、数、状態を確認する。


「では、バインドバレット」


「はい!」


 バインドバレットによる捕縛。


 さらに拘束して動きを完全に封じる。


「次はウォーターマスクです」


 魔物の頭部が水で覆われた。


 ウォーターマスクによる窒息。


 やがて魔物の動きが止まる。


「鑑定」


「死亡を確認しました」


「では解体です」


 肉、皮、骨、内臓、魔石。


 鑑定しながら分けていく。


 一度覚えると、すぐに教え合いが始まった。


「先に索敵」


「見つけたら鑑定ね」


「バインドバレットで捕縛、拘束」


「その後に窒息 ウォーターマスク」


 教師は間違いがないか確認するだけになっていった。


     ◇


 農業を体験する者も百人ほどだった。


「まず土を作ります」


「種を蒔くんじゃないんですか?」


「まだです」


 教師が土魔法を使った。


 表層と深い場所の土を大きく入れ替える。


 天地返し。


「同じようにやってください」


「はい!」


 百人が土魔法を使う。


 畑の土が次々と入れ替わっていった。


「次はヒールバレットとピュリフィケーションバレットです」


「畑にですか?」


「はい。ばら撒いてください」


 ヒールバレット。


 ピュリフィケーションバレット。


 無数の魔法が畑へ降り注ぐ。


 最後に水魔法で散水する。


「今日はここまでです」


「種は?」


「まだですよ」


 翌日。


 再び天地返し。


 ヒールバレット。


 ピュリフィケーションバレット。


 散水。


 その翌日も同じだった。


 毎日繰り返す。


 土を育てる。


 そしてようやく種を蒔いた。


 種を蒔いた後も終わらない。


 ヒールバレット。


 ピュリフィケーションバレット。


 散水。


 毎日続けた。


「芽が出た!」


「こっちも!」


 小さな芽が次々と顔を出す。


「では今日も続けましょう」


「はい!」


 芽が出ても繰り返す。


 一度覚えた者は、次に農業を体験する者へ教え始めた。


「最初は天地返しからだよ」


「種は?」


「まだ。先に土を作るんだ」


 ここでも教師の仕事は急速に減っていった。


     ◇


 同じことが各部門で起きていた。


 紡織。


 鍛冶。


 木工。


 酒造。


 発酵。


 製薬。


 治癒。


 行政。


 土木。


 建設。


 建築。


 物流。


 希望する部門を体験する。


 合わなければ別の部門へ行く。


「鍛冶は面白かった」


「私は紡織の方が好き」


「酒造をやってみたい」


「発酵も覚えておくといいよ」


 誰かが決めた仕事に押し込むのではない。


 自分で体験し、自分で選ぶ。


 そして覚えた者同士が教え合った。


《紡織》


《鍛冶》


《木工》


《酒造》


《発酵》


《製薬》


《治癒》


《行政》


《土木》


《建設》


《建築》


《物流》


 次々とスキルが発現する。


 さらに《教導》も発現した。


「教導が出た!」


「じゃあ次の人に教えてみよう」


「分かった」


 教えられた者が、教える者になる。


 教師が十三億五千万人の隅々まで教えて回ることはなかった。


     ◇


 教導管理システムには猛烈な勢いで記録が追加されていった。


「読み書き、終了しています」


「計算も終了」


「各部門の体験は?」


「全地域で進んでいます」


「教導が足りない地域は?」


「ありません」


 クレインは表示を見つめた。


「十三億五千万人ですよ?」


「はい」


「本当に終わったのですか?」


「終了しています」


 教師が全員を教えたのではない。


 保護された者たち自身が教え合った。


 十三億五千万人の教導は、難なく終わった。


     ◇


 その直後。


 十三億五千万人の代表者たちがクレインを訪ねてきた。


「宰相閣下。お願いがあります」


「何でしょう?」


「私たちを独立させてください」


 クレインは黙った。


「……またですか」


「また?」


「いえ。こちらの話です」


「私たちは保護されました。教導も受けました」


「今は自分たちで働けます」


「だから今度は、自分たちで国を興したいのです」


 そして代表者の一人が言った。


「本国に恩を返したい」


 クレインは彼らを鑑定した。


《アルデバラン国民》


 エミリーとエミリアにも確認させる。


 十三億五千万人。


 例外はいなかった。


 全員が《アルデバラン国民》を発現させていた。


     ◇


 王宮。


 報告を聞いたバイオレットは笑っていた。


 オーキスは苦笑している。


「それで、何カ国だ?」


 クレインが答えた。


「第46から第130アルデバラン王国までとなります」


「……百三十」


 建国予定地は、すでに選定されていた。


 ガルテェニカ王国。


 サンマウ王国。


 ヴェロン王国。


 ヴァレキフ王国。


 シトラルド王国。


 キーシル王国。


 ウジフラン王国。


 ヘコサ王国。


 フネルジア王国。


 ジキブス王国。


 十カ国の跡地だった。


「第130アルデバラン王国か」


「はい」


 バイオレットが楽しそうに言う。


「ずいぶん増えましたわね」


「増えたという数ではないだろう」


 最初は一つだった。


 それが第2、第3と増え、第45まで来た。


 そして今度は第130。


 オーキスは天井を見上げた。


 もう笑うしかなかった。




 十三億五千万人の独立希望は、すぐに王宮へ伝えられた。


 オーキス、バイオレット、クレイン、マーガレット。


 アイク、アッシュ、ロックウェル。


 アレクサンドら四十七人の新興貴族たち。


 エミリーとエミリアもいる。


「第46から第130まで、八十五カ国を建国したいとのことです」


 クレインの説明を聞き、オーキスが尋ねる。


「一国あたり、どれほどになる?」


「完全に均等ではありませんが、およそ千五百万人から千六百万人です」


「十分だな」


 十三億五千万人は、すでに教導を終えている。


 読み書き、計算、鑑定、教導。


 さらに農業、狩猟、紡織、鍛冶、木工、酒造、発酵、製薬、治癒、行政、土木、建設、建築、物流。


 様々な仕事を体験し、自分に合うものを選んでいた。


 国を興すための人材には困らない。


 エミリーが口を開く。


「多少の偏りは出ると思います。農業を希望する者ばかりが一つの国へ集まるわけにはいきません」


「医官や行政官も必要です」


 エミリアが続けた。


「それも本人たちに決めさせればよい」


 オーキスが答える。


「必要な仕事は分かっているのだろう?」


「はい」


「なら余が決めることではない」


 クレインが頷いた。


「そのように伝えます」


     ◇


 建国する土地も決まっていった。


 ガルテェニカ王国。


 サンマウ王国。


 ヴェロン王国。


 ヴァレキフ王国。


 シトラルド王国。


 キーシル王国。


 ウジフラン王国。


 ヘコサ王国。


 フネルジア王国。


 ジキブス王国。


 国家として存在しなくなった十カ国の跡地。


 そこを八十五に分ける。


 旧国境をそのまま使う必要はなかった。


 平原。


 森林。


 山地。


 既存の町や村。


 街道。


 農地。


 それぞれを鑑定し、自分たちで相談して分けていく。


「国王はどうする?」


 オーキスが尋ねた。


「各国で選ぶそうです」


「そうか」


 それだけだった。


 誰を王にするのか。


 どのような行政組織を作るのか。


 騎士団をどれほど置くのか。


 それは独立する者たちが決めることだった。


     ◇


 準備ができたところから移動が始まった。


 転移。


 飛行。


 食料、衣類、農具、建築資材、医薬品。


 必要なものはアイテムボックスに収納している。


 馬車を何千台も用意する必要はない。


 水を探す必要もない。


 水属性魔法が使える。


 到着した者たちは、すぐに動き始めた。


「居住区を決めよう」


「農地は向こうがいい」


「建築を希望した者はこちらへ」


「土木は道路を頼む」


「医官は診療所を作ろう」


「行政を希望した者は集まってくれ」


 命令する者はいなかった。


 必要なことに気付いた者が声を上げる。


 できる者が応じた。


     ◇


 農地予定地では土属性魔法が使われた。


「まず天地返し」


「分かった」


 表層と深い場所の土を入れ替える。


 ヒールバレット。


 ピュリフィケーションバレット。


 畑全体へばら撒く。


 最後に散水。


「今日はここまでだな」


「明日も同じ?」


「ああ。まだ種は蒔かない」


 翌日も繰り返す。


 その翌日も。


 十分に土を作ってから、ようやく種を蒔く。


 種を蒔いた後も毎日続ける。


 ヒールバレット。


 ピュリフィケーションバレット。


 散水。


 芽が出ても同じだった。


 誰かが横について教える必要はない。


 分からなければ、知っている者に聞く。


 覚えた者が、また別の者へ教える。


     ◇


 建築予定地でも同じだった。


「住宅を作る者はこちら」


「診療所は私たちが作ります」


「行政施設を先に作ろう」


「木工が足りないな」


「こちらに十人いる」


「では手伝ってくれ」


「分かった」


 建築。


 建設。


 土木。


 木工。


 鍛冶。


 それぞれが自分の持つスキルを使う。


 必要な資材はアイテムボックスから取り出す。


 足りなければ別の集団へ尋ねる。


 余っていれば渡す。


 それだけで町の形ができ始めていた。


     ◇


 国王の選出も始まった。


「私は彼女がいいと思う」


「理由は?」


「教導の時から周りをよく見ていた」


「困っている人にもすぐ気付いていたな」


「自分の仕事が終われば、別の人を手伝っていた」


 別の国では元衛兵。


 別の国では教師。


 行政を学んだ者。


 商人。


 農業を選んだ者。


 様々な人物が候補に上がった。


 元の身分は関係なかった。


 自分たちが任せたい者を、自分たちで選ぶ。


 それだけだった。


     ◇


 建国の状況は次々とシステムへ登録されていった。


《第46アルデバラン王国 建国》


《第47アルデバラン王国 建国》


《第48アルデバラン王国 建国》


 オーキスは表示を眺める。


「早いな」


「すでに生活する力を持っていますから」


 クレインが答えた。


 さらに増える。


《第63アルデバラン王国 建国》


《第79アルデバラン王国 建国》


《第91アルデバラン王国 建国》


「……余は何をすればいい?」


「何もなさらなくてよろしいかと」


 クレインが平然と答えた。


「独立国ですので」


「そうだったな」


 オーキスは表示を送る。


 第108。


 第117。


 第124。


 まだ増える。


 そして最後に表示された。


《第130アルデバラン王国 建国》


 オーキスの手が止まった。


「本当に百三十まで増えたぞ」


「最初から申し上げております」


 バイオレットが笑っていた。


「陛下が命令することは、何もございませんでしたわね」


「余は本国の王だからな」


「ええ。あちらには、あちらの王がおりますもの」


 オーキスも苦笑した。


 保護した。


 教導した。


 自立した。


 そして、自分たちで国を作った。


 誰も征服していない。


 誰も支配していない。


 それなのに。


 第130アルデバラン王国まで建国されていた。


「……笑うしかないな」


 バイオレットは、まだ笑っていた。




 第46から第130アルデバラン王国までが建国されても、本国の日常が大きく変わることはなかった。


 八十五カ国が増えたからといって、オーキスの仕事が八十五倍になるわけではない。


 それぞれが独立国だった。


 国王がいる。


 行政官がいる。


 騎士団がある。


 農業をする者がいる。


 物を作る者がいる。


 商売をする者がいる。


 必要なことは、それぞれの国で決めていた。


 ただし、孤立しているわけでもなかった。


 足りないものがあれば、他国から買う。


 余っているものがあれば売る。


 分からないことがあれば聞く。


 教えてもらったら、今度は自分たちが教える。


 第2から第45アルデバラン王国がそうだったように、新しい八十五カ国も自然に同じことを始めていた。


     ◇


 第46アルデバラン王国。


 建国して間もない市場に、いくつもの店が並び始めていた。


「野菜を持ってきたよ」


「こっちは魚だ」


「魚?」


「第7アルデバラン王国から仕入れた」


「もう?」


「転移できるんだから、遠くても関係ないだろう」


「それもそうか」


 隣では肉が並ぶ。


 乳製品もある。


 チーズ。


 バター。


 ヨーグルト。


 第6アルデバラン王国で生産されたものだった。


「このチーズ、美味しいな」


「作り方も教えてもらえるらしいぞ」


「なら自分たちでも作れるな」


「乳が必要だろう」


「畜産を始めたい人を募ってみよう」


 一つの商品を見ただけで、次の仕事が生まれる。


 誰かに命令されたわけではない。


     ◇


 第58アルデバラン王国では、紡織を学んだ者たちが集まっていた。


「綿だけじゃなくて、魔物素材も使えるらしい」


「第3アルデバラン王国でやっている方法?」


「そう」


「教えてもらえるかな」


「聞いてみればいい」


 念話が繋がれる。


 ほどなく返事が来た。


「教えてくれるって」


「いつ?」


「今から」


「今から?」


 直後、転移してきた教師が現れた。


「よろしくお願いします」


「こちらこそ」


 教導が始まる。


 糸を吐く魔物。


 毒を持つ魔物。


 それらから採れる素材。


 鑑定し、処理し、糸にする。


 新しい技術を覚えた者が、すぐに隣の者へ教え始める。


 教師はしばらく様子を見ていたが、やがて笑った。


「もう大丈夫ですね」


「ありがとうございました」


「何かあればまた呼んでください」


 そして転移して帰っていった。


     ◇


 第71アルデバラン王国では鍛冶場が増えていた。


 鉄。


 銅。


 錫。


 鉛。


 真鍮。


 必要な金属を扱う。


「もっと良い炉を作れないかな」


「第4アルデバラン王国に聞いてみる?」


「精錬を専門にしている国だったな」


「そうしよう」


 また念話。


 また教導。


 技術が移る。


 だが、第71王国が第4王国と同じ国になるわけではない。


「俺たちは農具を作ろう」


「農具?」


「周りに農業をやっている国が多いだろう」


「売れるな」


「なら改良もしよう」


 教わった技術を、そのまま真似するだけではなかった。


 自分たちに必要な形へ変えていく。


     ◇


 第93アルデバラン王国。


「薬草が多いな」


 製薬を学んだ女性が周辺を索敵していた。


「本当だ」


「鑑定してみよう」


 何種類もの薬草が見つかる。


 その中には、教導で扱わなかったものもあった。


「これは?」


「分からない」


「じゃあ調べよう」


 採取。


 鑑定。


 システムにも登録する。


 既存の情報と照合する。


「解毒に使えるみたい」


「なら育てられないかな」


「農業の人に聞いてみよう」


 製薬から農業へ。


 農業から栽培へ。


 そこから新しい薬の生産へ。


 仕事が仕事を呼んでいく。


     ◇


 本国ではエミリーとエミリアが、新しく建国された八十五カ国の動きを分析していた。


「面白いですね」


 エミリアが言った。


「何が?」


「同じ教導を受けたのに、同じ国にはなっていません」


 エミリーも表示を見る。


「当然でしょう」


 土地が違う。


 住んでいる人が違う。


 得意なことも違う。


 周囲にある資源も違う。


「第46は商業が伸びています」


「第58は紡織」


「第71は鍛冶」


「第93は製薬」


 最初から産業を割り振った者はいない。


 自分たちで見つけた。


 自分たちで選んだ。


 必要なら他国から学んだ。


 そして、自分たちなりの形へ変えた。


     ◇


 クレインも分析結果を見ていた。


「本国から行政官を大量に送り込む必要はなさそうですね」


「はい」


 エミリーが答える。


「すでに各国で行政が動いています」


「問題が起きている国は?」


「あります」


「あるのですか?」


「当然です」


 エミリアが答えた。


「建国したばかりですから」


 クレインが頷く。


「それもそうですね」


「ただし、自分たちで解決しています」


 人手が足りない。


 物が足りない。


 経験が足りない。


 意見が合わない。


 問題はいくらでも起きる。


 そのたびに相談する。


 試す。


 失敗すれば直す。


 分からなければ他国へ聞く。


「本国への救援要請は?」


「今のところありません」


「そうですか」


 クレインはそれだけ答えた。


     ◇


 王宮で報告を聞いたオーキスも同じだった。


「問題はあるのだな?」


「あります」


「放っておいていいのか?」


 クレインが答える。


「救援を求められておりませんので」


「そうか」


「自分たちで解決できる問題まで、本国が口を出す必要はないでしょう」


「その通りだな」


 オーキスは頷いた。


 助けを求められれば助ける。


 だが、先回りして何もかもやってしまえば、自立させた意味がない。


 八十五カ国は、生まれたばかりだった。


 失敗もする。


 困ることもある。


 それでも、自分たちで考えていた。


 オーキスは笑った。


「なら、好きにやらせろ」


「はい」


 第46から第130アルデバラン王国。


 生まれたばかりの国々は、すでに自分たちの足で歩き始めていた。




 第46から第130アルデバラン王国が動き始めている頃。


 リヴィア、レックス、イヴァン、コールの四人は、まだ留学を続けていた。


 第7アルデバラン王国で水産と養殖を学んだ四人が、次に訪れたのは第8アルデバラン王国だった。


 国王リットルが四人を迎える。


「第8アルデバラン王国では、建築を中心に学んでいただきます」


「よろしくお願いします」


 四人が揃って頭を下げた。


 もちろん、ここでも王子や王女として客人扱いされることはなかった。


「では、行きましょう」


 連れて行かれたのは建築現場だった。


     ◇


「まず何を作るか決めます」


 リットルが説明する。


「家を建てるだけではないのですね」


 リヴィアが尋ねた。


「もちろんです」


 住宅。


 商店。


 工房。


 診療所。


 学校。


 倉庫。


 用途によって必要な広さも内部の構造も違う。


「では四人で住宅を一軒作ってください」


「私たちだけで?」


「はい」


 レックスが建築予定地を鑑定する。


 イヴァンとコールが土属性魔法で地面を整える。


 リヴィアは必要な資材を確認した。


「ここは私がやるわ」


「じゃあ僕はこっち」


 壁。


 柱。


 床。


 屋根。


 窓。


 扉。


 教導を受けながら四人で組み上げていく。


 形だけの建物では意味がない。


 人が暮らす。


 雨を防ぐ。


 風を防ぐ。


 長く使えるようにする。


「建てられればいいわけではないのね」


「そうです」


 リットルが頷いた。


「使う人がいるのですから」


 リヴィアは完成した住宅を見上げた。


 また一つ覚えた。


     ◇


 次に向かったのは第9アルデバラン王国。


 国王マーカスが待っていた。


「ここでは医療を学んでもらいます」


 四人の表情が少し変わった。


 これまで学んできた産業とは違う。


「治癒魔法があるのに、医療も必要なのですか?」


 コールが尋ねた。


「必要ですよ」


 マーカスは即答した。


「何でも治癒魔法を撃てば終わり、ではありません」


 まず鑑定。


 何が起きているのかを確認する。


 怪我なのか。


 病なのか。


 毒なのか。


 体力が落ちているだけなのか。


「原因を知らずに治療してはいけません」


「鑑定が先なんですね」


「はい」


 患者を鑑定する。


 状態を見る。


 必要な処置を判断する。


 治癒魔法。


 製薬。


 解毒。


 浄化。


 必要なら組み合わせる。


「治した後も見るのですか?」


 イヴァンが尋ねる。


「当然です。治ったと思い込むのが一番危険ですから」


 再び鑑定。


 状態を確認する。


 四人は何度も繰り返した。


 鑑定。


 判断。


 治療。


 再鑑定。


「医療って、治癒魔法だけじゃないんだね」


 コールが呟く。


「ええ」


 マーカスが答える。


「治すために何が必要なのかを考えることも医療です」


     ◇


 第10アルデバラン王国。


 国王マルコムが四人を連れて向かったのは森だった。


「ここでは林業と木工を学んでもらいます」


 周囲には大量の木が生えている。


「まず伐採ですか?」


 レックスが尋ねる。


「その前に鑑定してください」


 また鑑定だった。


 樹種。


 大きさ。


 状態。


 周囲の木々。


 何に使えるのか。


 一本ずつ違う。


「この木は住宅に使えます」


「こちらは家具向きですね」


 四人が調べていく。


「全部切るの?」


 コールが尋ねた。


「全部切ったら森がなくなりますよ」


 マルコムが笑った。


 第7王国でバッカスから聞いた言葉を、四人は思い出した。


 魚を全部捕れば、次がなくなる。


 森も同じだった。


 使う。


 だが、残す。


 そして育てる。


「切ったら植える?」


「そうです」


「なるほど」


 必要な木を選ぶ。


 伐採する。


 運ぶ必要はない。


 アイテムボックスへ収納する。


 そして新しい苗木を植える。


     ◇


 伐採した木材は木工所へ持ち込まれた。


 板材。


 柱。


 家具。


 食器。


 箱。


 用途に合わせて加工していく。


「第8王国で習った建築と繋がってる」


 リヴィアが気付いた。


「建物を作るには木材がいる」


 レックスが答える。


「林業がなければ木材を作り続けられない」


 イヴァンも頷く。


「木工があれば家具や道具にもできる」


「余ったら他の国に売れるね」


 コールが付け加えた。


 マルコムは何も言わず四人を見ていた。


 教えなくても、自分たちで繋げ始めている。


 第6王国で畜産と酪農。


 第7王国で水産と養殖。


 第8王国で建築。


 第9王国で医療。


 第10王国で林業と木工。


 別々のものを学んでいるようで、どれも国民の生活を支えるものだった。


     ◇


「お姉様」


 コールが木製の椅子を作りながら言った。


「何?」


「国って、何でもいるんだね」


 リヴィアの手が止まる。


「そうね」


「王様と騎士がいれば国になると思ってた」


 レックスが笑った。


「それだけじゃ何も食べられないぞ」


「家もない」


 イヴァンも笑う。


「病気になったら困るしね」


「服もいるわ」


 リヴィアが続けた。


「道路も。物流も。行政も」


「魚も」


「コールはそれが気に入ったのね」


「美味しかったから」


 四人が笑った。


 すでに《アルデバラン国民》はレベル十。


 もう光ることはなかった。


 だが、学ぶことは終わっていない。


     ◇


 王宮ではオーキスが四人の留学状況を確認していた。


「第10まで行ったか」


「順調ですわね」


 バイオレットが答える。


「帰ってきた時が怖いな」


「なぜです?」


「余より色々知っているのではないか?」


 バイオレットが笑う。


「それでよろしいではありませんか」


「まあな」


 オーキスも笑った。


 自分より多くを知る。


 自分にはできないことができる。


 それを嫌がる理由などなかった。


 次の世代が前の世代を越える。


 それで国が良くなるなら、それでいい。


 四人の留学は、まだ始まったばかりだった。





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。