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戦わずに世界を変えた男――教育と物流で“循環国家”を作ったら、いつの間にか大陸が一つになっていた  作者: 慈架太子


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217 指数関数

 アレクサンドたちによる冒険者への教導は順調だった。


 アレクサンド、ガイル、フェリクス、ロイド、ブラッド、レオン。


 六人が教導を続けた結果、最初に十人の冒険者が到達した。


《教導 Lv10》


「十人出たな」


 ガイルが教導管理システムを確認する。


「ああ。なら次へ進める」


 アレクサンドが答えた。


 レベル十になった十人は、すぐに別の冒険者への教導を始めた。


 十人を育てる。


 育った十人が、さらに次を育てる。


 そこで新たにレベル十へ到達した者も、教える側へ回る。


「増え始めました」


 フェリクスが表示を見ている。


 ロイドが地方の記録を開いた。


「もう地方にも波及しています」


「早いな」


「地方でレベル十になった冒険者が、その土地の冒険者への教導を始めています」


 王都だけで進める必要はなかった。


 教導する者そのものが増える。


 増えた者が、さらに教導する。


 教導レベル十の冒険者は指数関数的に増えていった。


 百人。


 千人。


 一万人。


 十万人。


 そして百万人。


 最初は無茶に思えた目標だった。


 だが、百万人の教導レベル十到達は程なく達成された。


     ◇


 騎士団でも同じことが起きていた。


 もっとも、こちらは最初から規模が違った。


 百十万人いる王国騎士団。


 そのうち教導レベル十に達している者だけでも百万人近い。


 残る騎士たちもレベル七、あるいは八。


 教える側が最初から揃っていた。


 アイクが教導管理システムを確認する。


「衛兵からの選抜は?」


「順調です」


 アッシュが答えた。


「本人の希望、勤務実績、適性、鑑定結果を確認しています」


「なら始めろ」


「はい」


 選抜された衛兵たちへの教導が各地で一斉に始まった。


 騎士団百十万人から二百二十万人へ。


 人数だけを増やすのではない。


 既存の騎士団と同じ水準まで育てる。


 百万人近い教導レベル十の騎士たちが教師になる以上、その速度は冒険者以上だった。


 衛兵から騎士が選抜される。


 空いた衛兵の枠には門兵や地方自警団から希望者を募る。


 治安組織そのものを崩すことなく、順番に人員が育っていった。


     ◇


 クレインが進めていた教導教師百万人の整備も同じだった。


 目的は教師を百万人揃えることではない。


 新たに保護した十三億五千万人。


 彼らを教導するためだった。


 保護して終わりではない。


 読み書き。


 計算。


 生活に必要な知識。


 そして仕事。


 一人一人が自立できるようにする必要がある。


 幸い、行政官の中には教導レベル十に達している者が五十万人ほどいた。


「この五十万人から始めます」


 クレインが指示を出した。


 新たな教導教師が最初に学ぶものは明確だった。


 教導。


 鑑定。


 相手を鑑定する。


 何ができるのか。


 何を知らないのか。


 何を教える必要があるのか。


 それを確認した上で教導する。


 さらに専門分野へ進む。


 読み書き。


 計算。


 農業。


 医療。


 行政。


 建築。


 土木。


 物流。


 教導を受けた者が育つ。


 その中から、さらに教導する側が生まれる。


 五十万人から始まった教導教師の育成も、指数関数的に広がっていった。


「百万人確保の目処が立ちました」


 文官からの報告を聞き、クレインが頷く。


「では十三億五千万人への教導準備を進めてください」


「はい」


 百万人は目的ではない。


 十三億五千万人を自立へ導くための最初の基盤だった。


     ◇


 その頃、リヴィア、レックス、イヴァン、コールは第6アルデバラン王国を訪れていた。


 国王アークネルが四人を迎える。


「ようこそ、第6アルデバラン王国へ」


「お世話になります」


 四人は揃って頭を下げた。


「こちらでは畜産と酪農を学んでもらいます」


 広大な土地には牧草地が広がっていた。


 家畜が飼育され、鶏もどきも大量に育てられている。


 食肉。


 鶏卵。


 乳。


 そして乳製品。


 第6王国を支える産業だった。


     ◇


「今日は乳製品を作ってみましょう」


 アークネルの教導が始まった。


 四人は乳を鑑定する。


 温度を調整する。


 状態を確認する。


 教えられた通りに作業を進める。


 やがて四人に同じスキルが発現した。


《発酵》


「出た!」


 コールが声を上げる。


 リヴィアも自分を鑑定した。


「私もよ」


 レックスとイヴァンにも発現している。


 四人は早速、覚えたスキルを使った。


 チーズ。


 バター。


 ヨーグルト。


 次々と乳製品が出来上がっていく。


「美味しい」


 リヴィアが自分たちで作ったチーズを食べる。


「保存にも向いているな」


 イヴァンが鑑定結果を見る。


「他国にも運びやすい」


 レックスが続けた。


 コールはヨーグルトを食べながら笑っている。


「これ、本国でも作れるよね?」


「作れるわ」


「じゃあ教えようよ」


 四人は自然に、その先を考えていた。


 自分たちが覚えた。


 嬉しい。


 美味しい。


 それだけでは終わらない。


 国民にも作れるようになればいい。


 産業にもなる。


 食生活も豊かになる。


 四人とも、それを良いことだと思った。


 その時。


 四人の体が淡く光った。


《アルデバラン国民 Lv7》


 リヴィアが表示を見る。


「七になったわ」


「僕も七」


「私もだ」


「僕も!」


 四人は顔を見合わせた。


 だが、もう誰も不思議がらなかった。


 嬉しい。


 国益。


 肯定。


 細かな仕組みは分からない。


 それでも、なぜ成長したのか。


 四人には、もう分かっていた。




 冒険者への教導は、すでにアレクサンドたち四十七人だけで行うものではなくなっていた。


 アレクサンド、ガイル、フェリクス、ロイド、ブラッド、レオン、イプシオ、アリシアをはじめとする四十七人の新興貴族冒険者たち。


 彼らの教導を受けた冒険者の中から、最初に十人が教導レベル十へ到達した。


 その十人が次を教える。


 そこで育った者が、さらに次を教える。


 地方でも同じことが起きた。


 教導レベル十になった冒険者が、その土地で次の冒険者を育てる。


 教える者が増える。


 増えた者が、また教える。


 四十七人を起点にした教導は、指数関数的に広がっていった。


《教導 Lv10 百万人》


「達成したわね」


 アレクサンドが教導管理システムを確認した。


「早かったな」


 ガイルが答える。


「最初の十人が育ってからは一気でした」


 フェリクスが各地の記録を見る。


「地方でも自走しています」


 ロイドが言った。


「もう私たちが一人ずつ教える必要はないわね」


「ええ」


 アレクサンドは頷いた。


「でも、これで終わりじゃないわ」


 十三億五千万人。


 新たに保護した人々への教導が待っている。


 百万人の教導レベル十は、そのための準備だった。


     ◇


 アレクサンドの体が淡く光った。


「あら?」


 ガイルも光っている。


 フェリクス。


 ロイド。


 ブラッド。


 レオン。


 別の場所にいるイプシオとアリシア。


 他の新興貴族たちにも同じ変化が起きていた。


 アレクサンドが鑑定する。


《アルデバラン国民 Lv5》


「五になったわ」


「俺もだ」


 各地から報告が入る。


 四十七人。


 全員がレベル五。


 だが、誰も驚かなかった。


 百万人を育てることができた。


 嬉しい。


 十三億五千万人を教導し、自立へ導くために必要なことだった。


 国益。


 その必要性を自分たちで理解し、良いことだと判断している。


 肯定。


「三つとも揃ってるわね」


 アレクサンドが鑑定表示を消した。


「不思議でも何でもないな」


 ガイルが笑った。


 もう分析する必要もなかった。


     ◇


 王国騎士団でも同じことが起きていた。


 衛兵から選抜された者たちへの教導は順調に進んでいる。


 百万人近い教導レベル十の騎士たちが教える。


 残る騎士たちもレベル七か八。


「魔力循環を止めるな」


「はい!」


「そのまま飛行。索敵も同時に」


「はい!」


 新しい騎士が育つ。


 できなかったことが、できるようになる。


 教える側も嬉しかった。


 十三億五千万人を新たに保護した。


 守るべき人々が増えた。


 ならば騎士団を増やす必要がある。


 騎士たちは、その意味を理解している。


 自分たちでも必要だと判断し、肯定していた。


 各地で騎士たちの体が淡く光る。


《アルデバラン国民 Lv5》


「五になった」


「俺もだ」


「そうか」


 それだけだった。


 誰も教導を止めない。


 不思議ではなかった。


     ◇


 行政官たちも同じだった。


 教導レベル十を持つ約五十万人を中心に、教導教師の育成が進んでいた。


 まず教導。


 そして鑑定。


 相手を鑑定する。


 何ができるのか。


 何を知らないのか。


 何を必要としているのか。


 それを確認して教導する。


 教導と鑑定を身につけた教師たちは、さらに専門分野を学ぶ。


 読み書き。


 計算。


 農業。


 医療。


 行政。


 建築。


 土木。


 物流。


 一人の教師が育てば、その教師が次を育てる。


 五十万人から始まった育成は急速に広がった。


「教導教師百万人、確保の目処が立ちました!」


 報告を受けた行政官たちが喜んだ。


「これなら始められる」


「ああ。十三億五千万人への教導を始められる」


 その瞬間。


 行政官たちの体も淡く光った。


《アルデバラン国民 Lv5》


 こちらでも誰も驚かなかった。


「五ですね」


「そうですね」


 嬉しい。


 国益。


 肯定。


 理由は分かっていた。


     ◇


 報告は王宮へ届いた。


 クレインがオーキスの前で読み上げる。


「アレクサンドら四十七人の新興貴族冒険者。《アルデバラン国民》レベル五」


「うむ」


「騎士団員たちもレベル五」


「ああ」


「教導に携わる行政官たちもレベル五です」


 クレインの体が淡く光った。


「……私もですか」


 自分を鑑定する。


《アルデバラン国民 Lv5》


 クレインは少しだけ笑った。


「まあ、不思議ではありませんな」


「お前まで五か」


「陛下がお命じになった百万人の教導教師。その確保に目処が立ちましたから」


 だが、百万人を揃えることが目的ではない。


 十三億五千万人を教導する。


 自立できるようにする。


 そのための準備が整いつつある。


 冒険者が動いた。


 騎士団が動いた。


 行政官が動いた。


 誰もオーキスから細かな指示を受けてはいない。


 必要なことを自分で判断し、それぞれの場所で動いていた。


「……そうか」


 オーキスが呟いた。


 百万人の冒険者。


 二百二十万人へ向けて育つ騎士団。


 百万人の教導教師。


 そして、その先にいる十三億五千万人。


 オーキスは笑った。


「皆、動いているのだな」


「はい」


「余が一人ずつ命令しなくても」


「当然でございます」


 クレインが答えた。


「皆、自分で考えておりますので」


「そうか」


 オーキスは嬉しかった。


 今度は、自分でも分かった。


 これほど大きくなった国で。


 誰か一人の命令を待つのではなく。


 皆が自分にできることを考えて動いている。


 それが国のためになると判断し、肯定している。


「良い国になったな」


 その瞬間。


 オーキスの体が強く光った。


「陛下?」


 バイオレットが振り向く。


 光が収まる。


 オーキスが自分を鑑定した。


《アルデバラン国民 Lv10》


「……十?」


 クレインが珍しく目を見開いた。


「一気に上がりましたな」


「五から十だぞ」


「詳細は分かりません」


「そこは分からんのか」


「教導と同じでしょう」


 バイオレットが笑った。


「でも陛下。なぜ上がったのかは、もうお分かりでしょう?」


 オーキスは少し考えた。


 そして笑った。


「ああ」


 嬉しい。


 国益。


 肯定。


 細かな仕組みなど分からなくてもよかった。


 オーキスは鑑定表示を消した。


 今度は、レベル十になったことより。


 国民たちが自分で考え、自分で動いていることの方が嬉しかった。




 教導教師百万人の確保に目処が立つと、クレインはすぐに次へ進んだ。


 十三億五千万人への教導。


 人数が多すぎる。


 百万人の教師を揃えたところで、一人が千人以上を担当する計算になる。


 だが、クレインは心配していなかった。


「百万人で十三億五千万人を教導するのではありません」


 行政官たちが教導管理システムを見る。


「最初の百万人を教導します」


「百万人を?」


「はい」


 まず百万人。


 教導。


 鑑定。


 読み書き。


 計算。


 生活に必要な知識。


 さらに、それぞれの適性を鑑定する。


 農業。


 畜産。


 料理。


 建築。


 土木。


 木工。


 紡織。


 医療。


 物流。


 商業。


 本人が何をしたいのかも聞く。


 適性があるからといって、その仕事を強制するわけではない。


 選ぶのは本人だった。


     ◇


 教導が始まった。


「文字が読める……」


 初めて自分で文章を読んだ男が呟いた。


「読めていますよ」


 教師が答える。


「本当に?」


「はい。次はこちらです」


 別の場所では計算。


「十個を五人で分けると?」


「二個ずつ」


「正解です」


 農業を選んだ者は土に触れる。


 料理を選んだ者は包丁を握る。


 建築を選んだ者は図面を見る。


 教えられたことを試す。


 できる。


 失敗する。


 もう一度やる。


 そして、できるようになる。


 教導管理システムには膨大な記録が蓄積されていった。


     ◇


 変化が現れたのは早かった。


「教導が発現しました!」


 一人の教師が声を上げる。


「こちらもです!」


 教導を受けていた者の中から、《教導》を発現させる者が出始めた。


 クレインは報告を確認する。


「予定通りです」


 最初の百万人だけを教え続ける必要はない。


 教導を覚えた者には、希望を確認する。


「他の人にも教えてみますか?」


「私が?」


「はい」


「できるでしょうか」


「できます。あなたも教えてもらったでしょう?」


 少し迷った後、その者は頷いた。


「やってみます」


 教えられた者が、教える側へ回った。


     ◇


 百万人の教師が教える。


 教えられた者の中から新しい教師が生まれる。


 新しい教師が、さらに次を教える。


 百万人。


 数百万人。


 数千万人。


 教導する側そのものが増えていく。


 教導管理システムがなければ、誰が何を覚え、誰が何を教えられるのか把握するだけでも困難だった。


 だが、一元管理されている。


 どの地域に教師が足りないのか。


 どの分野の教師が必要なのか。


 誰が教導を受けていないのか。


 すぐに分かる。


「西部で農業教師が不足しています」


「余裕のある地域から派遣してください」


「南部では読み書きの教導が予定より早く終わりました」


「では次の教導へ」


 教師が固定される必要もなかった。


 必要な場所へ動く。


 そこで次の教師を育てる。


 育て終えれば、また別の場所へ向かう。


 教導の波が王国中へ広がっていった。


     ◇


 冒険者たちも動き始めた。


 教導レベル十となった百万人。


 地方の冒険者ギルドを拠点に、教導へ参加する。


「解体を覚えたい人は?」


 何人もの手が上がる。


「では始めます」


 解体。


 調理。


 鑑定。


 索敵。


 採取。


 魔物についての知識。


 森で生きるための技術。


 冒険者だから教えられることがある。


 行政官や専門教師と同じことをする必要はない。


 それぞれが、自分にできることを教えればいい。


 教導された者の中から冒険者を希望する者も現れた。


「私でもなれますか?」


「なれるかどうかではなく、なりたいの?」


「はい」


「なら教えるわ」


 アレクサンドが答えた。


     ◇


 騎士団も増員だけをしていたわけではない。


 治安維持。


 広域索敵。


 保護された人々が暮らす地域の巡回。


 十三億五千万人という巨大な人口が加われば、問題が一つも起きないはずがない。


 喧嘩。


 盗難。


 迷子。


 土地勘のない者も多い。


 騎士と衛兵が対応する。


 犯罪者を探すためだけではない。


「仕事を探しているのですが」


「教導施設は向こうだ。案内しよう」


「子供とはぐれました!」


「名前は?」


 索敵。


 鑑定。


 念話。


 持っている能力を使う。


 守るとは、戦うことだけではなかった。


     ◇


 数日が過ぎた。


 クレインの前に新しい報告が届く。


「教導を受けた人数、一億人を超えました」


「もうですか」


「はい。教導者の増加速度が予想を上回っています」


 クレインが教導管理システムを見る。


 教師の数を確認する。


 また増えている。


「これでは予測を作っても、すぐ使えなくなりますな」


 エミリーが笑った。


「指数関数ですから」


「分かってはいましたが」


 クレインも僅かに笑う。


 十三億五千万人。


 最初に数字を見た時は、途方もない人数だった。


 だが今は違う。


 十三億五千万人を、百万人が教えるのではない。


 教えられた十三億五千万人自身が、次々と教える側へ回っていく。


 クレインは増え続ける数字を見た。


「これなら、それほど時間はかかりませんな」


 命令を増やしたわけではない。


 教師を十三億人用意したわけでもない。


 最初の一人を育てる。


 その一人が、次を育てる。


 ただ、それを繰り返した。


 教導はもう、誰か一人が動かしているものではなかった。


 自分で増えながら、王国全体へ広がっていた。




 十三億五千万人への教導が急速に広がっている頃。


 リヴィア、レックス、イヴァン、コールの四人は、第7アルデバラン王国を訪れていた。


 第6アルデバラン王国で畜産と酪農を学び、次の留学先へ移ったのだ。


 第7アルデバラン王国。


 国王バッカスが四人を迎えた。


「ようこそ、第7アルデバラン王国へ」


「お世話になります」


 リヴィアたちが頭を下げる。


 これまでと同じだった。


 王族だからといって特別扱いはされない。


 学びに来たのなら、生徒として扱われる。


「早速ですが、行きましょう」


「どこへですか?」


 コールが尋ねる。


「湖です」


     ◇


 四人が連れて行かれたのは、巨大な湖だった。


 岸辺には船着き場が整備されている。


 水面には何隻もの船が浮かび、漁師たちが作業していた。


 さらに湖の一部は区画ごとに分けられている。


「養殖場ですか?」


 イヴァンが尋ねた。


「その通りです」


 バッカスが答える。


「第7アルデバラン王国では、水産と養殖を主要産業にしています」


 魚。


 貝。


 さらに魚系魔物。


 自然にいるものを捕るだけではない。


 育てる。


 増やす。


 必要な量を安定して生産する。


「魚系魔物まで養殖できるんですね」


 レックスが水中を鑑定する。


「できます。ただし種類は選びます」


 人を襲いやすいもの。


 繁殖管理が難しいもの。


 餌を大量に必要とするもの。


 逆に育てやすく、食用に向くもの。


 それぞれを鑑定し、養殖する種類を決めていた。


     ◇


 バッカスは四人を船に乗せた。


「まず見てください」


 湖の中を泳ぐ大量の魚。


 四人は索敵と鑑定を使う。


「すごい数」


 リヴィアが呟く。


「これを全部捕るんですか?」


「いいえ」


 バッカスが笑った。


「全部捕ったら、来年困るでしょう?」


「あ」


 コールが納得する。


「残すんだ」


「そうです」


 どれだけ育ったか。


 どれだけ捕っていいか。


 どれだけ残すのか。


 繁殖に必要な数はどれくらいか。


 水質に問題はないか。


 餌は足りているか。


 ただ魚を捕るだけでは、水産業にはならない。


 来年も。


 その次の年も。


 生産を続けられるように管理する。


「畜産と同じね」


 リヴィアが気付いた。


「第6王国では家畜を育てていました」


「そうです」


 バッカスが頷く。


「水の中か、陸の上か。その違いはありますが、考え方には似たところがあります」


     ◇


 岸へ戻ると、今度は加工場だった。


 水揚げされた魚が運び込まれる。


 鑑定。


 解体。


 洗浄。


 調理。


 保存。


 四人も作業に加わった。


「これは輸出するんですか?」


 レックスが尋ねる。


「もちろんです」


「どこへ?」


「本国にも。他のアルデバラン王国にも」


 バッカスが魚を一匹持ち上げた。


「第6王国では肉や乳製品を大量に生産していますね」


「はい」


「第7王国では魚を作ります」


 コールが首を傾げる。


「肉がいっぱいあるなら、魚はいらないんじゃないですか?」


 バッカスが笑った。


「肉ばかりじゃなくて、魚も大事なんですよ」


 四人がバッカスを見る。


     ◇


「食べられれば何でもいい、というわけではありません」


 バッカスは続けた。


「肉が好きな人もいます。魚が好きな人もいます」


「両方好きな人もいる」


 コールが言った。


「私ですね」


 バッカスが笑う。


 四人も笑った。


「食料が足りるようになった。その次は、選べるようにすることも大切です」


 リヴィアが考える。


「第6王国があるから、第7王国はいらないという話にはならないのね」


「なりません」


「むしろ両方ある方がいい」


 イヴァンが言った。


「その通りです」


 肉。


 魚。


 卵。


 乳。


 野菜。


 穀物。


 果物。


 加工食品。


 食べるものが一つしかない国より、多くの中から選べる国の方が豊かだった。


 四人は第6王国で学んだことと、第7王国で見ているものを比べ始めた。


     ◇


「本国にももっと魚を増やせるかな?」


 コールが尋ねる。


「湖や川があります」


 レックスが答える。


「養殖できる種類を鑑定すればいい」


 イヴァンが続ける。


「第12王国の物流を使えば、海や湖から遠い地域にも運べる」


 リヴィアも頷いた。


「保存方法も組み合わせられるわ」


 誰にも問いを出されていない。


 四人が勝手に考え始めていた。


 学んだことを本国でどう使うのか。


 別の産業とどう組み合わせるのか。


 国民の生活をどう豊かにできるのか。


 そして。


「魚料理も増えるよね」


 コールが嬉しそうに言った。


「結局そこなの?」


 リヴィアが笑う。


「大事だよ」


「まあ、大事ね」


     ◇


 その時だった。


 四人の体が光り始めた。


「あ」


 もう見慣れた光だった。


 レックスが自分を鑑定する。


《アルデバラン国民 Lv10》


「十になった」


 リヴィアも。


《アルデバラン国民 Lv10》


 イヴァン。


《アルデバラン国民 Lv10》


 コール。


《アルデバラン国民 Lv10》


「みんな十だ!」


 コールが喜ぶ。


 バッカスが目を丸くした。


「何かございましたか?」


「《アルデバラン国民》がレベル十になりました」


 リヴィアが答えた。


「四人とも?」


「はい」


 バッカスは少し考えた。


「何をしたのです?」


 四人は顔を見合わせる。


 以前なら考え込んでいただろう。


 今は違う。


「嬉しい」


 コールが言った。


「国益」


 イヴァンが続ける。


「肯定」


 レックスが答えた。


 リヴィアは少し笑った。


「たぶん、それで十分です」


     ◇


 細かな理由は分からない。


 なぜレベル七から一気に十になったのか。


 どの行動がどれだけ影響したのか。


 分からない。


 教導と同じだった。


 だが、四人はもう気にしなかった。


 第2王国で学んだ。


 第3王国でも学んだ。


 第4。


 第5。


 第6。


 そして第7。


 国が違えば産業も違う。


 作っているものも違う。


 それでも、どの国も自分たちの得意なことを伸ばし、他国と交換していた。


 四人はそれを見てきた。


 学ぶことが楽しい。


 新しいことを知るのが嬉しい。


 そして、その知識を国民のために使えると思えば、もっと嬉しい。


 自分たちは王族だ。


 だから学ぶのではない。


 自分たちの国を、もっと良くできるかもしれない。


 そう思うから学ぶ。


《アルデバラン国民 Lv10》


 四人は表示を消した。


「次はどこ?」


 コールが尋ねる。


「第8アルデバラン王国よ」


 リヴィアが答える。


「何の国?」


「建築と土木」


「面白そう!」


 四人の留学は、まだ続いていた。





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