216 嬉しい 国益 肯定
第4アルデバラン王国での教導を終えたリヴィア、レックス、イヴァン、コールは、次の留学先へ向かった。
第5アルデバラン王国。
国王ライオネルが治める教育専門国だった。
四人と近衛たちが転移すると、ライオネルが待っていた。
「ようこそ、第5アルデバラン王国へ」
「お世話になります」
リヴィアが代表して頭を下げる。
「こちらでは何を学ぶのですか?」
「教育です」
ライオネルは即答した。
コールが首を傾げる。
「僕たちが教えてもらうのに?」
「違います」
ライオネルが笑った。
「教えてもらう方法ではありません。教える方法を学んでもらいます」
◇
第5アルデバラン王国には、各地から人が集まっていた。
第2から第45アルデバラン王国。
本国。
教師を目指す者。
文官を目指す者。
行政官。
医官。
建設や土木を専門とする行政官。
様々な人間が学んでいる。
「まず教導から始めましょう」
ライオネルは四人を教室へ連れていった。
そこで待っていたのは王族向けの特別授業ではなかった。
一般の教導だった。
「二人一組になってください」
教師が言う。
四人も他の生徒たちに混ざる。
教える。
教えられる。
相手が理解できなければ、方法を変える。
「今の説明では分かりません」
「あ、ごめんなさい」
コールが考える。
「じゃあ、こうしたら?」
もう一度説明する。
「分かりました」
「本当?」
「はい」
「よかった!」
コールが笑った。
教師がそれを見ている。
「今、何を変えました?」
「説明する順番です」
「なぜ?」
「僕が分かる順番と、この人が分かる順番が違ったから」
「それを覚えておいてください」
「はい!」
◇
教導は続いた。
リヴィアは相手の理解度を見る。
レックスは説明を細かく分ける。
イヴァンは実際にやって見せる。
コールは失敗したところを一緒に確認する。
四人とも方法が違った。
それでも相手が理解すればいい。
教える。
理解される。
今度は教えられた者が別の者へ教える。
その繰り返しだった。
やがて四人の教導スキルが変化した。
《教導 Lv5》
「五になった」
レックスが呟く。
「私も」
リヴィアも確認する。
「僕もだ」
「僕も!」
四人ともレベル五。
コールが嬉しそうに笑った。
「教えるのも面白いね」
「第4王国でも同じこと言ってたでしょう」
「精錬も面白かったから」
◇
次に案内されたのは魔道具の教導施設だった。
ライオネルが魔石と素材を並べる。
「第5王国では教育だけでなく、魔道具も大量に生産しています」
四人が鑑定する。
「今日は簡単なものから作ります」
魔石へ魔力を流す。
術式を理解する。
必要な機能を付与する。
何度か失敗した。
それでも作り直す。
やがて四人の前に完成した魔道具が並んだ。
《魔道具作成》
新しいスキルが発現していた。
「できた!」
またコールが喜ぶ。
だが、今回は他の三人も同じだった。
「これ、王国でも使えるわね」
リヴィアが自分の作った魔道具を鑑定する。
レックスが頷く。
「もっと覚えたい」
「私もだ」
イヴァンも魔道具を見つめていた。
◇
そこでライオネルが四人に尋ねた。
「皆様は、何のために留学されていますか?」
四人が顔を上げる。
「父上に許可されたから?」
コールが答えた。
ライオネルは否定しなかった。
「それもありますね。他には?」
リヴィアが考える。
「他のアルデバラン王国を知るためです」
「なぜ知るのです?」
答えはすぐには出なかった。
レックスが口を開く。
「私たちは王族だから」
「王族なら?」
「国のことを知らないといけない」
イヴァンも続ける。
「第2王国では農業を学びました。第3では紡織。第4では金属と精錬」
「それを知って、どうします?」
今度は四人とも考えた。
◇
リヴィアが答えた。
「国のために使います」
ライオネルが頷く。
「では、それを考えながら学んでください」
そこから教導の内容が変わった。
文官。
行政官。
医官。
王族だからといって、すべてを専門家と同じ水準まで極める必要はない。
だが、知らなければ判断できない。
予算を見る。
人口を見る。
生産量を見る。
行政の仕組みを知る。
病人が増えた時、医官が何を必要とするのかを知る。
「王が医官になる必要はありません」
ライオネルが言った。
「しかし医官が何をしているのか知らなければ、必要な判断ができません」
四人は頷いた。
◇
学ぶ理由が変わった。
面白いから学ぶ。
それだけではない。
自分たちは王族だ。
いつか国の判断に関わるかもしれない。
なら知っておいた方がいい。
国の役に立つ。
四人は、それを自分たちで肯定した。
教導を受ける。
質問する。
分からなければ、もう一度教えてもらう。
そして自分でも教える。
その日の終わり。
リヴィアが何気なく自分を鑑定した。
「……え?」
「どうした?」
レックスが尋ねる。
「これ」
《アルデバラン国民 Lv5》
「五?」
レックスも鑑定する。
《アルデバラン国民 Lv5》
イヴァン。
《アルデバラン国民 Lv5》
コール。
《アルデバラン国民 Lv5》
「僕も五!」
四人が顔を見合わせた。
◇
近衛の一人がすぐに教導管理システムへ記録する。
四人同時。
《アルデバラン国民 Lv5》
第5王国で教導を受けた。
教導スキルはレベル五。
魔道具作成スキルが発現。
そして王族として、国益になることを自分たちで考えながら専門教導を受けた。
その報告を受け取ったエミリーとエミリアは、これまでの事例と照合した。
元娼婦たち。
コール。
王宮での一斉成長。
そして今回の四人。
エミリーが言った。
「間違いありませんね」
エミリアも頷く。
「ええ」
嬉しい。
国益。
そして、自分で考えた上での肯定。
三つが、はっきり重なった。
《アルデバラン国民 Lv5》
少なくとも、偶然ではなかった。
四人の《アルデバラン国民》がレベル五になったという報告は、すぐに王宮へ届いた。
オーキスは報告を読んだまま黙っている。
隣ではバイオレットが笑っていた。
「……五だぞ」
「五ですわね」
「余は二だ」
「二ですわね」
「コールだけならまだ分かる」
「何がです?」
「分からん」
「では、分かっていませんわね」
オーキスは妻を見る。
「お前、楽しんでないか?」
「少し」
「余は真面目に考えているんだぞ」
「私も真面目ですわ」
そう言いながら笑っている。
◇
クレイン。
エミリー。
エミリア。
アイク。
アッシュ。
ロックウェル。
アレクサンド。
全員が集められた。
教導管理システムには、第5アルデバラン王国から送られてきた記録が表示されている。
リヴィア。
《アルデバラン国民 Lv5》
レックス。
《アルデバラン国民 Lv5》
イヴァン。
《アルデバラン国民 Lv5》
コール。
《アルデバラン国民 Lv5》
「四人ともか?」
アイクが尋ねる。
「はい」
エミリーが答えた。
「ほぼ同時に確認されています」
「何をしていた?」
クレインが記録を開く。
「教導です」
「それだけか?」
「いいえ」
教導スキル。
四人ともレベル五。
魔道具作成スキル。
四人とも発現。
さらに文官、行政官、医官として必要となる知識の専門教導を受けている。
「問題は、ここです」
エミリアが四人の教導記録を示した。
◇
第5アルデバラン王国。
ライオネルは四人を行政教導の施設へ連れていた。
机の上に置かれているのは、一つの町の資料だった。
人口。
年齢構成。
食料生産量。
税収。
支出。
医療施設。
学校。
街道。
上下水道。
商店。
「この町で問題が発生しました」
ライオネルが言った。
「何ですか?」
リヴィアが尋ねる。
「人口が急増しています」
レックスが資料を見る。
「食料は足りています」
「はい」
イヴァンが別の数字を見る。
「住宅が足りない」
「それだけでしょうか?」
四人が考える。
コールが医療施設の数を見る。
「医官も足りなくなる?」
「可能性があります」
「学校も」
リヴィアが気付く。
「子供が増えれば教師が必要になる」
「その通りです」
答えを教えられるのではない。
情報を見て、自分で考える。
何が必要になるのか。
何を先にするのか。
四人の意見が違うこともあった。
「私は住宅を先にする」
「僕は医療」
「でも病人が増えているわけじゃない」
「増えてからでは遅くない?」
「それもそうね」
ライオネルは止めなかった。
考えさせた。
◇
「これが王族に必要な教導です」
ライオネルが言った。
「正解を覚えることではありません」
「判断すること?」
レックスが尋ねる。
「そうです」
ライオネルは頷いた。
「専門家から情報を受け取る。理解する。必要なら質問する。そして最後に判断する」
「間違えたら?」
コールが尋ねた。
「修正してください」
「それでいいの?」
「間違えない王などいません」
四人が黙った。
「間違いに気付いたのに、修正しない王の方が問題です」
リヴィアが小さく頷いた。
「父上もクレインも、よく方針を変えるわ」
「必要だからでしょう」
「そうね」
◇
医官としての専門教導でも同じだった。
病気を治す技術だけを教えるわけではない。
患者が増えた。
医官が足りない。
薬が不足する。
どこから供給するのか。
感染症なら人の移動をどう扱うのか。
行政との連携が必要になる。
「医療だけで完結しないんだ」
イヴァンが言った。
「行政も必要」
レックスが続ける。
「物流も」
リヴィアが付け加える。
「薬を作っても運べなければ意味がないわ」
コールが考える。
「第12王国が物流だったよね?」
「そうね」
「じゃあ第12でも聞いてみようよ」
誰にも言われていない。
四人が自分たちで次に学ぶことを考え始めていた。
◇
その記録を王宮で読んでいたクレインが頷く。
「なるほど」
「何か分かったか?」
オーキスが尋ねる。
「四人は教導を受けただけではありません」
「ああ」
「自分たちが王族であることを前提に、学んだものを国のためにどう使うか考えています」
エミリーが続ける。
「そして、その判断を肯定しています」
「誰かに言われたからではない?」
「はい」
エミリアが記録を示す。
「第12王国で物流について聞きたいという発言も、四人から出ています」
オーキスが腕を組んだ。
「国益か」
「はい」
◇
エミリーがこれまでの記録を並べる。
元娼婦たち。
自分たちで店を始めた。
人に喜ばれた。
自立し、王国の経済にも加わった。
嬉しい。
コール。
精錬を学んだ。
自分で考えた。
成功した。
王族として産業を知ることにもつながった。
嬉しい。
王宮。
十三億五千万人のために必要な施策をオーキスが判断した。
その場にいた者たちは、自分でも必要だと判断して肯定した。
国益。
そして今回。
四人の王子と王女。
教えることができた。
新しい魔道具を作れた。
学ぶことそのものを楽しんでいる。
嬉しい。
さらに、自分たちは王族として何を知るべきか考えた。
学んだ知識を国のために使うことを自分たちで肯定した。
国益。
肯定。
◇
「間違いないと思われます」
エミリーが言った。
「嬉しい」
エミリアが続ける。
「国益に準ずる判断、行動」
クレインが最後を言った。
「そして、それを自分で考えた上で肯定すること」
三つが揃っている。
オーキスが自分を鑑定した。
《アルデバラン国民 Lv2》
「……余も国益を考えているぞ」
「もちろんですわ」
バイオレットが答える。
「肯定もしている」
「ええ」
「なら、なぜ二なんだ?」
誰も答えなかった。
しばらくして、アイクが口を開いた。
「陛下」
「何だ?」
「嬉しいが足りないのでは?」
室内が静まり返った。
バイオレットが吹き出した。
「アイク!」
「申し訳ありません」
「余だって嬉しいことくらいあるわ!」
また一つ分かった。
そして、また一つ分からなくなった。
それでも《アルデバラン国民》の輪郭だけは、少しずつ見え始めていた。
四人の王子と王女の《アルデバラン国民》がレベル五になった。
その報告を受けた後も、オーキスは少し気になっていた。
自分はレベル二。
リヴィア、レックス、イヴァン、コールはレベル五。
別に競っているわけではない。
だが、エミリーとエミリアの分析では、嬉しいという感情が成長のトリガーになるという。
「嬉しい、か」
オーキスは呟いた。
嬉しいことならある。
王国が豊かになる。
食料が増える。
新しい産業が生まれる。
国民が増える。
どれも喜ばしい。
だが、それだけでは《アルデバラン国民》は成長しなかった。
◇
オーキスは王宮の窓から外を見た。
空を飛んでいる子供たちがいる。
珍しい光景ではなくなっていた。
各国から保護された孤児や子供奴隷たち。
彼らが今日も清掃を続けている。
「こっち終わった!」
「次は向こう!」
「分かった!」
索敵。
飛行。
そして、
「ピュリフィケーションバレット!」
汚れていた場所が綺麗になる。
誰にも命令されていない。
大聖堂から始まった清掃だった。
それがイプシオ領へ広がった。
アリシア領。
新興貴族領。
亜人街。
王都。
今では王国各地で子供たちが飛んでいる。
オーキスは黙ってその姿を見ていた。
◇
変わったのは、子供たちだけではなかった。
「おい、そっちは終わったか?」
「もう少しだ!」
大人がいた。
子供たちと一緒に清掃している。
商人。
職人。
農民。
亜人。
誰かに集められた者たちではない。
子供たちが掃除している姿を見た。
それだけだった。
「子供たちだけにやらせるのもな」
「俺たちが暮らしてる場所だし」
「だったら俺たちもやろう」
そう考えた。
そして動いた。
子供たちから大人へ。
大人から、また別の大人へ。
清掃が広がっていく。
◇
それを見て喜ぶ者たちもいた。
「綺麗になったな」
「気持ちいいね」
「子供たちが始めたんだろう?」
「そうらしいよ」
「何かしてやれないかな」
「清掃道具なら出せるぞ」
「俺は飲み物を持っていこう」
「それなら私も手伝うわ」
自分にできることはないか。
そう考える者が増えていた。
清掃ができる者は清掃する。
道具を用意できる者は道具を出す。
飲み物を用意できる者は飲み物を持っていく。
誰も同じことをしていない。
自分にできることを考えている。
オーキスはその様子を見ながら、王宮を出た。
◇
近衛を伴って町を歩く。
清掃された道。
綺麗になった建物。
行き交う国民たちの顔も明るい。
しばらく歩くと、小さな飲食店の前に子供たちが集まっていた。
「順番に並んで」
「はーい!」
「今日も掃除してきたの?」
「うん!」
「どこまで?」
「向こうの街道!」
「随分遠くまで行ったのね」
料理を配っているのは、以前に各国から保護された元娼婦たちだった。
今は自分たちで店を開いている。
祖国で食べていた料理を作る。
客に売る。
食材が必要なら自分たちで狩りにも行く。
そして清掃している子供たちを見かければ、食事を振る舞っていた。
「はい。熱いから気を付けて」
「ありがとう!」
「美味しい!」
「おかわり!」
「まだ食べるの?」
「食べる!」
女性が笑った。
「仕方ないわね」
子供も笑っている。
◇
オーキスは少し離れた場所から、その光景を見ていた。
不思議だった。
誰も命令していない。
子供たちは、自分たちで清掃を始めた。
それを見た大人たちが、自分にも何かできないかと考えた。
清掃に加わる者がいた。
道具を出す者がいた。
飲み物を持っていく者がいた。
元娼婦たちは食事を振る舞った。
そして皆が嬉しそうだった。
「ありがとう!」
「こっちこそありがとう」
そんな声が聞こえる。
オーキスは気付かないまま笑っていた。
国王として命令した結果ではない。
法律を作った結果でもない。
褒賞を出したからでもない。
国民が自分で考えた。
自分で動いた。
その行動を見た誰かが、また考えた。
そして動いた。
王国が綺麗になった。
人が喜んだ。
その喜ぶ姿を見て、また誰かが喜んでいる。
「……いい国になったな」
オーキスが小さく呟いた。
◇
その瞬間だった。
オーキスの体が淡く光った。
「陛下?」
近衛が驚いて振り返る。
「何だ?」
オーキス自身にも分からない。
光はすぐに消えた。
嫌な予感ではない。
むしろ最近、何度か見た現象だった。
「まさか」
自分を鑑定する。
《アルデバラン国民 Lv5》
「……五」
オーキスが固まった。
さっきまでレベル二だった。
一気に三つ上がっている。
「陛下、何をなさいました?」
近衛が尋ねる。
「何もしておらん」
本当に何もしていない。
命令もしていない。
国益になる新しい判断をしたわけでもない。
誰かの提案を肯定したわけでもない。
ただ見ていただけだった。
清掃する子供たち。
その姿に影響された大人たち。
綺麗になった王国を喜ぶ国民。
自分にもできることはないかと考える人々。
子供たちへ料理を振る舞う元娼婦たち。
その全てを見ていた。
「……そういうことか」
オーキスはようやく気付いた。
嬉しかったのだ。
国民が笑っている。
自分で考えている。
誰かのために動いている。
その姿を見ることが。
自分でも気が付かないほど自然に。
オーキスは嬉しいと思っていた。
もう一度鑑定する。
《アルデバラン国民 Lv5》
「嬉しい、か」
今度は自覚して笑った。
少しだけ。
このスキルの意味が分かった気がした。
オーキスが王宮へ戻ると、バイオレットがすぐに気付いた。
「何かございました?」
「なぜ分かる?」
「顔が違いますもの」
「そうか?」
「ええ」
オーキスは少し迷ってから、自分を指した。
「五になった」
「何がです?」
「《アルデバラン国民》だ」
バイオレットが目を丸くする。
「まあ」
「さっきまで二だった」
「何をなさったのです?」
「何もしておらん」
「またですか?」
「本当に何もしておらん」
オーキスは椅子に座った。
「子供たちを見ていた」
「清掃している?」
「ああ」
子供たちが掃除していた。
それを見た大人たちも動いていた。
国民が喜んでいた。
自分にできることはないかと考える者がいた。
元娼婦たちは子供たちに食事を振る舞っていた。
「それを見ていたら光った」
「嬉しかったのでしょう?」
「……らしい」
バイオレットが笑った。
「ようやく認めましたわね」
「自分でも気付いてなかったんだ」
◇
すぐにクレインたちが呼ばれた。
エミリー。
エミリア。
アイク。
アッシュ。
ロックウェル。
アレクサンド。
オーキスが説明する。
「余の《アルデバラン国民》がレベル五になった」
「五?」
クレインが聞き返した。
「ああ」
「何をされました?」
「何もしておらん」
全員が黙った。
「その顔をするな。本当に何もしていない」
「では、何があったのです?」
エミリーが尋ねる。
オーキスは見たものを説明した。
清掃する孤児たち。
それに影響されて清掃を始めた大人たち。
綺麗になった町を喜ぶ国民。
何か自分にもできないかと考える者たち。
元娼婦たちが子供へ食事を振る舞っていたこと。
「それを見て、どう思われました?」
エミリアが尋ねる。
「最初は何も」
「その後は?」
オーキスは少し考えた。
「いい国になったと思った」
「他には?」
「国民が嬉しそうだった」
「陛下は?」
「……嬉しかった」
エミリーとエミリアが顔を見合わせた。
◇
「かなりはっきりしてきました」
エミリーが言った。
「嬉しい、国益、肯定か?」
クレインが尋ねる。
「はい。ただし三つを別々に考えると分かりにくいかもしれません」
エミリアが記録を並べる。
「元娼婦たちは、自分たちで店を始めました」
自立する。
料理を売る。
子供たちへ食事を振る舞う。
その結果、人が喜んだ。
自分たちも嬉しかった。
「コール殿下は?」
「自分で学び、考え、成功した。それを嬉しいと思った。さらに王族として産業を知ることにもつながっています」
「四人がレベル五になった時は?」
「王族として国益になることを考えながら、自分たちの意思で専門教導を受けています」
文官。
行政官。
医官。
魔道具。
学ぶことを楽しみながら、国のために必要だと自分たちで肯定した。
「そして陛下」
エミリーがオーキスを見る。
「陛下は国民の行動を肯定されました」
「命令していないぞ」
「だからです」
「何?」
◇
クレインが先に気付いた。
「なるほど」
「何だ?」
「陛下は、国民が自分たちで考えて行動することを良いと判断された」
「そうだな」
「それは王としての判断でもあります」
オーキスが黙る。
清掃そのものが重要なのではない。
料理を振る舞ったことだけでもない。
国民が自分で考える。
自分にできることをする。
それによって別の国民が喜ぶ。
その状態を、王であるオーキスが肯定した。
「国益に準ずる判断」
エミリーが言う。
「肯定」
エミリアが続ける。
「そして嬉しいという感情」
三つが重なった。
オーキスの《アルデバラン国民》はレベル五になった。
◇
アイクが自分を鑑定する。
《アルデバラン国民 Lv2》
「私も国民が喜ぶのは嬉しいですが」
「アイク」
「はい」
「上げたいのか?」
「いえ」
「今、鑑定しただろう」
「確認です」
バイオレットが笑った。
アッシュとロックウェルは鑑定しなかった。
「お前たちは見ないのか?」
オーキスが尋ねる。
アッシュが答える。
「見たところで上がりませんので」
「その通りです」
ロックウェルも頷いた。
「……妙に冷静だな」
◇
クレインは教導管理システムへ新しい記録を追加した。
《アルデバラン国民》
成長条件。
嬉しい。
国益に準ずる判断または行動。
その判断や行動への自発的な肯定。
複数の事例で一致。
ただし、レベル上昇量を決める条件は依然として不明。
「これで確定か?」
オーキスが尋ねる。
「少なくとも、この三つについては間違いないでしょう」
「ではレベル五になった理由は?」
「分かりません」
「二から五に一気に上がったぞ?」
「事実として記録します」
「理由は?」
「不明です」
オーキスは呆れた。
「肝心なところが分からんではないか」
「分からないものは仕方ありません」
クレインは平然としていた。
◇
バイオレットが自分を鑑定する。
《アルデバラン国民 Lv2》
「あら」
「お前は二のままだな」
「そうですわね」
「余は五だぞ」
「嬉しそうですわね」
「別に嬉しくない」
「では下がるかもしれませんわよ」
「そんな仕様なのか?」
「知りません」
オーキスが黙る。
アイクが俯いた。
肩が僅かに揺れている。
「アイク」
「はい」
「笑ったな?」
「いいえ」
「笑っただろう」
「気のせいです」
今度はバイオレットが声を出して笑った。
◇
結局、《アルデバラン国民》の全てが分かったわけではなかった。
なぜ発現するのか。
なぜレベルがあるのか。
なぜ一度に三つ上がることがあるのか。
まだ分からない。
それでも三つだけは、かなり確かになった。
嬉しい。
国益。
肯定。
命令されたからではない。
誰かに正解を教えられたからでもない。
自分で見て。
自分で考えて。
良いと思った。
そして、それを嬉しいと思った。
オーキスは窓の外を見る。
遠くを子供たちが飛んでいた。
「今日もやってるな」
「楽しそうですわね」
「ああ」
オーキスは笑った。
今度は鑑定しなかった。




