212 異変
教導を終えた王国騎士団五十万人は、広域索敵を継続していた六十万人と合流した。
合わせて百十万人。
保護民への大規模教導が一段落したことで、騎士団は本来の任務へ戻り始めている。
大陸全域の監視。
犯罪組織の発見。
人攫い。
盗賊。
異常な人口移動。
魔物の大規模発生。
広域索敵で拾った情報は、必要に応じて教導管理システムへ登録される。
誰か一人が全てを見る必要はない。
気付いた者が登録する。
異常なら確認する。
必要なら動く。
いつものやり方だった。
最初に異変へ気付いたのはアギトだった。
「……何だ、これ?」
索敵範囲に捉えた複数の国家。
人の流れがおかしい。
一つではない。
二つでもない。
行政施設から大量の文書が運び出されている。
倉庫が開放されている。
国有物資が住民へ分配されている地域もある。
兵士が武装を解除している。
国境を管理していた者まで職務を放棄し始めていた。
アギトは範囲を広げた。
「多すぎるぞ……」
別の国。
さらに別の国。
同じような動きがある。
確認できるだけでも五十カ国以上。
アギトは即座に情報を教導管理システムへ登録した。
そしてアイクへ念話をつなぐ。
『団長』
『どうした?』
『異変です。大陸の多数の国家で、国家の清算が始まっています』
『国家の清算?』
『はい。五十カ国以上あります』
少しの沈黙。
『情報を登録したか?』
『しました』
『分かった。すぐ戻れ』
◇
王宮で会議が開かれた。
オーキス。
クレイン。
バイオレット。
マーガレット。
アレクサンド侯爵。
アルフレッド侯爵。
さらに四十七人の新興貴族たちも集められた。
騎士団からはアイク、アッシュ、ロックウェル。
そして発見者であるアギト。
エミリーとエミリアも席についている。
教導管理システムには、アギトが登録した情報が表示されていた。
オーキスがアギトを見る。
「報告してくれ」
「はい」
アギトが立ち上がった。
「大陸の多数の国で国家の清算が始まっています。その数、現在確認できているだけで五十以上です」
会議室が静かになった。
「清算とは具体的に?」
クレインが尋ねる。
「行政組織の解体、国有物資の処分、兵士の武装解除などです。すでに統治を放棄している地域もあります」
「同時にか?」
「ほぼ同時期です」
クレインの表情が変わった。
偶然とは考えにくい。
◇
「エミリー」
オーキスが呼ぶ。
「はい」
「分かるか?」
エミリーが端末を操作した。
これまで教導管理システムへ蓄積された情報と照合する。
「ある程度は」
各国の位置が表示された。
「これらの国々には共通点があります」
「何だ?」
「犯罪国家に加担していた国です」
オーキスの目が細くなった。
「恐らく、五十四カ国が滅亡した影響です」
「直接攻撃されたわけではないだろう?」
「はい。ですが経済、物流、人材、軍事など、様々な面で依存していたと考えられます」
エミリアも資料を確認している。
「五十四カ国が一度に消えたことで、それまで成立していた関係が切れた?」
「その可能性が高いです」
エミリーが頷く。
「国家として維持するだけの余力がなくなったのでしょう」
◇
オーキスが尋ねた。
「この後どうなる?」
誰もすぐには答えない。
「戦争か?」
エミリーが首を振った。
「それは起きないと考えられます」
「なぜ?」
「国家清算を始めていない国も相当に疲弊しています。他国へ軍を出し、領土を奪い、占領統治するだけの余力がありません」
「なら放置してもいい?」
「国家同士については。ただし別の問題があります」
「何だ?」
「盗賊、人攫い、犯罪組織です」
統治する者がいなくなる。
騎士もいなくなる。
行政も止まる。
そこに無防備な住民だけが残れば、何が起きるか。
説明する必要もなかった。
オーキスがアイクを見る。
「アイク」
「はっ」
「処理しろ」
「承知しました」
「保護を求める民がいれば保護しろ。本国へ連れてきても構わん」
オーキスはクレインを見る。
「今、本国は一億人だったな?」
「はい」
「食料は?」
「充足率一〇〇〇パーセントまで復帰しております」
「なら余裕はある」
アイクが頷いた。
「すぐに動きます」
◇
そこでオーキスが、ふと思い出したように全員を見渡した。
「ところで、話は変わるが」
クレインが首を傾げる。
「何でしょう?」
「せっかくこれだけ集まってる。確認しておきたい」
オーキスは会議室にいる者たちへ尋ねた。
「全員に問う。《アルデバラン国民》というスキルはあるか?」
沈黙。
アレクサンド侯爵が怪訝な顔をした。
「陛下」
「何だ?」
「何です? 《アルデバラン国民》というのは?」
今度はオーキスが黙った。
バイオレットの口元が、ゆっくりと緩んだ。
アレクサンド侯爵の問いに、オーキスは少し考えてから答えた。
「実はな、第2から第45までアルデバラン王国が建国された」
会議室が静まり返った。
アレクサンドが聞き返す。
「……第45?」
「ああ」
「アルデバラン王国が?」
「余の国を含めれば四十五カ国だ」
「いつの間にそんなことになったのです?」
「余もそう思っている」
オーキスは、第2から第15アルデバラン王国が建国された経緯から説明した。
かつて保護された者たちが、自分たちで国を興した。
土地を選び、国王を選び、行政組織を整えた。
それぞれが得意な産業を育てた。
農業。
紡織。
鉱業。
教育。
畜産。
水産。
建築。
医療。
物流。
研究。
酒造。
互いに協力しながら、すでに大きな経済圏を形成している。
「本国が建国を命じたのですか?」
「命じていない」
「国王は陛下が任命を?」
「していない」
「産業の割り振りは?」
「それもしていない」
アレクサンドが黙った。
「では、自分たちで?」
「そうだ」
◇
さらにオーキスは続けた。
「それを見ていた本国の亡命保護民五億九千万人まで、自分たちも同じことをしたいと言い出した」
「五億九千万人が?」
「本国に恩を返したいそうだ」
アルフレッド侯爵が僅かに笑った。
「それで第16から第45までですか」
「そういうことだ」
「陛下は許可された?」
「止める理由がなかった」
土地はある。
食料もある。
自立できる能力もある。
先行するアルデバラン王国も協力する。
本国の教導管理システムにも相乗りしている。
独立を拒否する理由がなかった。
「結果として、三十カ国増えた」
アレクサンドが額を押さえた。
「それだけでも十分驚きなのですが」
「問題はここからだ」
オーキスが全員を見る。
◇
「第2から第45まで、国民を鑑定した」
「はい」
「全員が同じものを持っていた」
《アルデバラン国民》
オーキスがその名称を告げる。
「スキルなのか称号なのか、そこもよく分からん」
アイクが補足する。
「鑑定しても判別できません」
「効果は?」
アルフレッド侯爵が尋ねた。
オーキスが答える。
「アルデバラン王国への絶対の忠誠」
四十七人の新興貴族たちの表情が変わった。
アレクサンドも眉を寄せる。
「それは……危険では?」
「余も最初はそう思った」
オーキスが首を振った。
「だが、盲従ではない」
「盲従ではない?」
「ああ。余が命令しても、おかしいと思えば理由を聞く。納得できなければ意見具申する。それでもアルデバラン王国を裏切ることはないらしい」
「……絶対の忠誠なのに?」
「そうだ」
「命令には従わないこともある?」
「あるようだ」
「それで絶対の忠誠?」
「余に聞くな。鑑定がそう示すのだ」
アレクサンドはますます分からなくなった。
◇
「さらに妙なことがある」
オーキスは続ける。
「本国民にもある」
「本国にも?」
「全員だ」
会議室がざわついた。
「余にもある」
今度こそ全員がオーキスを見た。
「陛下にも?」
「ああ」
オーキスは自分を鑑定して表示した。
《アルデバラン国民》
「バイオレットにもある。クレインにも。アイク、アッシュ、ロックウェルにも確認済みだ」
バイオレットが笑顔で頷いた。
「私もアルデバラン国民ですわ」
「王妃まで……」
「何か問題でも?」
「いえ」
アレクサンドが首を振った。
◇
「だが、一番分からないのはそこではない」
オーキスの表情が真面目になる。
「いつ覚醒したのか分からない」
「記録は?」
「調べた」
クレインが答えた。
「教導した記録はありません。誰かが付与した記録もありません。発現した正確な時期も特定できておりません」
「原因も?」
「不明です」
アレクサンドが考え込んだ。
「国民になったから発現したのでは?」
「それなら説明できない例がある」
クレインが続ける。
「外部からアルデバラン王国へ移住した者にも、しばらくすると発現する例が確認されています」
「伝播する?」
「その可能性があります」
「条件は?」
「分かりません」
アルフレッド侯爵が尋ねる。
「本人がアルデバラン国民だと認識することが条件では?」
「可能性はあります。しかし断定できるだけの情報がありません」
結局、分からない。
存在することだけは確かだった。
◇
オーキスは全員を見渡した。
「だから聞いた。ここにいる者たちはどうなのかとな」
アレクサンドが自分を鑑定する。
少し間があった。
「……あります」
「やはりか」
《アルデバラン国民》
アルフレッド侯爵も鑑定した。
「私にもありますな」
四十七人の新興貴族たちも次々と自分を確認する。
「あります」
「私もです」
「こちらも」
アギトも鑑定した。
「……俺にもあります」
エミリアが自分を確認する。
「私も」
最後にエミリーが鑑定した。
そして表示された結果をじっと見る。
《アルデバラン国民》
「私にもあります」
オーキスは腕を組んだ。
「やはり全員か」
アレクサンドは自分の表示を見つめている。
「いつ発現したのでしょう?」
「それが分からんと言っている」
「全く覚えがありません」
「余もだ」
会議室にいる誰にも、覚醒した瞬間の記憶がなかった。
誰にも教えられていない。
誰にも強制されていない。
それでも確かに存在する。
アレクサンドはもう一度、自分の鑑定結果を見た。
《アルデバラン国民》
「……何なのでしょうね、これは」
オーキスが答えた。
「それを余が知りたい」
《アルデバラン国民》。
会議室にいる者たちは、しばらく自分の鑑定結果を眺めていた。
アレクサンド侯爵が首を傾げる。
「少なくとも、私は発現した瞬間に覚えがありません」
「俺もだ」
アギトも答えた。
「新しいスキルを覚えた時は、大抵気付くんですが」
「能力が増えすぎたからではないか?」
アッシュが言うと、アギトは少し考えた。
「それはありますね」
六属性に加え、金属、聖、時空間、重力、付与。
十一属性。
飛行、鑑定、教導、アイテムボックス。
各種超能力。
魔力循環を続けていれば、新しい能力が発現することもある。
その中に《アルデバラン国民》が一つ増えても、見落とした可能性は十分にあった。
アルフレッド侯爵が尋ねる。
「ところで陛下。このスキルは消せるのですか?」
「知らん」
「解除を試した者は?」
クレインが答えた。
「そこまでは調べておりません」
「では、今後の課題ですな」
「いや」
オーキスが止めた。
「害がないなら放っておけ」
「よろしいので?」
「本人の意思を奪わない。盲従もしない。国を裏切らないだけだろう?」
「現在確認されている範囲では」
「なら困らん」
バイオレットが微笑む。
「あなたらしい判断ですわ」
「分からんものを全部調べていたら仕事にならん」
◇
そこでエミリーが口を開いた。
「陛下。本題へ戻してもよろしいでしょうか?」
「そうだった」
オーキスが姿勢を直す。
「五十以上の国家清算だったな」
「はい」
教導管理システムへ、アギトたち騎士団が集めた情報が追加され続けている。
エミリーとエミリアが分析する。
「国家清算を始めた国は増えています」
「まだ増えるのか?」
「可能性は高いと思われます」
エミリアが地図を表示した。
すでに滅亡した五十四カ国。
その周辺に存在していた国家。
交易路。
人の流れ。
物資の流れ。
関係を重ねると、原因が見えてくる。
「犯罪国家に加担していた国々は、単独で成立していたわけではありません」
エミリーが説明する。
「物資を売る国。人を供給する国。略奪品を買う商人。奴隷を受け入れる市場。武器を流す組織。それぞれがつながっていました」
クレインが頷いた。
「五十四カ国の滅亡で、その循環が一気に切れた」
「はい」
「正常な経済ではなかったということか」
「その可能性が高いです」
◇
アレクサンドが地図を見る。
「では、この五十カ国以上を救済すればいいのでは?」
エミリーはすぐには答えなかった。
「国家を、でしょうか?」
「……違うな」
アレクサンド自身が気付いた。
「民だ」
「はい」
オーキスも頷く。
「国を救う必要はない」
会議室の視線が集まる。
「清算したいなら清算させろ。余が他国の国体を維持してやる理由はない」
「御意」
「だが、そこに暮らしている民は別だ」
アイクが答える。
「保護を求める者は保護します」
「頼む」
オーキスは続けた。
「それと盗賊、人攫い、犯罪組織」
「処理します」
「そこは迷うな」
「はい」
アデレード王国で何が起きたか。
ここにいる者たちは知っている。
統治が崩れた場所を放置すれば、弱い者から被害を受ける。
国家清算そのものを止める必要はない。
だが、その後に生まれる犯罪まで放置する理由もなかった。
◇
「百十万人をどう動かす?」
ロックウェルが尋ねた。
アイクは少し考える。
「まず広域索敵を継続する」
「全員で?」
「いや。監視網を維持する人数は残す」
アギトが口を挟んだ。
「国家清算している地域を優先的に登録します。人口、犯罪組織、孤児、奴隷、人攫いの動きを分けて記録すればいいかと」
アイクが頷く。
「それでいこう」
アッシュも続ける。
「保護を希望する者については?」
「鑑定と念話で確認する。本人が希望するなら保護だ」
「本国へ?」
「基本はな。ただし人数次第では第2から第45王国にも相談する」
オーキスが眉を上げた。
「勝手に決めるなよ」
「相談です」
「ならいい」
バイオレットが笑った。
◇
クレインが本国の状況を確認する。
「現在人口一億人。食料充足率一〇〇〇パーセント。住宅用地にも余裕があります」
「何人まで受け入れられる?」
オーキスが尋ねる。
「相当数可能です。ただし、一度に集中させる必要はありません」
「そうだな」
第2から第45アルデバラン王国にも土地は余っている。
食料もある。
仕事も作れる。
何より教導がある。
保護するだけで終わらせる必要はない。
学び、自立すればいい。
アイクが立ち上がった。
「では、騎士団を動かします」
「頼む」
アギトも立ち上がる。
「俺も戻ります」
「発見者だからと無理するなよ」
「分かっています」
会議は終わろうとしていた。
その時だった。
アギトがふと足を止めた。
「……団長」
「どうした?」
「新しい情報が登録されました」
全員が端末を見る。
国家清算。
また一つ。
さらに一つ。
数が増えている。
アイクの表情が引き締まった。
「始まったばかりか」
エミリーが静かに答えた。
「恐らく」
五十四カ国の滅亡。
それで終わったわけではなかった。
一つの巨大な流れが途切れたことで、その周囲に存在していた国々まで崩れ始めている。
だが、戦争は起きない。
起こすだけの力が、もう残っていない。
オーキスは地図を見た。
「国が消えるのは勝手だ」
そしてアイクを見る。
「民を巻き込ませるな」
「御意」
王国騎士団百十万人が、再び動き始めた。
王国騎士団百十万人が動き始めた頃、王宮では別の話が持ち上がっていた。
オーキスの前に四人の子供たちが並んでいる。
マーガレットの弟妹。
リヴィア。
レックス。
イヴァン。
コール。
四人を代表してリヴィアが口を開いた。
「お父様、お願いがあります」
「何だ?」
「第2から第45アルデバラン王国へ留学させてください」
オーキスはすぐには答えなかった。
「全部か?」
「はい」
「四十四カ国あるぞ」
「知っています」
「何年かかるか分からんぞ」
「構いません」
レックスも頷いた。
「本国にいるだけでは分からないことがあると思います」
「何を学びたい?」
「それを見つけたいのです」
オーキスが四人を見る。
リヴィアだけではない。
レックスも。
イヴァンも。
コールも。
遊びに行きたい顔ではなかった。
「別々に行くのか?」
「いいえ」
今度はイヴァンが答えた。
「四人で一緒に回ります」
「なぜだ?」
「同じものを見ても、気付くことが違うと思うからです」
オーキスが僅かに目を細めた。
「なるほどな」
◇
オーキスは少し考えた。
第2王国には農業がある。
第3王国では紡織。
第4王国では鉱業。
第5王国では教育。
そこから先も、畜産、水産、建築、医療、木工、食品加工、物流、生活用品、魔法技術、酒造と続く。
第16以降では、さらに新しい産業が生まれ始めている。
王宮で報告書を読むだけでは得られないものがある。
「分かった。許可する」
四人の表情が明るくなった。
「ありがとうございます」
オーキスはロックウェルを見る。
「ロックウェル」
「はっ」
「近衛をそれぞれ五人ずつ付けろ」
「御意」
「護衛だ。口を出し過ぎるなよ」
「承知しております」
「本人たちにやらせろ。困った時だけ手を貸せ」
「御意」
バイオレットが四人を見る。
「しっかり見てきなさい」
「はい」
「何を教わったかだけではありませんよ。そこで暮らしている人たちが、なぜそれを選んだのかも見てきなさい」
四人が頷いた。
◇
出発は早かった。
荷物を準備する。
必要なものはアイテムボックスへ収納する。
四人それぞれに近衛五人。
合計二十人。
最初の留学先は第2アルデバラン王国だった。
「行ってきます」
「ああ」
オーキスが答える。
「たまには帰ってこい」
「はい」
転移。
四人と近衛たちの姿が王宮から消えた。
オーキスは、先ほどまで四人が立っていた場所を見る。
「王子と王女が四十四カ国を回るのか」
バイオレットが微笑む。
「いい経験になりますわ」
「そうだな」
アルデバラン王国本国しか知らないまま育つよりいい。
自分たちと同じ名を持ちながら、別の国王を戴き、別の産業を育てている国々を見る。
その国民たちも《アルデバラン国民》を持っている。
オーキス自身にも、まだ理解できていない共同体だった。
子供たちが何を見るのか。
それは少し楽しみでもあった。
◇
一方、大陸各地では王国騎士団の活動が始まっていた。
広域索敵。
鑑定。
念話。
教導管理システムには膨大な情報が集まり続ける。
『盗賊集団を確認』
『人数は?』
『三百二十七』
『鑑定結果は?』
『全員犯罪者』
『処理』
別の地域。
『人攫いを確認。捕らえられている者が四百人以上います』
『被害者を先に保護しろ』
『了解』
さらに別の地域。
『街道沿いに住民が集まっています』
『保護希望か確認』
『念話をつなぎます』
国家清算が始まった地域では、行政機能が急速に失われていた。
その隙を狙う者が出てくる。
だが、今回は早かった。
犯罪者が集団を作る。
広域索敵に引っ掛かる。
鑑定される。
処理される。
人攫いが動く前に騎士団が来る。
逃げても広域索敵からは消えない。
国境を越えても意味はなかった。
◇
そして保護を希望する者も増え始めた。
最初は数百人。
数千人。
やがて一万人単位になる。
さらに別の国からも保護要請が入る。
奴隷。
孤児。
貧困層。
職を失った者。
国家そのものが消えようとしている以上、そこに残る理由を失った者も多かった。
アイクの元へ集計途中の数字が送られてくる。
「……多いな」
アッシュが隣から見る。
「まだ始まったばかりです」
「分かっている」
「五十カ国以上ですからな」
ロックウェルは王宮に残っている。
現場ではアイクとアッシュを中心に、騎士団が広大な地域へ展開していた。
アギトも索敵を続けている。
「団長」
「何だ?」
「保護対象者の推計が更新されました」
「どれくらいだ?」
「まだ確定できません。ただ……」
アギトが少し言葉を止めた。
「十億人は軽く超えると思います」
アイクは驚かなかった。
「そうか」
「本国だけでは?」
「本国は一億人まで減った。土地も食料も余っている」
「それでも十億人以上ですよ」
「第2から第45もある」
アッシュが笑う。
「また国が増えるかもしれませんな」
「知らん」
アイクは即答した。
「それは陛下が考えることだ」
◇
その頃、第2アルデバラン王国。
転移してきたリヴィア、レックス、イヴァン、コールは、広大な農地を前に立っていた。
見渡す限りの畑。
働いている人々。
大量に運ばれていく農作物。
四人は同じ景色を見ていた。
最初に口を開いたのはコールだった。
「……本国と全然違うね」
「うん」
リヴィアが頷く。
「まず見て回りましょう」
四人の留学が始まった。
同じ頃。
大陸の別の場所では、国が消え始めていた。
一方では国を学ぶ者たちが旅立ち。
一方では国を失った者たちの保護が始まる。
大陸は、また大きく動き始めていた。




