211 「アルデバラン国民」というスキル
第2から第15アルデバラン王国の発展を、本国で暮らす五億九千万人の亡命保護民たちは見ていた。
農業。
紡織。
鉱業。
教育。
畜産、酪農。
水産、養殖。
建築、土木。
薬、医療。
木工、林業。
食品加工。
物流、運輸。
陶器、ガラス。
研究、魔法技術。
酒造、醸造。
十四の国は、それぞれ自分たちで得意なものを見つけ、産業を育てていた。
本国から命じられたわけではない。
必要なものに気付き、自分たちで考えて始めただけだった。
今では各国とも十分な利益を上げ、余剰分を本国へ寄付している。
それを見ていた亡命保護民たちの間から、同じ声が出始めた。
「俺たちも国を興せるんじゃないか?」
「第2王国たちと同じように?」
「ああ」
「本国を出るのか?」
「出るというのは少し違うだろう」
「そうだな」
誰かが頷いた。
「俺たちもアルデバラン国民なんだから」
話はそこから早かった。
保護された。
食料を与えられた。
住む場所を得た。
仕事を得た。
教育と教導を受けた。
魔力循環を続け、新たな能力を覚醒した者も多い。
もう保護されたばかりの自分たちではなかった。
「自分たちで国を興そう」
「産業を作る」
「稼げるようになれば、本国へ恩を返せる」
第2から第15王国ができた。
ならば自分たちにもできる。
五億九千万人の意思は、急速にまとまっていった。
◇
代表者たちは王宮を訪れた。
応対した宰相クレインへ、最初から結論を伝える。
「独立したいのです」
「独立?」
「はい」
クレインは代表者たちを見る。
「本国に何か不満でも?」
「ありません」
「生活に問題が?」
「ありません」
「食料は?」
「余っています」
「仕事は?」
「あります」
「では、なぜ独立を?」
「第2から第15アルデバラン王国と同じことをしたいのです」
代表者の一人が続けた。
「自分たちで国を興し、自分たちで産業を育てたい。そして本国へ恩を返したい」
クレインはようやく理解した。
「自立したいということですな」
「はい」
「人数は?」
「おおむね二千万人ずつに分かれる予定です」
五億九千万人。
おおむね二千万人ずつなら三十カ国になる。
第16アルデバラン王国から第45アルデバラン王国まで。
「国名まで決まっているのですか?」
「アルデバラン王国以外に何かありますか?」
クレインは答えなかった。
◇
土地にも問題はなかった。
アーデン王国跡地。
ロクス王国跡地。
ゼノ・バルト帝国跡地。
灰塵の荒野ヴォルガ。
神聖アーリア王国跡地。
かつて五カ国が存在していた地域は広大だった。
約六億人が移住しても、まだ大量の土地が残る。
「建築はどうします?」
「第8王国へ協力をお願いします」
「物流は?」
「第12王国へ」
「教育や行政官の育成は?」
「第5王国にもお願いする予定です」
「準備がいいですな」
「迷惑をかけるわけにはいきませんから」
「教導管理システムは?」
「本国のものへ相乗りさせていただきたいのです」
新しい管理システムを作る必要はない。
第2から第15王国も、本国と同じ教導管理システムを利用している。
人口。
生産。
教育。
物流。
会計。
必要な情報を一元管理できる。
第16以降もそこへ加わればいい。
「分かりました。陛下へ報告します」
◇
報告を受けたオーキスは、しばらく黙っていた。
「五億九千万人が独立する?」
「希望しております」
「本国が嫌になった?」
「逆です」
「またか」
「本国へ恩を返したいそうです」
隣ではバイオレットが笑顔だった。
「いいことではありませんか」
「三十カ国増えるんだぞ」
「土地は?」
「余っている」
「食料は?」
「問題ない」
「自立できますか?」
「できる」
「でしたら問題ありませんね」
「……そうなんだが」
反対する理由がなかった。
◇
移住は速やかに始まった。
おおむね二千万人ずつに分かれた者たちが、それぞれの土地へ向かう。
住宅を造る。
農地を造成する。
道路を整備する。
行政組織を作る。
教導管理システムは本国のものへ相乗りする。
第2から第15王国も、建国への協力を惜しまなかった。
そして第16から第45アルデバラン王国まで、三十の新しい国が建立された。
直後、住民たちを鑑定した者が首を傾げた。
「……やっぱりある」
《アルデバラン国民》
第16王国。
全員。
第17王国も全員。
第20王国。
第30王国。
第40王国。
第45王国。
どこを確認しても同じだった。
五億九千万人全員が、《アルデバラン国民》というスキル、あるいは称号を覚醒していた。
報告を聞いたオーキスは椅子にもたれた。
「……もう驚かんぞ」
バイオレットが笑う。
「五億九千万人も増えましたね」
「本国からは減ったんだ」
「でもアルデバラン国民なのでしょう?」
「別の国だぞ」
「本人たちはそう思っていませんよ」
オーキスは黙った。
国は三十も増えた。
行政も会計も別になる。
それでも情報は同じ教導管理システムに集まる。
そして国民自身は、自分たちを外国人だとは思っていない。
オーキスは深く息を吐いた。
「……何なんだ、この国は」
バイオレットの笑顔は、しばらく消えなかった。
第16から第45アルデバラン王国が建立されてから、各国では国王を決める話し合いが始まった。
本国から国王が派遣されることはない。
オーキスが任命することもない。
第2から第15王国と同じだった。
自薦。
他薦。
この人なら任せられる。
この人なら話を聞いてくれる。
行政経験がある。
人をまとめるのが上手い。
そんな理由で候補者が挙げられた。
「私は辞退します」
「なぜ?」
「行政官として働く方が向いています」
「では誰がいい?」
「彼女を推薦します」
「私ですか?」
別の場所では、自分から手を挙げる者もいた。
「国王をやってみたい」
「理由は?」
「この国で何ができるのか試したい」
「なら任せてみよう」
「失敗したら?」
「代わればいいだろう」
国王という地位そのものを奪い合う者はいなかった。
選ばれた者も、自分が国を所有したとは考えなかった。
国民から国の運営を任された。
認識はそれだけだった。
◇
国王が決まると、各国はすぐに動き始めた。
第2から第15王国の経験がある。
最初から全てを試行錯誤する必要はない。
教導管理システムを開けば、先行する十四カ国が何をしてきたのか確認できる。
農地造成。
住宅建設。
上下水道。
道路。
行政組織。
学校。
医療施設。
商業ギルド。
冒険者ギルド。
必要なものは分かっていた。
分からないことがあれば聞けばいい。
『第8王国へ。住宅建設について相談したい』
『人数と予定地を教えてください』
『第5王国へ。行政官の追加育成をお願いしたい』
『受け入れ可能です』
『第12王国へ。物流ゴーレムを購入したい』
『必要数を登録してください』
話は早かった。
同志国が三十増えた。
第2から第15王国の国王たちは、その程度にしか考えていなかった。
◇
新しい国々は、既存の産業をそのまま真似するだけではなかった。
「ここには何がある?」
「森林が広い」
「なら木材か?」
「第10王国と同じことをする必要はないだろう」
「では何を作る?」
「まず調べよう」
別の国では広域索敵が使われた。
地下資源。
水源。
森林。
耕作可能な土地。
魔物の分布。
人が暮らすのに適した場所。
必要な情報を集める。
教導管理システムには、他国の生産量や需要も登録されている。
「これが不足している」
「なら作れるか試してみよう」
「こっちは余っているな」
「それなら同じものを大量に作る必要はない」
誰かに産業を決めてもらう必要はなかった。
見る。
調べる。
気付く。
できることから始める。
それだけだった。
◇
本国の王宮では、クレインが新たに登録された情報を確認していた。
「陛下」
「今度は何だ?」
「第16から第45王国の行政組織が、ほぼ整いました」
「早くないか?」
「教導がありますので」
「そうだったな」
「さらに第2から第15王国から、行政官や技術者が派遣されています」
「頼んだのか?」
「新しい国々が直接頼んでおります」
「本国を通さずに?」
「はい」
オーキスが端末を見る。
「問題ないのか?」
「何がでしょう?」
「いや……」
オーキス自身、何が問題なのか分からなかった。
必要な国が、必要な国へ相談する。
相手が承諾する。
人や物が動く。
取引内容は教導管理システムに記録される。
会計も公開される。
隠しているものは何もない。
「……問題ないな」
「ありませんな」
◇
そこへバイオレットがやってきた。
「何を見ているのです?」
「新しい三十カ国だ」
「順調ですか?」
「順調すぎる」
バイオレットが端末を覗く。
第17王国が第8王国へ建築技術者を要請。
第21王国が第5王国へ留学生を派遣。
第26王国が第12王国から物流ゴーレムを購入。
第32王国が第9王国から薬師を招聘。
第41王国が第14王国と魔道具の共同研究を開始。
「楽しそうですね」
「そう見えるか?」
「ええ」
「三十カ国増えたんだぞ」
「知っています」
「全部アルデバラン王国だ」
「いい名前ではありませんか」
「第45まであるんだぞ」
「分かりやすいですわ」
オーキスは何も言えなくなった。
◇
さらに数日後。
第16から第45王国の代表者たちから、本国へ連絡が入った。
『建国への協力、ありがとうございました』
クレインが応対する。
「順調ですか?」
『はい』
「不足しているものがあれば申し出てください」
『ありがとうございます』
そこで話が終わると思った。
『ところで、宰相閣下』
「何でしょう?」
『本国への寄付は、どのような手続きをすればよろしいでしょうか?』
クレインが黙った。
「……もうですか?」
『まだ多くは出せません』
「でしたら自国のために使ってください」
『もちろん、そのつもりです』
「では?」
『余った分を寄付したいのです』
第2から第15王国と同じだった。
クレインはしばらく考えた後、答えた。
「まず、自国を豊かにしてください」
『承知しました』
「国民の生活を優先してください」
『当然です』
「備蓄も十分に」
『はい』
「その上で余ったら……好きにしてください」
『ありがとうございます』
通信が終わった。
クレインは端末を見つめる。
その日のうちに、第16から第45王国まで同じ回答が共有された。
反応もほぼ同じだった。
『では、余った分を寄付します』
クレインは小さく息を吐いた。
「……やはりアルデバラン国民ですな」
誰に聞かせるでもなく、そう呟いた。
第16から第45アルデバラン王国が動き始めてから、本国の王宮では一つの疑問が持ち上がっていた。
原因は、もちろん《アルデバラン国民》だった。
クレインが会議室の端末に記録を表示する。
「第2から第15王国に続き、第16から第45王国でも全員に確認されています」
オーキス、バイオレット、アイク、アッシュ、ロックウェルが表示された内容を見る。
《アルデバラン国民》
それ以上でも、それ以下でもない。
オーキスが尋ねた。
「結局、これはスキルなのか? 称号なのか?」
「分かりません」
クレインは即答した。
「鑑定でも?」
「判別できません」
「効果は?」
「本国への絶対的な忠誠です」
「それは前にも聞いた」
オーキスは腕を組んだ。
「何でそんなものが覚醒する?」
「それも分かりません」
アイクが口を挟む。
「教導で覚醒した可能性は?」
「ありません」
クレインが記録を切り替えた。
「教導管理システムに《アルデバラン国民》を教導した記録は一件もありません」
「なら自然覚醒か」
「そう考えるしかありませんな」
◇
アッシュが別の記録を確認する。
「覚醒時期は?」
「個人差があります」
「建国した瞬間ではない?」
「違います」
ここが奇妙だった。
第2から第15王国の国民もそうだった。
ある日突然、全員が同時に覚醒したわけではない。
確認された時には、すでに広がっていた。
そして今回。
本国で暮らしていた五億九千万人について、過去の鑑定記録を遡って確認すると、建国以前から《アルデバラン国民》を覚醒していた者が相当数存在していた。
「……待て」
オーキスが記録を見る。
「本国にいた時から持っていたのか?」
「はい」
「じゃあ新しい国を作ったから覚醒したわけじゃない?」
「少なくとも、それだけではありません」
ロックウェルが首を傾げる。
「では、何が条件なんだ?」
誰も答えられなかった。
◇
そこで実際に覚醒している者から話を聞くことになった。
第23アルデバラン王国の国王が念話に応じた。
『《アルデバラン国民》ですか?』
「ああ」
オーキスが直接尋ねる。
「いつ覚醒したか分かるか?」
『分かりません』
「何か変化は?」
『特には』
「本国への絶対的な忠誠という効果があるそうだが」
『そうですね』
「そうですね、で済ませるのか?」
『陛下を裏切る理由がありませんので』
オーキスが黙る。
「スキルに強制されている感覚は?」
『ありません』
「命令されたら従わなければならないとか?」
『それは内容によります』
「……絶対的忠誠じゃないのか?」
『忠誠と盲従は違うでしょう』
オーキスの眉が動いた。
「俺の命令を断ることもある?」
『間違っていると思えば意見します』
「それでもアルデバラン国民?」
『当然です』
バイオレットが笑いを堪えていた。
◇
次に第31アルデバラン王国の女性行政官へ話を聞いた。
「あなたも《アルデバラン国民》を?」
『持っています』
「本国へ戻れと言われたら?」
『理由を聞きます』
「理由に納得できなければ?」
『戻りません』
「忠誠は?」
『あります』
オーキスがクレインを見る。
「絶対的忠誠って何だ?」
「私に聞かれましても」
女性行政官が念話越しに答えた。
『本国に従うという意味ではないと思います』
「では何だ?」
少し考えてから答える。
『本国を裏切らない。それだけでは?』
会議室が静かになった。
『私たちは自分たちで国を運営します。必要なら本国にも意見します。でも、本国を敵に回したり、害したりしようとは思いません』
「それが《アルデバラン国民》?」
『私はそう思っています』
◇
念話を終えた後、オーキスは椅子にもたれた。
「ますます分からなくなった」
「むしろ分かりやすくなったのでは?」
バイオレットが言った。
「どこがだ?」
「あなたの言うことを何でも聞くスキルではないのでしょう?」
「そうらしいな」
「国を離れても消えない」
「ああ」
「別のアルデバラン王国を作っても消えない」
「そうだな」
「そして自分で考えることもやめない」
クレインが頷いた。
「少なくとも、服従を強制する類いのものではありませんな」
アイクも納得したようだった。
「敵にならない。裏切らない。だが、自分の頭では考える」
「面倒な忠誠だな」
オーキスが呟いた。
「陛下には合っております」
クレインが答える。
「どういう意味だ?」
「何でも命令通りに動く国民など、陛下もお望みではないでしょう」
オーキスは否定しなかった。
◇
結局、《アルデバラン国民》がスキルなのか称号なのかは分からなかった。
何を条件に覚醒するのかも分からない。
ただし、いくつか分かったことはある。
教導されたものではない。
国境を越えても消えない。
自分で考えることを妨げない。
オーキスへの盲従を要求するものでもない。
それでも、アルデバラン王国を裏切らない。
そして何より奇妙なのは、本人たちがそれを特別なことだと思っていないことだった。
「最後に一ついいか?」
オーキスが第38王国の国王へ尋ねた。
『何でしょう?』
「お前たちは独立したんだよな?」
『はい』
「なのにアルデバラン国民?」
『はい』
「矛盾してないか?」
少し間があった。
『どこがです?』
オーキスは天井を見上げた。
「……もういい」
バイオレットの笑い声が、会議室に響いた。
《アルデバラン国民》について調べていたクレインは、教導管理システムを使って本国の記録も確認していた。
第2から第45アルデバラン王国だけに存在するものなのか。
それとも、本国にも存在するのか。
調べること自体は難しくない。
情報は一元管理されている。
条件を指定して検索すればいい。
「陛下」
「まだ何か見つけたのか?」
「はい」
オーキスは少し嫌そうな顔をした。
「今度は何だ?」
「本国の国民についても確認しました」
「それで?」
クレインが結果を表示した。
《アルデバラン国民》
その下に人数が表示されている。
オーキスが数字を見た。
「……全員?」
「全員です」
本国に残っている国民。
王都。
農村。
港町。
冒険者。
商人。
職人。
農民。
騎士。
文官。
貴族。
身分も職業も関係ない。
全員が持っていた。
◇
「いつからだ?」
「特定できておりません」
「誰も気付かなかったのか?」
「気付いていた者はいると思いますが、珍しいことだと認識されなかったのでしょう」
「これが?」
「今のアルデバラン王国ですからな」
クレインの言葉に、誰も反論しなかった。
六属性。
さらに金属、聖、時空間、重力、付与。
合わせて十一属性。
飛行。
鑑定。
教導。
アイテムボックス。
そして各種超能力。
魔力循環を続けているため、新しい能力を覚醒する者も珍しくない。
そんな国である。
鑑定結果に《アルデバラン国民》という表示が一つ増えたところで、
「ああ、何か増えたな」
それで終わった者がいても不思議ではなかった。
「いや、少しくらい疑問に思え」
オーキスが呟く。
アイクが答える。
「陛下。我々も今まで気付いておりませんでした」
「そうだったな」
◇
アイクが自分を鑑定した。
「あります」
アッシュも続く。
「私もですね」
「俺もだ」
ロックウェルにも表示された。
クレインも自分を確認する。
「私にもありますな」
バイオレットも鑑定した。
「あら、本当」
最後に全員がオーキスを見た。
「何だ?」
「あなたも確認してみては?」
「俺は国王だぞ」
バイオレットが首を傾げる。
「国王はアルデバラン国民ではないのですか?」
「いや、国民だが……」
「では確認を」
オーキスは自分を鑑定した。
《アルデバラン国民》
表示された。
「……あるな」
バイオレットが笑った。
アイクが横を向く。
アッシュとロックウェルも黙っている。
「笑うな」
「笑っておりません」
「ならこっちを向け」
クレインが真面目な顔で言った。
「陛下も間違いなくアルデバラン国民ということですな」
「当たり前だ」
「では問題ありません」
「何か納得できん」
◇
さらに調査すると、新しい事実も確認された。
第27アルデバラン王国へ、建国後に外部から移住してきた者たちがいた。
移住直後の鑑定記録には、《アルデバラン国民》がない。
ところが、しばらくして再び鑑定すると表示されていた。
《アルデバラン国民》
しかも一人ではない。
移住者たちの間で次々と確認されている。
「……伝播しているのか?」
オーキスが尋ねた。
「その可能性が高いですな」
「教導は?」
「行われておりません」
「誰かが付与した?」
「その記録もありません」
「なら、どうやって?」
「分かりません」
移住者本人にも聞いてみた。
『何か特別なことをしましたか?』
『していません』
『忠誠を誓う儀式などは?』
『そんなものがあるのですか?』
『ありません』
『では、していません』
『自分をアルデバラン国民だと思いますか?』
その問いには、すぐ答えが返ってきた。
『もちろんです』
『いつから?』
『いつからと言われても……』
本人が困った。
『ここで暮らしていますから』
それだけだった。
◇
新しく生まれた子供についても確認された。
《アルデバラン国民》
最初から表示される子供がいる。
親から受け継いだのか。
生まれた場所によるのか。
それとも別の条件があるのか。
分からない。
さらに別の例もあった。
外から来た者が暮らす。
周囲と働く。
教える。
教わる。
食事をする。
祭りに参加する。
いつの間にか本人が、
「自分もアルデバラン国民だ」
と思うようになる。
その頃には《アルデバラン国民》が表示されている。
「本人の認識が条件か?」
アッシュが尋ねた。
「可能性はあります」
クレインが答える。
「だが断定はできない?」
「はい」
結局、分からなかった。
◇
「もういい」
オーキスが言った。
「調査を打ち切られますか?」
「ああ」
「よろしいので?」
「害はあるか?」
「確認されておりません」
「本人の意思を奪う?」
「奪いません」
「俺の命令に盲従する?」
「しません」
「他国と揉める原因になる?」
「むしろ逆ですな」
「なら放っておけ」
バイオレットが笑顔で頷いた。
「それがよろしいと思います」
「お前は最初から面白がっているだろう」
「ええ」
「否定しろ」
「嫌ですわ」
オーキスはため息をついた。
◇
結局、《アルデバラン国民》がスキルなのか称号なのかは分からなかった。
発生条件も分からない。
伝播する理由も分からない。
ただ、強制するものではないことだけは確認できた。
自分で考える。
必要なら本国にも意見する。
国王の命令でも、おかしいと思えば理由を尋ねる。
それでも本国を裏切らない。
国境を越えても、その意識は変わらない。
四十五のアルデバラン王国。
国王も違う。
行政も違う。
会計も違う。
それぞれが自分たちで国を運営している。
それなのに国民は、自分たちを同じアルデバラン国民だと思っていた。
オーキスは自分の鑑定結果をもう一度見た。
《アルデバラン国民》
「……国王にも付くのか」
バイオレットが笑う。
「良かったですね、あなた」
「何がだ?」
「仲間外れではありませんでしたわ」
「そこを心配したことはない」
クレインが小さく笑った。
国の数は増えた。
国境も増えた。
それでも、アルデバラン国民は増えただけだった。




