210 各国の特産
第2から第5アルデバラン王国が、それぞれ独自の産業を発展させている頃、第6以降の国々も動いていた。
神聖ラトリアの跡地に第6から第15までの国は建立した。
土地は広大だった。まだまだ余っている。
本国から産業を指定されたわけではない。
自分たちの土地に何があるのか。
何を作れるのか。
何が必要とされているのか。
それぞれが考え、選んだ結果だった。
◇
第6アルデバラン王国。
国王アークネル。
人口一千万人。
この国が選んだのは、畜産と酪農だった。
広い土地を利用して家畜を育てる。
食肉。
鶏もどきから得られる鶏卵。
乳。
さらに乳を加工した乳製品。
魔法による浄化が使えるため、衛生管理もしやすい。
教導によって飼育方法や加工技術が広がるのも早かった。
生産量は増え、国内需要を満たした後の余剰分は商業ギルドを通じて輸出された。
第6アルデバラン王国は、多大な利益を計上していた。
◇
第7アルデバラン王国。
国王バッカス。
人口一千万人。
領内にある広大な湖に目を付けた。
ならば使えばいい。
魚を育てる。
さらに食用に適した魚系魔物も養殖する。
最初は試行錯誤だった。
魚種ごとに区画を分ける。
餌を変える。
成長を記録する。
問題があれば改善する。
得られた情報は教導管理システムへ蓄積された。
やがて安定した養殖方法が確立され、大量の水産物を生産できるようになった。
国内で消費するだけでは余る。
商業ギルドを通じて各国へ輸出。
ここも多大な利益を上げていた。
◇
第8アルデバラン王国。
国王リットル。
人口一千万人。
この国は物ではなく、人を育てた。
建築。
建設。
土木。
それぞれの職人を教育し、教導する。
さらに工事を計画し、予算を組み、人員や資材を管理する行政官まで育成した。
道路を造りたい。
橋を架けたい。
住宅地を整備したい。
そんな依頼があれば、必要な人員を編成する。
請負もする。
専門家の派遣もする。
第8アルデバラン王国で育成された者たちは各国へ向かった。
仕事はいくらでもあった。
新しい国が次々に生まれているのだから当然だった。
第8アルデバラン王国も、多大な利益を計上した。
◇
第9アルデバラン王国。
国王マーカス。
人口一千万人。
薬と医療を主要産業に選んだ。
薬草を育てる。
薬師を教育する。
教導によって技術を伝える。
薬学を専門とする行政官も育成した。
薬の製造方法だけではない。
原料の生産。
品質管理。
保管。
流通。
必要量の把握。
それらを一つの仕組みとして整えていった。
大量生産された薬は商業ギルドを通じて輸出される。
他国から薬師や行政官の育成を依頼されることも増えた。
結果、多大な利益を計上している。
◇
第10アルデバラン王国。
国王マルコム。
人口一千万人。
豊富な森林を利用し、林業と木工を発展させた。
木を育てる。
伐採する。
乾燥させる。
加工する。
家具を作る。
生活に必要な木製品を作る。
同時に木工職人を教育、教導して育成した。
作れば売れる。
椅子も机も棚も必要になる。
新しい住宅が増えれば、さらに需要が増える。
各国への輸出は順調に伸び、第10アルデバラン王国も多大な利益を上げていた。
◇
第11アルデバラン王国。
国王サルキス。
人口一千万人。
この国が目を付けたのは、各国から流通してくる豊富な食材だった。
そのまま売るだけではない。
加工する。
保存できるようにする。
乾燥。
燻製。
塩蔵。
瓶詰め。
さまざまな食品加工技術が教導によって広がっていった。
長期間保存できる食品は、旅人にも冒険者にも需要がある。
災害などに備える備蓄品としても使える。
軍や騎士団だけではなく、一般家庭からの需要も大きかった。
加工食品と保存食は各地へ輸出され、第11アルデバラン王国も多大な利益を計上していた。
◇
どの国も、本国から命令されたわけではない。
誰かが産業計画を作り、割り振ったわけでもない。
土地を見る。
人を見る。
需要を見る。
そして、自分たちにできることを選ぶ。
その結果、国ごとに異なる産業が生まれていた。
しかも競争するだけではない。
第6王国の乳製品を第11王国が加工する。
第8王国の専門家が第9王国の製薬施設を建設する。
第10王国の木材から、第8王国の職人が建物を造る。
一つの国の生産が、別の国の仕事を生んでいた。
第2から第15まで。
人口、合計二億四千万人。
まだ全ての国を合わせても、本国の人口には及ばない。
それでも、それぞれが自分たちの土地で生活し、産業を育て、他国と物や人を交換する巨大な経済圏が形成され始めていた。
そして彼らには、国境を越えて共通するものがあった。
《アルデバラン国民》
スキルなのか。
称号なのか。
その区別すら、まだはっきりしていない。
ただ一つだけ明確だった。
全ての国民が覚醒している。
そして彼らは今でも、自分たちをアルデバラン王国の国民だと思っていた。
第12アルデバラン王国。
国王ナルキム。
人口三千万人。
この国が選んだのは物流と運輸だった。
各アルデバラン王国で産業が発達すれば、当然ながら物の移動量も増える。
第2王国から農作物。
第3王国から布や被服。
第4王国からインゴット。
第6王国から食肉や乳製品。
第7王国から水産物。
それらを必要な場所へ運ばなければならない。
そこで第12王国が開発したのが、物流専用のゴーレムだった。
すでに本国ではゴーレム馬車が実用化されている。
だが、第12王国が作ったものは用途が違った。
人を快適に運ぶ必要はない。
荷物を大量に積み、指定された場所まで安全に運べればいい。
積載量。
走破性。
耐久性。
運用のしやすさ。
試作しては実際に荷物を運ばせ、問題点を修正する。
その繰り返しで物流ゴーレムは改良された。
完成した物流ゴーレムは自国で使うだけではない。
商業ギルドを通じて輸出された。
各国の物流量はさらに増え、第12アルデバラン王国も多大な利益を計上していた。
◇
第13アルデバラン王国。
国王ニルス。
人口一千万人。
主要産業は陶器、ガラス、生活用品。
皿。
器。
壺。
瓶。
窓ガラス。
保存容器。
日常生活で必要になる品々を大量に製造した。
国が豊かになれば、ただ使えればいいという需要だけではなくなる。
形を工夫する。
模様を入れる。
使いやすくする。
割れにくくする。
職人たちがそれぞれ改善を始めた。
第11王国で作られる保存食品にも、第13王国の瓶や容器が使われる。
第9王国で製造される薬にも必要だった。
建築が盛んになれば窓ガラスの需要も増える。
一見地味な産業だったが、買い手には困らなかった。
第13アルデバラン王国も多大な利益を計上した。
◇
第14アルデバラン王国。
国王マルキース。
人口二千万人。
研究。
魔法技術。
魔道具製作。
この三つを中心に発展した国だった。
すでに存在する魔道具を大量に作るだけではない。
もっと使いやすくできないか。
もっと少ない魔力で動かせないか。
別の用途に使えないか。
研究者と魔道具職人たちは試作を繰り返した。
成功したものは記録する。
失敗したものも記録する。
教導管理システムに残せば、同じ失敗を別の者が繰り返す必要はない。
改良された魔道具は生産され、各国へ輸出された。
第5王国とも交流が盛んだった。
第5王国が人を育てる。
第14王国で研究する。
そこで得られた技術が、また教育へ戻される。
互いに人と情報を行き来させながら、技術は少しずつ積み上がっていた。
第14アルデバラン王国も多大な利益を上げていた。
◇
第15アルデバラン王国。
国王ラルキム。
人口一千万人。
主要産業は酒造と醸造。
原料には困らなかった。
第2王国から大量の農作物が入ってくる。
穀物。
果物。
それらを使い、さまざまな酒が造られた。
同じ原料でも、発酵方法を変える。
熟成期間を変える。
保存方法を変える。
試作品を作っては味を確かめる。
教導によって醸造技術も共有され、品質は安定していった。
酒は本国でも人気がある。
他のアルデバラン王国でも売れる。
ミストバルカス公国にも輸出された。
酒造だけではない。
醸造技術を利用した調味料の研究も始まっている。
第15アルデバラン王国も、多大な利益を計上していた。
◇
こうして第2から第15アルデバラン王国まで、それぞれに得意とする産業が生まれた。
農業。
紡織。
鉱業。
教育。
畜産と酪農。
水産と養殖。
建築と土木。
薬と医療。
木工と林業。
食品加工。
物流と運輸。
陶器とガラス。
研究と魔法技術。
酒造と醸造。
一つの国だけで何もかも抱える必要がなくなっていた。
足りないものは買えばいい。
必要なら人を派遣してもらえばいい。
技術を学びたければ留学すればいい。
各国は独立した王国でありながら、互いの得意分野を利用していた。
そして、第6から第15アルデバラン王国でも同じ現象が起きていた。
《アルデバラン国民》
国民全員に、そのスキルあるいは称号が覚醒していた。
本国への絶対的な忠誠。
それは徹底している。
国王も例外ではない。
だが、本国から忠誠を要求されたことなど一度もなかった。
税を納めろとも言われていない。
だから彼らは、自分たちで考えた。
税を取っていただけない。
ならば寄付すればいい。
第6王国から食肉、鶏卵、乳製品。
第7王国から水産物。
第8王国からは建設や土木に必要な人材の派遣。
第9王国から薬。
第10王国から家具や木製品。
第11王国から加工食品と保存食。
第12王国から物流ゴーレム。
第13王国から陶器、ガラス、生活用品。
第14王国から魔道具。
第15王国から酒。
それぞれが自国の生活と備蓄を十分に確保した上で、余剰分を本国へ送る。
名目はやはり寄付だった。
本国から要求されたわけではない。
国王が命じたわけでもない。
自分たちで作り、自分たちで余裕を生み、自分たちで納めることを選んだ。
第2から第15アルデバラン王国。
人口合計二億四千万人。
十四の王国に分かれて暮らしていても、彼らの意識は変わらない。
自分たちは今でもアルデバラン王国の国民である。
国境が増えても、その認識だけは誰一人として疑っていなかった。
第2から第15アルデバラン王国の発展は、本国でも把握されていた。
教導管理システムには各国の人口、生産量、輸出量、備蓄量、人材育成の状況まで記録されている。
王宮ではオーキス、バイオレット、クレイン、アイク、アッシュ、ロックウェルが各国の状況を確認していた。
「十四カ国で二億四千万人か」
オーキスが端末を見る。
「はい。本国の六億九千万人と合わせれば九億三千万人です」
「増えたな」
「増えましたな」
それでも食料にも土地にも余裕がある。
十四カ国も同じだった。
人口だけを見れば巨大な勢力になっているが、各国が困窮している様子はない。
オーキスは産業の一覧を見る。
「これ、本当に誰も指示していないんだな?」
「しておりません」
クレインが答える。
「第2王国に農業をやれとも?」
「言っておりません」
「第5王国に教育を?」
「それもありません」
「第12王国の物流ゴーレムも?」
「自分たちで必要性に気付いて開発しております」
オーキスは一覧を眺めた。
農業。
紡織。
鉱業。
教育。
畜産、酪農。
水産、養殖。
建築、土木。
薬、医療。
木工、林業。
食品加工。
物流、運輸。
陶器、ガラス。
研究、魔法技術。
酒造、醸造。
「随分と綺麗に分かれたな」
「主要産業が違うだけです。第2王国以外でも農業は行われていますし、第10王国以外にも木工職人はおります」
「自国で生活するための産業はある。その上で得意分野が違うわけか」
「その認識でよろしいかと」
◇
アッシュが第12王国の資料を開いた。
「物流ゴーレムの需要がかなり増えています」
「物が動けば必要になるからな」
ロックウェルが別の記録を表示する。
「第8王国の建築、土木関係者も各国から引っ張りだこです」
「新しい国ばかりだから当然か」
「第5王国への留学生も増え続けています」
アイクが笑う。
「勝手に役割分担ができたな」
「誰かが決めたものではありませんがな」
クレインも否定しなかった。
第6王国の乳製品を第11王国が加工する。
第13王国の瓶を第9王国が薬の保存に使う。
第2王国の穀物を第15王国が酒にする。
第14王国で開発された魔道具を、第5王国が教材として利用する。
一つの国で生まれたものが、別の国の仕事につながっていた。
◇
オーキスが次の項目を見る。
「国同士の揉め事は?」
「ありません」
クレインは即答した。
「一件も?」
「一件もありません」
「十四カ国もあるんだぞ」
「本人たちは同志国と認識しておりますので」
「同志国?」
「はい。同じアルデバラン国民が、それぞれの土地で暮らしているだけだと」
オーキスが黙る。
「国境はあるだろう?」
「あります」
「領土争いは?」
「ありません」
「資源は?」
「必要なら売買します。場合によっては融通しております」
「水は?」
「余っています」
「食料は?」
「余っています」
「土地は?」
「余っています」
「……揉める理由がないのか」
「ありませんな」
クレインが別の記録を開く。
第8王国の職人が第13王国へ行く。
第9王国の薬師が第6王国へ行く。
第15王国の醸造家が第2王国へ原料を見に行く。
第14王国の研究者が第5王国で講義する。
国境を越えること自体が、特別なことではなくなっていた。
「出入国の管理は?」
「行っております」
「そこはやるんだな」
「国家ですので」
「本人たちは外国だと思ってないんだろう?」
「はい」
「よく分からんな」
バイオレットが微笑んだ。
「本人たちが困っていないなら、いいのではありませんか?」
「まあ、そうなんだが」
◇
「国王たちはどうなんだ?」
オーキスが尋ねた。
「同じ認識です」
「自分が王なのに?」
「はい」
クレインが第12アルデバラン王国の記録を表示する。
国王ナルキムの発言が残されていた。
『国王というのは、この土地の管理を任されているだけでしょう?』
オーキスが首を傾げた。
「誰に任されたんだ?」
「国民でしょうな」
「俺じゃないのか?」
「陛下は一人も任命しておりません」
「……そうだった」
アイクが横を向いた。
「笑ったか?」
「いいえ」
「こっちを向け」
「御意」
アッシュとロックウェルも黙っている。
◇
クレインが最後の資料を開いた。
「そして、今期の寄付です」
「まだあるのか」
「あります」
一覧が表示された。
食肉。
鶏卵。
乳製品。
水産物。
薬。
家具。
保存食。
物流ゴーレム。
陶器。
ガラス製品。
魔道具。
酒。
「前より増えてないか?」
「各国の生産量が増えましたので」
「自国を豊かにしてから送れと言ったよな?」
「その通り伝えました」
「豊かになった?」
「なりました」
「……そうか」
第8王国だけは物資ではなかった。
「これは何だ?」
「建築、土木専門家の無償派遣枠です」
「人を寄付するな」
「人ではなく労務の提供だそうです」
「給金を払え」
「第8王国が負担しております」
「本国で払う」
「それでは寄付にならないと断られております」
オーキスは額を押さえた。
「税を取らないだけで、どうしてこうなった」
クレインが答える。
「納めたいのでしょう」
「だから寄付?」
「はい」
十四カ国は独立している。
国王もいる。
行政もある。
会計も別。
それでも互いを同志国と呼び、自分たちは今でもアルデバラン国民だと思っている。
オーキスは端末を閉じた。
「……まあ、好きにさせろ」
「よろしいので?」
「困ってないんだろ?」
「どの国も順調です」
「ならいい」
誰かに命じられたわけではない。
自分たちで考え、自分たちで作り、自分たちで他国と協力する。
十四の王国は、今日も勝手に豊かになっていた。
第2から第15アルデバラン王国の国王たちは、定期的に情報を共有していた。
わざわざ一カ所へ集まる必要はない。
念話がある。
教導管理システムもある。
必要なら転移すればいい。
今回は十四人の国王が念話をつないでいた。
『第6王国の乳製品ですが、もう少し第11王国へ回せませんか?』
最初に話したのは、第11王国のサルキスだった。
第6王国のアークネルが答える。
『可能です。何を作るのですか?』
『保存できる加工品を増やします。第12王国から物流ゴーレムも追加で入りますので、輸出量を増やせます』
『では回しましょう』
『助かります』
話はすぐに終わった。
第7王国のバッカスが続ける。
『こちらの魚も使いますか?』
『ぜひ』
『加工方法が決まったら教導管理システムへ登録してください』
『もちろんです』
誰が得をするか。
どちらの国が上か。
そんな話にはならない。
売る側には利益が出る。
加工する側にも利益が出る。
買った側にも商品が残る。
それで十分だった。
◇
第9王国のマーカスが発言する。
『第13王国へお願いがあります』
『瓶ですか?』
ニルスがすぐに察した。
『そうです。薬の生産量が増えまして』
『どのくらい必要です?』
数量が伝えられる。
『問題ありません』
『助かります』
『代わりと言っては何ですが、こちらの薬師を診てもらえませんか? 少し体調を崩している者がいます』
『すぐに医官を送ります』
『ありがとうございます』
マルキースが割り込んだ。
『その瓶ですが、少し改良してみてもいいですか?』
第14王国の得意分野だった。
『何をするんだ?』
『薬によっては光を避けた方がいいでしょう。中身によって瓶を変えた方が保存しやすいかもしれません』
『面白いですね』
『第9王国から薬の情報を、第13王国から製造方法を共有してもらえれば試作します』
『お願いします』
また一つ、仕事が生まれた。
◇
第15王国のラルキムは別の相談を持ち込んだ。
『第2王国へ。果物をもう少し回していただきたい』
アイルが尋ねる。
『酒か?』
『酒です』
『何を作る?』
『まだ決めていません』
『決めてないのか』
『だから作るんです』
何人かが笑った。
『分かった。余っているものを一覧にして送る』
『助かります』
第5王国のライオネルが続ける。
『完成したら醸造技術を学ばせてください。希望者がいます』
『歓迎します』
『飲みに行くだけでは?』
誰かが言った。
『その可能性はあります』
今度は全員が笑った。
◇
第8王国のリットルが話題を変えた。
『第12王国、物流拠点を増やす予定は?』
『あります』
ナルキムが答える。
『場所は?』
『候補地をシステムへ登録しました』
『確認します』
少し間があった。
『三カ所ならすぐ着工できます』
『お願いします』
『第10王国、木材を頼めますか?』
マルコムが答える。
『必要量を送ってください』
『第4王国には金属をお願いしたい』
サンダースも答える。
『一般金属ならいくらでも』
一つの国だけで完結させようとはしない。
必要なものを持っている国へ頼む。
得意な者がやる。
完成すれば皆が使う。
それだけだった。
◇
会議の最後。
アイルが一つの話題を出した。
『本国への今期の寄付ですが』
十四人が静かになった。
『何か言われたのか?』
『自国を豊かにしてから送れ、と』
『前にも言われたな』
『我が国は豊かだ』
『こちらもだ』
『うちも問題ない』
次々と返事が来る。
ライオネルが尋ねた。
『では、従来通りでいいのでは?』
『そう思う』
『賛成だ』
『異議なし』
あっさり決まった。
サンダースが念のため確認する。
『国民の生活を削ってまで送る国はないな?』
全員が否定した。
『当然だ』
『それでは本国が喜ばない』
『寄付の意味がなくなる』
『余った分でいい』
彼らなりの基準は明確だった。
まず自国民。
備蓄。
将来への投資。
それでも余裕がある。
なら本国へ送る。
『第4王国からは希少金属を追加する』
『またか』
『余っている』
『本国にもあるぞ』
『知っている』
『ならなぜ送る?』
サンダースは少し考えた。
『アルデバラン国民だからだ』
誰も笑わなかった。
十四人にとって、それだけで十分な理由だった。
◇
会議が終わる。
それぞれが自国の仕事へ戻った。
国王同士の上下関係はない。
どの国が盟主かを決める話もない。
他国より領土を広げようとする者もいない。
必要なものがあれば相談する。
余れば売る。
困っていれば助ける。
技術を覚えれば共有する。
それぞれが自分の国を豊かにする。
十四カ国はそれを繰り返していた。
◇
本国の王宮では、クレインが新しく登録された各国の取引記録を確認していた。
「陛下」
「今度は何だ?」
「第9、第13、第14王国が共同で薬品保存容器の開発を始めました」
「そうか」
「第8、第10、第12王国は物流拠点を三カ所建設します」
「そうか」
「第6、第7、第11王国は加工食品の共同開発です」
「……そうか」
オーキスは端末から顔を上げた。
「俺に報告する必要あるか?」
「一応、本国ですので」
「許可は?」
「求められておりません」
「だろうな」
オーキスは笑った。
十四の王国には十四人の王がいる。
それぞれが自分たちで考え、動いている。
それでも彼らは本国を忘れない。
支配されているわけでもない。
命令されているわけでもない。
ただ、自分たちはアルデバラン国民だと思っている。
オーキスは再び端末を見た。
「好きにやらせろ」
「御意」
その日も十四の同志国は、本国の許可を求めることなく、自分たちの判断で新しい仕事を始めていた。




