209 寄付
アルデバラン王国の人口は、現在六億九千万人。
短期間で途方もない人数を受け入れたが、土地にはまだ余裕があった。
食料にも問題はない。
長く一〇〇〇パーセントを超えていた食料充足率は低下したものの、それでも三〇〇パーセントを維持している。
仕事もある。
五十万人の教導持ちが騎士団から加わり、四十七人の新興貴族たちも各地で経験を生かしていた。
少なくとも、人口が増えたことによって本国が困窮する兆候はなかった。
◇
一方、かつてダークライト魔導公国が存在した広大な土地にも、新しい国々が生まれていた。
第2アルデバラン王国。
第3アルデバラン王国。
第4アルデバラン王国。
第5アルデバラン王国。
国王の選出で争いが起きることもなかった。
自薦。
他薦。
候補者について住民たちが話し合い、適任と思われる者を選ぶ。
選ばれた本人が承諾すれば決定。
それだけだった。
王になったからといって、好き勝手に国を動かせるわけでもない。
会計は徹底して公開された。
何を生産したか。
何を売ったか。
どれだけ利益が出たか。
何に使ったか。
誰でも確認できる。
さらに本国で運用されている教導管理システムを参考に、独自のシステムも構築された。
現在では第2から第15アルデバラン王国までが教導に活用している。
国境は存在する。
国王もいる。
行政組織も別々。
だが、互いを競争相手とは考えていなかった。
必要なものがあれば融通する。
余っていれば渡す。
足りなければ相談する。
どの国も土地と食料に余裕がある。
奪い合う理由そのものがなかった。
◇
第2アルデバラン王国。
国王アイル。
人口二千万人。
主要産業は農業だった。
広大な農地を造成し、教導によって農業技術を共有する。
生産された大量の農作物は、商業ギルドを通じて各地へ輸出された。
穀物。
野菜。
果物。
加工食品。
国内で消費しても大量に余る。
結果、多大な利益を計上していた。
第3アルデバラン王国。
国王マークス。
人口二千万人。
こちらは紡織産業を発展させた。
糸を作る。
布を織る。
染める。
裁断する。
縫製する。
紡織ギルドと商業ギルドを通じ、布、下着、被服を大量に輸出する。
品質も安定し、生産量も多い。
ここも多大な利益を上げていた。
第4アルデバラン王国。
国王サンダース。
人口三千万人。
鉱業とインゴット製造を主要産業としている。
ダンジョンから得られる資源を利用し、鉄、銅、錫、鉛などの一般的な金属を大量にインゴットへ加工する。
商業ギルドや鍛冶師ギルドを通じて輸出。
需要は大きく、利益も莫大だった。
ただし、全ての金属を市場へ流しているわけではない。
ミスリル。
アダマンタイト。
オリハルコン。
ヒヒイロカネ。
これらは外部へ放出しない。
国内で蓄積するか、本国へ物納する。
それが第4アルデバラン王国の方針だった。
◇
第5アルデバラン王国。
国王ライオネル。
人口三千万人。
この国は少し変わっていた。
主要産業そのものが教育だった。
基礎学習から専門学習まで幅広く扱う。
読み書き。
計算。
文官教育。
行政官教育。
医官教育。
建設や土木を専門とする行政官まで育成する。
他のアルデバラン王国からの留学生や派遣者も受け入れていた。
学んだ者は自国へ帰り、今度はそこで教える。
さらに魔道具作成も盛んだった。
教育と教導によって育った技術者たちが大量の魔道具を生産し、商業ギルドを通じて輸出する。
第5アルデバラン王国もまた、多大な利益を計上していた。
四カ国とも順調だった。
そして、もう一つ共通するものがあった。
国民全員に、あるスキル、あるいは称号が確認されていた。
《アルデバラン国民》
本国への絶対的な忠誠。
誰かが命令したものではない。
教導によって与えたものでもない。
いつの間にか覚醒し、国民から国民へと伝播していた。
彼ら自身も、自分たちを外国人だとは思っていない。
今でもアルデバラン王国の国民だと思っていた。
だから一つだけ、不満があった。
本国が税を取ってくれない。
◇
「今年の分です」
第2アルデバラン王国から大量の農作物が届いた。
「寄付です」
第3アルデバラン王国から布、下着、被服が届く。
「こちらも寄付です」
第4アルデバラン王国から大量のインゴット。
「我が国からも」
第5アルデバラン王国から魔道具が送られてきた。
本国は要求していない。
納めろとも言っていない。
税でもない。
四カ国が自主的に送っているだけだった。
名目は全て同じ。
寄付。
税を取ってもらえない。
なら、自分たちで納めればいい。
その結論に四カ国とも勝手に辿り着いていた。
王宮では、報告を受けたクレインが物納品の一覧を眺めていた。
「……また増えておりますな」
オーキスも端末を見る。
農作物。
被服。
一般金属。
希少金属。
魔道具。
頼んでもいない物資が大量に並んでいる。
「税じゃないんだな?」
「寄付だそうです」
「返せないのか?」
「返しても、また送ってくるかと」
オーキスは黙った。
税を取らない本国。
それでも納めたい国民。
そして、自分たちで考え出した答えが寄付だった。
「……好きにさせるか」
クレインも否定しなかった。
誰かに強制されたわけではない。
自分たちで稼ぎ、自分たちで余裕を作り、自分たちで使い道を選んだ。
それもまた、彼らの選択だった。
問題は、寄付された物資の量だった。
最初は王宮も深く考えていなかった。
第2アルデバラン王国から農作物。
第3アルデバラン王国から布や被服。
第4アルデバラン王国からインゴット。
第5アルデバラン王国から魔道具。
それぞれが余剰分の一部を送ってくる程度なら、受け取ればいい。
そう考えていた。
ところが、教導管理システムに登録された数字を確認したクレインが眉を寄せた。
「陛下」
「何だ?」
「これを御覧ください」
オーキスが端末を見る。
しばらく数字を追った後、顔を上げた。
「多くないか?」
「多いです」
「寄付だよな?」
「寄付です」
「税じゃないんだな?」
「各国とも、その一点だけは強く主張しております」
クレインが記録を開いた。
第2アルデバラン王国からの報告。
『税ではありません。寄付です』
第3アルデバラン王国。
『余剰分を自主的にお送りしています』
第4アルデバラン王国。
『本国への物納です。対価は不要です』
第5アルデバラン王国。
『日頃の感謝としてお納めください』
オーキスは額を押さえた。
「同じじゃないのか?」
「本人たちにとっては違うのでしょう」
「何が違う?」
「強制されていないことが重要なのかと」
税なら納める義務がある。
寄付なら、自分たちで決める。
結果として同じように物資が本国へ届いていても、彼らにとって意味はまるで違った。
◇
クレインは各国の会計も確認していた。
「国内に無理は出ていないのか?」
「ありません」
第2アルデバラン王国。
農作物を大量に寄付しているが、国内の食料は十分に余っている。
第3アルデバラン王国。
被服を送っているが、自国民への供給を削っているわけではない。
第4アルデバラン王国も同じ。
一般金属は輸出しながら国内需要を満たしている。
希少金属についても蓄積量は増え続けていた。
第5アルデバラン王国も、魔道具を寄付したところで生産に支障はない。
「国民の生活を削って送っているわけではないんだな?」
「確認しました。違います」
「国王が勝手に決めたわけでもない?」
「それもありません」
会計は公開されている。
寄付量も公開。
何を本国へ送ったかも国民が確認できる。
むしろ国民側から意見が出ていた。
『今年はもっと送れるのでは?』
『第3王国に負けていないか?』
『競うな』
『競ってはいない。確認しただけだ』
オーキスが端末から目を離した。
「競い始めてないか?」
「少し怪しいですな」
クレインも否定できなかった。
◇
アイル、マークス、サンダース、ライオネルの四人は念話で話していた。
『本国から何か言われたか?』
アイルが尋ねる。
『多すぎると言われた』
マークスが答えた。
『私もだ』
サンダースも同じだった。
ライオネルが尋ねる。
『減らすのか?』
少し沈黙した。
『なぜ?』
アイルが答えた。
『いや、多いと言われただろう』
『受け取らないとは言われていない』
『確かに』
『なら問題ない』
話は早かった。
四人とも、本国を困らせたいわけではない。
自国民を困窮させてまで物資を送るつもりもない。
ただ、余っている。
そして本国へ納めたい。
それだけだった。
『第4王国は希少金属まで送っているそうだな』
マークスが言った。
『余っているからな』
『オリハルコンも?』
『送った』
『アダマンタイトは?』
『送った』
『ヒヒイロカネも?』
『当然だ』
アイルが呆れる。
『本国にも大量にあるだろう』
『それとこれは別だ』
サンダースは真面目だった。
『我々が採掘し、我々が精製したものを本国へ納める。そこに意味がある』
誰も反論しなかった。
第5王国のライオネルも同じだった。
『我が国も新型魔道具を送る』
『売らないのか?』
『売る分は別にある』
『ならいい』
自国の利益を確保する。
国民の生活を守る。
余剰を作る。
その一部を本国へ寄付する。
彼らの中では、それで話が完結していた。
◇
その頃、本国では別の問題が起きていた。
「保管場所は?」
オーキスが聞く。
「アイテムボックスがありますので問題ありません」
「そうだったな」
「教導管理システムで数量も一元管理できます」
「なら腐らないか」
「農作物も問題ありません」
場所にも困らない。
腐敗もしない。
管理もできる。
つまり、受け取りを拒否する実務上の理由がなかった。
オーキスは椅子にもたれた。
「好きにさせろと言ったが、本当に好きにするな」
バイオレットが笑った。
「嬉しいのでしょう?」
「何が?」
「自分たちが豊かになったことを、本国に見せられるのが」
オーキスは少し考えた。
金を要求されているわけではない。
爵位を求めているわけでもない。
見返りも要求していない。
自分たちで国を作った。
産業を育てた。
利益を出した。
国民を食わせられるようになった。
その結果を、本国へ送っている。
「……そういうことか」
「たぶんね」
税を取ってほしい。
それだけではなかった。
自分たちはもう大丈夫だと伝えたい。
世話になった本国へ、自分たちから何かを返せるようになった。
その証明でもあった。
クレインが端末を閉じる。
「では、受領でよろしいですか?」
「ああ」
オーキスは頷いた。
「ただし条件を付けろ」
「どのような?」
「自分たちの国を豊かにしてから送れ」
クレインが微笑んだ。
「承知しました」
数日後、その条件は第2から第15アルデバラン王国へ共有された。
返事は早かった。
『承知しました』
そして最後に、どの国からもほとんど同じ一文が添えられていた。
『では、余った分を寄付します』
結局、寄付は止まらなかった。
アデレード王国から送り込まれた二十人のスパイたちは、アルデバラン王国法に基づいて裁かれた。
入国時の鑑定結果。
拘束後の尋問記録。
本人たちの自白。
イメルダが覚醒させたサイコメトリー、ポストコグニションによって確認された過去の行動。
必要な情報は教導管理システムに保存されている。
使節団を装って入国し、国内にスパイを定着させようとしたこと。
そのために結婚詐欺を利用しようとしたこと。
すでに事実関係は確認されていた。
それでも裁判は省略されなかった。
一人ずつ罪状を確認する。
一人ずつ証拠を確認する。
一人ずつ王国法に照らして裁く。
結果、二十人全員に死刑判決が下された。
刑は執行された。
アデレード王国という国家はすでに存在しない。
最後まで残留を希望していた七人も、状況を理解した上で保護を選んだ。
これでアデレード王国に関する一連の案件は、ようやく終わった。
◇
イメルダは自邸で端末を見ていた。
裁判結果と刑の執行記録が表示されている。
「終わりましたのね」
夫が頷いた。
「ああ。二十人全員、刑が執行されたそうだ」
「そうですか」
イメルダは端末を閉じた。
自分が尋問した女スパイも、その中にいた。
鑑定レベル十。
さらにソートグラフィー、サイコメトリー、ポストコグニション。
尋問した時点では持っていなかった能力まで、あの一件をきっかけに覚醒した。
だからといって、刑が執行されたことに特別な感慨があるわけではない。
犯罪を行った。
捕らえられた。
裁かれた。
その結果だった。
ただ一つだけ、イメルダには未だに腹立たしいことがあった。
「結婚を姑息な手段に用いたからですわ」
夫がイメルダを見る。
「そこなのか?」
「そこですわ」
「スパイだったことではなく?」
「それは王国が裁きましたでしょう?」
「ああ」
「ですから、そちらは終わっていますわ」
夫は少し考えた。
「結婚詐欺は終わっていないのか?」
「私の中では別問題です」
「そうか」
夫はそれ以上聞かなかった。
長年一緒にいる。
こういう時の妻に何を言っても無駄だと知っていた。
◇
イメルダにとって、結婚は誰かを騙すための手段ではなかった。
始まりは小さかった。
結婚したい。
だが、相手と出会う機会がない。
そんな者がいることに気付いた。
ならば紹介すればいい。
ただそれだけだった。
一人紹介した。
次も紹介した。
さらに別の者から相談された。
気が付けば相談者が増え、個人で対応できる人数ではなくなった。
そこで作られたのが結婚斡旋ギルドだった。
今では巨大な組織になっている。
登録する。
希望を聞く。
相手を探す。
紹介する。
会う。
話す。
断ることもできる。
もう一度会うこともできる。
最後に決めるのは本人たち。
それだけは最初から変わっていない。
だからこそ、イメルダには理解できなかった。
「結婚したふりをして潜り込むなど……」
「まだ言ってるのか」
「言いますわ」
「もう終わったぞ」
「終わったから忘れろという話ではありませんでしょう?」
「分かった。好きにしろ」
「最初からそうしております」
夫が苦笑した。
◇
その日の午後、イメルダは結婚斡旋ギルドへ向かった。
「夫人」
受付の職員が頭を下げる。
「こんにちは。最近はどうです?」
「順調です。新規登録者も増えています」
「そう」
イメルダは端末を開いた。
「紹介待ちの方を見せてくださいな」
「こちらです」
一覧が表示される。
イメルダは上から順番に確認していった。
年齢。
職業。
生活している地域。
本人の希望。
相手に求める条件。
家族構成。
「この方、随分長く残っていますわね」
「何度か紹介したのですが、うまくいかなくて」
「理由は?」
「生活時間が合わないことが多いようです」
イメルダは別の一覧を開く。
「でしたら、この方は?」
職員が確認する。
「あ……」
「職業は違いますけれど、生活時間はほぼ同じですわ」
「確かに」
「双方に確認してみなさい」
「はい」
次を見る。
「こちらの女性は?」
「遠方なので紹介を見送っていました」
「飛べますでしょう?」
「飛行は覚醒しています」
「では遠方ではありませんわ」
「……そうでした」
職員が登録を更新する。
さらに次。
「この二人も一度会わせてみては?」
「確認します」
夫は少し離れた場所から見ていた。
「様子を見るだけじゃなかったのか?」
「そのつもりでしたわ」
「何人見つけた?」
「今のところ七人です」
「十分だろう」
「まだ見始めたところですわ」
イメルダは端末から顔を上げない。
夫は諦めた。
結婚を利用して人を騙そうとした者たちは裁かれた。
ならば、それで終わり。
イメルダには他に見るべき者がいる。
縁がないと思っている者。
出会う機会がなかった者。
条件が少し噛み合っていないだけの者。
そこに気付けば、紹介する。
選ぶのは本人たちだった。
「次はこちらですわね」
イメルダは今日も結婚斡旋ギルドで、人の縁に余計な世話を焼いていた。
イメルダは王宮に呼ばれていた。
理由はすでに聞いている。
アデレード王国から送り込まれたスパイ二十人。
使節団を装った潜入。
結婚詐欺を利用した工作。
その全容を明らかにした功績に対する表彰だった。
イメルダにとっては、これが七回目になる。
「またですの?」
知らせを受けた時、最初に出た言葉がそれだった。
「またです」
使者も否定しなかった。
「私は尋問しただけですわ」
「その尋問で全容が判明しましたので」
「騎士団の皆様も働いたでしょう?」
「もちろん表彰対象です」
「でしたら私は――」
「陛下がお待ちです」
逃げ道を塞がれた。
「……分かりましたわ」
◇
表彰式は王宮で行われた。
だが、それを見る者は王宮に集まった者だけではない。
映像は大空へ生中継されていた。
音声も同時に流れる。
アルデバラン王国本国。
第2アルデバラン王国。
第3。
第4。
第5。
さらに第15アルデバラン王国まで。
そしてミストバルカス公国。
各地の空に王宮の映像が映し出された。
農作業をしていた者が空を見る。
商店の店主が外へ出る。
工房の職人たちも手を止めた。
「あれ?」
「イメルダ夫人じゃないか?」
「また表彰?」
「何回目だ?」
「七回目だ」
「七回?」
すでに顔を知らない者の方が少なかった。
◇
王宮では、オーキスの前にイメルダが立っていた。
「イメルダ子爵」
「はい」
「此度のアデレード王国による諜報事件において、そなたは捕縛されたスパイを尋問し、その目的、手段、関係者を明らかにした」
イメルダは黙って聞いている。
「さらに新たに覚醒した能力を活用し、供述の裏付けとなる情報を確認。王国の安全確保に大きく貢献した」
大空にオーキスの声が響いている。
第2アルデバラン王国でも。
第10アルデバラン王国でも。
ミストバルカス公国でも。
同じ言葉を聞いていた。
「その功績を認め、褒賞を与える」
七回目だった。
一度や二度ではない。
積み上げた功績に対する今回の褒賞は、これまでより大きなものになった。
「イメルダ子爵を伯爵へ昇爵する」
一瞬、イメルダが目を瞬いた。
そして頭を下げる。
「謹んでお受けいたします」
これまでイメルダは、シュトラウス伯爵夫人であると同時に、自身も子爵位を持っていた。
今回与えられた伯爵位は、夫が当主を務めるシュトラウス伯爵家の爵位とは別のものだった。
夫の爵位に付随するものではない。
イメルダ自身が積み上げた功績によって与えられた爵位だった。
◇
その瞬間。
本国各地で歓声が上がった。
「伯爵だ!」
「イメルダ夫人が伯爵になったぞ!」
「七回目だもの!」
「当然でしょう!」
結婚斡旋ギルドでは、さらに大きな騒ぎになった。
「伯爵ですって!」
「夫人が!」
「やりました!」
職員たちが大喜びしている。
利用者たちまで一緒になって喜んだ。
「あの方に紹介してもらったんです」
「うちもです!」
「私の妹も!」
イメルダが直接世話をした者。
結婚斡旋ギルドを通じて相手を見つけた者。
その家族。
知人。
関係する者は、すでに数え切れないほどいた。
第2から第15アルデバラン王国でも反応は同じだった。
「イメルダ夫人だ!」
「伯爵になられた!」
「本国へ寄付を増やすか?」
「それは関係ないだろう!」
歓声の中に妙な話まで混ざっていた。
ミストバルカス公国でも、大空を見上げた者たちが拍手している。
イメルダという人物は、もはや本国だけで知られる存在ではなかった。
◇
表彰式が終わった。
イメルダがオーキスへ頭を下げる。
「ありがとうございます」
「七回目だな」
「数えていらしたのですか?」
「記録に残っている」
「そうですか」
オーキスが少し笑う。
「次は何をする?」
「何もする予定はありませんわ」
クレインが横で聞いていた。
バイオレットも微笑んでいる。
オーキスが尋ねる。
「本当か?」
「もちろんです」
「結婚斡旋ギルドは?」
「今日も行きますわ」
「それを何かすると言うんじゃないのか?」
「いつものことですもの」
オーキスは笑った。
イメルダにとって、誰かの縁を探すことは特別な仕事ではない。
困っている者がいる。
気付く。
少し世話を焼く。
本人たちが選ぶ。
それを繰り返しているだけだった。
◇
王宮を出る頃になっても、大空では表彰式の話題が続いていた。
七回目の表彰。
そして伯爵への昇爵。
イメルダの人気は、さらに高まっていた。
本人だけが、その大きさをよく分かっていない。
「さて」
イメルダは端末を開いた。
「昨日の七人を確認しませんと」
隣を歩いていた夫が呆れた顔をする。
「伯爵になった直後だぞ」
「それが何か?」
「少しくらい余韻に浸ったらどうだ」
「昨日ご紹介した方々の方が気になりますわ」
「……そうか」
「ええ」
シュトラウス伯爵夫人。
そして、自らの功績によって伯爵となったイメルダ。
七回表彰されても、やることは変わらなかった。
今日もまた、誰かの縁に気付けば余計な世話を焼く。
それが国中から愛されている理由だということに、本人だけは気付いていなかった。




