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戦わずに世界を変えた男――教育と物流で“循環国家”を作ったら、いつの間にか大陸が一つになっていた  作者: 慈架太子


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21 調理スキルと教導スキル

夕暮れ。


王城の広場には、解体を終えたハイオークとレッサードラゴンの肉が山のように積み上げられていた。


七百人の騎士たちは、一日の実戦を終えた達成感に包まれている。


アークは騎士たちを見渡した。


「今日は皆さんが討伐した魔物で食事を作ります。」


歓声が上がる。


大きな鉄板が次々と並べられ、厚切りにされたハイオークの肉が焼かれていく。


脂が弾ける音と香ばしい香りが広場いっぱいに広がった。


「うまい!」


「柔らかい!」


「これがハイオークの肉なのか!」


騎士たちは次々と焼肉へ箸を伸ばした。


レッサードラゴンの肉も焼かれていく。


弾力がありながらも噛むほどに旨味が溢れ出す。


「こちらも美味い!」


「今まで食べた肉で一番かもしれん!」


自然と笑顔が広がっていく。


アークは一つの大鍋の前へ立った。


「次はハイオークのホルモン魔力煮込みを作ります。」


騎士たちは鍋を囲む。


下処理を終えたホルモンが鍋へ入れられた。


続いて野菜を加え、水を注ぐ。


「ここからが魔力煮込みです。」


アークは鍋へ手をかざした。


「魔力循環を続けながら、鍋へ直接魔力を流し込みます。」


穏やかに魔力が鍋へ注がれていく。


ホルモンは魔力を吸収しながら、ゆっくりと旨味を引き出していった。


「魔力を止めないでください。」


「均等に流し続けます。」


騎士たちも自分たちの鍋へ魔力を送り始める。


最初は流れが乱れる者もいた。


魔力が偏る者もいる。


しかし、何度も繰り返すうちに魔力操作は安定していった。


「料理も魔力操作の訓練です。」


「丁寧に。」


「均等に。」


「途切れさせない。」


アークの助言を受けながら、騎士たちは鍋へ魔力を流し続けた。


やがて鍋から濃厚な香りが立ち上る。


「完成です。」


騎士たちは器へ盛り付け、一口運ぶ。


その瞬間だった。


「これは……!」


何人もの騎士の身体から淡い光が溢れ始める。


一人。


また一人。


さらに次々と光が広がっていく。


驚いた騎士団長が周囲を見回した。


「覚醒している……。」


アークは静かに頷く。


「調理を理解した者たちです。」


光は広場のあちこちで輝き続けた。


最終的に、およそ三百五十人の騎士が新たな力へ目覚める。


「調理スキル……。」


「覚醒しました!」


歓声が上がる。


騎士たちは互いに顔を見合わせ、喜びを分かち合った。


戦うだけではない。


解体し、調理し、食材を最大限に活かす。


その一連の経験が、新たな技術を彼らへ授けたのである。


アークは満足そうに微笑んだ。


「戦う者ほど、食を知るべきです。」


「それが、より多くの命を支える力になります。」




焼肉パーティーが最高潮を迎えていた頃、王城の外では別の賑わいが生まれていた。


解体された大量の魔物素材が荷車へ積み込まれ、王都冒険者ギルドへ運び込まれていたのである。


ギルド長は目の前に積み上げられた素材を見て言葉を失った。


「こ、これは……。」


ハイオーク。


アイアンリザード。


アーマードリザード。


レッサードラゴン。


どれも高級素材ばかりである。


しかも品質は極めて高い。


解体技術を習得したばかりとは思えないほど、美しく処理されていた。


「皮も傷がない。」


「魔石も欠けていない。」


「肉も見事だ。」


職員たちは驚きながら検品を続ける。


ギルド長はすぐに指示を飛ばした。


「皮や牙、爪、鱗は素材倉庫へ。」


「魔石は買い取り。」


「肉はすべて町の肉屋へ回せ!」


職員たちは一斉に動き始めた。


荷車は次々と王都中の肉屋へ向かう。


その日の夕方。


王都では突然、高級魔物の肉が店頭へ並び始めた。


「ハイオークの肉が入荷しました!」


「レッサードラゴンの肉もあります!」


肉屋の前には長い行列ができる。


「本物か?」


「こんな値段で買えるのか!」


「今日は家族みんなで焼肉だ!」


町中が活気に包まれていく。


各家庭から香ばしい匂いが漂い始めた。


「うまい!」


「こんな肉は初めて食べた!」


「騎士団に感謝しないとな。」


王都の民は自然と笑顔になっていた。


その頃、王城では一人の使者が宴会場へやって来る。


「アーク殿、騎士団長殿。」


「陛下がお呼びです。」


騎士団長は首を傾げる。


「陛下が?」


使者は深く頷いた。


「ハイオークとレッサードラゴンの肉をぜひ味わいたいとのことです。」


「すでに王宮へも運び込まれております。」


アークたちは王宮の大広間へ向かった。


そこでは王と宰相が焼き上がった肉を前に席へ着いていた。


王は一切れ口へ運ぶ。


ゆっくり噛み締める。


そして目を見開いた。


「これは美味い!」


「これほど旨い肉が魔物だったとは。」


宰相も思わず笑みを浮かべる。


「実に見事です。」


「王都中の民も喜んでおります。」


「素材の売却額も相当な額になりました。」


王は満足そうに頷いた。


「騎士団は魔物を討伐しただけではない。」


「王都の食卓まで豊かにしたのだな。」


宰相は報告書を見ながら顔をほころばせる。


魔物素材。


魔石。


皮革。


牙。


爪。


その売却益は次々と国庫へ納められていく。


「これは実にありがたい。」


「今年の財政も大きく改善できそうです。」


宰相の頬は自然と緩んでいた。


王は杯を掲げる。


「今日は祝いの日だ。」


「王宮の酒蔵を開けよ。」


その一言で、王宮に保管されていた酒が次々と運び込まれる。


騎士たちは焼きたてのハイオークとレッサードラゴンの肉を頬張りながら杯を交わした。


勝利を祝い、仲間を称え合う笑い声が、夜遅くまで王城中へ響き渡っていた。




宴は夜になっても終わらなかった。


王宮から運び込まれた酒樽が並び、騎士たちは焼きたてのハイオークとレッサードラゴンの肉を囲んで語り合っている。


「こんな宴は初めてだ。」


「一日でこれほどの魔物を討伐し、その肉を食べられるなんてな。」


「しかも負傷者は一人もいない。」


誰もが今日という一日を誇りに思っていた。


その様子を見ていたアークは、静かに騎士団長へ声を掛ける。


「団長、少し皆さんを集めてもらえますか。」


騎士団長は頷き、大きく手を叩いた。


「全員、少し聞いてくれ!」


賑やかだった広場が静かになる。


七百人の騎士がアークへ視線を向けた。


アークは穏やかに話し始める。


「今日は戦闘を学びました。」


「解体を学びました。」


「そして調理も学びました。」


騎士たちは静かに頷く。


「ですが、今日覚えたことは、それだけではありません。」


その言葉に騎士たちは顔を見合わせた。


「皆さんの中には、新しいスキルへ覚醒した方がいます。」


調理スキルへ覚醒した騎士たちが姿勢を正す。


「調理とは、人へ食事を教える技術でもあります。」


「食材を無駄なく使い、美味しく調理し、それを誰かへ伝える。」


「それも立派な教育です。」


その瞬間だった。


騎士団長の身体が淡い光に包まれた。


「これは……。」


騎士団長だけではない。


副団長。


中隊長。


小隊長。


さらに一般騎士たちの身体からも次々と光が溢れ始める。


「また覚醒だ!」


広場がどよめく。


アークは驚くことなく、その光景を見つめていた。


やがて光は静かに収まる。


騎士団長が自らのステータスを確認し、思わず目を見開いた。


「教導スキル……。」


「私も覚醒しています。」


あちこちから同じ声が上がる。


「俺もです!」


「私も教導スキルを覚えました!」


確認していくと、騎士団長をはじめ数百人の騎士が教導スキルを習得していた。


騎士たちは興奮を隠せない。


「なぜだ?」


「戦ったからではない。」


「料理を教わったからか?」


アークは静かに首を横へ振った。


「教えてもらい。」


「理解し。」


「そして仲間へ教えながら実践した。」


「その積み重ねが教導スキルへ繋がりました。」


騎士たちは今日を思い返す。


魔法。


戦闘。


解体。


調理。


分からない仲間がいれば自然と教え合っていた。


五人一組で助け合いながら、一つ一つの技術を身につけてきたのである。


「教導とは特別な才能ではありません。」


アークは七百人を見渡した。


「誰かの成長を願い、知識や技術を伝える。」


「その積み重ねが教導です。」


騎士団長は深く息を吐いた。


「騎士は戦うだけではない……。」


「人を育てることも騎士の務めなのですね。」


アークは微笑みながら頷く。


「その通りです。」


「強い騎士が一人いるより、強い騎士を育てられる騎士が百人いる方が、王国はもっと強くなります。」


その言葉を聞いた騎士たちは力強く頷いた。


今日、王国騎士団は新たな戦い方だけではなく、人を育てる力までも手に入れたのである。




翌朝。


王都は、これまでにない活気に包まれていた。


「ハイオークの肉がまだ残っているぞ!」


「レッサードラゴンも入荷したらしい!」


冒険者ギルドから卸された魔物の肉は、王都中の肉屋へ並び、多くの住民が店先へ集まっていた。


「昨日食べたが本当に美味かった。」


「今日も買って帰ろう。」


「騎士団のおかげだな。」


王都の至る所で、そんな会話が聞こえてくる。


肉屋の主人も笑顔だった。


「こんなに客が来るのは初めてだ。」


「全部ギルドが運んできてくれた。」


「ありがたい話だ。」


冒険者ギルドもかつてない忙しさだった。


素材の査定。


肉の仕分け。


魔石の管理。


皮や牙、鱗の保管。


職員たちは休む暇もなく働いている。


それでも誰一人、不満を口にする者はいなかった。


これほど大量で良質な素材が一度に集まることなど、これまで一度もなかったからである。


その日の昼。


宰相は国庫の報告書へ目を通していた。


「ふむ……。」


魔石の売却。


皮革素材。


牙。


爪。


鱗。


討伐素材の売却額は予想を大きく上回っていた。


「見事だ。」


宰相は自然と笑みを浮かべる。


「討伐によって魔物は減る。」


「素材も手に入る。」


「国庫も潤う。」


「王都の民も喜ぶ。」


「まさに一石四鳥ではないか。」


報告へ来ていた財務官も深く頷いた。


「しかも騎士団は負傷者ゼロでございます。」


「治療費も発生しておりません。」


宰相は思わず机を軽く叩いた。


「素晴らしい!」


「これこそ王国が目指すべき騎士団だ。」


一方、王城の訓練場では、騎士団長が教導スキルへ覚醒した騎士たちを集めていた。


数えてみると、教導スキルへ覚醒した者は三百名を超えていた。


騎士団長は静かにアークへ頭を下げる。


「教導とは、これほど価値のあるスキルだったのですね。」


アークは微笑んだ。


「教導スキルは、自分一人を強くする力ではありません。」


「人を育てるための力です。」


騎士たちは真剣な表情で耳を傾ける。


「今日からは、覚えた者が覚えていない者へ教えてください。」


「教えることで理解はさらに深まります。」


「そして教えられた者も、やがて誰かへ教える側になります。」


騎士たちは互いの顔を見合わせた。


昨日まで教わる側だった自分たちが、今日からは教える側にもなる。


それは新しい責任でもあった。


騎士団長は力強く頷く。


「王国騎士団は変わります。」


「戦うだけの集団ではありません。」


「人を育てる騎士団になります。」


三百名を超える教導スキル保持者たちも同時に頷いた。


その姿を見たアークは満足そうに微笑む。


一人の英雄が王国を守る時代ではない。


百人の教師が、千人の騎士を育てる。


千人の騎士が、さらに一万人を育てる。


その積み重ねこそが、王国を本当の意味で強くする。


王国騎士団は、この日から戦闘集団であると同時に、教導集団としての第一歩を踏み出した。


それは、王国の未来を大きく変える、新たな始まりでもあった。






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