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戦わずに世界を変えた男――教育と物流で“循環国家”を作ったら、いつの間にか大陸が一つになっていた  作者: 慈架太子


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206/311

206 作戦開始

 新たに保護された民への教導は、順調に進んでいた。


 王国騎士団から派遣された教導持ち五十万人を中心に、各地で毎日教導が続けられている。


 アルデバラン王国の人口は六億六千万人。


 そのうち五億六千万人が、すでに新たな力を覚醒させていた。


 火、水、風、土、光、闇の六属性。


 重力。


 金属。


 飛行。


 鑑定。


 教導。


 アイテムボックス。


 さらに各種超能力。


 教わった者が、次の者を教える。


 その者が覚醒すれば、また別の者を教える。


 五十万人から始まった教導は、教導を受ける側が教師へ回ることで急速に広がっていた。


 そして今日も、各地では大量のインゴットが作られている。


 鉄。


 銅。


 銀。


 金。


 ミスリル。


 オリハルコン。


 アダマンタイト。


 金属魔法を覚醒した者が増えれば、生産量も増える。


 作られたインゴットはアイテムボックスへ収納され、必要な場所へ運ばれていった。


 保護されたばかりだった者たちが、すでに王国の生産を支える側へ回り始めている。


 オーキスはその報告を確認した。


「五億六千万人か」


「はい」


 クレインが答える。


「教導持ちそのものが増え続けていますので、残りも時間の問題でしょう」


「衣食住は?」


「問題ありません。仕事も増えています」


「分かった」


 オーキスは端末を切り替えた。


 表示されたのはアデレード王国だった。


 騎士団六十万人による調査結果。


 人口、およそ四千万人。


 奴隷収容施設。


 人身売買。


 子供たちを集めた施設。


 犯罪組織。


 犯罪に関与した貴族や役人、兵士、商人。


 そしてアルデバラン王国へ送り込まれた二十人のスパイ。


 すでに判断材料は十分だった。


「アイク」


「はい」


「アデレード王国を潰せ」


 アイクは黙って続きを待った。


「やり方はお前の判断に任せる」


「御意」


「子供たちは保護しろ」


「もちろんです」


 オーキスはもう一度、アデレード王国の情報を見る。


「四千万人の国だ。身分で判断するな。一人ずつ鑑定しろ」


「はい」


「保護する者は保護。悪人は処理。それでいい」


「御意」


 命令は短かった。


     ◇


 作戦には王国騎士団だけでなく、冒険者も参加することになった。


 ガイルを始めとする四十七人が招聘された。


 全員がすでに教導管理システムからアデレード王国の情報を確認している。


 王国の人口。


 都市と村の位置。


 奴隷収容施設。


 子供たちが集められている場所。


 犯罪組織の拠点。


 軍施設。


 これまでに鑑定された者たちの情報。


 ガイルが端末を閉じた。


「随分調べたな」


 アッシュが答える。


「六十万人で見たからな」


「なら、俺たちが探し回る必要はなさそうだ」


「新しく見つけるものはあるかもしれん」


 アイクが言った。


「情報を鵜呑みにはするな。現地でも必ず確認しろ」


「了解」


 四十七人が頷いた。


 ロックウェルが確認する。


「優先順位は?」


「子供だ」


 アイクは即答した。


「次に奴隷として拘束されている者。一般の民も順次鑑定する」


「犯罪者は?」


「処理」


「犯罪歴のない兵士や役人は?」


「手を出すな」


「王族、貴族は?」


「同じだ」


 身分は関係ない。


 王族でも犯罪歴がなければ処理しない。


 農民でも重大な犯罪を犯していれば見逃さない。


 見るのは肩書きではなく、その人間が何をしてきたかだった。


 アイクは全員を見渡した。


「人口四千万人。一人ずつ見る」


 六十万人の騎士。


 四十七人の冒険者。


 そして必要なら、すでに教導を終えた者たちからいくらでも応援を出せる。


 戦争をするための戦力ではない。


 四千万人を見落とさないための人数だった。


「ステルスを維持。先に保護対象を確定する。犯罪者の処理を急いで、保護する者を巻き込むな」


「御意」


「保護後の受け入れ先については心配するな。本国だけでなく、ミストバルカス公国、第2から第15アルデバラン王国にも余力がある」


 準備は整った。


 アイクが念話を繋ぐ。


 六十万人の騎士へ、一斉に声が届いた。


『これよりアデレード王国での作戦を開始する』


 各地で待機していた騎士たちが動き出す。


『鑑定して保護。悪人は処理。判断に迷えば処理するな。情報を上げろ』


 最後に一言だけ告げた。


『作戦開始だ』


 六十万人が、ステルス状態のまま一斉にアデレード王国へ動き始めた。




 最初に起きたのは、アボートの嵐だった。


 アデレード王国全土に散った六十万人の騎士が、ステルス状態のまま一斉に動いた。


 最初の対象は人ではない。


 武器だった。


「アボート」


 騎士が腰に差していた剣が消えた。


「アボート」


 門兵が握っていた槍が消える。


「アボート」


 兵舎に並べられていた剣や槍が消えていく。


 王都だけではない。


 地方都市。


 村。


 砦。


 王城。


 貴族の屋敷。


 騎士団の駐屯地。


 犯罪組織の拠点。


 武器屋。


 武器庫。


 場所も所有者も関係なかった。


 剣、槍、弓、矢、斧、短剣。


 人を傷つけるために使える武器が、次々と没収されていく。


 犯罪歴のない騎士の剣も例外ではない。


 武器屋の商品も全て対象だった。


 今回の目的は戦争ではない。


 四千万人を鑑定し、保護すべき者と処理すべき者を分ける。


 その間に余計な戦闘を起こさせないためだった。


「な、何だ?」


 一人の騎士が腰を見る。


 鞘だけが残っている。


「剣がない!」


「俺のもだ!」


 別の場所では槍が消えた。


 弓兵が背負っていた弓もない。


 矢筒を確認しても一本も残っていなかった。


 武器庫ではさらに大きな騒ぎになった。


「開けろ!」


 扉が開かれる。


 中にあったのは棚だけだった。


「ない……」


「何がない?」


「武器がありません!」


「予備は?」


「ありません!」


「一本もか?」


「一本もです!」


 犯罪組織も同じだった。


 地下室に隠した剣。


 床下に置いた短剣。


 倉庫に集めた弓。


 護衛が身につけていた武器。


 全て消えた。


「誰だ!」


 叫んでも返事はない。


 アルデバラン王国の騎士たちは、ステルスを解除していなかった。


 誰がやっているのか。


 どこから攻撃されているのか。


 そもそも攻撃なのか。


 アデレード王国側には何も分からなかった。


     ◇


 各地からアイクへ報告が集まる。


『王都、武器没収進行中』


『北部三十二都市、完了』


『南部奴隷収容施設周辺、完了』


『王国騎士団の主要武器庫、完了』


『犯罪組織百十二拠点、完了』


 アイクは教導管理システムへ登録されていく情報を確認していた。


「取りこぼしは?」


「確認中だ」


 アッシュが答える。


 六十万人が広域索敵を重ねる。


 壁の中。


 地下室。


 床下。


 隠し倉庫。


 土中に埋められた武器まで探す。


 見つければアボート。


 一本残っていれば、それもアボート。


 やがて報告が変わった。


『武器の再確認完了』


『こちらもありません』


『武器屋、武器庫ともに空です』


 アイクが頷く。


「次だ」


     ◇


 武器の次に対象となったのは、馬だった。


 アデレード王国には、およそ三千万頭の馬がいた。


 軍馬。


 農耕馬。


 荷馬車を引く馬。


 商人の馬。


 貴族が所有する馬。


 犯罪組織が使う馬。


 誰が所有しているかは関係ない。


 馬に罪はなかった。


 六十万人の騎士が再び一斉に動く。


 厩舎へ入る。


 ステルス状態のため、誰にも姿は見えない。


「収納」


 馬がアイテムボックスへ収められた。


 次の馬。


「収納」


 さらに次。


「収納」


 街道を走っていた馬車については、安全に停止させてから馬具を外す。


 騎乗中なら乗っている者を安全に降ろす。


 それから馬を収納した。


 騎士一人が担当するのは平均すれば五十頭程度だった。


 六十万人が同時に動いている。


 三千万頭という数字でも、作業そのものに時間はかからなかった。


『北部、完了』


『西部、完了』


『王都周辺、完了』


『南部、完了』


 次々と報告が入る。


 そして、アデレード王国から三千万頭の馬が消えた。


     ◇


 収納された馬は、そのままにはされなかった。


 アルデバラン王国側の広大な土地へ順次移される。


 水と餌を与える。


 怪我をしている馬には治癒。


 汚れていれば浄化。


 病気があれば治療する。


 酷使されていた馬も少なくなかった。


 痩せた馬。


 蹄を傷めた馬。


 鞭の痕が残っている馬。


 十分な餌を与えられていなかった馬。


 それらも区別なく保護された。


 一方、アデレード王国では混乱が広がっていた。


 武器がない。


 馬もいない。


 軍の武器庫まで空になっている。


 伝令を出そうとしても馬がいない。


 逃げようとしても馬車を動かせない。


 それなのに、敵の姿はどこにもない。


 王国騎士団も犯罪組織も条件は同じだった。


 アイクのもとへ最後の報告が入る。


『三千万頭、保護完了』


「分かった」


 アイクは教導管理システムを確認した。


 武器は消えた。


 馬も保護した。


 これで大規模な抵抗も逃亡も難しくなった。


 だが、まだ誰を敵とも決めていない。


 アイクが念話を繋ぐ。


『次へ移る』


 ここから見るのは、人だった。


『四千万人の鑑定を開始。犯罪歴のない者には手を出すな』


 六十万人の騎士が、再び動き始めた。




 武器の没収と三千万頭の馬の保護が終わると、六十万人の騎士は人の選別へ移った。


 最初から場所が判明している者たちが優先された。


 奴隷。


 娼婦。


 孤児。


 子ども奴隷。


 教導管理システムには、事前調査で確認された施設や人数、鑑定結果が登録されている。


 騎士たちはステルス状態のまま各地へ散った。


『南部奴隷収容施設、保護を開始します』


『王都東部、子ども奴隷を確認』


『西部鉱山、奴隷多数』


『娼館街、鑑定を開始します』


 報告が次々と入る。


 奴隷だから無条件に保護するわけではない。


 まず鑑定する。


 犯罪歴を確認する。


 問題がなければ念話を繋いだ。


『聞こえますか?』


 突然頭の中へ届いた声に、一人の女性が周囲を見回した。


『声を出さなくて大丈夫です。あなたに危害を加えるつもりはありません』


『……誰?』


『アルデバラン王国の騎士です』


 女性の表情が変わった。


『あなたをここから保護できます。ここを離れたいですか?』


 答えはすぐに返ってきた。


『行きたい』


『分かりました』


 騎士は意思を確認してから女性を保護した。


 別の場所でも同じだった。


『ここを離れたいですか?』


『お願いします』


『子供も一緒に?』


『はい!』


『分かりました。二人とも保護します』


 本人の意思を確認する。


 それから移す。


 騎士たちは作業のように繰り返した。


 だが、扱っているのは数字ではない。


 一人ずつ鑑定する。


 一人ずつ念話で聞く。


 一人ずつ意思を確かめる。


 六十万人いるからこそできる方法だった。


     ◇


 孤児院と呼ばれていた施設でも保護が始まった。


 実際には、子供を集めて働かせている場所も多かった。


 犯罪組織へ売るために集められていた子供もいる。


 騎士が念話を繋ぐ。


『ここを出たいですか?』


 幼い少年が怯えながら答えた。


『出られるの?』


『出られます』


『ご飯ある?』


『あります』


『毎日?』


『毎日です』


 少し間があった。


『行きたい』


『分かりました』


 少年の姿が消えた。


 同じ施設にいた子供たちも、一人ずつ確認されていく。


 数十人。


 数百人。


 数千人。


 それが国中で同時に行われた。


 奴隷。


 娼婦。


 孤児。


 子ども奴隷。


 保護された人数は増え続ける。


『五百万人を超えました』


『西部の確認、ほぼ完了』


『千二百万人』


『北部で新しい収容施設を発見』


『追加してください』


 やがて数字は二千万人に達した。


 アデレード王国の人口四千万人。


 その半数が、何らかの形で自由を奪われていたことになる。


 アッシュが数字を見つめる。


「二千万人か」


「ああ」


 アイクは短く答えた。


「一般の民も始めるぞ」


     ◇


 次は普通に町や村で暮らしている者たちだった。


 農民。


 職人。


 商人。


 労働者。


 家族と暮らしている者。


 ここでも方法は変わらない。


 鑑定。


 そして念話。


 犯罪歴のない者を確認してから、意思を聞く。


『アルデバラン王国の騎士です』


『え?』


『この国を離れる意思はありますか?』


 農作業をしていた男の手が止まった。


『アルデバラン王国……?』


『はい』


『行けば、暮らせるのか?』


『衣食住と仕事はあります。教導を受けることもできます』


『家族も?』


『もちろんです』


 男は少し考えた。


 そして尋ねた。


『自分で決めていいのか?』


『あなたが決めてください』


 しばらくして答えが返る。


『なら、行きたい』


『分かりました』


 保護された。


 別の町でも念話が飛ぶ。


『この国を離れたいですか?』


『仕事はあるの?』


『あります』


『税は?』


『ありません』


『……本当に?』


『来るかどうかはあなたが決めてください』


『行く』


 返事は早かった。


 もちろん、騎士たちは急かさない。


 説明する。


 質問には答える。


 そして本人に選ばせる。


 家族がいるなら家族にも確認する。


 移住を希望する者だけを保護した。


 一般の民からも希望者が続出した。


 十万人。


 百万人。


 五百万人。


 そして一千万人。


『一般民、保護希望者約一千万人』


 報告を聞いたアイクが確認する。


「残りは?」


「引き続き鑑定と意思確認をしています」


「分かった。急がせるな」


 これで三千万人。


 奴隷、娼婦、孤児、子ども奴隷が二千万人。


 一般の民が一千万人。


 アデレード王国から人口の四分の三が保護されたことになる。


 誰もアルデバラン王国への忠誠を求めていない。


 国を捨てろとも言っていない。


 選択肢を示しただけだった。


 アイクは残された一千万人の情報を開いた。


「ここからだな」


 犯罪歴のある者。


 残ることを選んだ者。


 犯罪歴のない兵士。


 役人。


 貴族。


 王族。


 まだ混在している。


 アイクが念話を繋いだ。


『保護した三千万人を受け入れ先へ移送。残る者の鑑定を続行する』


 武器はすでにない。


 馬もいない。


 そして三千万人の民が消えた。


 アデレード王国に残された者たちは、ようやく自分たちの国で何が起きているのかを考え始めていた。




 三千万人の保護が完了した。


 だが、作戦は終わっていない。


 アデレード王国には、まだ一千万人が残っている。


 アイクの命令は変わらなかった。


『残っている者を順に鑑定しろ』


 六十万人の騎士が動いた。


 ステルスは維持したまま。


 一人ずつ見る。


 身分は関係ない。


 職業も関係ない。


 犯罪歴があるか。


 何をしたのか。


 それだけを確認する。


 一人目。


 鑑定。


 犯罪者。


「処理」


 二人目。


 鑑定。


 犯罪者。


「処理」


 三人目。


 犯罪者。


「処理」


 四人目。


 犯罪者。


「処理」


 同じことが、アデレード王国全土で繰り返された。


 騎士たちは感情で判断しない。


 教導管理システムへ鑑定結果を登録し、犯罪内容を確認する。


 殺人。


 人身売買。


 強盗。


 奴隷への暴行。


 誘拐。


 詐欺。


 恐喝。


 犯罪組織への協力。


 犯罪歴が確認されれば処理する。


 処理した結果も、その場で登録された。


     ◇


 貴族の確認が始まった。


 結果は酷いものだった。


『犯罪歴あり』


「処理」


『こちらもです』


「処理」


『次も犯罪歴あり』


「処理」


 ほぼ全員だった。


 奴隷売買に関与していた者。


 領民を不当に拘束していた者。


 犯罪組織から金を受け取っていた者。


 人身売買の場所を提供していた者。


 自ら犯罪を行っていた者。


 肩書きだけの問題ではなかった。


 実際に何をしていたかを見れば、処理対象になる者が次々と出てきた。


 だが、それは貴族だけではない。


 商人。


「鑑定」


 犯罪歴あり。


「処理」


 職人。


 犯罪歴あり。


「処理」


 農夫。


 犯罪歴あり。


「処理」


 一般の仕事をしているから善人とは限らない。


 貴族だから悪人とも限らない。


 同じ基準で一人ずつ見た結果だった。


 処理された人数が積み上がる。


 百万人。


 二百万人。


 五百万人。


 そして八百万人。


『処理人数、約八百万人』


 アッシュが端末を見る。


「残り二百万人」


「続けろ」


 アイクはそれだけ答えた。


     ◇


 次に確認されたのは、貴族の屋敷や行政施設に残っている者たちだった。


 使用人。


 執事。


 護衛。


 貴族に雇用されていた文官。


 徴税を担当していた者。


 帳簿を管理していた者。


 ここでも肩書きでは判断しない。


「鑑定」


 犯罪歴あり。


「処理」


 次。


「鑑定」


 犯罪歴あり。


「処理」


 奴隷売買の帳簿を作っていた。


 犯罪で得た金を処理していた。


 違法な徴収に加担していた。


 誘拐された者を奴隷として登録していた。


 命令されたからというだけでは犯罪歴にならない。


 実際に何をしたのかが鑑定結果に残っている。


 結果として、ここでも処理対象が大量に見つかった。


「王族へ移る」


 アイクの命令が届く。


 王城に残る者たちも、一人ずつ鑑定された。


 国王。


 犯罪歴あり。


「処理」


 王妃。


 犯罪歴あり。


「処理」


 王子。


 犯罪歴あり。


「処理」


 王女。


 犯罪歴あり。


「処理」


 王族だから処理されたのではない。


 鑑定結果が犯罪者だったから処理された。


 それだけだった。


 王城から人の気配が次々と消えていった。


     ◇


 六十万人による確認は止まらない。


 都市を一つ終える。


 村を一つ終える。


 屋敷。


 商店。


 工房。


 農場。


 行政施設。


 一軒ずつ確認する。


 人がいなくなるほど処理しても、まだ終わらなかった。


『残存人数、一万人を切りました』


「続行」


 アイクは答えた。


『五千人』


「続けろ」


『二千人』


「まだいる」


 広域索敵が繰り返される。


 地下。


 森。


 山。


 洞窟。


 隠し部屋。


 逃げた者も探し出す。


『残存人数、九百八十七人』


 千人を切った。


 それでもアイクは止めなかった。


「まだいる。確認しろ」


 騎士たちが一人ずつ鑑定する。


 犯罪者。


「処理」


 犯罪者。


「処理」


 犯罪者。


「処理」


 数字が減っていく。


 五百人。


 二百人。


 百人。


 それでも広域索敵を止めない。


 最後まで見る。


 最後まで鑑定する。


 そして、犯罪歴が確認されれば処理する。


 やがて一人の騎士から念話が入った。


『アイク団長』


「どうした?」


『まだ一人います』


「鑑定結果は?」


 わずかな間があった。


『犯罪歴あり』


 アイクは迷わなかった。


「処理」


『御意』


 最後の一人が消えた。


 再び六十万人が広域索敵を行う。


 都市。


 村。


 王城。


 砦。


 農地。


 山林。


 地下施設。


 人の反応を探す。


 報告が集まった。


『こちら、反応なし』


『ありません』


『こちらも人の反応はありません』


 アデレード王国から、人がいなくなった。


 四千万人いた国。


 三千万人は、自らの意思で保護された。


 残った者たちは一人ずつ鑑定され、犯罪歴を持つ者が処理された。


 アイクは最後の結果を教導管理システムへ登録させた。


「作戦終了」


 誰も歓声を上げなかった。


 勝った戦争ではない。


 国を奪ったわけでもない。


 ただ、保護する者を保護し、犯罪者を処理した。


 その結果として。


 アデレード王国という国家から、誰もいなくなった。





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