199 弟子
ローゼンブルク王国からアースバーン王国までの十カ国から保護された孤児は、五千万人に達していた。
その子供たちの受け入れも進んでいる。
神聖ラトリア出身の若手神官貴族であり、剣神でもあるアリシアは、夫のイプシオと協力して孤児学校を設立していた。
学校で教えられるのは読み書きだけではない。
六属性魔法。
レビテーション。
テレキネシス。
テレパシー。
索敵魔法。
飛行魔法。
子供たちは教導を受け、次々と習得していった。
そして学んだ力を使う場所の一つが、大聖堂だった。
アリシア。
アリー。
アレクサ。
ゴルディ。
ナターシャ。
マックス。
リッキー。
トレイ。
シュー。
チャド。
十人の若手神官貴族が治める領地には、それぞれオリハルコン製の大聖堂がある。
孤児たちは五百万人ずつ十カ所へ分かれ、大聖堂の清掃を行っていた。
以前から暮らしているヴェロン王国出身の孤児たちとも、すぐに仲良くなった。
大聖堂では毎日、子供たちが飛び回っている。
高い天井付近まで飛行魔法で上がり、ピュリフィケーションバレットで汚れを落とす。
細かな場所はテレキネシスも使う。
巨大な大聖堂であっても、五百万人の子供たちが一斉に動けば清掃そのものに時間はかからない。
オリハルコンは磨かれるたびに美しい輝きを取り戻した。
陽光を受けた壁や柱が柔らかく光を返す。
祈りに訪れた者だけでなく、保養に訪れる騎士や冒険者たちも、その光景を眺めていた。
清掃する子供たちの姿まで含めて、大聖堂は人々の心を癒す場所になっていた。
そんなある日。
アリシア領の大聖堂を、数組の家族が訪れていた。
ゼノ・バルト帝国。
灰塵の荒野ヴォルガ。
神聖アーリア王国。
かつてそれぞれの国で参謀を務めていた者たちと、その家族だった。
今では彼らもアルデバラン王国で生活している。
参謀たちは大聖堂へ入ると、しばらく子供たちの清掃を眺めていた。
一人が首を傾げる。
「少し惜しいな」
近くにいた孤児が振り向いた。
「何がですか?」
「清掃そのものは見事だ。だが、同じ場所へ何人も向かっている」
別の参謀も頷いた。
「こちらは人数が多すぎる。その一方で、向こうには誰もいない時間がある」
子供たちが集まってきた。
参謀は床を指した。
「誰がどこを担当するのかを先に決める。次に、終わった者がどこへ移るのかも決めておく」
「それだけですか?」
「まずはそれだけでいい」
参謀たちは大聖堂全体を見ながら、子供たちの配置を変えていった。
入口。
礼拝堂。
柱。
回廊。
天井。
外壁。
清掃する場所を分け、人数を割り振る。
終わった班が次にどこへ向かうのかも決めた。
すると動きが変わった。
同じ場所に子供たちが集中しなくなる。
互いの進路を塞がない。
一つの班が終われば、まだ終わっていない場所へ自然に移る。
子供たちはすぐに気付いた。
「さっきより楽だ」
「ぶつからなくなった」
「こっちはもう終わったよ」
「じゃあ次は外壁」
参謀たちは顔を見合わせた。
教えたことを、そのまま実行しているだけではない。
子供たち自身が状況を見て、少しずつ動きを変え始めていた。
翌日も参謀たちは大聖堂を訪れた。
子供たちが待っていた。
「今日は何を教えてくれますか?」
「清掃を教えているつもりはないのだが」
「でも昨日より早く綺麗になりました」
参謀の家族たちが笑った。
それから何日も同じことが続いた。
配置。
役割。
交代。
状況の確認。
予備の人員。
予定通りに進まなかった場合の対応。
参謀たちにとっては、兵を動かすために身につけた知識だった。
しかし子供たちは、それを清掃に使った。
そして、ある日。
一人の孤児が参謀の前に立った。
「お願いがあります」
「なんだ?」
子供は頭を下げた。
「弟子にしてください」
参謀が目を瞬いた。
その後ろでも、次々と子供たちが頭を下げた。
「私もお願いします」
「もっと教えてください」
「私も弟子になりたいです」
気付けば、周囲を埋め尽くすほどの子供たちが集まっていた。
参謀たちは困った。
兵法を教えるつもりなどなかった。
まして弟子を取るつもりもない。
だが、一緒に訪れていた家族たちは違った。
「いいじゃない」
一人の妻が笑った。
「あなたたちの知っていることを、この子たちは学びたいと言っているのでしょう?」
「しかし……」
「昔の国のためではなく、この子たちのために使えばいいでしょう」
参謀たちは子供たちを見る。
期待に満ちた目が向けられていた。
しばらくして、一人が小さく息を吐いた。
「分かった」
子供たちの顔が一斉に明るくなる。
「ただし、遊びではないぞ」
「はい!」
こうして、かつて異なる国で軍を支えていた参謀たちは、思いもよらない弟子を持つことになった。
始まりは戦場ではなかった。
オリハルコンの大聖堂の清掃だった。
アリシア領で始まった参謀たちの教導は、他の九拠点にも広がっていった。
アリー、アレクサ、ゴルディ、ナターシャ、マックス、リッキー、トレイ、シュー、チャド。
それぞれの領で暮らす孤児たちもまた、参謀たちから学ぶことを望んだ。
十拠点に五百万人ずつ。
合計五千万人。
参謀たちにとっても、想像したことのない数の弟子だった。
だが、一人ずつ教える必要はなかった。
教導を受けて理解した者が、次の者へ伝える。
さらに理解した者が、周囲の者へ伝えていく。
参謀たちは、かつて自分たちが学び、実戦の中で磨いてきた知識を惜しみなく教え始めた。
教えるのは戦い方だけではない。
人員の配置。
役割の分担。
状況の把握。
情報の収集。
予備人員の確保。
予定外の事態が起きたときの対応。
一つの方法が使えなくなった場合には、別の方法を選ぶ。
何より、目的を見失わないこと。
孤児たちは乾いた大地が水を吸うように学んでいった。
そして覚えたことを、すぐに大聖堂の清掃へ使い始めた。
「北側の外壁が汚れています」
「昨日は南側を重点的に清掃したから、今日は北側を増やそう」
「礼拝堂は?」
「朝の班が終わらせています」
「それなら人数を減らしていいね」
誰か一人がすべてを命令しているわけではない。
索敵魔法で大聖堂全体を確認する者。
念話で各班から状況を集める者。
飛行魔法で高所へ向かう者。
ピュリフィケーションバレットで汚れを落とす者。
テレキネシスで細かな場所を清掃する者。
作業が早く終わった班は、他の班の進み具合を確認する。
遅れている場所があれば、必要な人数だけがそちらへ移る。
人が集中しすぎれば別の場所へ向かう。
五百万人という途方もない人数が、大きな混乱もなく動いていた。
参謀たちは、その様子を見ながら何度も驚かされた。
「索敵魔法を清掃に使うとはな」
一人が呟いた。
「我々が教えたのは、周囲の状況を把握しろということだけだ」
隣の参謀が笑った。
「使い方まで教えた覚えはない」
子供たちは教えられたことを、そのまま繰り返しているわけではなかった。
自分たちが持つ魔法や能力と組み合わせ、もっと使いやすい方法へ変えている。
教える側の参謀たちが、弟子の発想に感心することも増えていった。
その姿を、家族たちも見守っていた。
「楽しそうね」
一人の妻が夫に言った。
「子供たちがか?」
「あなたがよ」
参謀は返事に困った。
かつて戦場で使うために身につけた知識だった。
兵を動かし、敵より有利な場所を取り、味方の損害を減らすために磨いてきた。
それを今は、子供たちが大聖堂を綺麗にするために使っている。
自分たちの知識に、こんな使い方があるとは考えたこともなかった。
だが、悪い気はしなかった。
そんなある日、アレクサンドがアリシア領を訪れた。
大聖堂へ近づいた彼女は、空を飛び交う孤児たちを見上げた。
いつもの清掃風景に見える。
だが、すぐに足を止めた。
「……何か違うな」
アレクサンドはその場から動かず、子供たちを観察した。
五百万人が好き勝手に動いているのではない。
大聖堂はいくつもの区域に分けられている。
それぞれに必要な人数が配置されていた。
一つの区域で清掃が終わる。
すると、その班は念話で他の区域の進み具合を確認する。
遅れている場所があれば移動する。
逆に人手が足りていれば、その場で待機する。
清掃そのものには参加せず、全体の進み具合だけを確認している子供たちまでいた。
何か問題が起きても、近くにいる者が一斉に集まることはない。
必要な人数だけが向かう。
残った者は自分たちの役割を続けていた。
アレクサンドの表情が変わった。
清掃を見ているはずだった。
だが、彼女の目には違うものが見えていた。
部隊運用だった。
それも、五百万人という巨大な集団を動かすための運用だった。
アレクサンドは大聖堂の中でアリシアを見つけた。
「アリシア卿」
「アレクサンド卿。どうされました?」
「あの子たちの動きは誰が教えた?」
アリシアは事情を説明した。
ゼノ・バルト帝国、灰塵の荒野ヴォルガ、神聖アーリア王国から家族とともに移り住んだ参謀たち。
彼らが清掃の無駄と重複を指摘したことが始まりだった。
孤児たちはその説明に心酔し、自分たちから弟子入りを願った。
今では十拠点、五千万人が彼らから兵法を学んでいる。
「五千万人か……」
アレクサンドは再び子供たちを見る。
ちょうど一つの班が清掃を終えた。
念話で状況を確認した子供たちは、指示を待つことなく二つに分かれ、それぞれ別の区域へ向かった。
アレクサンドは小さく頷いた。
「アイク団長に会ってくる」
アリシアが首を傾げる。
「騎士団長に?」
「ああ。この子たちを一度見てもらいたい」
アレクサンドはもう一度、大聖堂を見上げた。
彼女が見ていたのは、清掃をする孤児たちだけではなかった。
その先にある未来だった。
アレクサンドは王国騎士団本部を訪れた。
執務室では騎士団長アイクが、端末に届いた各地の報告を確認していた。
「アイク団長、少しよろしいでしょうか」
アイクは端末から顔を上げた。
「アレクサンド卿。どうされました?」
「見ていただきたいものがあります」
アイクはアレクサンドの表情を見た。
問題が起きた様子ではない。
むしろ何かを見つけたときの顔だった。
「どちらへ?」
「アリシア領の大聖堂です」
「大聖堂ですか」
「はい。孤児たちを見ていただきたいのです」
アレクサンドは大聖堂で見たものを説明した。
ローゼンブルク王国からアースバーン王国までの十カ国から保護された五千万人の孤児たち。
十拠点に五百万人ずつ分かれ、大聖堂の清掃を行っていること。
ゼノ・バルト帝国、灰塵の荒野ヴォルガ、神聖アーリア王国から移り住んだ元参謀たちが清掃の無駄と重複を指摘し、それをきっかけに孤児たちが弟子入りしたこと。
そして現在、兵法まで教導されていること。
アイクは最後まで黙って聞いた。
「アッシュ団長とロックウェル団長にも見てもらいましょう」
「私もその方がよいと思います」
ほどなく魔導騎士団長アッシュと近衛騎士団長ロックウェルが呼ばれた。
事情を聞いたアッシュは興味を示した。
「五千万人が兵法を?」
「はい。ただ、実際に見ていただいた方が早いでしょう」
アレクサンドの言葉にロックウェルも頷いた。
四人は転移し、アリシア領へ向かった。
大聖堂の前に到着すると、無数の孤児たちが飛行魔法を使って清掃していた。
オリハルコンの壁面へピュリフィケーションバレットが放たれる。
高い場所を飛行魔法で担当する者もいれば、細かな場所をテレキネシスで清掃する者もいる。
最初は、以前から行われていた清掃と大きな違いはないように見えた。
しかし三人の団長は、すぐに子供たちの動きへ目を向けた。
アイクが呟く。
「なるほど」
大聖堂はいくつもの区域に分けられていた。
それぞれの区域で清掃が進められている。
一つの区域で作業が遅れると、別の区域から人員が移動する。
だが、大勢が一斉に向かうことはない。
必要な人数だけが移動していた。
アッシュが視線を動かした。
「清掃していない子供たちがいますね」
アレクサンドが答える。
「全体の進み具合を確認しているようです」
子供たちは念話で各班の状況を集めていた。
清掃が予定より早く終わった区域。
遅れている区域。
人員に余裕がある区域。
必要な情報が共有される。
そして各班が、自分たちで次の行動を決めていた。
ロックウェルが感心したように言う。
「誰か一人が五百万人へ命令しているわけではないのですね」
「そのようです」
アレクサンドも初めて見たときには驚いた。
参謀たちは基本を教えた。
だが、子供たちは教わった兵法と、自分たちが習得している魔法を組み合わせている。
索敵魔法で状況を確認する。
テレパシーで情報を共有する。
飛行魔法で移動する。
テレキネシスで作業を補助する。
それらが一つの目的のために使われていた。
アイクはしばらく観察したあと、口を開いた。
「他の九拠点も確認しましょう」
四人は転移を繰り返し、残る九カ所の大聖堂も回った。
どこでも五百万人の孤児たちが清掃している。
だが、動きは完全に同じではなかった。
大聖堂の形状。
周囲の環境。
その日の汚れ方。
作業の進み具合。
それぞれの状況に合わせて、子供たちは配置や役割を変えていた。
共通しているのは、指示を待たないことだった。
状況を見る。
情報を集める。
仲間と共有する。
必要な行動を選ぶ。
最後の拠点を確認したところで、アイクが足を止めた。
「鑑定してみましょう」
アッシュとロックウェルも頷いた。
三人は孤児たちを鑑定していく。
六属性魔法。
レビテーション。
テレキネシス。
テレパシー。
索敵魔法。
飛行魔法。
さらに、参謀たちから教導された兵法に関する能力も確認された。
状況判断。
情報整理。
人員配置。
指揮。
アッシュが驚いた。
「この年齢で、ここまで身につけていますか」
ロックウェルも子供たちを見つめる。
「しかも実際に使っている。知っているだけではありません」
アイクは答えず、しばらく孤児たちの動きを見ていた。
やがて口を開く。
「この子たちは王国騎士団の幹部候補になります」
アレクサンドは静かに頷いた。
彼女も同じ可能性を感じていた。
アッシュが尋ねる。
「戦闘能力ではなく?」
「もちろん、それもあります。しかし重要なのはそこではありません」
アイクは清掃を続ける子供たちへ視線を戻した。
「状況を見て、自分で考え、周囲と情報を共有して動ける。さらに人を動かすことまで学び始めている」
ロックウェルが頷く。
「将来、部隊を預けられる者が大勢出てくるでしょうね」
「ええ」
アイクは少し考えた。
「十三歳になったら、王国騎士団へ入団してもらいましょう」
ただし、それを騎士団だけで決めるつもりはなかった。
「まず本人たちの意思を確認します。それから師である参謀たちにも話しましょう。アリシア卿をはじめ、十拠点の領主たちの了承も必要です」
アレクサンドが微笑んだ。
「それがよいでしょう」
未来の幹部候補たちは、自分たちがそんな目で見られていることなど知らない。
師から教わった兵法を使いながら、今日もオリハルコンの大聖堂を磨いていた。
アイクたちは、まずアリシアに事情を説明した。
大聖堂の一室には、アリシアとイプシオ、アレクサンド、アイク、アッシュ、ロックウェルが集まっていた。
アイクが口を開く。
「十三歳になった孤児たちには、王国騎士団への入団を勧めたいと考えています」
アリシアは少し驚いた。
「五千万人の子供たちをですか?」
「希望する者だけです。強制するつもりはありません」
アイクは続けた。
「すでに兵法を学び、状況判断や人員配置まで実践しています。騎士団でさらに経験を積めば、将来は部隊を任せられる者が大勢出てくるでしょう」
イプシオも頷いた。
「本人たちが望むのであれば、私は賛成です」
アリシアも微笑んだ。
「私も反対する理由はありません。ただ、あの子たちには師がいます」
「もちろんです」
アイクも最初からそのつもりだった。
次に話をしたのは、孤児たちへ兵法を教えている参謀たちだった。
ゼノ・バルト帝国、灰塵の荒野ヴォルガ、神聖アーリア王国。
かつて異なる国で軍を支えていた者たちが、大聖堂へ集まった。
アイクが騎士団への入団について説明すると、参謀たちはすぐには答えなかった。
一人が静かに尋ねた。
「我々の弟子を、幹部候補として?」
「はい」
「まだ子供です」
「承知しています。ですから十三歳になるまでは、今の生活を続けてもらいます」
別の参謀が腕を組んだ。
「入団したからといって、すぐに部隊を預けるわけではないのでしょう?」
「当然です。騎士として必要なことを学び、現場を経験してもらいます」
アイクは参謀たちを見た。
「皆様には、その後も師でいていただきたい」
参謀たちが顔を見合わせた。
「我々が?」
「弟子が騎士団へ入ったからといって、師弟関係を終わらせる必要はないでしょう」
その言葉に、一人の参謀が小さく笑った。
「確かに」
彼らにとって、五千万人の弟子は思いもよらずできた存在だった。
最初は清掃の無駄を指摘しただけだった。
それがいつの間にか兵法を教えるようになり、今では弟子たちの将来について騎士団長から相談されている。
「私は賛成です」
一人が答えた。
「私もだ」
「本人たちが望むなら、止める理由はない」
次々と賛同の声が上がった。
その後、アリー、アレクサ、ゴルディ、ナターシャ、マックス、リッキー、トレイ、シュー、チャドにも事情が伝えられた。
十拠点の領主たちから反対は出なかった。
残るのは、本人たちの意思だった。
大聖堂では、その日の清掃を終えた孤児たちが集まっていた。
五千万人を一カ所へ集める必要はない。
十拠点を念話で繋いだ。
アイクの声が、それぞれの大聖堂にいる孤児たちへ届く。
『皆さんに話があります』
騒がしかった子供たちが静かになった。
『皆さんが参謀の方々から兵法を学んでいることは確認しました。そして、その知識を清掃に活用していることも見せてもらいました』
子供たちは師である参謀たちを見る。
『十三歳になったら、王国騎士団への入団を考えてみませんか』
すぐに返事は求めなかった。
『これは命令ではありません。騎士になりたい者だけで構いません。別の道へ進みたい者は、その道を選んでください』
しばらく静寂が続いた。
やがてアリシア領で、一人の少女が手を上げた。
「騎士団に入っても、先生たちから兵法を教えてもらえますか?」
アイクは参謀たちを見る。
一人の参謀が答えた。
「お前たちが学びたいと言う間は教える」
少女の顔が明るくなった。
別の少年が尋ねる。
「騎士になったら、誰かを守れますか?」
アイクは少し考えてから答えた。
「そのために騎士団はあります」
少年は頷いた。
「だったら、僕はなりたいです」
それをきっかけに、各拠点から声が上がり始めた。
「私も」
「僕もなりたい」
「先生みたいに考えられる騎士になりたい」
参謀の一人が苦笑した。
「我々は騎士ではないぞ」
周囲から笑い声が上がった。
その日のうちに進路を決める必要はなかった。
十三歳になるまで時間はある。
兵法を学び続けてもいい。
途中で別の夢を見つけてもいい。
騎士になることを選んでもいい。
アイクたちは、その選択を子供たち自身に任せた。
話が終わると、孤児たちは再び師の周囲へ集まった。
「先生、続きを教えてください」
「今日はもう清掃が終わっただろう」
「だから勉強できます」
参謀は困った顔をした。
家族たちがそれを見て笑っている。
アレクサンドも微笑んだ。
かつて戦争のために兵法を学んだ参謀たち。
かつて保護される側だった五千万人の孤児たち。
その二つが大聖堂の清掃をきっかけに出会った。
誰かが計画したことではない。
参謀たちは教師になるつもりなどなかった。
孤児たちも騎士団の幹部候補になるために清掃を始めたわけではない。
ただ、教えてほしいと思った。
そして、教えたいと思った。
それだけだった。
オリハルコンの大聖堂では、その日も新しい師弟の声が響いていた。




