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戦わずに世界を変えた男――教育と物流で“循環国家”を作ったら、いつの間にか大陸が一つになっていた  作者: 慈架太子


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193/311

193 奴隷商国家

三カ国が消滅した後も、五十カ国調査は続いた。


次の対象国はすでに決まっている。


ヘコサ王国。


フネルジア王国。


ジキブス王国。


ポリーたち十人は数日の休養を取った。


三万人の先輩騎士たちも同じだった。


人を屠った直後に、次の任務へ送り出すことはしない。


アイク、アッシュ、ロックウェルの判断だった。


眠れない者。


食欲が戻らない者。


屠った相手の顔を思い出す者。


そうした騎士は申告し、引き続き休養した。


代わりはいくらでもいる。


無理をさせる理由はなかった。


準備が整った者だけで三班を再編成し、次の調査へ向かう。


今回も第一班はポリー、スカーレット、レベル。


第二班はアメリア、アドリアーナ、クリスティ。


第三班はフェビー、レキシー、アビー、イザベラ。


三人、三人、四人の若手女性騎士がそれぞれ一万人の先輩騎士を率いる。


最初に確認されたのはヘコサ王国だった。


人口二千万人。


周辺国への侵略を繰り返す略奪国家。


征服した国の民を連れ帰り、自国で奴隷として使っている。


金銀財宝。


食料。


家畜。


奪えるものは奪う。


ただし占領した土地そのものには興味がない。


住民が再び生産できる最低限のものだけを残し、先住民へ返す。


必要なら統治まで支援する。


もちろん善意ではない。


再び豊かになれば、また奪えるからだった。


「前にも似た国がありましたね」


スカーレットが端末を見ながら言った。


「うん。ただ、今回は奴隷を売らずに自国で使ってる」


ポリーが答える。


違いはそれだけだった。


次に確認されたフネルジア王国の情報を見て、三人は言葉を失った。


人口二千万人。


ただし、それは国民の数だった。


奴隷の在庫が多い時期には、国内にいる人間の総数が一億人を超える。


国家そのものが奴隷売買で成立していた。


国民は全員が奴隷商。


農民はいない。


職人もいない。


食料生産は奴隷にさせる。


武器生産も奴隷にさせる。


生活に必要な仕事のほとんどを奴隷へ押しつけ、自分たちは奴隷を仕入れ、管理し、売る。


仕入先は一つではない。


得意先も一つではない。


複数の国から大量の人間を仕入れ、別の国へ売る。


それで国が豊かになっていた。


ポリーが呟いた。


「奴隷商が集まっているんじゃないんだ……」


レベルが答える。


「奴隷商しかいない国みたい」


三人とも端末を見たままだった。


さらにジキブス王国。


人口二千万人。


そして奴隷二千万人。


国民は全員が傭兵だった。


個人で仕事を受ける者もいる。


集団で他国へ向かう者もいる。


国から依頼を受けて戦争へ参加することもある。


フネルジア王国のような国家に雇われ、奴隷の仕入れに加担する者も多かった。


その一方、自国内の食料生産と武器生産は奴隷に任せている。


自分たちは戦う。


働くのは奴隷。


奪うのも自分たち。


作るのは奴隷。


アメリアから三班共通の念話が届いた。


『また酷い国ですね』


フェビーが返す。


『調べる前から疲れてきますね』


ポリーも小さく息を吐いた。


『でも調べましょう』


情報だけで決めることはしない。


それは前回と同じだった。


自分たちで見る。


索敵する。


鑑定する。


一人ずつ確認する。


三カ国に対する作戦が同時に始まった。


三万人がステルスを発動する。


そして、アボートの嵐が始まった。


軍の剣が消える。


槍が消える。


弓が消える。


鎧も盾も消える。


武器庫から武器が消える。


武器工房から完成品が消える。


個人が所有している武器も回収されていく。


同時に馬も保護した。


軍馬。


運搬馬。


商人が所有する馬。


各地の牧場にいる馬。


三カ国から回収された馬は、合計四千万頭に達した。


再索敵する。


まだ武器がある。


回収する。


もう一度調べる。


隠し倉庫を見つける。


そこからも回収する。


何度も繰り返した。


やがて三班から報告が揃う。


三カ国から、武器と呼べるものがほぼ消滅した。


だが、本番はここからだった。


鑑定。


念話。


意思確認。


そして保護。


ポリーたちがフネルジア王国を索敵したとき、端末を埋め尽くすほどの反応が表示された。


「多い……」


奴隷だった。


町にもいる。


農地にもいる。


工房にもいる。


巨大な収容施設にもいる。


国中にいた。


スカーレットが呟いた。


「これ、どれだけいるの……?」


まだ誰にも分からなかった。


三万人による、これまでで最大規模の保護作戦が始まった。




最初に保護が進んだのはヘコサ王国だった。


ポリーたちは国中へ散った。


索敵する。


鑑定する。


念話で意思を確認する。


『アルデバラン王国で保護を受けることができます。希望しますか?』


返事は全員同じだった。


『お願いします』


『ここから出たいです』


『連れていってください』


誰一人として残ることを望まなかった。


意思を確認した者から保護していく。


一人。


十人。


百人。


千人。


一万人。


数は瞬く間に増えていった。


先輩騎士一万人も各地で同じ作業を続けている。


農地。


鉱山。


工房。


貴族の屋敷。


軍の施設。


どこへ行っても奴隷がいた。


やがて集計が出る。


ヘコサ王国。


保護者、千八百万人。


人口二千万人の国から、九割の人間が保護された。


ポリーは数字を確認した。


「千八百万人……」


スカーレットが端末を見る。


「残りは約二百万人ね」


レベルが言った。


「もう一度調べましょう」


「うん」


まだ終わりではない。


三人は再び索敵を始めた。


一方、フネルジア王国では桁の違う保護が続いていた。


国民二千万人。


だが、この国では奴隷の在庫が多い時期には、国内にいる人間が一億人を超える。


今回もそうだった。


アメリアたち第二班が索敵すると、国中から膨大な数の反応が返ってきた。


農地。


鉱山。


武器工房。


巨大な収容施設。


町の商館。


奴隷商の屋敷。


至るところに奴隷がいた。


『西部の収容施設を確認しました』


『こちらは約十万人です』


『北部にも大規模な施設があります』


一万人の先輩騎士から念話が飛び交う。


アメリアたちは転移を繰り返した。


鑑定する。


念話を送る。


『保護を希望しますか?』


返ってくる答えは全員同じだった。


残ることを希望する者はいない。


千万。


二千万。


五千万。


保護人数は増え続ける。


それでも終わらなかった。


その途中、アドリアーナは一軒の大きな商館へ入った。


棚には大量の帳簿が並んでいる。


一冊を手に取って開く。


書かれていたのは人間の記録だった。


年齢。


性別。


出身国。


技能。


仕入価格。


販売予定価格。


クリスティも別の帳簿を確認する。


「人を商品としてしか見ていないのね」


アメリアは別の棚を調べた。


仕入先が書かれている。


得意先もある。


売買した人数。


取引した日付。


運搬を担当した者。


国境を越えた経路。


詳細な記録が残されていた。


アメリアは即座に判断した。


「全部回収しましょう」


「ええ」


棚に並んでいた帳簿が次々と収納される。


ここだけではない。


アメリアは一万人へ念話を送った。


『奴隷売買に関する帳簿、契約書、取引記録を見つけたら、すべて回収してください』


返事が次々と届く。


『了解』


『こちらにもあります』


『回収します』


フネルジア王国全土で資料の回収が始まった。


奴隷商の屋敷。


商館。


倉庫。


王宮。


行政施設。


見つかった記録は一つ残らず回収された。


これまで、この国が誰から奴隷を仕入れていたのか。


誰へ売っていたのか。


どれだけの人数を扱ったのか。


それらを調べることができる。


保護作業も続いている。


やがて最後の大規模収容施設からも奴隷が保護された。


集計を確認したアメリアは言葉を失った。


「九千五百万人……」


フネルジア王国だけで保護された人数だった。


その全員が、自ら保護を希望した。


第三班が担当するジキブス王国でも同じだった。


人口二千万人。


奴隷二千万人。


国民は全員が傭兵。


その生活を支えているのは奴隷だった。


食料を作る。


家畜を育てる。


武器を作る。


建物を直す。


生活に必要な仕事を奴隷へ押しつけ、自分たちは他国に雇われて戦う。


フェビーたちも奴隷一人一人へ念話を送った。


答えは全員同じだった。


保護を希望する。


二千万人すべてが保護された。


三班の集計が揃った。


ヘコサ王国。


千八百万人。


フネルジア王国。


九千五百万人。


ジキブス王国。


二千万人。


合計一億三千三百万人。


三万人の騎士たちは、その数字を見た。


一億三千三百万人を救えた。


だが、それだけの人間が奴隷として扱われていたということでもある。


ポリーが呟いた。


「多すぎる……」


スカーレットが答えた。


「それだけの人たちを苦しめてきたのね」


保護は終わった。


しかし、まだ次には進まない。


三万人が再び国中へ散った。


索敵。


鑑定。


再確認。


善人が残っていないか。


強制されていた者はいないか。


保護すべき者を見落としていないか。


一度では終わらせない。


ここから先に進めば、もう戻せない。


だからこそ、三万人は何度も確認を繰り返した。




三カ国で再確認が続いた。


ヘコサ王国。


フネルジア王国。


ジキブス王国。


保護人数は合計一億三千三百万人。


だが、その数字だけで残った者を排除対象とは決めない。


三万人は索敵と鑑定を繰り返した。


一人ずつ確認する。


見落としがないか。


強制されていた者はいないか。


亡命を希望する者はいないか。


残留を希望する善人はいないか。


何度も確認した。


やがて第一班から報告が入る。


『ヘコサ王国、確認終了。新たな保護対象はいません』


第二班からも続いた。


『フネルジア王国も確認終了です』


最後に第三班。


『ジキブス王国も該当者はいません』


三班の結果が揃った。


ポリーは念話をつないだ。


『では、次の段階へ移ります』


返事が返ってくる。


『了解』


『第二班、了解』


『第三班も準備します』


前回とは違い、三万人はすでに一度経験している。


だからといって慣れたわけではなかった。


前回の任務から戻った後、眠れなかった者もいる。


食欲を失った者もいた。


屠った相手の顔を思い出した者もいた。


そうした者は今回の任務から外れている。


本人が戻れると判断するまで休めばいい。


代わりはいくらでもいる。


今回参加した者の中にも、排除には参加しないと決めている騎士がいた。


それも認められている。


ポリーは一万人へ念話を送った。


『無理だと思ったら下がってください。途中でも構いません』


『了解』


返事が届く。


スカーレットがポリーを見る。


「今回はどうする?」


「やる」


「大丈夫?」


ポリーは少し考えてから答えた。


「分からない。でも無理になったら止める」


レベルも頷いた。


「私もそうする」


三万人は無手だった。


剣は抜かない。


槍も使わない。


今回使うのは、バインドバレットとウォーターマスク。


三班が同時に動き始めた。


「バインドバレット」


各地で拘束魔法が発動する。


残った者たちの身体が次々と拘束された。


王都。


軍の駐屯地。


奴隷商の屋敷。


傭兵団の拠点。


王宮。


逃げようとした者も、その場で拘束される。


何が起きているのか理解できない者が大半だった。


敵の姿は見えない。


武器はすでにない。


馬もいない。


拘束を解くこともできなかった。


ポリーは鑑定結果をもう一度確認した。


対象に間違いはない。


「ウォーターマスク」


水が男の顔を覆った。


息ができなくなる。


男が身体を動かそうとする。


だが、バインドバレットで拘束されている。


しばらくして動かなくなった。


ポリーは目を逸らさなかった。


胸の奥が重くなる。


前回と同じだった。


慣れてはいない。


慣れたいとも思わない。


それでいい。


隣でレベルが魔法を解除した。


「少し休む」


「うん」


ポリーはそれだけ答えた。


別の騎士がすぐに代わる。


三万人の中で同じことが繰り返されていた。


一人で止める者。


数人で止める者。


続けられる者。


最初から参加しない者。


誰も責めない。


誰も急かさない。


できる者が続ける。


フネルジア王国でも排除が進んでいた。


国民二千万人。


国民全員が奴隷商。


人間を仕入れ、売り、利益を得ることで成立していた国だった。


アメリアは一人を拘束した。


鑑定結果を見る。


何千人もの売買に関与している。


それでも、何も考えずに魔法を使うことはしなかった。


確認する。


対象である。


「ウォーターマスク」


水が顔を覆う。


アメリアは最後まで見届けた。


そして息を吐いた。


「次、代わって」


「分かりました」


先輩騎士が前に出る。


それでいい。


ジキブス王国でも同じだった。


傭兵たちが次々と拘束される。


国外へ出て他国の戦争に参加してきた者。


奴隷狩りに加わった者。


人を捕らえて売った者。


鑑定結果を確認した上で処理していく。


三カ国で同じ光景が続いた。


前回とは方法が違う。


だが、原則は変わらない。


先に救う。


何度も確認する。


それから対象だけを排除する。


そして無理はしない。


人を屠ることに慣れない。


三万人は、その原則だけは最後まで守った。




三カ国で排除は続いた。


ヘコサ王国。


フネルジア王国。


ジキブス王国。


武器はない。


馬もいない。


攻撃してくる相手の姿も見えない。


各地でバインドバレットが発動する。


身体を拘束した後、ウォーターマスクで呼吸を奪う。


前回とは方法が違う。


だが、やっていることは変わらなかった。


鑑定する。


対象を確認する。


間違いがないことを確かめてから実行する。


そして無理だと思えば交代する。


最初の報告は第一班からだった。


『ヘコサ王国、排除完了です』


ポリーが国中を再び索敵する。


一度では終わらない。


生存者を探す。


見落としがないことを確認する。


続いてアメリアから念話が届いた。


『フネルジア王国、排除完了しました』


最後にフェビー。


『ジキブス王国も終了です』


三カ国すべてで排除が終わった。


王も王族も例外ではなかった。


国民も残っていない。


保護された者以外は、すべて命を落とした。


だが、まだ作業は残っている。


三万人は遺体の回収を始めた。


町。


村。


王都。


王宮。


軍の施設。


奴隷商の商館。


傭兵団の拠点。


索敵を使い、一体ずつ回収していく。


アンデッド化させるわけにはいかない。


回収した遺体は森へ運んだ。


浄化する。


分解する。


人だったものが土へ還っていく。


やがて森の養分になる。


それが終わると、三万人はもう一度索敵した。


生存者はいないか。


遺体が残っていないか。


何度も確認する。


そして三班から最後の報告が揃った。


『第一班、確認終了です』


『第二班、終了しました』


『第三班も問題ありません』


三つの国家が消滅した。


城は残っている。


町も残っている。


街道も農地も残っている。


フネルジア王国には、巨大な奴隷収容施設も残されていた。


だが、そこに閉じ込められていた人々はもういない。


三万人はアルデバラン王国へ帰還した。


アイク、アッシュ、ロックウェルが待っていた。


アイクが尋ねる。


「終わったか?」


「はい」


ポリーが答えた。


続いて三班が結果を報告する。


ヘコサ王国。


保護者、千八百万人。


フネルジア王国。


保護者、九千五百万人。


ジキブス王国。


保護者、二千万人。


合計一億三千三百万人。


回収した馬は約四千万頭。


武器類も回収済み。


三カ国に排除対象は残っていない。


アイクは頷いた。


「分かった」


ロックウェルが三万人を見る。


「眠れそうにない者は?」


何人もの手が上がった。


「食欲がない者は?」


また手が上がる。


「屠った者を思い出す者は?」


さらに手が上がった。


ロックウェルは人数を確認した。


「申告した者は休め。今は何ともない者も、後から何かあれば報告しろ」


「はい」


アッシュも続ける。


「途中で交代した者も、そのままでいい。次も参加しなければならないわけではない」


人を屠ることは任務になった。


だが、人を屠れることが騎士の資格になったわけではない。


その日のうちに、フネルジア王国から回収した大量の帳簿、契約書、取引記録が王宮へ運び込まれた。


資料を受け取ったのは、筆頭情報官エミリーだった。


一冊を開く。


奴隷の仕入先。


売却先。


人数。


価格。


運搬経路。


仲介した組織。


取引した国家。


詳細な記録が残されている。


エミリーは数冊を確認すると言った。


「すべて分析します」


アイクが尋ねる。


「調査の順番を変える必要はあるか?」


「ありません」


エミリーは即答した。


「フネルジア王国は消滅しました。今すぐ対応しなければならない理由はありません」


回収された帳簿は膨大だった。


だからこそ急ぐ必要もない。


「仕入先、売却先、運搬経路、関係組織、関係国家に分けて整理します。今後の調査で新しい資料が見つかれば、それも追加します」


「分かった」


アイクは頷いた。


新しい情報が見つかったからといって、現在の調査を止める必要はない。


予定されている対象国を一つずつ調査する。


そこで得た情報は蓄積する。


必要になったときに使えばいい。


先の四カ国。


そして今回の六カ国。


これで調査を終えた国は十カ国となった。


残り四十カ国。


エミリーは次の帳簿を開いた。


騎士たちは休養に入る。


そして五十カ国調査は、予定された順番のまま続いていく。





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