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戦わずに世界を変えた男――教育と物流で“循環国家”を作ったら、いつの間にか大陸が一つになっていた  作者: 慈架太子


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18 水属性魔法

翌朝。


王城訓練場には数百人の騎士たちが整列していた。


昨日と違うのは、一人も立ち止まっていないことだった。


全員が魔力循環を続けている。


会話をしながら。


呼吸をしながら。


立ったまま。


自然に魔力を身体の中へ巡らせていた。


アークはその様子を確認し、静かに頷く。


「皆さん、そのまま魔力循環を続けてください。」


「講義中も止めません。」


「魔力循環は戦闘中だけの技術ではありません。」


「日常生活そのものです。」


騎士たちは一斉に頷いた。


昨日まで意識しなければできなかった魔力循環も、少しずつ身体に馴染み始めている。


「本日は水属性魔法について説明します。」


魔法隊だけではない。


剣士たちも身を乗り出した。


昨日までなら、水属性魔法など魔法隊だけが学べばよいと思っていただろう。


しかし今は違う。


戦闘術そのものを学んでいるという意識が全員にあった。


アークは右手を上げ、小さな水球を作り出す。


「水属性魔法は、六属性の中で最も応用範囲の広い属性です。」


水球がゆっくりと形を変えていく。


丸い球。


細い槍。


薄い刃。


長い鞭。


一本の魔法から様々な形へ変化していく様子に、騎士たちは目を見張った。


「まず攻撃です。」


「ウォーターバレット。」


水の弾が空中を飛ぶ。


「ウォーターピアス。」


今度は鋭い槍となる。


「ウォーターブレード。」


薄く鋭い刃へ変化する。


「ウォーターカッター。」


細長い斬撃となって空を切った。


アークは水を再び球へ戻す。


「攻撃だけではありません。」


水は今度は一本の鞭へ変わる。


「ウォーターウィップ。」


さらに何本もの帯となって絡み合う。


「ウォーターバインド。」


最後に、人の頭を覆えるほどの球体へ変化した。


「ウォーターマスク。」


騎士たちは食い入るように見つめる。


「この三つは、水属性魔法の中でも特に重要です。」


「鞭。」


「捕縛。」


「拘束。」


「そして窒息。」


訓練場は静まり返る。


「この四つを組み合わせることで、多くの敵を制圧できます。」


アークは水球を消し、今度は空気中の水分を集めるように両手を広げた。


冷気が周囲へ広がる。


水は瞬く間に氷へ変化する。


「水属性は氷属性へ応用できます。」


氷の槍。


氷の刃。


氷の盾。


氷の壁。


さらに椅子ほどの大きさの氷塊が現れる。


「氷は攻撃だけではありません。」


「盾。」


「鎧。」


「壁。」


「牢。」


「檻。」


「建物。」


「寝台。」


「机。」


「椅子。」


「器。」


「食器。」


「鍋。」


騎士たちから驚きの声が漏れた。


「そこまで作れるのですか。」


「はい。」


アークは静かに頷く。


「水属性は戦闘だけの魔法ではありません。」


「生活そのものを支える属性でもあります。」


騎士団長が腕を組みながら呟く。


「確かに万能だ。」


アークはさらに続けた。


「熱湯にもできます。」


「蒸気にもできます。」


「熱湯なら高熱による攻撃。」


「蒸気なら視界を遮ることも、爆発的な圧力を生み出すこともできます。」


騎士たちは魔力循環を続けながら、真剣な表情で聞き入っていた。


昨日まで水属性を単なる補助魔法だと思っていた者は、もう誰一人としていなかった。




訓練場には静かな空気が流れていた。


数百人の騎士たちは魔力循環を続けながら、アークの言葉に耳を傾けている。


アークは再び口を開いた。


「まだあります。」


「水属性魔法は外へ放つだけではありません。」


騎士たちは首を傾げる。


「人体にも使えます。」


その一言に、騎士団長の表情が変わった。


「人体にも……?」


「はい。」


アークは頷く。


「人間の身体は約七割が水分で構成されています。」


「だから水属性魔法は身体にも作用します。」


訓練場が静まり返る。


「身体強化。」


「筋肉強化。」


「そして治癒。」


騎士たちの目が大きく開かれた。


「身体強化は、身体能力そのものを引き上げます。」


「筋肉強化は、筋力や瞬発力をさらに高めます。」


「そして治癒は、傷や出血の回復を促します。」


若い騎士が思わず声を上げた。


「攻撃だけではないのですか。」


「もちろん違います。」


アークは穏やかに答える。


「水属性は、生きている者だからこそ最も恩恵を受けられる属性です。」


騎士団長も納得したように頷いた。


「人体の大半が水分だからこそか。」


「その通りです。」


アークは続ける。


「さらに索敵にも使えます。」


「探索にも使えます。」


魔法隊の隊長が驚いた。


「水属性で索敵を?」


「できます。」


アークは地面へ手を向けた。


「周囲の水分。」


「空気中の水分。」


「川や湖。」


「雨。」


「霧。」


「環境には必ず水があります。」


「その情報を利用すれば、周囲の状況を把握できます。」


騎士たちは感心したように息を漏らした。


これまで水属性を単純な攻撃魔法だと思っていた者ほど、その発想に驚いている。


アークは騎士たちを見渡した。


「ここまで説明しただけでも。」


「攻撃。」


「防御。」


「拘束。」


「窒息。」


「生活。」


「身体強化。」


「筋肉強化。」


「治癒。」


「索敵。」


「探索。」


「これだけの用途があります。」


誰も言葉を発しない。


その多様さに圧倒されていた。


アークは静かに続けた。


「逆に、火属性は用途が比較的限られます。」


「火球。」


「火槍。」


「爆発。」


「加熱。」


「火力は優秀です。」


「しかし、生活や治癒、拘束、防御となると、水属性ほど応用は利きません。」


魔法隊の騎士たちも異論はなかった。


火属性は攻撃力に優れる。


だが、できることの幅では水属性には及ばない。


「だから私は、水属性を最初に教えています。」


アークは静かに言った。


「一つの属性を極めるだけで、多くの状況へ対応できます。」


そして、一度言葉を切る。


「その中でも、私が最も重視しているのは。」


訓練場には緊張が走った。


「捕縛。」


「拘束。」


「窒息。」


三つの言葉がゆっくりと響く。


「アンデッド以外の相手には、この組み合わせが非常に有効です。」


騎士たちは真剣な眼差しで聞いている。


「人間。」


「オーク。」


「ハイオーク。」


「リザード。」


「ウルフ。」


「ボア。」


「ベア。」


「どれほど強靱な肉体を持っていても、生物である以上、呼吸を止めれば生きることはできません。」


その言葉は、これまで剣だけを信じてきた騎士たちの常識を大きく塗り替えていた。


誰もが魔力循環を止めることなく、アークの戦闘理論を一つひとつ自分の中へ刻み込んでいた。




訓練場には静寂が広がっていた。


数百人の騎士たちは魔力循環を続けながら、アークの話に耳を傾けている。


アークは騎士たちを見渡した。


「皆さんに質問します。」


「オークを倒す方法は何ですか。」


若い騎士が迷わず答える。


「剣で斬ります。」


別の騎士も続く。


「槍で突きます。」


「魔法で攻撃します。」


アークは静かに頷いた。


「どれも間違いではありません。」


「ですが、もっと確実な方法があります。」


訓練場が静まり返る。


「捕縛。」


「拘束。」


「窒息。」


三つの言葉をゆっくりと告げる。


「この三つを連続して使います。」


騎士団長が口を開いた。


「なぜ、それほど有効なのですか。」


アークは答えた。


「生物だからです。」


「生物は必ず呼吸をしています。」


「人間も。」


「オークも。」


「ハイオークも。」


「リザードも。」


「ウルフも。」


「ボアも。」


「ベアも。」


「身体の強さに違いはあります。」


「しかし、呼吸をしなければ生きられないことは同じです。」


騎士たちは真剣な表情になる。


「まず、ウォーターバインドで捕らえます。」


「動きを止めます。」


「次に拘束を強め、自由を奪います。」


「最後にウォーターマスクで口と鼻を覆います。」


アークは一拍置いた。


「すると相手は呼吸ができません。」


若い騎士が息を呑んだ。


「それだけで……。」


「はい。」


アークは静かに頷く。


「どれほど強大な魔物でも、呼吸が止まれば活動を続けることはできません。」


「怪力も。」


「硬い皮膚も。」


「鋭い牙も。」


「呼吸ができなければ意味を失います。」


騎士団長は腕を組みながら考え込む。


「つまり、魔物の強さと正面から勝負する必要がないということか。」


「その通りです。」


アークは迷いなく答えた。


「私は魔物の長所とは戦いません。」


「怪力なら力を出させない。」


「素早いなら動きを止める。」


「硬いなら斬ろうとしない。」


「それが戦闘です。」


昨日までの講義と同じ考え方だった。


相手の得意で戦わない。


相手の得意を使わせない。


その考え方は、水属性魔法でも変わらない。


アークは続けた。


「ただし、一つだけ例外があります。」


騎士たちが顔を上げる。


「アンデッドです。」


「彼らは呼吸を必要としません。」


「窒息は効果がありません。」


魔法隊の隊長が頷いた。


「確かに、骸骨やゾンビは息をしていません。」


「だから相手を知ることが重要なのです。」


アークは穏やかな口調で言う。


「生物なのか。」


「アンデッドなのか。」


「それだけで最適な戦い方は変わります。」


騎士たちは魔力循環を続けながら、何度も頷いた。


ただ魔法を覚えるだけではない。


敵の特性を理解し、それに応じて戦術を変える。


それこそが、アークの教える戦闘術だった。


その考え方は、王国騎士団の常識を少しずつ変え始めていた。




アークは数百人の騎士たちをゆっくりと見渡した。


全員が魔力循環を続けている。


呼吸をするように。


自然に。


途切れることなく魔力が身体を巡っていた。


「皆さん。」


「ここまで水属性魔法について説明してきました。」


「攻撃。」


「防御。」


「拘束。」


「窒息。」


「身体強化。」


「筋肉強化。」


「治癒。」


「索敵。」


「探索。」


「生活。」


「一つの属性だけで、これほど多くのことができます。」


騎士たちは静かに頷いた。


これまで水属性魔法は、水を飛ばすだけの魔法だと思っていた。


しかし、その認識は完全に覆されていた。


アークは続ける。


「もちろん、他の属性にも長所があります。」


「土属性には土属性の。」


「風属性には風属性の。」


「光属性には光属性の。」


「闇属性には闇属性の。」


「それぞれ得意分野があります。」


「ですが、最初に習得する属性として考えるなら、水属性ほど万能な属性はありません。」


魔法隊の隊長も大きく頷く。


「確かに、水属性だけでも戦闘から生活まで対応できます。」


「その通りです。」


アークは穏やかに答えた。


「だから私は、水属性から教えています。」


「一つを極めれば、多くの問題を解決できます。」


若い騎士が手を挙げた。


「先生。」


「もし水属性だけを極めたとしても、一流の騎士になれるのでしょうか。」


訓練場中の視線がアークへ集まる。


アークは迷うことなく答えた。


「なれます。」


その一言に騎士たちは息を呑んだ。


「属性の数で強さは決まりません。」


「どれだけ使いこなせるかです。」


「一つの属性を自在に扱える者は、中途半端に多くの属性を覚えた者より強いことも少なくありません。」


騎士団長が深く頷く。


「剣術も同じだ。」


「基本を極めた者ほど強い。」


「はい。」


アークは微笑んだ。


「魔法も同じです。」


「基本を極めることが、最も成長への近道です。」


騎士たちは真剣な眼差しで話を聞いていた。


もはや水属性魔法の講義ではない。


戦い方そのものを学んでいる。


そんな空気が訓練場を包んでいた。


アークは最後に言った。


「明日からは実際に水属性魔法を使います。」


「ウォーターバレット。」


「ウォーターピアス。」


「ウォーターブレード。」


「ウォーターカッター。」


「ウォーターウィップ。」


「ウォーターバインド。」


「ウォーターマスク。」


「一つずつ、安全な使い方から実践します。」


騎士たちの表情が引き締まる。


知識だけでは終わらない。


明日からは、自分たちの手で魔法を扱うのだ。


騎士団長が前へ出た。


「諸君。」


「今日学んだことを忘れるな。」


「魔力循環は止めるな。」


「今日も。」


「明日も。」


「眠る直前まで続けろ。」


「それが、お前たちの力になる。」


「はっ!」


数百人の返事が王城訓練場に響き渡る。


その声を聞きながら、アークは静かに頷いた。


魔力循環という土台の上に、水属性魔法という新たな力が積み重なっていく。


王国騎士団は、一人ひとりが着実に新しい戦闘術を身につけ始めていた。





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