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戦わずに世界を変えた男――教育と物流で“循環国家”を作ったら、いつの間にか大陸が一つになっていた  作者: 慈架太子


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17 人間と魔物との戦闘の違い

翌朝。


王城訓練場には数百人の騎士たちが整列していた。


騎士団長、副団長、大隊長、中隊長、そして若い騎士たち。


全員が昨日よりも真剣な表情でアークを待っている。


アークは静かに前へ進み、一同を見渡した。


「本日から実技を始めます。」


騎士たちの背筋が自然と伸びる。


「ですが、まず最初に身に付けるべき技術があります。」


「魔力循環です。」


昨日、理論だけは聞いていた。


今日は実際に身体を動かす。


「私の動きを真似してください。」


アークは静かに目を閉じた。


「身体の中にある魔力を感じます。」


「そして頭から首、胸、両腕、腹部、腰、両脚へと巡らせ、再び頭へ戻します。」


「止めずに、円を描くように流し続けてください。」


騎士たちも目を閉じる。


最初は戸惑っていた者たちも、昨日の講義を思い出しながら意識を集中させた。


「……感じます。」


魔法隊の騎士が小さく呟く。


「身体の中を何かが流れている。」


「それが魔力です。」


アークは穏やかに答える。


「その流れを止めないでください。」


「歩いていても。」


「話していても。」


「食事をしていても。」


「眠っている時以外は、常に魔力循環を続けます。」


騎士団長も目を閉じたまま魔力を巡らせる。


「思っていたより難しいな。」


「慣れるまでは意識が必要です。」


「ですが、習慣になれば無意識で続けられるようになります。」


騎士たちは黙々と魔力を巡らせ続けた。


数分後。


アークは再び口を開く。


「次は魔力操作です。」


右手をゆっくりと持ち上げる。


「循環している魔力を、自分の意思で動かします。」


「右腕へ。」


「左腕へ。」


「胸へ。」


「脚へ。」


騎士たちも同じように魔力を動かし始めた。


「あっ。」


若い騎士が思わず声を上げる。


「動きました。」


「腕へ集まる感覚があります。」


「それで構いません。」


アークは頷いた。


「魔力循環が流れを作ります。」


「魔力操作は、その流れを自在に制御する技術です。」


魔法隊長が興味深そうに尋ねる。


「この二つが、すべての基本なのですね。」


「はい。」


アークは空を見上げた。


「皆さん。」


「この世界は魔力に満ちています。」


騎士たちは空を見上げる。


何も見えない。


しかしアークは続けた。


「空にも。」


「大地にも。」


「森にも。」


「川にも。」


「魔力は存在しています。」


「私たちは、その中で生活しています。」


訓練場は静まり返る。


「空気のようなものです。」


その言葉に魔法隊長が静かに頷いた。


「確かに、その方が理解しやすいですね。」


アークは続ける。


「魔力循環を続けていると、身体は周囲に満ちている魔力を自然に吸収し続けます。」


「特別な操作は必要ありません。」


「魔力循環そのものが、魔力を取り込み続ける技術です。」


騎士たちの間にどよめきが広がる。


「周囲の魔力を吸収するのか。」


「だから循環を止めてはいけないのですね。」


「その通りです。」


アークは静かに頷いた。


「魔力循環を続けている限り、魔力は絶えず補われます。」


「そのため、魔力切れは起こりません。」


騎士団長が目を見開く。


「つまり……。」


「実質無限魔力です。」


その一言に、数百人の騎士たちは息を呑んだ。


彼らが学び始めたのは魔法ではない。


世界そのものを利用する、新たな戦闘技術の基礎だった。




「実質無限魔力です。」


その一言に、訓練場は静まり返った。


数百人の騎士たちは互いの顔を見合わせる。


「魔力切れが……起きない?」


「そんなことが本当に可能なのか。」


騎士団長も信じられないという表情だった。


これまで魔法とは、限られた魔力を消費する技術だと考えられてきた。


だからこそ魔法使いは長時間戦えず、最後は剣や槍に頼るしかなかったのである。


アークは騎士たちを見渡した。


「皆さん。」


「今も魔力循環を続けていますね。」


「はい。」


数百人の声が揃う。


「止めないでください。」


「講義を聞いている間も。」


「考えている間も。」


「質問している間も。」


「魔力循環は続けます。」


騎士たちは意識を集中させる。


話を聞きながら魔力を巡らせ続ける。


最初は難しかった。


だが数分もすると、少しずつ慣れ始めていた。


「これが戦闘中でもできるようになれば、常に魔力は補われ続けます。」


魔法隊長が静かに頷く。


「だから戦闘前に魔力を温存する必要がないのですね。」


「その通りです。」


アークは答えた。


「魔力を惜しむ必要はありません。」


「必要な時に、必要なだけ使えばいいのです。」


若い騎士たちの表情が変わる。


これまでの常識が覆されていく。


「では。」


アークは話題を変えた。


「人間同士の戦いと、魔物との戦いには大きな違いがあります。」


騎士たちは真剣な表情になる。


彼らの任務の多くは魔物討伐だった。


「人間は急所を狙えば制圧できます。」


「拘束も有効です。」


「ですが。」


アークは地面へ木の枝を一本置いた。


「魔物は違います。」


騎士団長が腕を組む。


「確かに魔物は強い。」


「はい。」


アークは頷く。


「魔物は人間より遥かに身体能力が高く、筋力も防御力も優れています。」


「オーク。」


「ハイオーク。」


「リザード系。」


「ウルフ系。」


「ボア系。」


「ベア系。」


名前が挙がるたび、騎士たちの表情が引き締まる。


どれも討伐経験のある危険な魔物ばかりだった。


「特にオークやハイオークは筋力が強く、人間の力では押し負けます。」


「リザード系は硬い鱗を持っています。」


「ボア系やベア系は分厚い皮膚と筋肉があります。」


「剣で斬ろうとしても、簡単には通りません。」


中隊長が苦笑する。


「実際、刃が欠けたことがあります。」


「私もあります。」


「あれは硬かった。」


あちこちから同意の声が上がる。


アークは静かに頷いた。


「無理に斬り続ければ、剣が先に壊れます。」


「武器を失えば、その後の戦闘はさらに危険になります。」


騎士たちは深く頷く。


それは経験から理解していた。


「だから私は。」


アークはゆっくりと言った。


「真正面から力比べはしません。」


「相手が強いなら、強さを発揮させない。」


「硬いなら、斬ろうとしない。」


「動き回るなら、まず動きを止める。」


騎士たちの視線が一斉にアークへ集まる。


「そのために使うのが。」


一拍置いて、アークは静かに告げた。


「捕縛。」


「拘束です。」


昨日、騎士団長を一瞬で制圧した技術。


それは人間相手だけではない。


強大な魔物を相手にするためにも必要な戦闘術であることを、騎士たちは少しずつ理解し始めていた。




「捕縛。」


「拘束です。」


アークの言葉に、騎士たちは静かに頷いた。


昨日の模擬戦。


騎士団長は剣を振るることなく拘束された。


その光景を思い出していたのである。


アークは全員を見渡した。


「皆さんは魔物と戦った経験がありますね。」


「あります!」


数百人の声が訓練場へ響く。


「では質問します。」


「オークを相手に、人間と同じように剣を振れば勝てるでしょうか。」


一人の若い騎士が首を横に振る。


「簡単には勝てません。」


「力が違います。」


別の騎士も続ける。


「ハイオークはさらに強いです。」


「正面から受け止めると押し負けます。」


「その通りです。」


アークは頷いた。


「魔物は人間より筋力が強く、体力もあります。」


「だから人間と同じ戦い方をしてはいけません。」


騎士団長が腕を組む。


「我々も、それは経験している。」


「オークを真正面から受け止めて吹き飛ばされた騎士は少なくない。」


副団長も苦笑した。


「ベア系も同じです。」


「一撃受ければ鎧ごと吹き飛ばされます。」


アークは地面に木剣を一本置いた。


「では、リザード系はどうでしょう。」


魔物討伐を担当する中隊長が答える。


「鱗が硬く、剣が弾かれます。」


「刃こぼれしたこともあります。」


「ボア系も皮膚が厚いですね。」


「斬ったつもりでも浅い傷しか入りません。」


あちこちから同意の声が上がる。


アークは静かに言った。


「剣は万能ではありません。」


訓練場は静まり返る。


「もちろん、人間を相手にするなら剣は非常に有効です。」


「ですが、魔物の身体は人間とは構造が違います。」


「皮膚。」


「筋肉。」


「骨。」


「そのすべてが強靱です。」


騎士たちは魔力循環を続けながら耳を傾ける。


魔力を巡らせることにも少しずつ慣れ始めていた。


「だから。」


アークは木剣を拾い上げる。


「硬い相手を無理に斬ろうとしてはいけません。」


木剣を握る手に少し力を込める。


「何度も強く叩き付ければ、どうなりますか。」


若い騎士が答える。


「剣が傷みます。」


「最悪、折れます。」


「その通りです。」


アークは木剣を静かに下ろした。


「武器が壊れれば、その瞬間から生存率は大きく下がります。」


「つまり。」


「魔物に勝とうとして武器を失う戦い方は、最初から間違っています。」


騎士たちは息を呑んだ。


これまで「剣で斬ること」が正しい戦い方だと思っていた。


しかし、魔物によっては、その考え方自体が危険だったのである。


アークは続ける。


「では、どうするのか。」


「斬れないなら斬らない。」


「力で勝てないなら力比べをしない。」


「相手が速いなら動きを止める。」


「相手が硬いなら拘束する。」


「戦闘とは、自分の得意を押し付けることです。」


昨日の講義が騎士たちの脳裏によみがえる。


「相手の得意で戦わない。」


「相手の得意を使わせない。」


それと同じ考え方だった。


アークは穏やかに微笑む。


「魔物にも得意があります。」


「だから、その得意を使わせない戦い方を覚えれば、人間は魔物より小さな力で勝つことができます。」


その言葉に、若い騎士たちの目は大きく輝き始めていた。




若い騎士たちの表情は変わっていた。


昨日まで剣術こそが最強だと信じていた者たちが、今は戦いそのものを考え始めている。


アークは全員を見渡した。


「では、皆さんに質問します。」


「オークが斧を持って突進してきました。」


「どうしますか。」


一人の若い騎士が答える。


「剣で迎え撃ちます。」


アークは首を横に振った。


「それでは相手の得意で戦っています。」


騎士たちは昨日の講義を思い出す。


「相手の得意で戦わない。」


「相手の得意を使わせない。」


その言葉が頭に浮かんだ。


「オークの得意は何でしょう。」


騎士団長が答える。


「怪力です。」


「その通りです。」


アークは頷く。


「人間より重く。」


「人間より力が強い。」


「真正面から受け止めれば、不利になるのは人間です。」


副団長も納得したように言う。


「つまり、力比べをしてはいけないのですね。」


「はい。」


アークは続けた。


「まず拘束します。」


「動きを止めます。」


「武器を使わせません。」


「そして安全な位置から攻撃します。」


若い騎士が目を見開く。


「確かに、それなら斧は振れません。」


「そうです。」


「相手がどれほど力を持っていても、自由に動けなければ脅威は大きく減ります。」


騎士たちは魔力循環を続けながら頷く。


すでに講義を聞きながら魔力を巡らせることにも慣れ始めていた。


アークはさらに話を続ける。


「ウルフ系はどうでしょう。」


今度は別の騎士が答えた。


「素早いです。」


「群れで襲ってきます。」


「はい。」


アークは頷く。


「ならば、速さを生かさせない。」


「拘束して足を止めます。」


「ボア系なら突進を止める。」


「ベア系なら腕を封じる。」


「リザード系なら身体を固定する。」


「相手によって拘束する場所も変わります。」


魔物討伐経験の豊富な騎士たちは何度も頷いた。


ただ闇雲に剣を振るうより、遥かに理にかなっている。


騎士団長が口を開く。


「つまり戦闘とは。」


「敵を斬る技術ではない。」


「敵を思い通りに動かせない技術ということか。」


アークは微笑んだ。


「その考え方で構いません。」


「自分が戦いやすい状況を作る。」


「相手には戦いにくい状況を作る。」


「それが戦闘術です。」


若い騎士たちは真剣な眼差しを向けていた。


剣術だけでは学べなかった考え方だった。


「明日からは実際に拘束魔法を学びます。」


訓練場に緊張が走る。


「ウォーターバインド。」


「バインド。」


「そして、状況に応じた拘束方法。」


「人間と魔物、それぞれに適した使い方を実践していきます。」


騎士たちの目には期待が宿っていた。


騎士団長が前へ進み出る。


「諸君。」


「今日学んだことを忘れるな。」


「魔力循環は今この瞬間も続ける。」


「日常生活でも止めるな。」


「これが我々王国騎士団の新しい基礎となる。」


「はっ!」


数百人の声が王城訓練場に響き渡る。


その声を聞きながら、アークは静かに頷いた。


人間と魔物では戦い方が違う。


だからこそ、相手に合わせて戦い方を変える。


その考え方を身に付けた時、王国騎士団は初めて本当の意味で「魔物と戦う騎士」へと変わり始めるのだった。





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