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戦わずに世界を変えた男――教育と物流で“循環国家”を作ったら、いつの間にか大陸が一つになっていた  作者: 慈架太子


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163/311

163 本選

 王国全土を巻き込んだ一次予選が、ついに終了した。


 延べ参加者、一億人。


 剣、槍、斧、槌、ハルバード、グレイブ、棍。


 複数の武器部門へ参加できるため、実際の人口を遥かに上回る参加数となった武闘大会。


 その一次予選だけで、王国の武に関する常識は大きく変わっていた。


 新たに生まれた豪。


 四千五百六十三人。


 新たに生まれた聖。


 七百五十三人。


 さらに聖騎士たちも七千人以上が勝ち残っている。


 それ以外の勝者を含め、二次予選へ進んだ者は一万人を超えた。


 だが、本選へ進めるのは百人。


 二次予選が始まった。


「始め!」


 最初から一次予選とは空気が違った。


 剣豪対剣豪。


 槍豪対槍豪。


 剣聖対剣豪。


 槍聖対剣聖。


 聖騎士対聖騎士。


 聖騎士対豪。


 聖騎士対聖。


 使用する武器まで含めれば、組み合わせは非常に多岐にわたる。


 一次予選なら圧倒的な強者だった豪でさえ、簡単には勝ち上がれない。


「一本!」


「勝者!」


 剣豪が敗れる。


 別の会場では聖騎士が敗れた。


 さらに別の試合では、槍聖が剣聖を破った。


 肩書だけでは結果を予測できない。


 まして出身など何の意味もなかった。


 元帝国民。


 亡命者。


 生粋の王国民。


 冒険者。


 衛兵。


 騎士。


 貴族。


 平民。


 ここまで残れば、見るべきものは武器を扱う技量だけだった。


 そして強者同士が戦い続ければ、当然のように変化が起こる。


 一人の剣豪の身体が光った。


「試合を止めろ!」


 鑑定。


「剣聖です!」


 歓声が上がる。


 その直後には別会場。


「槍聖への覚醒を確認!」


 さらに、


「斧聖です!」


「グレイブ聖!」


 新たな聖が次々と生まれていく。


 中には複数の武器で聖へ到達する者まで現れた。


 剣聖と槍聖。


 槍聖とグレイブ聖。


 斧聖と槌聖。


 一次予選で見つかった才能が、二次予選でさらに磨かれていく。


 アイクは大会本部で記録を見ながら笑った。


「一次予選とは別物だな」


「当然だ」


 アッシュが答える。


「一億人から残った連中だぞ」


 ロックウェルは次々と更新される結果を見ていた。


「百人まで落とす方も大変だな」


「だからこその本選だろう」


 二次予選は続いた。


 一万人以上。


 五千人。


 千人。


 五百人。


 人数が減るほど、試合時間は長くなっていく。


 豪同士なら簡単には決まらない。


 聖同士なら、さらに長い。


 聖騎士同士の試合では、何十合と武器を交えることもあった。


 そして最後の試合が終了する。


「二次予選、終了!」


 大歓声が上がった。


 延べ一億人から始まった予選を勝ち抜いた百人。


 だが、大会はここからだった。


 本選には予選免除の参加者が加わる。


 最初に発表された名前に会場が沸いた。


「国王、オーキス・アルデバラン!」


 歓声が爆発した。


 オーキス本人は平然としている。


 その少し離れた場所にいたアレクサンドは、何も言わなかった。


 以前なら頭を抱えていたかもしれない。


 国王が自ら武闘大会へ参加する。


 止めなければ。


 諫めなければ。


 そう考えていただろう。


 だが、今は違う。


 オーキスは世界中から称賛されている国王だった。


 国際冒険者ギルドから正式に表彰された人物でもある。


 六千六百万人の国を治め、多種族、多民族をまとめ、犯罪と魔物被害を抑え、民を豊かにした。


 その王が自分の意思で大会へ出る。


 アレクサンドは静かに思った。


 ――私ごときが諫めようなど、おこがましいわね。


 不思議なことに、頭痛はしなかった。


 続いて本選参加者が発表される。


 アレクサンド。


 ガイル。


 アンジェラ。


 そして彼らとともに戦ってきた二十七人。


 イプシオ。


 アリシア。


 冒険者、神官たち二十人。


 アイク。


 アッシュ。


 ロックウェル。


 アルフレッド侯爵。


 そして最後。


「剣神、アダムス・キンバリー!」


 会場の空気が変わった。


 唯一確認されている剣神。


 予選で豪が四千五百六十三人、聖が七百五十三人も誕生した。


 それでも神だけは、一人も生まれなかった。


 その領域にいる男が、ついに本選へ入る。


 予選を勝ち抜いた百人が、その名を見つめていた。


 王国一を決める戦いは、ここからが本番だった。




 本選が始まると、予選とは明らかに空気が変わった。


 延べ一億人の参加者から勝ち残った百人。


 そこへ予選を免除された強者たちが加わっている。


 最初に観客を沸かせたのはアリシアだった。


 対戦相手は二次予選を勝ち抜いた剣聖。


「よろしくお願いします」


「こちらこそ」


 二人が剣を構える。


「始め!」


 剣が激突した。


 一合。


 二合。


 三合。


 どちらも退かない。


 聖対聖。


 予選なら圧倒的な強者だった者同士の戦いである。


 アリシアが踏み込む。


 相手が受け流す。


 反撃。


 アリシアが剣を合わせた。


 何十合と続いた、その時だった。


 アリシアの身体が強い光に包まれた。


「覚醒したぞ!」


 さらに剣を交える。


 先ほどまで拮抗していた均衡が崩れた。


 相手の剣を流す。


 一歩入る。


 剣先が首元で止まった。


「勝者、アリシア!」


 鑑定が行われる。


 そして審判が絶叫した。


「剣神! アリシア選手、剣神です!」


 会場が揺れるほどの歓声が上がった。


 アダムスに続く二人目の剣神。


 そのアダムスは嬉しそうに拍手していた。


「ついに出ましたね」


 次はイプシオ。


 相手は同じく剣聖だった。


 互いに一歩も譲らない打ち合いが続く。


 そしてイプシオの身体も光った。


「剣聖!」


 イプシオが聖へ到達した。


 続いて三騎士団長。


 アイク。


 アッシュ。


 ロックウェル。


 三人ともすでに聖騎士であり、剣豪でもある。


 だが、本選で戦う相手は予選を勝ち抜いた豪や聖だった。


 アイクが光った。


「剣聖!」


 アッシュも続く。


「剣聖です!」


 そしてロックウェル。


「剣聖への覚醒を確認!」


 三騎士団長が揃って聖騎士に加えて剣聖となった。


 さらに別の試合場。


 アルフレッド侯爵が剣を構えていた。


 対戦相手は槍豪。


「始め!」


 鋭い突きが飛ぶ。


 アルフレッドは剣で逸らした。


 次の突き。


 今度は身体をかわして踏み込む。


 槍豪も簡単には近づかせない。


「面白い!」


 アルフレッドは笑っていた。


 何度も槍と剣がぶつかる。


 長年、侯爵として生きてきた男だが、今は爵位など関係ない。


 イプシオに弟子入りし、武器の扱いを学び直した。


 金属属性。


 ゴーレム。


 付与。


 転移。


 年齢も地位も言い訳にせず、新しいものを吸収し続けてきた。


 そして今度は武。


 アルフレッドの身体が光った。


「覚醒!」


 鑑定結果が表示される。


「剣豪です!」


「よし!」


 アルフレッドが嬉しそうに笑った。


 覚醒直後、槍を受け流す。


 一気に間合いへ入り、剣先を相手の胸元で止めた。


「勝者、アルフレッド侯爵!」


 観客席から大きな拍手が起こる。


 アルフレッドは剣を見つめた。


「豪か」


 そしてイプシオを見る。


「まだ聖があるな」


 イプシオは苦笑した。


「大会が終わってからにしてください」


「もちろんだ」


 まるで諦める気配がなかった。


 別の試合場でも覚醒が続いていた。


 エース。


 レビン。


 トレノ。


 スレット。


 ベロニカ。


 ジリアン。


 ハーレイ。


 アレッタ。


 エミリア。


 強敵と武器を交える中で、彼らは全員が聖へ到達した。


 さらにアリー。


 アレクサ。


 ゴルディ。


 ナターシャ。


 マックス。


 リッキー。


 トレイ。


 シュー。


 チャド。


 彼らも例外ではなかった。


 一人、また一人と身体が光る。


 九人全員。


 鑑定結果は聖。


 偶然ではない。


 神聖ラトリアでの経験が物を言っていた。


 宗教国家で経験した実戦。


 敵の動きを読み、仲間と連携し、自分で判断して戦い続けた経験。


 訓練だけで身につけた力ではなかった。


 そこで積み上げたものが、本選で強者とぶつかったことで形になった。


「やはり、あの経験は大きかったですね」


 アリシアが言う。


「ええ」


 イプシオも嬉しそうだった。


「戦った経験は残りますから」


 そしてガイルたちの試合も始まった。


 ライアン、アレックス、シェーン、カイル、フェリクス、クリス、キーガン、アルバート、コリン、ロイド、ブランドン、アンソニー、キャム、ヤラミル、ブラッド、キャメロン、ザック、トレバー、ケード、レオン、ガレス、ミリア、エリック。


 ガイル。


 アンジェラ。


 アレクサンド。


 彼らも強敵と武器を交えた。


 光が上がる。


 また別の場所でも光る。


 誰一人として取り残されなかった。


 全員が聖へ到達した。


 それまで積み上げてきた訓練と実戦。


 教導する側として他人の動きを見続けた経験。


 その蓄積が、一億人の中から選ばれた強者との戦いによって形になったのである。


 そしてオーキスも、豪との激しい打ち合いの末に身体を光らせた。


「陛下、剣豪です!」


「そうか!」


 オーキスは子供のように笑った。


 観客席から大歓声が上がる。


 アレクサンドは、その姿を静かに見ていた。


 もう頭痛はしなかった。


 世界から称賛され、国際的にも功績を認められた王。


 その男が、自分の意思で剣を振っている。


 自分ごときが諫めようなど、おこがましい。


 今のアレクサンドは、そう考えられるようになっていた。


 本選はまだ始まったばかり。


 それでもすでに、剣神が一人。


 多数の聖。


 そしてアルフレッド侯爵とオーキスにも豪が生まれた。


 強者同士がぶつかるほど、王国の武はさらに上へ進んでいた。




 本選の様子は、王国各地へ映像として伝えられていた。


 剣神へ到達したアリシア。


 剣聖となったイプシオ。


 聖騎士に加えて剣聖となった三騎士団長。


 剣豪へ覚醒したアルフレッド侯爵。


 そして、国王オーキスまで剣豪へ到達した。


 だが、大会を見ていたバイオレットが感じていたのは、単純な戦闘力への驚きではなかった。


「本当に……変わりましたね」


 王宮の巨大スクリーンを見ながら、静かに呟いた。


 隣にいたマーガレットが母を見る。


「何がですか?」


「この国です」


 スクリーンには、本選の試合だけではなく、各地の予選会場の様子も映されていた。


 試合に負けた男がいる。


 悔しそうではあった。


 だが、落ち込んではいない。


「次は槍も鍛えるか」


 そう言って、勝った相手に教えを請うていた。


 別の場所では、予選で敗退した衛兵たちが模擬戦を始めている。


「今の受け方、もう一度やってくれ」


「ここか?」


「そうだ。それができなかった」


 負けた。


 だから終わり。


 そう考える者が少なかった。


 負けたのなら、何が足りなかったのか。


 次はどうすればいいのか。


 自然に考えている。


「昔は、こうではありませんでした」


 バイオレットは昔の王国を知っている。


 アルデバラン王国は、元から豊かな国だったわけではない。


 飢える者こそ多くなかったが、それだけだった。


 盗賊もいた。


 魔物による被害も珍しくない。


 病に苦しむ者もいた。


 食事も今ほど豊かではなかった。


 多くの人間にとって、毎日の暮らしを守るだけでも大切なことだった。


 それが今は違う。


 騎士たちは、もっと強くなろうとしている。


 文官たちは、もっと良い行政を作ろうとしている。


 行政官六万人は行政スキルを学び、昨日より効率よく仕事をする方法を考えている。


 職人は新しい技術を学ぶ。


 農民は収穫を増やす方法を試す。


 料理人は、もっと美味しい料理を作ろうとする。


 商人は、新しい商品や商売を考える。


 教師は、もっと分かりやすい教え方を探している。


 そして、それは大人だけではなかった。


 学校では子どもたちが魔力操作を競っている。


「昨日より長く魔力循環できた!」


「私は新しい魔法を覚えたよ!」


「じゃあ、次は私もやる!」


 老人たちも負けてはいない。


 公衆浴場の休憩所で、老人同士が教導管理システムを見ながら話している。


「わしは昨日、鑑定が一つ上がったぞ」


「なら、わしは明日までに追いつく」


「無理をするなよ」


「無理はせん。毎日少しずつじゃ」


 子どもから老人まで。


 騎士も文官も。


 農民も職人も商人も。


 貴族も平民も。


 移民も亡命者も。


 今日できなかったことを、明日はできるようになりたい。


 今日より明日。


 明日より、その次の日。


 国民全体が当たり前のように、そう考えるようになっていた。


「向上心……でしょうか」


 マーガレットが呟く。


「ええ」


 バイオレットが頷いた。


「少し異常なくらいに」


 マーガレットが笑った。


 否定できなかった。


 何しろ国王からしてそうなのだ。


 十一万人の騎士団に紛れて金属属性を覚醒した。


 今度は自分から武闘大会へ参加して剣豪になった。


 国王が、


 ――もう十分だ。


 と言わない。


 その下にいる三騎士団長も剣豪で満足せず、聖へ進んだ。


 アルフレッド侯爵も豪へ到達した直後から、すでに聖を見ている。


 アダムスは剣神になっても訓練をやめなかった。


 上にいる者たち自身が、昨日より今日、今日より明日と前へ進もうとしている。


 ならば、その姿を見ている国民が影響を受けないはずがなかった。


 だが、強制されたものではない。


 国王が命じたわけでもない。


 法律に書かれているわけでもない。


 もっと努力しろと、誰かに叱られているわけでもない。


 学べばできるようになる。


 教われば変われる。


 失敗しても、もう一度試せる。


 それを国民自身が知ってしまった。


 だから自分から学ぶ。


 自分から試す。


 そして覚えた者が、今度は隣の者へ教える。


 バイオレットはスクリーンを見つめた。


 そこでは予選で敗退した少年が、勝った老人から槍の持ち方を教わっていた。


 年齢すら関係ない。


「良い国になりましたね」


 バイオレットが微笑んだ。


「はい」


 マーガレットも頷いた。


 王妃としてではない。


 オーキスの妻としてでもない。


 六千六百万人が暮らす国を見守る国母として。


 バイオレットは、心から誇らしかった。


 強い国だからではない。


 豊かな国だからでもない。


 今日より明日、少しでも良くなろうとする。


 そんな人々が暮らす国になったことが、何より誇らしかった。




 長く続いた本選も、ついに最後の一試合を残すだけとなった。


 決勝戦。


 会場の巨大スクリーンに、二人の名前が表示される。


 アダムス・キンバリー。


 アリシア。


 そして二人の名前の横には、同じ文字が並んでいた。


 剣神。


 延べ一億人が参加した武闘大会。


 一次予選では四千五百六十三人もの豪が生まれ、七百五十三人もの聖が生まれた。


 二次予選でも、本選でも、新たな覚醒者が続いた。


 豪。


 聖。


 聖騎士。


 複数の武器で聖へ到達する者まで現れた。


 それほど多くの強者が生まれた大会で、神へ到達した者はごく僅かだった。


 その二人が今、決勝の舞台に立っている。


 アダムスが剣を構えた。


「よろしくお願いします」


「こちらこそ」


 アリシアも剣を構える。


 観客席から大きな歓声が上がった。


 その様子を、ガイル、アレクサンド、イプシオの三人は感慨深く見つめていた。


「……ここまで来たか」


 ガイルが静かに呟いた。


 視線の先にいるのはアダムスだった。


 最初から剣神だったわけではない。


 最初から何もかも恵まれていたわけでもない。


 貴族学校に通っていた一人の学生。


 そして退学になった。


 一度は爵位まで捨てた。


 それでも腐らなかった。


 学べることを学んだ。


 剣を振った。


 槍を学んだ。


 格闘術も学んだ。


 魔法も増やした。


 金属属性を得ても満足しなかった。


 新しい技術を知れば試した。


 できなければ練習した。


 そして今。


 王国で確認されている数少ない剣神として、武闘大会の決勝に立っている。


「大したものね」


 アレクサンドが微笑んだ。


「ええ」


 イプシオの視線はアリシアへ向いていた。


 神聖ラトリアにいた頃の彼女を知っている。


 あの頃のアリシアは神官だった。


 使えるのは治癒。


 傷ついた者を癒すことはできる。


 だが、戦う力は持っていなかった。


 剣神どころか、剣士ですらなかった。


 それが今は違う。


 剣を握っている。


 数多くの実戦を経験した。


 強敵とも戦った。


 神聖ラトリアで得た経験を、その後の訓練へ繋げた。


 教わったことを身につけ、自分でも考え、さらに先へ進んだ。


 本選では聖と戦い、その戦いの中で神へ到達した。


「治癒しかできなかった神官だったんですよね」


 イプシオが言った。


「そうだったな」


 ガイルが頷く。


 三人はしばらく何も言わなかった。


 アダムス。


 アリシア。


 二人の歩いてきた道は違う。


 一人は貴族学校を退学になり、一度は爵位を捨てた学生。


 一人は神聖ラトリアで治癒しかできなかった神官。


 普通なら、二人が同じ場所に立つことすらなかったかもしれない。


 まして剣神同士として王国最大の武闘大会の決勝で向かい合うなど、誰が想像しただろう。


「誇らしいわね」


 アレクサンドが言った。


「ああ」


 ガイルが頷いた。


「はい」


 イプシオも笑った。


 三人にとって、二人は単なる強者ではなかった。


 できなかった者が、できるようになった。


 知らなかった者が学んだ。


 そこで止まらず、さらに先へ進んだ。


 その結果が今、目の前にある。


 ◇


「始め!」


 審判の声が響いた。


 アダムスとアリシアが同時に踏み込む。


 剣が激突した。


 鋭い音が会場に響く。


 一合。


 アダムスが攻める。


 アリシアが受け流す。


 二合。


 アリシアが反撃する。


 アダムスが剣を合わせた。


 三合。


 四合。


 五合。


 どちらも退かない。


 剣神同士。


 僅かな隙が、そのまま勝敗に繋がる。


 アダムスが踏み込んだ。


 鋭い斬撃。


 アリシアが半歩だけ動いてかわす。


 即座に剣を返した。


 アダムスも受ける。


 再び激突。


 観客席から次第に声が消えていった。


 誰もが二人の戦いに見入っている。


 アイクも黙っていた。


 アッシュもロックウェルも目を離さない。


 オーキスも剣豪として、二人の攻防を真剣に見つめている。


 アルフレッド侯爵も同じだった。


「……遠いな」


 誰かが呟いた。


 だが、その言葉に諦めはなかった。


 豪がある。


 その先に聖がある。


 そして神がある。


 実際にそこへ到達した二人が、目の前で剣を交えている。


 ならば自分たちにも、進むべき道がある。


 アダムスの剣が走る。


 アリシアが弾く。


 アリシアが踏み込む。


 アダムスが受け流す。


 また距離が開いた。


 二人が剣を構え直す。


 アダムスが笑った。


 アリシアも笑っていた。


 まだ決着はついていない。


 ガイルは二人を見ながら腕を組んだ。


 アレクサンドは静かに見守る。


 イプシオも嬉しそうに目を細めていた。


 二人の剣神が、再び同時に踏み込んだ。


 決勝戦は、まだ続いていた。





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