160 調査終了
ミストバルカス公国での調査は、終盤に入っていた。
千人の王国騎士団を百人ずつ十班に分け、連日調査を続けてきた。
最初は空白ばかりだった地図も、今では河川、湖、山、森林、草原、平地、崖などが詳細に書き込まれている。
エミリーがソートグラフィーで残した映像も膨大な量になっていた。
それらは位置情報や測量結果とともに教導管理システムへ保存されている。
この日、アレクサンドとエミリーは広大な平地を確認していた。
「ここは農地に向いていそうね」
「はい。土壌にも大きな問題はありません」
エミリーが行政鑑定で確認する。
見渡す限りの平地だった。
大規模な造成をしなくても利用できる場所が多い。
水源も遠くない。
農地として開発すれば、相当な量の作物を生産できるだろう。
少し離れた地域には草原が広がっている。
「こちらは牧畜ですね」
「そうね。無理に農地へ変える必要もないでしょう」
牛や羊などを放牧するには十分な広さがある。
飼料を育てる土地も確保できる。
何より、人が住んでいない。
既存の生活圏を壊して開発する必要がなかった。
別の班が調査した湖にも問題は見つからなかった。
水質は良好。
魚も生息している。
周辺には水を汚染する原因となるものも確認されていない。
河川についても同様だった。
水量は十分。
流域には農地として利用できそうな場所がいくつもある。
地形や過去の痕跡を調べても、大規模な氾濫を頻繁に起こす河川ではなさそうだった。
「水には困らないわね」
「現在確認できている範囲だけでも、相当な人口を支えられると思います」
エミリーが答えた。
さらに森。
そこには大量の樹木が存在した。
無計画に伐採する必要はない。
必要な区域を決め、植林と伐採を管理すれば、長期間にわたって材木を供給できる。
住宅。
工房。
倉庫。
学校。
橋。
家具。
新しい土地を開発すれば木材需要は急増する。
その多くを現地で賄える可能性があった。
「随分調べたけれど」
アレクサンドは完成に近づいた地図を見る。
「大きな問題が出てこないわね」
「はい」
エミリーも同じ感想だった。
調査を始めた時は、何か重大な問題が見つかる可能性も考えていた。
農業に向かない。
水がない。
魔物が多すぎる。
険しい山岳ばかり。
巨大な湿地が広がっている。
何か一つくらいは、開発を躊躇する理由が出てくると思っていた。
だが、見つからない。
もちろん、すべての土地が利用できるわけではない。
山もある。
崖もある。
深い森林もある。
魔物の生息域も確認された。
それでも、土地そのものがあまりにも広かった。
使いやすい場所だけを選んでも、十分すぎる。
「何でもできそうですね」
エミリーが地図を見ながら言った。
「私も同じことを考えていたわ」
農業。
牧畜。
林業。
鉱業。
新しい町を造ることもできる。
工業地帯を設ける余裕もある。
広大な土地を一度に開発する必要などなかった。
必要になった場所から使えばいい。
その時、シメオンが地図の一角を指した。
「開拓するなら、ここからでしょう」
そこは現在のアルデバラン王国との隣接地域だった。
アルデバラン王国と旧帝国領は、元々国境を接している。
割譲が正式に成立すれば、その境界から新領土へ向かって開発を進められる。
「私もそれが一番合理的だと思います」
エミリーが答えた。
既存の王国側には街道がある。
町もある。
倉庫もある。
人もいる。
そこから少しずつ開発地域を広げればいい。
新領土の奥地へ、いきなり巨大都市を造る必要はない。
アレクサンドも頷いた。
「隣接面からなら、既存の経済圏とも繋げやすいわね」
「はい。最初の開拓拠点を国境付近に置けば、必要な物資も人員も送りやすくなります」
もっとも、今のアルデバラン王国では距離そのものが以前ほど大きな問題ではない。
飛行。
転移。
アイテムボックス。
ゴーレム馬車。
念話。
それでも、町や農地は人が暮らす場所である。
既存の生活圏と連続させた方が自然だった。
アレクサンドは改めて地図全体を見る。
「これだけ調べても、まだ広いとしか言えないわね」
エミリーが笑った。
「報告書の最初に書きますか?」
「何を?」
「非常に広い、と」
「それは地図を見れば分かるでしょう」
二人は笑った。
王国五つ分の土地。
調査は、まもなく終了する。
そして調べれば調べるほど明らかになったことが一つあった。
この土地には、使い道がないのではない。
使い道が多すぎた。
調査団は最後の数日を、これまで集めた情報の再確認に使った。
見落としがないか。
測量に間違いがないか。
地図と実際の地形にずれがないか。
千人の騎士たちは担当区域をもう一度確認していった。
新しい土地を手に入れられる。
そんな期待を理由に、都合の悪い情報を見落とすわけにはいかない。
エミリーも各班から集められた記録を照合していた。
「第一班、農業適地の再確認終了。問題ありません」
「第二班、草原地域の確認終了。牧畜利用に支障なし」
「第三班、湖と周辺水源の再調査終了。水質良好」
次々と念話が入る。
森林を担当した班からも報告が届いた。
『樹木の種類と分布を再確認しました。材木として利用可能な区域は地図へ追加済みです』
「無理な伐採は必要なさそう?」
『はい。開発予定地域だけでも当面の需要を賄えると思います』
「分かりました」
エミリーが記録する。
別の班は河川を調べていた。
水量。
川幅。
流速。
周辺地形。
過去に氾濫した痕跡。
農業用水として利用した場合の影響。
確認できる範囲で調べていく。
「こちらも大きな問題はありません」
報告を受けたアレクサンドが地図を見る。
「本当に何も出てこないわね」
「小さな問題ならあります」
エミリーが答えた。
「急斜面があります。魔物が比較的多い森林もあります。農業に適さない土地もあります」
「でも避ければいい」
「はい」
それができるだけの広さがあった。
すべての土地を使う必要などない。
農業に向かない場所を、無理に農地へ変える必要もない。
危険な森林を急いで切り開く必要もない。
使いやすい場所から使えば、それだけで長期間の開発余地が残る。
調査開始当初に想定していたより、条件は遥かに良かった。
午後になると、十班の責任者と案内役が一か所へ集まった。
地面の上に巨大な地図が広げられる。
シメオンが国境付近を指した。
「やはり、最初はここでしょう」
ジェークも頷く。
「王国側からそのまま繋げられる」
アルデバラン王国とミストバルカス公国は隣接している。
今回の割譲予定地域も、王国側から連続する形になっていた。
そのため、開拓開始地点をわざわざ遠方へ置く理由がない。
「王国側の街道を延ばす」
エミリーが指で地図をなぞった。
「その周囲から農地を作る。必要に応じて集落を建設する。さらに先へ街道を延ばす」
「一気に開発する必要はないわね」
アレクサンドが言った。
「はい。人口と需要に合わせて広げれば十分です」
騎士の一人が地図を見ながら尋ねた。
「最初の開拓地には、どれくらいの人数を入れるんです?」
「まだ決めません」
エミリーは即答した。
「王国へ戻ってから、移住希望者と就業希望者を確認します」
「農民だけじゃないですよね」
「もちろんです」
農民が入れば農具が必要になる。
家を建てる職人もいる。
食料を売る商人も必要になる。
荷物を扱う者もいる。
子供がいれば教師が必要になる。
治癒院も必要になる。
飲食店もできる。
公衆浴場も必要になるだろう。
仕事は連鎖して増えていく。
「土地を先に埋めるのではなく、必要な人が必要な分だけ使う」
アレクサンドが言った。
「それがいいでしょうね」
誰も異論を唱えなかった。
その日の夕方。
エミリーは最後の映像記録を始めた。
上空へ浮かぶ。
眼下には広大な平地。
その先には川が流れている。
さらに向こうには森。
遠くには山々。
ソートグラフィーが、その景色を記録していく。
「これで最後です」
地上へ戻ったエミリーが言った。
「調査終了?」
「はい」
アレクサンドは周囲を見渡した。
千人の騎士たち。
十人の案内役。
何日もかけて歩き、飛び、転移し、調べ続けた。
それでも土地の広さそのものが小さくなったわけではない。
「では、まとめましょう」
エミリーが教導管理システムへ調査結果を保存していく。
農業適地、多数。
牧畜適地、多数。
水源、良好。
森林資源、豊富。
開発を阻害する重大な問題、確認されず。
最後に、開発開始地点についての調査団の意見も加えた。
――アルデバラン王国との隣接地域から、段階的に開発することが望ましい。
「終わったわね」
アレクサンドが言った。
「はい」
エミリーは完成した地図を見る。
調査する前は、王国五つ分という数字しかなかった。
今は違う。
どこに川があるのか。
どこに森があるのか。
どこで作物を育てられるのか。
どこで家畜を飼えるのか。
どこから開拓を始めればいいのか。
判断するための材料が揃った。
残るのは、王国へ持ち帰ること。
そして決めることだった。
調査を終えた翌朝。
アレクサンドたちは第一村に集まっていた。
千人の王国騎士団も帰還の準備を終えている。
もっとも、馬車へ大量の荷物を積み込む必要はなかった。
測量器具も採取した標本も、すでにアイテムボックスへ収納されている。
帰還も転移で済む。
「長い間、ありがとうございました」
ライラが頭を下げた。
「こちらこそ。案内役を十人も出してくれて助かったわ」
アレクサンドが答える。
シメオン、ジェーク、リッキー、チャド、ホセ、パトリック、シェーン、ラザロ、ブレイドン、コデイ。
十人も調査団の見送りに来ていた。
エミリーは最後の記録を確認する。
「測量結果、地図、地形、水源、森林、農業適地、魔物分布、ソートグラフィーによる映像。すべて教導管理システムへの保存を確認しました」
「割譲決定書は?」
「保存済みです。原本も預かっています」
「なら大丈夫ね」
ライラが尋ねた。
「調査結果はいかがでしたか?」
「驚いているわ」
アレクサンドは正直に答えた。
「何か問題が?」
「逆よ。これだけ調べたのに、大きな問題が見つからなかったの」
農地に向いた平地がある。
牧畜に使える草原も広い。
河川の水量は十分。
湖の水質も良く、魚もいる。
森林資源も豊富だった。
魔物もいるが、現在の王国にとって開発を断念する理由になるほどではない。
「これだけ広ければ、一つくらい致命的な問題が出てくると思っていたのだけれど」
「ありませんでしたか」
「少なくとも、今回の調査ではね」
ライラは安心したように笑った。
「それなら良かったです」
「まだ割譲を受けると決まったわけではないわよ」
「分かっています」
公国側の意思は確認できた。
議会は満場一致。
割譲予定地域からの移住も完了している。
人口四百八十万人の公国にとっても、統治範囲を縮小する利点がある。
感謝だけで国土の半分を差し出そうとしているわけではない。
「王宮へ戻って正式に報告するわ」
「お願いいたします」
挨拶を終えると、千人の騎士たちは次々と転移していった。
アレクサンドとエミリーも王都へ戻った。
その日の午後。
王宮の会議室には、オーキス、バイオレット、クレイン、マーガレット、アイク、アッシュ、ロックウェルが集まっていた。
そこへアレクサンドとエミリーが加わる。
巨大スクリーンに、完成した地図が映し出された。
「では、調査結果を報告します」
エミリーが前へ出る。
「結論から申し上げます。割譲予定地域に、開発を断念するほどの重大な問題は確認されませんでした」
映像が切り替わる。
広大な平地。
「農業適地は多数あります。土壌、水源ともに大きな問題はありません」
次は草原。
「牧畜にも利用できます。無理に農地へ転用する必要はないと考えます」
湖が映る。
「水質は良好。魚類も確認しました」
巨大な河川。
「水量も十分です。周辺地形や過去の痕跡を確認しましたが、大規模な氾濫を頻繁に起こす河川ではないと判断しています」
さらに森林。
「森林資源も豊富です。ただし、開発地域以外まで伐採する必要はありません。必要量に応じて利用し、植林を並行すれば十分でしょう」
クレインが頷いた。
「鉱物は?」
「いくつか確認されています」
「採掘する必要は?」
「現状ではないと考えます」
エミリーは即答した。
「鉱物資源はダンジョンから十分に確保できます。この土地の鉱床を急いで開発する理由はありません」
「なら、そのままでいいでしょう」
クレインも迷わなかった。
「資源があるから掘る必要はありません。必要になった時に改めて検討すればいい」
「私も賛成よ」
マーガレットが言った。
使えるものを、すべて使い切る必要はない。
農地に適した場所は農地にする。
草原は牧畜に利用する。
森林も必要な分だけ使う。
鉱物資源が地下に眠っていても、今必要でなければ残しておけばいい。
「魔物については?」
アイクが尋ねた。
「複数の地域で確認しました。ただし、王国騎士団と冒険者ギルドで十分に対応可能な範囲です」
「なら問題ないな」
エミリーは最後の地図を表示した。
現在のアルデバラン王国と、割譲予定地域の境界付近が拡大される。
「調査団としては、開発を行う場合、王国との隣接地域から段階的に進めることを提案します」
「理由は?」
オーキスが尋ねた。
「既存の街道、町、倉庫、商業圏と接続しやすいためです。飛行、転移、アイテムボックス、ゴーレム馬車がありますので、距離そのものは以前ほど問題になりません。それでも人々の日常生活を考えれば、既存地域から連続して開発する方が自然です」
クレインが地図を見る。
「一気に五倍の土地を開発する必要もありませんね」
「はい。必要になった場所から使えば十分です」
エミリーが答えた。
農地が必要なら農地を作る。
牧畜地が必要なら草原を利用する。
新しい町が必要になれば建設する。
雇用を求める者が増えれば、新たな開発区域を広げる。
土地があるから埋めるのではない。
必要になった時に必要なだけ使う。
「良い土地だな」
オーキスが地図を見ながら言った。
「はい」
クレインも認めた。
「そして、今すぐ使い切る必要がないほど広い」
会議室が静かになった。
王国五つ分の土地。
水がある。
農業ができる。
牧畜もできる。
森林もある。
そして将来のために残しておく余裕まである。
「クレイン」
「はい」
「どう見る?」
クレインは地図を見つめた。
「受け取らない理由を探す方が難しくなりました」
アレクサンドは小さく笑った。
調査は終わった。
公国側の意思も確認した。
土地にも大きな問題はない。
あとは、アルデバラン王国が決断するだけだった。
クレインの言葉に反対する者はいなかった。
「受け取らない理由を探す方が難しくなりました」
それが今回の調査結果を端的に表していた。
オーキスは巨大スクリーンに映された地図を見つめた。
現在のアルデバラン王国五つ分。
元々、王国は広い。
かつてなら普通の馬車で国内を移動するだけでも一か月以上を要した。
その五倍もの土地が、新たに加わろうとしている。
「アイク」
「はい」
「防衛面ではどうだ?」
アイクは少し考えてから答えた。
「問題ないと考えます」
以前なら、即答などできなかった。
国土が現在の六倍になれば、それだけ長い国境線を守らなければならない。
各地に騎士を配置し、砦を築き、街道を整備する必要があった。
だが、今は違う。
「騎士団十一万人は全員が転移できます。飛行、索敵、念話も使えます。異常が発生すれば、必要な戦力を現地へ送れます」
アッシュも頷く。
「常に十一万人を新領土へ張り付ける必要はないでしょう」
「魔物への対応も同じです」
ロックウェルが続けた。
「日常的な討伐は冒険者ギルドに任せられます。騎士団が必要な規模なら、転移すればいい」
「分かった」
オーキスがクレインを見る。
「行政は?」
「受け取るのであれば、新たな行政区分を作る必要があります」
「人員は足りるの?」
マーガレットが尋ねた。
「現状のままでは足りなくなるでしょう」
クレインは隠さなかった。
「ですが、それは問題というより雇用です」
アレクサンドが僅かに笑う。
「また始まりましたね」
「何がですか?」
「宰相閣下が楽しそうです」
「仕事の話をしております」
クレインはそのまま続けた。
「行政官を増員します。新しい土地へ人が入れば、役所も必要になる。行政官だけではありません」
エミリーが記録しながら補足する。
「学校ができれば教師が必要になります。治癒院には治癒師。薬房には薬師。公衆浴場にも人員が必要です」
「農地には農民」
アイクが言った。
「牧畜なら牧夫だな」
アッシュが続ける。
「街道が延びれば商人も動く」
ロックウェルも加わった。
「宿屋も食堂もできるでしょうね」
バイオレットが微笑む。
クレインが頷いた。
「建築、運送、林業、工房、倉庫、商業、飲食。開発そのものが大量の仕事を生みます」
人口六千六百万人。
今後も国外から人が来る可能性はある。
土地だけ増えても意味はない。
そこで人が暮らし、働き、自立できることが重要だった。
「なら、開発希望者を募るのか?」
オーキスが尋ねた。
「割譲を受けることが正式に決まれば」
クレインが答える。
「農業をしたい者、牧畜を始めたい者、工房を持ちたい職人、商売を始めたい者。希望を集めます」
エミリーも頷く。
「教導管理システムを使えば、希望職種や必要な技能も整理できます」
「土地だけ渡して勝手に暮らせ、ではないのね」
マーガレットが確認する。
「当然です」
クレインが答えた。
「最初は既存の王国との隣接地域から始めます。街道、水源、住宅など最低限の基盤を整え、その後は需要に合わせて広げます」
「ゴーレムも使えるわね」
「はい。街道整備や造成には適任でしょう」
オーキスはしばらく地図を眺めていた。
条件は揃っている。
公国議会は満場一致で割譲を決めている。
予定地域に住民はいない。
公国側には、統治範囲を縮小できる利点がある。
王国側には、土地不足への備えと新しい雇用を生み出せる利点がある。
調査でも重大な問題は見つからなかった。
「マーガレット」
「はい」
「どう思う?」
「受けるべきだと思います」
答えは明確だった。
「公国側の意思も確認できています。こちらにも必要な土地です。それなら断る理由はないでしょう」
「アレクサンドは?」
「同意見です」
「三団長」
三人とも頷いた。
「異論ありません」
最後にオーキスはクレインを見る。
「宰相」
「受諾を進言致します」
オーキスは一度だけ頷いた。
「分かった」
エミリーの手が記録へ向かう。
「ミストバルカス公国からの領土割譲提案を受諾する」
「承知致しました」
その言葉が教導管理システムへ保存された。
王国五つ分の土地が動く。
だが、歓声は上がらなかった。
誰も勝利を宣言しなかった。
戦争に勝ったわけではないからだ。
領土を奪った者もいない。
敗者もいない。
互いの国が抱えていた問題を話し合い、調べ、双方に利益があると判断した。
それだけだった。
クレインはすでに次の資料を開いている。
「では、割譲協定の作成と並行して、開発計画の準備に入ります」
「早いな」
オーキスが苦笑した。
「土地を受け取るだけでは仕事になりませんので」
「そうだったな」
アレクサンドは巨大な地図を見た。
そこには、まだ町の名前すらない。
農地もない。
学校もない。
治癒院もない。
ただ、広大な土地だけがある。
これから何を作るのか。
どこで暮らすのか。
何を仕事にするのか。
それを決めるのは、王宮だけではない。
そこで暮らすことを選ぶ人々だった。
アルデバラン王国の国土は、間もなく六倍になる。
それでも、この領土拡大のために流された血は一滴もなかった。




