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戦わずに世界を変えた男――教育と物流で“循環国家”を作ったら、いつの間にか大陸が一つになっていた  作者: 慈架太子


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159 割譲提案2

 アルデバラン王国による調査団が、ミストバルカス公国へ入った。


 領土割譲を受けるかどうか。


 その判断材料を集めるための正式な調査だった。


 王国騎士団から選ばれた調査員は千人。


 全員が飛行と転移を使えるため、通常なら考えられないほど広い範囲を短期間で調査できる。


 さらに筆頭情報官としてエミリーも参加していた。


 鑑定、教導、行政鑑定。


 いずれもレベル十。


 現地で得られる情報を整理し、教導管理システムへ保存する役目も担っている。


 案内役を務めるのは、第二村の十人だった。


 シメオン。


 ジェーク。


 リッキー。


 チャド。


 ホセ。


 パトリック。


 シェーン。


 ラザロ。


 ブレイドン。


 コデイ。


 彼らは旧帝国時代から、この広大な土地を知っている。


 調査団を迎えたのは第一村のライラ、アンドリュー、レイラだった。


「お待ちしておりました」


 ライラが頭を下げる。


「大人数になってしまったわね」


 アレクサンドが答えた。


「構いません。むしろ千人で足りるのでしょうか?」


「まずは千人で調べるわ。必要なら増やすことになるでしょうね」


 ミストバルカス公国の国土は広い。


 アルデバラン王国も決して小さな国ではない。


 かつてなら、普通の馬車で国内を移動するだけでも一か月以上を要した。


 そのアルデバラン王国の五倍に相当する土地が、今回の割譲予定地域だった。


 アレクサンドは改めて調査の目的を説明した。


「今回の調査は、領土を受け取ることを前提にしたものではないわ。地形、資源、魔物分布、それから現在の利用状況を確認するためのものよ」


「承知しております」


「もう一つ。割譲予定地域に暮らしている人がいるなら、その意思も確認するつもりだったのだけれど」


「その点については問題ありません」


 ライラが答えた。


「現在、割譲予定地域に住民はいません」


 アレクサンドが眉を上げる。


「一人も?」


「はい」


 理由は単純だった。


 人口四百八十万人。


 ミストバルカス公国にとって、現在の国土はあまりにも広すぎる。


 点在した住民を抱えたままでは、行政も物流も非効率になる。


「割譲の話が出た段階から、予定地域に暮らしていた者たちの移住を進めていました」


「強制ではないわね?」


「もちろんです。事情を説明した上で希望を確認しました。公国としても、これ以上人口が減るのは困りますから」


 移住を希望した者には新しい住居と土地を用意した。


 職を変える必要がある者についても支援した。


 現在は全員が公国内の別地域で生活しているという。


「それから、こちらを」


 ライラが一通の文書を差し出した。


 エミリーが受け取り、内容を確認する。


 ミストバルカス公国議会による領土割譲決定書だった。


「議会で採決したの?」


「はい」


「結果は?」


「満場一致です」


 アレクサンドが文書を見る。


 暫定国王ライラだけの判断ではない。


 議会で正式に審議され、割譲が決定されている。


 エミリーも行政鑑定を使って内容を確認した。


「形式上の問題は見当たりません」


 そのまま文書を教導管理システムへ保存する。


 これで少なくとも、ライラ個人の善意だけから出た提案ではないことは確認できた。


「ミストバルカス公国の総意と考えていいのね?」


「はい」


 ライラは迷わず答えた。


「我々は、アルデバラン王国に土地を奪われるとは考えておりません。使い切れない土地を、必要としている方々に使っていただきたいのです」


 確認を終えると、調査が始まった。


 千人の騎士は百人ずつ十班に分かれる。


 各班に一人ずつ案内役が付いた。


「それでは始めましょう」


 エミリーの指示で十班が散開した。


 飛行による上空からの確認。


 地上での詳細な測量。


 河川の位置。


 崖。


 山。


 谷。


 森林。


 平野。


 街道として利用できそうな地形。


 次々と情報が集められ、地図へ書き込まれていく。


 調査は順調に進んだ。


 日が沈む頃、各班が拠点へ戻った。


 その夜は魔物肉が大量に焼かれた。


 酒も用意された。


 調査団と公国の者たちが同じ火を囲む。


 仕事の話は次第に減り、昔話が増えていった。


 やがてアンドリューが酒杯を置いた。


「俺たちは、今でも忘れていません」


 アレクサンドが彼を見る。


「何を?」


「あなた方が来てくれた日のことです」


 周囲の公国民たちも頷いた。


 アレクサンドをはじめとする二十七人。


 彼らが旧帝国の地へやって来たことから、多くのものが変わった。


 アンドリューは、静かにその日のことを語り始めた。




 焚き火の上で、厚く切られた魔物肉が焼けていた。


 脂が落ちるたびに炎が上がる。


 酒杯を手にしたアンドリューは、しばらく火を見つめていた。


「あなた方が来る前、俺たちは今日を生きることしか考えられなかった」


 誰も口を挟まなかった。


「食べるものが足りない。病気になっても治せない。働いても暮らしは良くならない。それでも税は取られる」


 レイラが続けた。


「明日が良くなるなんて、考えたこともなかったわ」


 シメオンたち第二村の十人も静かに聞いている。


 彼らも同じだった。


 旧帝国で暮らしていた頃を知っている。


 貧困は特別なことではなかった。


 それが日常だった。


「最初は疑ったんですよ」


 ジェークが笑った。


「何の見返りもなく助ける人間なんているはずがないって」


「そうだったな」


 ホセも笑う。


「食い物を出された時も、後から何を要求されるんだろうと思ってた」


 アレクサンドは黙って聞いていた。


 自分たちにとっては、必要だからやったことだった。


 だが、彼らにとっては違った。


「食べさせてもらった」


 パトリックが言った。


「治してもらった」


 シェーンが続ける。


「魔力の使い方を教えてもらった」


「戦い方もな」


 ラザロが酒を飲む。


「それだけじゃない」


 ブレイドンが首を振った。


「自分たちで生きられるようにしてくれた」


 コデイが大きく頷いた。


「そこが一番だ」


 食料を渡して終わりではなかった。


 病人を治して終わりでもない。


 農業を教えた。


 魔力操作を教えた。


 魔力循環を教えた。


 戦う力も身につけさせた。


 そして学んだ者が、次の者を教えた。


 誰かが助けに来るのを待つ生活から、自分たちで村を変える生活へ変わった。


 やがて村だけではなく、公国そのものが変わっていった。


「だから今回の割譲も、恩返しだけではないんです」


 ライラが言った。


 アレクサンドが彼女を見る。


「違うの?」


「もちろん恩義は感じています。公国の者で、それを否定する人はほとんどいないでしょう」


 ライラは酒杯を置いた。


「ですが、使えないのです」


「土地を?」


「はい」


 人口四百八十万人。


 それに対して、あまりにも広大な国土。


「今の私たちが管理できる範囲に人を集めた方が、学校も治癒院も街道も整備しやすい。商人も動きやすくなります」


 アレクサンドが頷いた。


 感情だけで国土を手放そうとしているわけではない。


 公国側にも明確な利点がある。


「それに」


 ライラが笑った。


「土地は半分になりますが、それでもアルデバラン王国の今の国土の五倍ほど残ります」


 アイクがいたなら、頭を抱えていたかもしれない。


 アルデバラン王国は元々広い。


 かつては馬車で国内を移動するだけでも一か月以上掛かった。


 その五倍。


 ミストバルカス公国は半分を割譲した後でさえ、それだけの国土を持つことになる。


「十分すぎます」


 ライラはそう言って笑った。


「私たちには、まだ広すぎるくらいです」


 エミリーはその話も記録していた。


 単なる感謝だけで領土割譲を決めたのではない。


 人口に合わせて統治範囲を縮小し、行政や物流を効率化する。


 公国にとっても合理的な選択だった。


「それなら遠慮なく調べさせてもらうわ」


 アレクサンドが言った。


「お願いします」


 話が一段落すると、再び肉が焼かれた。


「侯爵、これを食べてください」


 チャドが大きな肉を差し出す。


「ありがとう」


「こっちも美味いですよ」


「そんなに食べられないわよ」


 笑いが広がった。


 酒も進んだ。


 王国騎士たちと公国の案内役も、いつの間にか肩書きを気にせず話していた。


「明日は北の山沿いを調べる」


「なら俺が案内する。昔、何度か行ったことがある」


「魔物は?」


「いるぞ」


「種類は?」


「明日のおかずになりそうなのが結構いる」


「それは助かる」


 また笑いが起きた。


 アレクサンドは、その様子を眺めていた。


 かつて救済する側と、される側だった者たち。


 今は違う。


 公国は自分たちで国を運営している。


 自分たちで議会を開き、自分たちで領土の使い方まで決めた。


 助けられるだけの者たちではなくなっていた。


「良い国になったわね」


 アレクサンドが呟いた。


 ライラが笑う。


「はい」


 その返事に迷いはなかった。


 夜が更けても、焚き火の周囲から笑い声が絶えることはなかった。


 翌日から、さらに広大な土地の調査が始まる。


 誰も住んでいない、アルデバラン王国五つ分の土地。


 その全貌は、まだ誰にも分かっていなかった。




 翌日からも、広大な土地の調査は続いた。


 千人の騎士たちは百人ずつ十班に分かれ、それぞれ第二村の十人に案内されて各地へ向かう。


 移動そのものに時間は掛からない。


 飛行して上空から地形を確認し、必要な場所へ降りる。


 一度位置を把握すれば、次からは転移できる。


 問題は、調べなければならない土地があまりにも広いことだった。


「分かっていたつもりだったけれど……」


 アレクサンドは上空から地平線を眺めた。


「広いわね」


「はい」


 隣を飛んでいたエミリーも苦笑する。


 眼下には草原が広がっている。


 その先には森林。


 さらに遠くには山脈が見えた。


 これだけ見渡しても、割譲予定地域のほんの一部でしかない。


 アルデバラン王国も元々広大な国だった。


 飛行も転移もなかった時代なら、普通の馬車で国内を移動するだけでも一か月以上掛かった。


 今回調査しているのは、その王国五つ分に相当する土地である。


「昔なら、調査だけで何年掛かったのかしら」


「考えたくありませんね」


 エミリーが答えた。


 二人は地上へ降りた。


 騎士たちは既に作業を始めている。


 川幅を測る者。


 水深を確認する者。


 土壌を鑑定する者。


 山の斜面を調べる者。


 魔物の痕跡を索敵する者。


 集められた情報は次々と記録されていった。


 エミリーは広い草原へ視線を向ける。


「これは映像で残しましょう」


 ソートグラフィーを発動した。


 目の前に広がる景色が、そのまま映像として記録されていく。


 川の流れ。


 森林の広さ。


 遠方に連なる山々。


 騎士たちが測量している様子まで残していく。


 記録した映像は教導管理システムへ保存された。


 文章や数字だけでは伝わらない情報がある。


 地図だけでも分からない。


 実際にどのような土地なのか。


 王宮にいる者が現地へ来なくても確認できるようになった。


「便利ね」


 アレクサンドが言った。


「私もそう思います」


 エミリーは次の場所でもソートグラフィーを使った。


 巨大な河川。


 切り立った崖。


 深い森林。


 なだらかな丘陵。


 広大な平野。


 次々と映像化され、地図上の位置とともに教導管理システムへ保存されていく。


 別の班から念話が入った。


『こちら第六班。大きな湖を発見しました』


「位置を送ってください」


『送ります』


 エミリーが情報を受け取る。


「確認に行きましょう」


 転移。


 景色が一瞬で変わった。


 目の前には巨大な湖が広がっていた。


 対岸が遠い。


「これは大きいわね」


 アレクサンドが呟く。


 既に騎士たちが水質、水深、周囲の地形を調べていた。


「水質に問題ありません」


「周辺の土地も農業に使えそうです」


「魚もいます」


 報告が次々と上がる。


 エミリーは行政鑑定も使いながら情報を整理した。


 そして再びソートグラフィー。


 湖の全景を映像として残す。


「王宮でこれを見れば、かなり判断しやすくなりますね」


「地図だけ渡されるより、ずっと分かりやすいわ」


 調査はさらに続いた。


 鉱物を含む岩盤も見つかった。


 農地に向いた平野もあった。


 牧畜に使えそうな草原もある。


 森林資源も豊富だった。


 当然、魔物もいた。


 森を調査していた班から警告の念話が入った。


『大型魔物を確認』


『種類は?』


『アースベアです。十二体』


『危険は?』


『ありません』


 それから僅かな時間で、再び念話が入った。


『討伐終了しました』


 エミリーが記録する。


「十二体とも?」


『はい。今夜の肉にします』


 アレクサンドは何も言わなかった。


 調査隊は王国騎士団である。


 しかも十一属性を扱う騎士が千人。


 この程度の魔物では調査を止める理由にもならなかった。


 夕方になると十班が拠点へ戻った。


 地図は昨日より遥かに詳細になっている。


 そこへエミリーが保存した映像を加えていく。


 ライラたちも一緒に確認した。


「こんな場所まで調べたのですか?」


「まだ一部よ」


 アレクサンドが答える。


「これで一部……」


 ライラは改めて地図を見る。


 自分たちが統治していた国でありながら、知らない場所がいくつもある。


 人口四百八十万人では、それほど広大な国土を使い切れるはずがなかった。


 エミリーが今日の調査結果を保存する。


 地図。


 測量結果。


 資源。


 水源。


 魔物分布。


 そしてソートグラフィーによる映像記録。


「これで今日の分は終わりです」


 だが、地図にはまだ巨大な空白が残っていた。


 アレクサンドはそれを見て笑った。


「千人もいるのに、まだこれだけ残っているのね」


 誰も否定できなかった。


 王国五つ分。


 その言葉の意味を、調査団はようやく実感し始めていた。




 ミストバルカス公国で集められた調査記録は、教導管理システムを通じて王宮にも共有されていた。


 国王執務室とは別の広い部屋。


 壁際には、巨大なスクリーンが設置されている。


 そこにエミリーがソートグラフィーで記録した映像が映し出されていた。


 集まっているのは、オーキス、バイオレット、クレイン、マーガレット。


 さらにマーガレットの弟妹であるリヴィア、レックス、イヴァン、コールもいた。


 最初に映ったのは、どこまでも続く平原だった。


 映像がゆっくりと動く。


 草原の向こうに森林が見える。


 さらに遠くには山脈。


 人の住居は見当たらない。


「……これが割譲予定地なの?」


 リヴィアが呟いた。


「その一部よ」


 マーガレットが答えた。


「これで一部?」


 レックスがスクリーンを見上げる。


 映像が切り替わった。


 今度は巨大な河川。


 次は湖。


 森林。


 丘陵。


 切り立った崖。


 農地として利用できそうな平野。


 次々と異なる景色が映し出されていく。


「広いな」


 オーキスが呟いた。


 アルデバラン王国自体、元々かなり広い。


 普通の馬車しかなかった時代なら、国内を移動するだけでも一か月以上掛かった。


 今回提示されている土地は、その王国五つ分に相当する。


 数字としては聞いていた。


 地図でも確認していた。


 だが、実際の景色として見せられると印象が違った。


「これを全部もらうの?」


 イヴァンが尋ねる。


「まだ決まっていないわ」


 マーガレットが答える。


「今は調査中よ」


 コールがスクリーンを見たまま言った。


「でも、向こうは半分になっても、これと同じくらい残るんだよね?」


「そういうことになるわね」


「広すぎない?」


「広すぎるから困っているのよ」


 バイオレットが笑った。


 クレインは黙って映像を見ていた。


 やがて表示が地図へ変わる。


 千人の騎士たちが調査した地域が詳細に記録されていた。


 河川。


 湖。


 山岳。


 森林。


 鉱物資源。


 農業適地。


 魔物の分布。


 それでも巨大な空白が残っている。


「千人投入してこれか」


 オーキスが言った。


「はい」


 クレインが答える。


「全員が飛行と転移を使い、百人ずつ十班に分けています。それでも調査には時間を要します」


「本当に広いのだな」


「私も想定以上でした」


 マーガレットがクレインを見る。


「宰相が驚いているわ」


「驚く時くらいあります」


 珍しくクレインも苦笑していた。


 映像が再び切り替わる。


 今度は夜だった。


 大きな焚き火。


 大量の魔物肉が焼かれている。


 王国騎士と公国の者たちが酒杯を手に笑っていた。


「何をしているのだ?」


 オーキスが尋ねる。


「親睦を深めているのでしょう」


 クレインが答えた。


「随分楽しそうだな」


 映像の中では、アレクサンドも肉を食べていた。


 その周囲でライラ、アンドリュー、レイラ、第二村の者たちが話している。


 やがて音声も流れ始めた。


 食べるものがなかったこと。


 病になっても治せなかったこと。


 明日の暮らしさえ分からなかったこと。


 そしてアレクサンドたち二十七人が来たこと。


 食料を与えられた。


 治療された。


 だが、それだけではなかった。


 魔力操作を教わった。


 魔力循環を学んだ。


 農業を覚えた。


 戦う力を身につけた。


 自分たちで生きていく方法を教わった。


 スクリーンの前から声が消えた。


『俺たちは、今でも忘れていません』


 アンドリューの声が響く。


『助けてもらったことだけじゃない。自分たちで生きられるようにしてもらったことをです』


 オーキスは腕を組んだ。


 映像の中ではアレクサンドが困ったように話を聞いている。


 彼女自身は、大したことをしたという顔をしていなかった。


 だが、公国の者たちは違う。


 一人が話せば、別の者も話す。


 第一村。


 第二村。


 それぞれが自分の経験を語っていた。


「……あの小娘、とんでもない大仕事をやっていたのだな」


 オーキスが呟いた。


 マーガレットが横を見る。


「本人の前では言わないでくださいね」


「分かっている」


 オーキスがアレクサンドを小娘と呼ぶのは、本人がいない時だけだった。


 バイオレットが微笑む。


「随分と慕われていますね」


「慕われているという言葉だけでは足りないかもしれません」


 クレインが珍しく真剣な顔でスクリーンを見ていた。


 公国の議会は満場一致で割譲を決めた。


 国土の半分。


 アルデバラン王国五つ分もの土地である。


 それを差し出してでも恩義に報いたいと考える者がいる。


 もちろん、公国側にも統治範囲を縮小する利点がある。


 それだけでは説明できないものが、映像には残されていた。


「私は数字で考えていました」


 クレインが言った。


「人口四百八十万人。広すぎる国土。管理費用。物流効率。そして我が国の土地不足」


 スクリーンには、アレクサンドを囲んで笑う人々が映っている。


「ですが、これは数字だけで動いた話ではありませんね」


 オーキスが頷いた。


「信頼か」


「はい」


 クレインは短く答えた。


 マーガレットも黙って映像を見ていた。


 アレクサンドは領土を求めて旧帝国へ行ったわけではない。


 支配するためでもなかった。


 困っている者を助け、教えただけだった。


 そして彼らが自立した後は、自分たちで歩かせた。


 その仕事が今になって、国土の半分を託してもいいと思われるほどの信頼として返ってきた。


 オーキスはスクリーンを見ながら笑った。


「帰ってきたら褒めてやるか」


「やめた方がいいと思います」


 マーガレットが即答した。


「なぜだ?」


「侯爵が頭を抱えます」


 バイオレットが笑った。


 リヴィアたちも笑い始めた。


 クレインだけは、もう一度地図へ目を向けていた。


 広大な土地。


 そこに残された、人と人との信頼。


 アルデバラン王国は、戦争では決して得られないものを受け取ろうとしていた。





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