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戦わずに世界を変えた男――教育と物流で“循環国家”を作ったら、いつの間にか大陸が一つになっていた  作者: 慈架太子


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155/311

155 捕縛 拘束 逮捕

 一万体を超える上位アンデッドと、アルデバラン王国騎士団十一万人の戦闘は続いていた。


 最前線では、三人の団長が楽しそうに剣を振るっている。


 騎士団長アイク。


 魔導騎士団長アッシュ。


 近衛騎士団長ロックウェル。


「こいつは硬いな!」


 アイクがデスナイトの大剣を受け流す。


 踏み込み、光属性をまとわせた剣を振り抜いた。


 鎧が裂け、デスナイトが光に包まれて消える。


「だったら、もっと光を乗せればいい!」


 アッシュもリッチが放った闇の弾丸をかわし、一気に間合いを詰める。


 一閃。


 光をまとった剣がリッチを斬り裂いた。


「二人とも楽しんでいるだろう」


 ロックウェルが言う。


「お前にだけは言われたくない!」


 アイクが返した。


 ロックウェル自身も笑っている。


 三人は教導管理システムへ送られていた現地報告を確認していた。


 アンデッドには浄化が有効。


 光属性も有効。


 さらにイプシオたちは、剣に光属性をまとわせて上位アンデッドを倒している。


 実戦で効果が確認されているなら、使わない理由はない。


「光属性を剣にまとわせろ!」


 命令が伝わった。


 十一万人の騎士が一斉に魔力を動かす。


 魔力操作。


 魔力循環。


 光属性。


 そして剣。


 これまで教導によって身につけてきたものを組み合わせる。


 十一万本の剣が次々と光を帯びた。


「前進!」


 騎士団が押し始める。


 一人がデスナイトの攻撃を受け流す。


 二人が側面へ回る。


 背後へ入った騎士が斬る。


 光の剣が鎧を裂いた。


 デュラハンが突撃してくれば左右へ散開する。


 通過したところを側面から斬る。


 リッチが魔法を放とうとすれば、複数の騎士が一気に間合いを詰めた。


 一体。


 十体。


 百体。


 上位アンデッドが次々と消えていく。


 そんな戦場の中に、一人だけ異様な人物がいた。


 アレクサンドが目を疑った。


「……陛下?」


 ガイルも戦場を見る。


「おい。あれ陛下じゃねぇか?」


「そうよ! どうして陛下が最前線にいらっしゃるのよ!」


 アリシアが二人を見る。


「陛下?」


「アルデバラン王国の国王陛下よ」


「え?」


 アリシアは改めて戦場を見る。


 王冠はない。


 豪華な王衣もない。


 剣を握って普通に最前線を走っている。


 オーキス・アルデバラン。


 アルデバラン王国国王その人だった。


「はっ!」


 デュラハンの槍をかわす。


 光をまとった剣を振り抜く。


 デュラハンが浄化されながら崩れた。


 オーキスはすぐに次のデスナイトへ向かう。


 大剣を受け流し、懐へ入る。


 一閃。


 また一体が消えた。


「あの方が……国王陛下?」


 アリシアが呆然としていた。


「ええ」


「楽しそうですけど……」


「楽しそうね……」


 アレクサンドは額に手を当てた。


 ガイルが笑う。


「元気でいいじゃねぇか」


「そういう問題じゃないわよ」


 アンジェラが二人のやり取りを聞いて笑っていた。


     ◇


 やがて最後のリッチが光に包まれて消滅した。


 一万体を超えていた上位アンデッドの反応が完全に消える。


 殲滅完了。


 その瞬間、十一万人の騎士たちに変化が起きた。


《聖属性》


 光属性が、より清浄な力へ変化する。


《付与属性》


 剣へ属性をまとわせ続けた経験が、新たな力として定着した。


 さらに、


《聖騎士》


 十一万人全員が覚醒していた。


 オーキスも自分を鑑定する。


「ほう。余も聖騎士か」


 本人はかなり嬉しそうだった。


 遠くからその様子を見ていたアレクサンドは、再び額に手を当てる。


「陛下まで……」


 ガイルが笑った。


「元気でいいじゃねぇか」


「さっきも聞いたわよ!」


 アンジェラがとうとう吹き出した。


     ◇


 戦闘が終われば後片付けだった。


 十一万人が周囲を確認する。


 死の魔力が戦場一帯に残っている。


「浄化するぞ!」


 騎士たちが空へ手を向けた。


「ピュリフィケーションバレットレイン!」


 十一万人から放たれた無数の浄化弾が空へ舞い上がった。


 そして一斉に降り注ぐ。


 光の雨が辺り一面を覆った。


 草原。


 街道。


 荒野。


 アンデッドが存在していた場所から、残留していた死の魔力が消えていく。


 十一万人による広域浄化。


 短時間で戦場一帯が清浄な状態へ戻っていった。


 浄化を終えると、オーキスは剣を収めた。


 表情が変わる。


「アイク」


「はっ!」


「教会上層部へ向かう」


「承知しました」


 十一万人の騎士団が整列した。


「ここから先、相手は人間だ。殺傷するな」


 命令が全軍へ伝わる。


「抵抗する者も可能な限り傷つけるな。全員を捕縛、拘束、逮捕せよ」


「はっ!」


 十一万人の声が響いた。


 大神殿へ向けて騎士団が進み始める。


 征服するためではない。


 罪を犯した者を捕らえるためだった。


 一千万人の民はすでに国外へ逃れた。


 アンデッドは消えた。


 ネクロマンサーも捕らえられている。


 残ったのは教会上層部だけだった。


 宗教国家、神聖ラトリア。


 その国家としての歴史は、ここで終わった。




 十一万人の騎士団が大神殿へ向かって進んでいく。


 先ほどまで上位アンデッドを相手に剣を振るっていた騎士たちだが、今は誰も抜剣していない。


 オーキスの命令は明確だった。


 殺傷するな。


 全員を捕縛、拘束、逮捕する。


 相手はアンデッドではなく人間である。


 アイクが広域索敵を展開した。


「大神殿だけじゃないな」


 アッシュも索敵を広げる。


「地下にもいる。東側の施設にもかなり残っているぞ」


「裏門から逃げようとしている者もいる」


 ロックウェルも別方向を確認した。


 三人だけではない。


 十一万人の騎士たちも次々と索敵を展開する。


 建物の中。


 地下。


 隠し部屋。


 逃走経路。


 どこに誰がいるのか把握されていく。


「包囲しろ」


 アイクの命令で騎士団が分かれた。


 大神殿を囲む。


 周辺の教会施設を押さえる。


 地下への出入口にも騎士が配置された。


 ほどなく裏門から数十人の神官が飛び出してきた。


「止まれ!」


「我々は神に仕える者だぞ!」


 一人が杖を構える。


「アボート」


「なっ!」


 杖が消えた。


 隣の神官が剣へ手を伸ばす。


「アボート」


 剣も消える。


 騎士たちはそのまま鑑定を使った。


「短剣を隠している」


「アボート」


「こちらは攻撃用の魔道具」


「アボート」


「毒薬があります」


「それも没収」


 次々と危険物が消えていった。


 ネクロマンサーたちが自殺用の毒薬を隠し持っていたことは、教導管理システムを通じて共有されている。


 同じ手は通用しない。


「バインドバレット」


 拘束弾が飛ぶ。


 一人。


 二人。


 十人。


 武装を失った神官たちが次々と拘束された。


「逮捕」


 騎士たちは淡々と処理していった。


     ◇


 大神殿正面。


 巨大な扉は固く閉ざされている。


 アイクが扉を見る。


「鍵が掛かってるな」


「どうする?」


 アッシュが尋ねる。


「開ける」


 アイクが土魔法を使った。


 扉を支えている周囲の石壁が変形する。


 巨大な扉が枠ごと外れ、ゆっくり横へ移動した。


 ロックウェルがそれを見る。


「壊さないのか」


「後で戻せるだろ」


「妙なところで律儀だな」


「人の物だからな」


 三人が大神殿へ入った。


 騎士たちも続く。


 内部には数百人の神官が集まっていた。


 杖。


 剣。


 槍。


 魔道具。


 武装した者も多い。


「来るな!」


 一人の司教が叫んだ。


「ここは神聖ラトリアの大神殿だ!」


 アイクは立ち止まる。


「神聖ラトリア上層部によるアンデッド生成と民への犯罪行為について、関係者を逮捕する」


「貴様らにその権利はない!」


「裁くのは俺たちじゃない」


 アイクは答えた。


「俺たちは捕まえるだけだ」


「ふざけるな!」


 司教が杖を掲げる。


「アボート」


 杖が消えた。


「なっ――」


 騎士たちが一斉に動く。


「鑑定!」


 武器。


 魔道具。


 隠し持った短剣。


 毒薬。


 危険物が次々と確認される。


「アボート」


 杖が消える。


 剣が消える。


 槍が消える。


 祭服の内側にあった短剣も、自殺用の毒薬も消えた。


 その場にいた神官たちの武装が、瞬く間に失われていく。


「バインドバレット」


 今度は拘束弾が飛んだ。


 次々と命中する。


 抵抗する余地すらなかった。


     ◇


 少し遅れてイプシオたちも大神殿へ入った。


 アリシアの足が止まる。


「ここ……」


 見覚えのある場所だった。


「ここで教わりました」


 イプシオが隣を見る。


「神官として?」


「はい」


 アリシアは大神殿の内部を見渡した。


「治癒しか使えない。神官には治癒以外の力は必要ない。ずっとそう教えられていました」


 今のアリシアはオリハルコンの両手剣を背負っている。


 魔力循環。


 多属性魔法。


 金属属性。


 聖属性。


 付与属性。


 剣聖。


 転移。


 教会を離れてから得たものばかりだった。


 アリーたち九人の神官も同じである。


 誰も以前の神官ではない。


「神が嘘を教えたんじゃない」


 アリシアが静かに言った。


「教会が、神の名前を使って嘘を教えていたんですね」


 イプシオは何も言わなかった。


 答えはアリシア自身が出している。


 そして、その答えを証明するように、アリシアの背中にはオリハルコンの両手剣があった。


     ◇


 逮捕は大神殿全体へ広がっていった。


 司教。


 大司教。


 枢機卿。


 教会行政を担っていた者たち。


 索敵。


 鑑定。


 アボート。


 バインドバレット。


 捕縛。


 拘束。


 逮捕。


 逃げれば転移で先回りする。


 隠れれば広域索敵で発見する。


 武器を隠しても鑑定で見つかる。


 毒薬を持っていてもアボートで没収される。


 殺傷する必要はなかった。


 やがてアイクたちは大神殿の最奥へ到達した。


 巨大な扉がある。


 その向こうに大きな魔力反応が一つ。


 アリシアも広域索敵を展開した。


 その魔力には覚えがある。


「法王です」


 アイクが扉の前に立った。


 アッシュとロックウェルも左右に並ぶ。


「最後だな」


 アイクが扉へ手を掛ける。


 扉が開いた。




 大神殿最奥の扉が開いた。


 広い部屋の奥に豪華な椅子が置かれ、その前に一人の老人が立っている。


 神聖ラトリアの法王だった。


 アイクは室内へ入ると同時に広域索敵を展開する。


 隠れている者はいない。


 アッシュとロックウェルも周囲を確認した。


「一人だな」


「ああ」


 法王は三人を静かに見た。


「アルデバラン王国の騎士か」


「騎士団長アイクだ」


「アルデバラン王国の法は、いつから神聖ラトリアの法を上回るようになった?」


「知らん」


 アイクは即答した。


 同時に鑑定する。


 杖。


 短剣。


 指輪型の魔道具。


 首飾りにも魔力反応がある。


 祭服の内側には毒薬。


「人道に対する罪だ。人類の敵として逮捕する」


「アボート」


 杖が消えた。


 短剣。


 魔道具。


 毒薬。


 危険物がすべて消える。


「バインドバレット」


 拘束弾が法王へ命中した。


 身体の自由が奪われる。


「連れていけ」


「はっ!」


 それだけだった。


 法王との問答を続ける者はいない。


 ここは法廷ではない。


 何をしたのか。


 誰が命令したのか。


 どこまで関与したのか。


 それを調べるのは司法の仕事だった。


 騎士団の仕事は、対象者を生きたまま捕縛し、拘束し、逮捕すること。


 法王も例外ではない。


 拘束された法王は、そのままアイテムボックスの監禁空間へ収容された。


     ◇


 大神殿内部の制圧が完了した。


 だが捜索はこれからだった。


 アイクは大神殿全体へ広域索敵を広げる。


 地上。


 上階。


 地下。


 隠し部屋。


 周辺施設。


 まだ人の反応がある。


 アイクは一度だけ命じた。


「全部回収」


「はっ!」


 十一万人が一斉に動いた。


 それ以上の指示は必要なかった。


 各部隊が自分たちの担当区域へ散っていく。


 広域索敵。


 透視。


 鑑定。


 壁の向こうに空間があれば確認する。


 地下へ続く隠し通路があれば開く。


 逃走者を発見すれば、その場で対応する。


「アボート」


 武器。


 杖。


 魔道具。


 毒薬。


 危険物が消える。


「バインドバレット」


 拘束。


 そのまま監禁空間へ収容。


 一つの班が終われば次の区画へ進む。


 いちいち団長へ報告には戻らない。


 判断を仰ぐ必要もなかった。


 全部回収。


 命令はそれだけである。


     ◇


 地下牢が発見された。


 中には衰弱した男女がいた。


 騎士たちは足を止めない。


 鑑定。


 生存確認。


 拘束具をアボートする。


「ヒールバレット」


「ピュリフィケーション」


 治療と浄化。


 そのままアイテムボックスの保護空間へ収容する。


 歩かせる必要はない。


 担架も必要ない。


 保護空間へ入れてしまえば安全だった。


 さらに奥にも牢がある。


 同じ手順で救助する。


 発見。


 鑑定。


 治療。


 浄化。


 保護。


 それぞれの騎士が必要な処置を判断し、次へ進んだ。


 別の区画では教会上層部の関係者が隠れていた。


 広域索敵ですでに位置は分かっている。


 壁を土魔法で開く。


「アボート」


「バインドバレット」


 監禁空間。


 数十秒も掛からなかった。


     ◇


 物品の回収も同時に進む。


 書類。


 帳簿。


 本。


 机。


 棚。


 椅子。


 魔石。


 魔道具。


 薬品。


 祭具。


 金貨。


 銀貨。


 宝石。


 食料。


 衣類。


 用途の分からない物品。


 騎士たちは選別しなかった。


 次々とアイテムボックスへ収納する。


 証拠価値があるのか。


 犯罪に使われたのか。


 単なる備品なのか。


 そんな判断はしない。


 司法へ持ち帰ってから調べればいい。


 アイテムボックスの容量に限界はない。


 現場で選別する理由そのものがなかった。


 資料室が空になる。


 保管庫が空になる。


 研究施設が空になる。


 厨房。


 倉庫。


 執務室。


 礼拝堂。


 地下施設。


 建物内部にある物が次々と収納されていく。


 周辺の教会施設でも同じ作業が進んでいた。


 十一万人がそれぞれ動く。


 誰も指示を待たない。


 誰も同じことをアイクへ聞きに来ない。


 目的は理解していた。


     ◇


 大神殿の外では、イプシオたち二十人が待機していた。


 ここから先は騎士団の仕事である。


 アリシアたち十人も中へは入らない。


 自分たちが元神官だからこそ、捜索には関与しなかった。


 アリーが巨大な大神殿を見る。


「すごい速さですね」


 イプシオも広域索敵で内部の動きを確認していた。


「十一万人いるからな」


 それだけではない。


 十一万人が自分で考えて動いている。


 一つの命令を受け、それぞれが必要な仕事を見つけて処理していく。


 それが教導を受けたアルデバラン王国騎士団だった。


 やがて大神殿内部から、人の反応がほとんど消えた。


 犯罪への関与が疑われる者は監禁空間。


 囚われていた者は保護空間。


 物品は通常の収納空間。


 現場で裁かない。


 現場で選別しない。


 ただ回収する。


 判断するのは司法。


 十一万人の騎士団による、神聖ラトリア最後の大捜索は続いていた。




 大神殿の捜索が終わった。


 周辺の教会施設。


 行政施設。


 神官たちの宿舎。


 倉庫。


 地下施設。


 十一万人の騎士団は、それぞれの担当区域を処理していた。


 新しい命令は必要ない。


 アイクが出した命令は一つ。


 全部回収。


 広域索敵と透視を重ね、人がいれば鑑定する。


 犯罪への関与が疑われる者は武器や魔道具、毒薬をアボート。


 バインドバレットで拘束し、そのままアイテムボックスの監禁空間へ収容する。


 囚われていた者は治療と浄化を済ませ、保護空間へ収容。


 物品は選別せず収納する。


 現場で裁かない。


 証拠価値も判断しない。


 そのための司法だった。


 やがて各施設の回収が終わっていく。


 建物だけが残った。


     ◇


 アイクは広域索敵を最大まで広げた。


 アッシュとロックウェルも別方向を確認する。


 人の反応はない。


 アンデッドの反応もない。


 三人が確認を終える。


「撤収」


 アイクの一言で十一万人が動いた。


 各部隊が集結する。


 オーキスも戻ってきた。


「終わったか」


「はっ」


「帰るぞ」


「はっ!」


 それだけで十分だった。


 イプシオたち二十人も撤収に入る。


 アリーは周囲に展開していたゴーレムへ意識を向けた。


 五メートル級二百体。


 二メートル級四百体。


 亡命者の護衛を続けていた六百体の破壊不能ゴーレムである。


 さらに各地で魔石を回収していたゴーレムたちもいる。


「収納」


 次々とアイテムボックスへ戻っていった。


 残す理由はなかった。


     ◇


 巨大な転移ゲートが開かれた。


 十一万人の騎士団が順次帰還していく。


 冒険者ギルドの者たちも続いた。


 イプシオたち二十人も神聖ラトリアを離れる。


 アリシアは転移ゲートへ入る直前、一度だけ王都を振り返った。


 静かだった。


 市場。


 住宅。


 工房。


 学校。


 教会。


 建物は残っている。


 だが、そこに暮らしていた一千万人の民はいない。


 アルデバラン王国への亡命を選んだからだ。


 アンデッドは浄化された。


 ネクロマンサーも捕らえられた。


 教会上層部も逮捕された。


 アリシアは何も言わなかった。


 生まれた国だった。


 神官として生きてきた国でもある。


 それでも戻ろうとは思わなかった。


 アリーたち九人も静かに王都を見ていた。


「行きましょう」


 アリシアが転移ゲートへ入った。


 九人も続く。


 最後にアイクたちがもう一度広域索敵を展開した。


 人。


 なし。


 アンデッド。


 なし。


 危険な魔力反応。


 なし。


「よし」


 三人も転移ゲートを通る。


 役目を終えた巨大なゲートが閉じた。


 神聖ラトリアからアルデバラン王国の者たちが消えた。


     ◇


 王国へ持ち帰られた人員と物品は、そのまま司法へ引き渡された。


 法王。


 枢機卿。


 司教。


 司祭。


 教会行政に関与していた者たち。


 先に捕らえられていたネクロマンサー二十七人。


 拘束された者たちは、監禁空間から司法の管理下へ移される。


 保護空間に収容されていた人々は、保護担当へ引き渡された。


 治療が必要なら治療する。


 食事が必要なら食事を用意する。


 事情聴取は体調が戻ってからでいい。


 押収物も司法へ渡された。


 書類。


 帳簿。


 本。


 魔道具。


 魔石。


 薬品。


 祭具。


 金銭。


 宝石。


 家具。


 その他の物品。


 司法官たちは淡々と仕事を始めた。


 教導管理システムへ担当を登録する。


 逮捕者の身元確認。


 保護された者の確認。


 押収物の分類。


 帳簿の解析。


 命令書の確認。


 供述との照合。


 必要な作業が次々と割り振られていく。


 量が多ければ担当者を増やす。


 専門知識が必要なら、その分野を扱える者へ回す。


 騎士団が現場で判断しなかったものを、司法が一つずつ調べていく。


 何が犯罪に使われたのか。


 誰が関与したのか。


 誰が命令したのか。


 誰にどこまで責任があるのか。


 ここから先は司法の仕事だった。


     ◇


 オーキスは王宮へ戻った。


 戦場で振るっていた剣は、すでに収めている。


 王座に座ると、クレインが報告した。


「陛下。一千万人の亡命は完了しております。教会上層部の逮捕も完了。神聖ラトリア国内のアンデッド反応も確認されておりません」


「うむ」


「統治機構も消滅しました」


 オーキスは頷いた。


「ならば終わりだな」


「はい」


 短いやり取りだった。


 アルデバラン王国は神聖ラトリアを征服していない。


 領土も併合していない。


 新しい支配者も置いていない。


 一千万人の民が自ら国を離れた。


 犯罪に関与した者は逮捕された。


 囚われていた者は救助された。


 そして国を維持する者がいなくなった。


 宗教国家、神聖ラトリア。


 その国は戦争に敗れて滅びたのではない。


 民に見放され、国家として存在できなくなった。


 神聖ラトリアは滅亡した。





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