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戦わずに世界を変えた男――教育と物流で“循環国家”を作ったら、いつの間にか大陸が一つになっていた  作者: 慈架太子


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154 亡命開始

 神聖ラトリア各地で、亡命が始まった。


 家族で冒険者ギルドへ向かう者。


 荷車に家財を積んだ者。


 子供を背負う者。


 老人の手を引く者。


 目的地は国内各地の冒険者ギルド支部。


 そこまで辿り着けば、巨大転移ゲートを通ってアルデバラン王国へ行ける。


 だが教会上層部も、黙って民を逃がすつもりはなかった。


「アンデッドだ!」


 街道を進んでいた人々から悲鳴が上がった。


 前方から大量のアンデッドが押し寄せてくる。


 ただ歩くだけのアンデッドではない。


 剣を持つアンデッド剣士。


 杖を構えるアンデッド魔導師。


 その後ろからも続々と姿を現す。


 亡命希望者たちが怯え、足を止めた。


 その前へ巨大な金属の塊が踏み出す。


 五メートル級の破壊不能ゴーレムだった。


 その両脇を二メートル級が固める。


 アンデッド剣士が斬りかかった。


 甲高い金属音が響く。


 傷一つつかない。


 アンデッド魔導師から火球が放たれた。


 爆発。


 炎が巨体を覆う。


 それでもゴーレムは前進する。


 痛みを感じない。


 恐怖もない。


 何度攻撃されても怯まない。


 五メートル級が腕を振るった。


 アンデッドの集団がまとめて吹き飛ぶ。


 二メートル級も前進し、亡命希望者へ近づこうとするアンデッドを次々と蹴散らした。


「止まらず進んでください!」


 護衛の冒険者が叫ぶ。


「ゴーレムが守ります! 冒険者ギルドへ!」


 止まっていた人の流れが再び動き出した。


 だが、アンデッドの数が多い。


 同じことが神聖ラトリア各地で起きていた。


「きりがないな」


 イプシオは空を見上げた。


 ハーレイとアレッタは広域索敵を続けている。


「まだ増えています」


「だったら一体ずつ相手にする必要はない」


 イプシオたち二十人が空へ手を向けた。


「ピュリフィケーションバレットレイン!」


 無数の浄化弾が空高く舞い上がる。


 そして雨となった。


 神聖ラトリア全土へ、浄化の魔法弾が降り注ぐ。


 街道。


 森。


 町。


 墓地。


 アンデッドが存在する場所へ、ピュリフィケーションバレットが降り続けた。


 剣士が消える。


 魔導師が浄化される。


 地中から現れたアンデッドまで消えていく。


 一時間。


 六時間。


 十二時間。


 二十四時間。


 普通の魔法使いなら、とっくに魔力が尽きている。


 だが二十人は止まらない。


 常に続けてきた魔力循環。


 魔力は循環し続け、枯渇しなかった。


 翌日も。


 さらに翌日も。


 三日間。


 二十四時間途切れることなく、神聖ラトリア全土へ浄化の雨が降り続けた。


 その間もハーレイとアレッタは広域索敵を続けていた。


「見つけました!」


 ハーレイが声を上げる。


「地下です。人間がいます。周囲にアンデッドが大量に」


「ネクロマンサーか?」


「可能性が高いです」


「行こう」


 イプシオが走り出そうとする。


「待て」


 ガイルが止めた。


「そんなことしてたら逃げられるぞ」


「でも地下ですよ?」


「転移しろ」


 イプシオがガイルを見る。


「俺たち、転移できませんよ」


「じゃあ今覚えろ」


「今ですか?」


「今必要なんだろ?」


「……はい」


「なら覚えろ」


 ガイルの教導が始まった。


 広域索敵で目的地を捉える。


 空間を魔力で繋ぐ。


 魔力循環を崩さず、移動する場所を明確に意識する。


「やってみろ」


 イプシオが集中した。


 姿が消える。


 数メートル離れた場所へ現れた。


「できた……」


 自分を鑑定する。


《転移魔法》


「先生! できました!」


「なら次だ」


 エースが消える。


 レビン。


 トレノ。


 アリシア。


 次々と転移に成功する。


 二十人全員が転移魔法を発現した。


「これで行けるな」


「はい!」


 ハーレイとアレッタが索敵で捉えた座標を共有する。


 二十人が一斉に消えた。


 地下施設。


 突然現れた二十人を見て、黒衣の男たちが驚く。


「なっ!」


「捕縛!」


「拘束!」


 バインドが飛ぶ。


 身体を縛る。


 鑑定。


 ネクロマンサー。


「確定だ」


 アイテムボックスを開く。


「監禁」


 捕らえたネクロマンサーを内部へ収容する。


 索敵。


 転移。


 捕縛。


 拘束。


 監禁。


 その戦術が繰り返された。


 一人。


 五人。


 十一人。


 十七人。


 二十四人。


「二十四人目です」


 アレッタが報告した。


 イプシオは頷く。


「まだいるかもしれない。索敵を続けよう」


「はい」


 その間にも亡命は続いていた。


 三日間で三百万人。


 巨大転移ゲートを通り、アルデバラン王国へ移動している。


 残る推定七百万人。


     ◇


 神聖ラトリアの上層部は焦っていた。


「また浄化されたのか!」


「はい……」


「アンデッドを追加しろ!」


「出しても同じです! 空から浄化魔法が降り続けています!」


「ネクロマンサーは何をしている!」


「連絡が取れません」


「何人だ!」


「確認できるだけで二十四人です」


 アンデッドを出せば浄化される。


 ネクロマンサーを動かせば捕まる。


 その間にも民は消えていく。


 すでに三百万人。


 そして神聖ラトリアの空には、今も浄化の雨が降り続けていた。




 三日間降り続いた浄化の雨が止んだ。


 神聖ラトリア各地を覆っていたアンデッドの反応も、ほとんど消えている。


 だがハーレイとアレッタは広域索敵を止めなかった。


「まだ探すのか?」


 イプシオが尋ねる。


「二十四人で終わりとは限りません」


 ハーレイが答える。


「地下も調べます。建物の中も」


「そうだな。頼む」


 二人は範囲を広げていった。


 地上だけではない。


 地下施設。


 教会。


 修道院。


 墓地。


 人里から離れた森。


 魔力反応を一つずつ確認する。


 イプシオたちは、その情報を待ちながら亡命希望者の護衛を続けた。


 転移魔法を覚えたことで、動き方は大きく変わっている。


『北東の街道に魔物です』


 念話が入る。


「分かった」


 イプシオたちが転移する。


 現れたのはオークの群れだった。


「捕縛でいいな」


「はい」


 バインドが飛ぶ。


 数十体のオークが一斉に拘束された。


 討伐。


 解体。


 肉はアイテムボックスへ収納する。


「これも食料に使えますね」


 アリシアが言う。


「一千万人近く動くんだ。食料はいくらあっても困らないだろ」


 処理を終えると、再び転移した。


 別の街道では五メートル級ゴーレムが倒木を持ち上げていた。


 二メートル級が周囲を警戒している。


 道が開くと、亡命希望者たちが進み始める。


「ありがとうございます!」


 頭を下げる者がいた。


 イプシオは片手を上げるだけで応えた。


「ギルドまで気をつけて」


「はい!」


 その光景を見ていたアリシアが呟く。


「不思議です」


「何が?」


「少し前まで、私たちは教会から出ることすら考えていませんでした」


「そうなのか?」


「神聖ラトリアでは、それが普通でしたから」


 アリシアは歩いていく人々を見る。


「教会に従っていればいい。神官は治癒だけを学べばいい。そう教えられていました」


「今は?」


「自分で考えています」


 イプシオが笑う。


「ならいいんじゃないか?」


「それだけですか?」


「それ以外に何かいる?」


 アリシアも笑った。


「イプシオさんも、先生に似てきましたね」


「先生に?」


「はい」


 少し離れたところで聞いていたガイルが振り返る。


「俺はそんな適当じゃねぇぞ」


「聞いてたんですか?」


「聞こえたんだよ」


 アンジェラが笑う。


「似ていると思うわよ」


「どこがだよ」


「考えさせるところ」


「俺は面倒だから答えを言ってねぇだけだ」


「それを言わなければ格好良かったのに」


「うるせぇよ」


 重かった空気が少しだけ和らいだ。


 その時、ハーレイが顔を上げた。


「反応があります」


 全員の表情が変わる。


「どこだ?」


「西です。地下深く。人間が三人。その周囲に……これは何でしょう?」


 アレッタも索敵を重ねる。


「アンデッドではありません」


「魔物か?」


「違います。人間に近いですが、魔力がおかしいです」


「行ってみるか」


 イプシオが答えた。


 今度は走り出さない。


 座標を確認する。


「転移」


 二十人の姿が消えた。


 地下へ現れる。


 すぐに索敵。


 鑑定。


 奥に三人の男がいた。


 その周囲には、まだ完全にアンデッドになっていない人々が横たわっている。


「何をしてる!」


 アリシアが声を上げた。


 三人が振り返る。


「侵入者だ!」


 魔法を放とうとする。


「遅い」


 イプシオが手を向けた。


「バインド」


 三人の身体が拘束される。


 アリシアたちは床に横たわる人々へ駆け寄った。


「生きています!」


「まだ間に合う!」


「ピュリフィケーション!」


 浄化魔法を使う。


 黒く濁っていた魔力が消えていく。


 エースたちも治癒を始めた。


「ヒールバレット!」


 無数の治癒弾が飛ぶ。


 弱っていた身体が回復していった。


 イプシオは拘束した三人を鑑定する。


「ネクロマンサーだ」


「まだいたんですね」


「ああ」


 アイテムボックスを開く。


「監禁」


 三人を収納した。


 これで二十七人。


 だが誰も終わったとは考えなかった。


「ハーレイ、アレッタ」


「はい」


「索敵を続けてくれ」


「もちろんです」


     ◇


 一方、各地の冒険者ギルドでは人の列が途切れなかった。


「次の方!」


「家族は一緒ですか?」


「五人です!」


「では離れないように転移ゲートへ進んでください!」


 巨大な門をくぐる。


 その先はアルデバラン王国だった。


 王国側にも冒険者ギルド職員、文官、商業ギルド、食品ギルド、薬師ギルドの者たちが待機している。


 食事。


 衣服。


 住居。


 仕事。


 必要なものを確認し、次々と振り分けていく。


 帝国や公国から大勢の人々を受け入れてきた経験が、そのまま生かされていた。


 神聖ラトリア側では、亡命希望者の列がさらに伸びている。


 三百万人が渡った。


 それでもまだ終わらない。


 推定七百万人が残っている。


 イプシオは地下から地上へ戻り、大空を見上げた。


「まだ先は長いな」


 ガイルが隣に立つ。


「だったら続けりゃいいだろ」


「そうですね、先生」


 イプシオは笑った。


 亡命はまだ始まったばかりだった。




 二十七人。


 ハーレイとアレッタが広域索敵を続けた結果、捕縛したネクロマンサーはそこまで増えていた。


「今のところ、新しい反応はありません」


 ハーレイが報告する。


「分かった。でも索敵は続けてくれ」


「はい」


 イプシオは拘束された二十七人を見る。


 全員がバインドで身体の自由を奪われている。


 ここで彼らを裁くつもりはなかった。


「アルデバラン王国へ引き渡そう」


 アリシアが頷く。


「その方がいいと思います」


 誰の命令で動いていたのか。


 どれだけの人間をアンデッドにしたのか。


 他にもネクロマンサーがいるのか。


 調べるべきことは多い。


 二十七人を改めて鑑定する。


「武器を持ってます」


 エースが一人を指した。


「こっちにもあります」


 衣服の中に隠された短剣。


 小型の魔道具。


 さらに小さな容器を隠し持っている者もいた。


 イプシオが鑑定する。


「毒薬だな」


「毒?」


 アリシアが眉を寄せる。


「自殺用だと思う」


「そこまでしますか……」


「情報を喋らせたくないんだろうな」


 イプシオが手を向けた。


「アボート」


 短剣が消えた。


 魔道具も消える。


 隠されていた武器も、自殺用の毒薬も没収されていく。


 拘束は解かない。


「これでいい」


 二十七人をアルデバラン王国へ移送した。


     ◇


 王国側で待っていたのは騎士団長アイクだった。


「二十七人だな」


「はい。全員ネクロマンサーです」


 イプシオが答える。


「拘束したままです。武器と魔道具、それから自殺用の毒薬も持っていたので、アボートで没収しました」


「分かった」


 アイクは部下へ視線を向ける。


「拘束は解くな。そのまま司法へ引き渡せ」


「はっ!」


「一人ずつ監視をつけろ。勝手な判断で尋問もするな」


 二十七人が順番に連行されていく。


 イプシオはアイクを見る。


「お願いします」


「ああ。ここから先は王国の仕事だ」


「はい」


「お前たちは神聖ラトリアへ戻れ。まだ終わってないんだろ?」


「あと三百万人ほど残っています」


「なら、そっちを優先しろ」


「分かりました」


 捕らえるところまではイプシオたちの仕事。


 調査し、罪を明らかにして裁くのは司法の仕事。


 役割を混ぜる必要はなかった。


     ◇


 神聖ラトリアへ戻ると、別の仕事が待っていた。


 魔石だった。


 三日間にわたるピュリフィケーションバレットレインで、国中のアンデッドが浄化された。


 その結果、いたるところに魔石が落ちている。


「多いですね……」


 アリシアが周囲を見渡す。


 街道だけではない。


 森。


 荒野。


 墓地。


 町の外。


 国中に散らばっていた。


「アリー」


 イプシオが呼ぶ。


「もうやっています」


 返事が早かった。


 以前から使っていた魔石回収ゴーレムたちが、すでに動き回っている。


 一メートルほどの小型ゴーレム。


 背中にはマジックバッグ。


 魔石を探す。


 拾う。


 収納する。


 再び探す。


 黙々と作業を繰り返していた。


「でも、これだけじゃ足りません」


 アリーは二メートル級の破壊不能ゴーレムへ指示を送る。


「あなたたちも手伝って。魔石を見つけたら回収してください」


 二メートル級ゴーレムたちが一斉に動いた。


 マジックバッグを受け取り、各地へ散っていく。


「五メートル級も使うか?」


 イプシオが聞く。


「使いません」


 アリーは即答した。


「五メートル級は警護を続けてもらいます」


「亡命者の方が優先か」


「魔石は逃げませんから」


「確かに」


 五メートル級二百体は引き続き、人々の流れを守っていた。


 亡命希望者の列の左右を歩く。


 魔物が現れれば前へ出る。


 荷車が動かなくなれば押す。


 道を塞ぐ障害物があれば退かす。


 戦闘が減っても仕事はいくらでもあった。


 一方、アリーは大量のゴーレムを制御し続けていた。


「北側に五十体。西側は回収が遅れています。百体向かってください」


 破壊不能ゴーレムが進路を変える。


「小型は墓地を優先。建物の中にも入ってください」


 イプシオが感心する。


「よくそこまで同時に動かせるな」


「慣れました」


「大変じゃないのか?」


「楽しいですよ」


「楽しいのか……」


 アリーは笑っていた。


 その間にも、巨大転移ゲートを通る人の流れは止まらない。


 三百万人だった亡命者は、さらに増えた。


 四百万人。


 五百万人。


 六百万人。


 そして七百万人。


「七百万人を超えました」


 エミリアが端末を確認して報告した。


 アリシアが息を吐く。


「あと三百万人……」


「ああ」


 イプシオは冒険者ギルドへ向かう人々を見る。


 まだ終わってはいない。


 だが確実に進んでいた。


 アンデッドは浄化した。


 ネクロマンサー二十七人も王国司法へ引き渡した。


 五メートル級ゴーレムは民を守り続けている。


 二メートル級と小型ゴーレムは、国中に散った魔石を回収している。


 そして七百万人が、すでに神聖ラトリアを離れた。


 残るは三百万人。


 亡命は、終盤へ入ろうとしていた。




 神聖ラトリア国内の冒険者ギルド支部で、最後の亡命希望者が巨大転移ゲートをくぐった。


 エミリアが端末を確認する。


「確認できました。一千万人、亡命完了です」


 アリシアが静かに息を吐いた。


「終わった……」


「亡命はな」


 イプシオが答える。


 各地の冒険者ギルドも撤収準備に入っていた。


 受付を閉じ、記録をまとめ、職員や冒険者を順番に転移ゲートの向こうへ送っていく。


 町から人が消えていた。


 商店は閉じられている。


 工房も動いていない。


 農地を耕す者もいない。


 物流も止まった。


 税を納める民もいなければ、行政を支える者もいない。


 建物も国土も残っている。


 だが神聖ラトリアは、すでに国家として崩壊していた。


     ◇


 それでも教会上層部は残っていた。


「一千万人が……いなくなった?」


「はい」


「冒険者ギルドも撤収を始めています」


 報告を聞いた上級神官たちは言葉を失った。


 支配する民がいない。


 命令を出す相手もいない。


 それでも自分たちの敗北を認められなかった。


「出せ」


 一人が低い声で言った。


「残していたアンデッドを出せ」


「しかし、それを使えば……」


「もう構わん! 全部出せ!」


 最後の賭けだった。


     ◇


「来ます!」


 ハーレイが声を上げた。


 アレッタも広域索敵を展開する。


 イプシオも即座に広域索敵を広げた。


「多いな……」


 地下。


 墓地。


 教会施設。


 各地から巨大な魔力反応が次々と現れる。


「一万を超えてる」


 イプシオはさらに索敵範囲を広げる。


 普通のアンデッドではない。


「デスナイト、デュラハン……リッチまでいる」


「まだ増えています」


 ハーレイが反応を追う。


 アレッタも別方向を確認していた。


「強力な反応ばかりです」


「残してた奴を全部出したみてぇだな」


 ガイルが言った。


 アリシアはオリハルコンの両手剣を抜く。


「戦います」


 他の神官たちも剣を構えた。


 だがイプシオは別の反応に気づいた。


「待ってください」


「どうした?」


「西から……ものすごい数が入ってきています」


 アンデッドではない。


 人間だった。


 整然とした巨大な集団が国境を越えている。


 直後、エミリアの端末にも報告が入った。


「アルデバラン王国騎士団です」


「騎士団?」


「十一万人」


 イプシオがもう一度索敵する。


 確かに十一万人規模の集団だった。


     ◇


 王国騎士団は、何も知らずに神聖ラトリアへ入ったわけではなかった。


 管理システムには、現地からの報告が蓄積されている。


 一千万人の亡命。


 三日間続いたピュリフィケーションバレットレイン。


 ネクロマンサー二十七人の捕縛。


 各地のアンデッドの消滅。


 そして新たに発生した、一万体を超える強力なアンデッド。


 必要な情報はすでに共有されていた。


「抜剣!」


 十一万人の騎士が一斉に剣を抜いた。


 前方からデスナイトの集団が迫る。


 巨大な剣。


 全身鎧。


 普通の兵士なら、それだけで足が止まる。


 だが王国騎士団は止まらなかった。


 魔力循環。


 魔力が全身を巡る。


 循環膜が身体を覆う。


「前進!」


 騎士たちが走った。


 デスナイトの大剣が振り下ろされる。


 一人が受け流す。


 もう一人が懐へ入る。


 剣が鎧を斬り裂いた。


 さらに横から二人。


 デスナイトが倒れる。


「次!」


 止まらない。


 デュラハンの一団が突撃してきた。


「散開!」


 騎士たちが左右へ分かれる。


 突撃をかわす。


 側面へ回る。


「斬れ!」


 何本もの剣が走った。


 馬の脚を断つ。


 体勢を崩したデュラハンへ騎士たちが殺到する。


 後方ではリッチが魔法を放った。


 火球。


 氷槍。


 闇の弾丸。


 騎士たちは回避しながら距離を詰める。


「魔法を撃たせ続けるな!」


「接近しろ!」


 数十人が一気に踏み込んだ。


 剣がリッチを斬り裂く。


 一体。


 十体。


 百体。


 上位アンデッドが次々と倒れていく。


 イプシオたちは少し離れた場所から戦場を見ていた。


「先生」


「何だ?」


「強いですね」


「十一万人もいるからな」


「人数だけじゃないですよ」


 イプシオには分かる。


 一人一人が魔力循環を維持している。


 互いの位置を把握し、無理に一人で倒そうとしない。


 剣士として集団で戦っている。


 アリシアも両手剣を下ろした。


「私たちの出番、ありませんね」


「みたいだな」


 イプシオも剣を収める。


 ガイルが笑った。


「なら任せとけ」


 アレクサンドも戦場を眺めていた。


「せっかく十一万人も来たんだもの。働いてもらいましょう」


「おめぇが言うと酷ぇな」


「どうしてよ?」


 アンジェラが横で笑っていた。


 神聖ラトリア上層部が最後の賭けとして放った、一万体を超える上位アンデッド。


 それを迎え撃つ十一万人の王国騎士団。


 剣を手にした騎士たちは、一歩も退かなかった。


 殲滅が始まっていた。





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