153 亡命提案
神聖ラトリアへ派遣されたエミリアは、すぐに現地での仕事に馴染んでいた。
エミリーから引き継いだ記録と報告。
戦闘の経過、アンデッドの種類と数、回収した魔石、十九人の戦闘状況。必要な情報を整理し、端末を使ってアルデバラン王国へ送る。
仕事ぶりに問題はない。
ただ、以前とは少し違う光景が増えていた。
男性神官たちの視線が、エミリアへ向いている。
女性としてはかなりの高身長。豊かな胸と尻、それに対して腰は細くくびれている。顔立ちも整っていた。
そしてサキュバス系の魔族である。
エミリアも、その視線には気づいていた。
嫌がってはいない。
むしろ少し嬉しそうだった。
サキュバスという種族の性質なのか、異性から向けられる好意的な視線は心地良い。
それでも仕事はきちんとこなす。
「記録完了。報告を送信します」
端末を操作する。
送信を終えると、すぐに次の記録へ取り掛かった。
その頃、イプシオは別のことを考えていた。
アンデッドを狩る。
魔石を回収する。
またアンデッドが現れる。
それを狩る。
「……このままでいいのか?」
戦闘には困っていない。
だが、これではアンデッドを間引いているだけだ。
原因そのものは何も変わっていない。
「いや。原因を断つべきだな」
イプシオは仲間を集めた。
イプシオたち九人。
アリシアたち神官十人。
記録担当のエミリア。
二十人で今後について相談する。
「司教や司祭のいる場所を叩こう」
一人が提案した。
「それより枢機卿や法王を討つべきじゃないか? 上を止めないと終わらないだろ」
「待て」
イプシオが止める。
「いきなり上を叩けば混乱が大きくなる。こっちの人数も少ない」
倒せるかどうかだけなら、やってみなければ分からない。
だが倒した後が問題だった。
神聖ラトリアでは教会が国を動かしている。
いきなり上層部を失えば、各地で何が起きるか分からない。
「だったら、ゴーレム部隊を向かわせてはどうだ?」
別の意見が出る。
「インゴットなら大量にあるだろ。オリハルコンもミスリルもアダマンタイトもある」
「あるな」
「それでゴーレムを造る。アンデッドには破壊できないだろう?」
「そうか」
イプシオが頷いた。
「俺たちが少ないなら、ゴーレムを増やせばいいのか」
「各地へ送れる。司教や司祭のいる場所へ同時に向かわせることもできる」
何体造るか。
どの金属を使うか。
どう命令するか。
話が具体的になり始める。
その時、アリシアが口を開いた。
「その前に、国民を避難させた方が良くないですか?」
全員がアリシアを見る。
「アンデッドを倒しても、新しいアンデッドが現れています」
アリシアは少し俯いた。
「私たちが浄化した方の中には、知っている人もいました」
誰も口を挟まなかった。
「教会へ祈りに来ていた人もいました。町で何度も顔を合わせた人もいました」
アリシアは顔を上げる。
「このままでは、助ける前にアンデッドにされてしまいます」
「……そうだな」
イプシオも否定できなかった。
「でも、どこへ避難させる?」
「話は分かったわ」
突然、女性の声がした。
二十人が振り返る。
何もなかった場所から、アレクサンドが姿を現した。ステルスを解除したのだ。
「アレクサンド侯爵様」
アリシアが驚く。
「アルデバラン王国へ亡命させては?」
「亡命……」
「このままここにいたら、アンデッドにされるだけだわ」
アリシアの表情が変わった。
「それができると一番いいですけれど……」
「そうね。ただし、私が決めていいことではないわ」
アレクサンドはマーガレットへ念話を繋いだ。
『殿下、少しよろしいでしょうか?』
『何?』
アレクサンドは現在の状況を説明した。
アンデッドを倒し続けても新たな犠牲者が出ていること。
教会上層部を攻撃すれば、国そのものが混乱する可能性があること。
そしてアリシアから、国民を先に避難させたいという提案が出たこと。
『なるほどね』
マーガレットは少し考えた。
『分かったわ。お父様に相談するわ』
『ありがとうございます。お願いいたします』
念話が切れた。
アレクサンドはアリシアたちを見る。
「殿下がお話ししてくださるそうよ」
「ありがとうございます」
アリシアが深く頭を下げた。
「まだ陛下のお返事はいただいていないわ」
「それでもです」
先ほどまで重かった空気が、少し和らいだ。
イプシオが立ち上がる。
「それじゃ、返事が来るまでゴーレムでも造るか?」
「今からですか?」
アリシアが目を丸くする。
「インゴットならあるだろ?」
「ありますけど……」
「なら造れる」
イプシオの答えは単純だった。
国民の亡命という大きな話をした直後とは思えないほど軽い。
エミリアが端末へ記録しながら笑った。
アリシアもやがて笑う。
「そうですね。造りましょう」
待っているだけでは何も進まない。
イプシオの言葉は軽い。
だが、それが妙に良かった。
イプシオがゴーレムを造る準備を始めようとした時だった。
周囲の景色がわずかに揺らいだ。
何もなかった場所から、次々と人影が現れる。
ガイルたち二十六人がステルスを解除して姿を現した。
「先生!」
イプシオが叫んだ。
「おう」
ガイルが片手を上げた。
エース、レビン、トレノたちも一斉に振り返る。
「先生たちもいたんですか?」
「最初からいたぞ」
「最初から?」
「ああ。ずっと見てた」
イプシオが目を丸くした。
アンデッドとの戦闘も。
負傷者への治癒も。
魔石回収ゴーレムを造った時も。
ダンジョンへ入った時も。
インゴットを精錬した時も。
自分たちが剣を手にして戦った時も。
全部見られていたことになる。
「だったら声をかけてくださいよ」
「必要なかっただろ」
ガイルはあっさり答えた。
「お前ら、自分たちで考えて動いてたじゃねぇか」
「それはそうですけど」
「危なくなりゃ出るつもりだった。だが出る必要がなかった。それだけだ」
イプシオは少し考え、それから笑った。
「じゃあ、合格ですか?」
「知らねぇよ」
「先生でしょう?」
「試験なんかしてねぇ」
「そうなんですか?」
「勝手に合格するな」
近くにいたアレクサンドが笑った。
「いいじゃない。合格にしてあげれば?」
「おめぇまで何言ってんだよ」
「だって、ちゃんとできていたでしょう?」
「まあ、それはそうだけどよ」
「じゃあ合格ね」
「おめぇが決めんのかよ」
アンジェラも笑っていた。
その様子を見ていたアリシアたち神官は、少し戸惑っている。
イプシオが気づいた。
「ああ。この人たちが俺たちの先生だ」
「この方々が……」
アリシアが改めて二十六人を見る。
先ほどから姿を見せていたアレクサンドも含めれば二十七人。
アレクサンド侯爵卿。
アダムス名誉侯爵卿。
アンジェラ伯爵卿。
ガイル子爵卿。
そして二十三人の男爵卿。
アルデバラン王国の爵位持ちが揃っている。
だがイプシオたちにとっては、爵位より先に先生だった。
アリシアは頭を下げる。
「アリシアと申します。イプシオさんたちには、私たちが知らなかったことをたくさん教えていただきました」
「そうか」
ガイルが答えた。
「ありがとうございます」
「礼ならイプシオたちに言ってやれ。俺たちは今回、何もしてねぇからな」
「ですが、イプシオさんたちを教えたのは皆様なのでしょう?」
「まあな」
「でしたら、私たちにとっては先生の先生ですね」
「先生の先生かよ……」
ガイルが頭を掻く。
イプシオが笑った。
「諦めてください、先生」
「何をだよ」
少し離れた場所では、エミリアが二十六人の登場も端末へ記録していた。
アレクサンドが覗き込む。
「それも報告するの?」
「もちろんです」
「何て書くの?」
「ガイル子爵卿以下二十六名がステルスを解除。先行して姿を現していたアレクサンド侯爵卿と合流」
「細かいわね」
「記録ですから」
「私たちの会話も?」
「必要なものだけです」
ガイルが横から口を挟む。
「じゃあ、さっきの合格の話は?」
「不要です」
「だよな」
「先生の先生についても不要です」
「それも助かる」
アリシアが小さく笑った。
エミリアは端末を閉じる。
「ただし、皆様が最初からステルスで同行していたことは記録します」
「そこは書くのかよ」
「重要です」
「何が重要なんだ?」
「二十七人も隠れていて、誰にも気づかれなかったことです」
「……そういうことか」
ガイルも納得した。
イプシオは並べられたインゴットを見る。
「先生」
「今度は何だ?」
「ゴーレム造り、手伝ってください」
「俺たちもか?」
「はい」
「お前らだけで造るんじゃなかったのか?」
「人数が増えましたから」
「勝手に戦力へ入れんなよ」
「暇ですよね?」
「お前、遠慮がなくなったな」
「先生に教わりました」
「そんなこと教えてねぇよ」
また笑いが起きる。
アダムスはすでにインゴットの前へしゃがみ込んでいた。
「何体造ります?」
ガイルが振り返る。
「お前はやる気満々だな」
「面白そうですから」
イプシオも笑う。
「数は多い方がいいです。国民の避難にも使えるかもしれません」
その言葉に、アレクサンドが頷いた。
「そうね。戦わせるだけじゃなく、護衛や荷物の運搬にも使えるわ」
「だったら大きさも何種類かあった方がいいですね」
アダムスがすぐに話を広げる。
「人を運べる大型も造りましょう」
「いいな」
話はあっという間に具体化していった。
王国からの返事はまだ来ていない。
だからといって、ただ待つ理由もない。
目の前には数十万トンのインゴットがある。
造れる者もいる。
使い道もある。
「よし、造るか」
ガイルが袖をまくった。
「はい!」
イプシオが元気よく答える。
その場にいた四十七人が動き始めた。
亡命の返事を待つ間に、できることをやる。
それだけだった。
ゴーレム造りを始める前に、ガイルはイプシオたちを見回した。
「そういや、お前らにまだ教えてねぇものがあったな」
「何です?」
イプシオが聞く。
「ステルスだ」
「あっ」
イプシオはガイルたち二十六人が現れた場所を見る。
最初から同行していたにもかかわらず、自分たちはまったく気づかなかった。
「教えてください」
「そのつもりだ」
ガイルはイプシオたち二十人を集めた。
エミリアも端末をアイテムボックスへ収納して加わる。
「難しく考えんな。姿だけ消しても駄目だ。魔力循環膜の外側へ薄く魔力を流せ」
ガイルがステルスを使う。
目の前にいた姿が消えた。
「見えない……」
アリシアが呟く。
声は聞こえている。
「次は気配だ。自分の魔力を外へ漏らすな。常にやってる魔力循環を利用すりゃいい」
ガイルが姿を現した。
「やってみろ」
二十人が魔力循環を続けながら、自分の周囲へ魔力を薄く広げていく。
最初に消えたのはイプシオだった。
「おっ」
ガイルが笑う。
続いてエース。
レビン。
トレノ。
アリシアの姿も消える。
「できました!」
「声で分かるぞ」
「あっ」
周囲から笑い声が上がった。
「姿を消しても喋ったら意味ねぇだろ」
「そうですね」
「あと足音もだ。地面を蹴りすぎるな」
今度は移動を始める。
姿を隠す。
気配を抑える。
足音を消す。
魔力循環を乱さない。
失敗すれば姿が一瞬浮かび上がる。
そのたびにガイルが修正した。
「アリー、魔力を広げすぎだ」
「はい」
「アリシアは循環を止めんな。そのまま維持しろ」
「分かりました」
エミリアも挑戦していた。
「私も必要でしょうか?」
「情報集めるなら一番必要じゃねぇか?」
「確かに」
エミリアの姿が消えた。
「お前、上手いな」
「サキュバスですから」
「関係あんのか?」
「分かりません」
「分かんねぇのかよ」
一時間ほど経った頃には、二十人の姿が完全に消えていた。
索敵を使っても、意識して探さなければ見落とすほど気配が薄い。
イプシオが自分を鑑定する。
「ステルス魔法、発現しました」
「俺もだ」
「私もです」
次々と声が上がる。
二十人全員がステルス魔法を発現していた。
「よし。終わり」
「もうですか?」
「使いながら覚えろ」
ガイルはそれ以上教えなかった。
「じゃあ次だ」
今度こそゴーレム造りが始まった。
◇
大量のインゴットが地面へ並べられる。
オリハルコン。
ミスリル。
アダマンタイト。
四十七人が手分けして金属魔法を使った。
「まず五メートル級だ」
イプシオが金属を変形させる。
巨大な脚。
胴体。
太い腕。
頭部。
一体目が立ち上がった。
「でかいな」
ガイルが見上げる。
「これなら人も運べます」
アリシアが言う。
「避難する人の荷物も運べますね」
アレクサンドも頷いた。
「戦闘だけに使う必要はないわ。瓦礫の撤去や街道整備にも使えるもの」
次々と五メートル級が造られていった。
五十体。
百体。
二百体。
巨大な金属ゴーレムが整然と並ぶ。
次は二メートル級だった。
「こっちは町の中でも使いやすいですね」
アリーが造った一体を歩かせる。
「護衛にも魔石回収にも使えます」
「荷物運びもできるな」
二メートル級はさらに数を増やした。
百体。
二百体。
三百体。
四百体。
合計六百体。
五メートル級二百体。
二メートル級四百体。
金属で造られたゴーレムの部隊が完成した。
イプシオは六百体を見渡す。
「……造りすぎました?」
「今さら言うのかよ」
ガイルが呆れる。
アダムスは一体の五メートル級を鑑定していた。
「問題ありません。普通のアンデッドでは破壊できないでしょう」
「じゃあいいか」
「いいんですか?」
アリシアが笑う。
「使い道はいくらでもあるだろ」
イプシオは五メートル級の足を軽く叩いた。
「戦わせてもいい。人を守らせてもいい。荷物を運ばせてもいい」
アリーが続ける。
「魔石回収もできます」
「それもあったな」
六百体のゴーレムが静かに立っている。
少し前まで、二十人しかいないことを問題にしていた。
今は違う。
二十人に二十七人の教師たち。
そして六百体の金属ゴーレム。
王国からの返事を待っている間に、戦力だけでなく、これから民を守るための手足まで増えていた。
六百体の金属ゴーレムが完成して間もなく、アレクサンドに念話が入った。
『アレクサンド侯爵』
マーガレットだった。
『はい、殿下』
『お父様から返事があったわ。神聖ラトリアからの亡命を許可するそうよ』
アレクサンドの表情が明るくなった。
『ありがとうございます』
『推定では一千万人ほどになるわ』
『一千万人ですか』
決して少ない人数ではない。
だがアルデバラン王国は、すでに帝国から約二千五百万人、公国から約五百万人を受け入れている。
大規模な人口流入そのものは経験済みだった。
『冒険者ギルドをはじめ、関係するギルドにも共有したわ。受け入れ準備も始まっている』
『承知いたしました』
『お父様からは、出身による差別や文化の違いによる問題が起きる前に対応するよう指示が出ているわ』
アレクサンドは頷いた。
人口が増えてから考えるのではない。
増えると分かった時点で動く。
『現地では亡命希望者の安全確保をお願い』
『承知いたしました』
念話が切れた。
「許可が出たわ」
アレクサンドが告げる。
アリシアが顔を上げた。
「本当ですか?」
「ええ。アルデバラン王国は亡命を希望する神聖ラトリアの民を受け入れるそうよ」
「よかった……」
アリシアたち神官の表情が緩んだ。
自分たちが知っていた人々がアンデッドになっていた。
これ以上、同じことを繰り返させずに済むかもしれない。
「人数はどれくらいになりそうです?」
イプシオが尋ねた。
「推定で一千万人」
「多いですね」
「多いわよ」
ガイルが腕を組む。
「でも帝国から二千五百万人、公国から五百万人を受け入れてんだろ?」
「ええ」
「なら経験はあるわけだ」
「そういうことね」
問題は、どうやって神聖ラトリアの民へ知らせるかだった。
教会を通すことはできない。
町や村を一つずつ回るには時間がかかりすぎる。
アダムスが空を見上げた。
「投影魔法を使ってはいかがでしょう?」
イプシオも空を見る。
「アダムス卿、それなら一度に多くの人へ知らせられますね」
「ええ。できるだけ大きく投影しましょう。文字だけではなく、記録した映像も使えます」
「それなら教会上層部が何をしていたのかも見せられます」
エミリアが端末を持ち上げた。
「記録ならあります」
アリシアが頷く。
「お願いします。言葉だけでは信じない人もいると思います」
「そうですね。事実を見てもらいましょう」
◇
最初に動いたのは冒険者ギルドだった。
神聖ラトリア国内に存在するすべての支部。
その敷地や隣接する広場に、巨大な転移ゲートが次々と設置された。
数人を転移させるためのものではない。
大勢の人間が連続して通過できる巨大な門だった。
行き先はアルデバラン王国。
ギルド職員たちは受付場所を増やした。
冒険者も集められる。
誘導。
護衛。
家族の確認。
荷物の運搬。
転移ゲートを通過した後の振り分け。
一千万人規模の移動を想定して準備が進められた。
そして準備が整うと、神聖ラトリアの空が変わった。
巨大な映像が大空に現れた。
「何だ?」
「空を見ろ!」
王都だけではない。
地方都市。
町。
村。
各地の人々が空を見上げる。
映し出されたのは、教会上層部が行ってきた犯罪だった。
捕らえられた人々。
隠されていた施設。
アンデッドにされた者たち。
エミリーとエミリアが記録してきた事実が、次々と大空へ映し出される。
巨大な文字が現れた。
『神聖ラトリアの民へ』
『教会上層部による犯罪が確認されています』
『国民がアンデッドにされている事実も確認されています』
各地でざわめきが広がった。
「嘘だ……」
「あの人、知ってるぞ」
「教会へ行ったまま帰ってこなかった人だ」
行方不明になった家族。
突然姿を消した隣人。
戻ってこなかった友人。
知っている顔を見つけ、泣き崩れる者もいた。
映像は続いた。
『この国に残り続けた場合、アンデッドにされる恐れがあります』
そして新しい告知が大空を覆った。
『アルデバラン王国は、亡命を希望する神聖ラトリア国民の受け入れを許可しました』
『亡命を希望する方は、最寄りの冒険者ギルドへ向かってください』
『国内すべての冒険者ギルド支部に、アルデバラン王国へ通じる巨大転移ゲートが設置されています』
人々が顔を見合わせた。
「本当に行けるのか?」
「国境まで歩かなくても?」
「ギルドまで行けばいいんだ」
人の流れが生まれ始める。
アリシアは空に映る告知を見つめていた。
「これなら、みんなに伝わります」
「ああ」
イプシオが頷く。
「でも、行くかどうかを決めるのは本人たちだ」
「はい」
事実を隠さない。
危険も知らせる。
そして逃げ道を用意する。
その先を選ぶのは民自身だった。
各地では六百体の金属ゴーレムも動き始めていた。
五メートル級二百体。
二メートル級四百体。
亡命希望者を守り、荷物を運び、必要ならアンデッドから人々を守る。
教会の命令ではない。
王国からの強制でもない。
神聖ラトリアの民が、自分たちで行き先を選ぶための大移動が始まろうとしていた。




