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戦わずに世界を変えた男――教育と物流で“循環国家”を作ったら、いつの間にか大陸が一つになっていた  作者: 慈架太子


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151 アークイズム

 二十人は神聖ラトリアの町を離れ、大きな墓地へ来ていた。


 墓地というには、あまりにも広い。


 古い墓標がどこまでも続き、その間を無数のアンデッドが徘徊していた。


 立っている者。


 地面を這う者。


 墓穴から這い出そうとしている者。


 数を数える意味すらないほどだった。


 アリシアたち十人は、目の前の光景を見て息を呑んだ。


「こんなに……」


 アリーが呟く。


 イプシオは広域索敵を続けながら周囲を確認していた。


 数は多い。


 だが、やることは変わらない。


「これまでと変わらない。捕縛、拘束、浄化だ」


 その言葉にアリシアが頷く。


「はい」


 二十人が散開した。


 最初に飛んだのはホーリーバインドだった。


「ホーリーバインド!」


 光の帯が墓地を走る。


 一体。


 二体。


 十体。


 次々とアンデッドの動きを封じていく。


 それだけではない。


「シャドウバレット!」


「ダークバレット!」


「バインドバレット!」


 闇属性の弾丸が飛び、アンデッドの足を止める。


 影を利用した拘束。


 魔力そのものによる捕縛。


 光属性だけに頼る必要はなかった。


 使えるものを使う。


 アリシアたちも、すでにその戦い方を理解し始めている。


「右から来ます!」


「任せて!」


 アレクサがホーリーバインドを放つ。


 ゴルディがダークバレットを重ねる。


 動きを止められたアンデッドへ、マックスたちが次々と拘束を追加した。


 倒すことを急がない。


 まず動けなくする。


 安全を作る。


 それから処理する。


 墓地を埋め尽くしていたアンデッドの動きが、目に見えて減っていった。


 イプシオが上空へ浮かぶ。


 墓地全体を見渡した。


「そろそろいいな」


 両手を前へ向ける。


 高速魔力循環を続けながら、膨大な光属性の魔力を展開した。


「ホーリーバレットレイン!」


 空中に無数の光が生まれた。


 次の瞬間。


 光弾が雨のように降り注いだ。


 墓地一帯へ降る。


 拘束されていたアンデッドへ次々と命中する。


 白い光が弾けた。


 アンデッドの体から黒い靄が抜け、その姿が消えていく。


「まだ残ってるわ!」


 ハーレイが前へ出た。


 拘束を抜けたアンデッドが墓地の奥から迫っている。


 ハーレイは両腕を広げた。


「ピュリフィケーションバレットストーム!」


 今度は雨ではなかった。


 浄化の弾丸が渦を巻く。


 嵐のような勢いで墓地を駆け抜けた。


 前から。


 横から。


 上から。


 ピュリフィケーションバレットがアンデッドへ次々と突き刺さる。


 拘束されているかどうかすら関係ない。


 浄化の嵐に巻き込まれたアンデッドが次々と消えていった。


 やがて静かになった。


 先ほどまで数万体はいると思えたアンデッドの姿がない。


 アリシアたちは墓地を見渡した。


「……終わった?」


「索敵してみろ」


 イプシオに言われ、十人が確認する。


「この周辺にはいません」


「なら魔石を回収しよう」


「はい」


 アリーがアイテムボックスを開いた。


 十九体の小型ゴーレムが姿を現す。


 地面へ並んだ十九体を見て、イプシオが墓地を見渡した。


「十九体だと少ないな」


「増やしますか?」


「一人十体作ろう」


 アリシアが振り返った。


「全員で?」


「その方が早い」


 二十人が土魔法を使った。


 すでにゴーレムスキルを持っている。


 土が次々と人型へ変わる。


 一体。


 二体。


 五体。


 十体。


 それぞれが作り続けた。


 やがて百九十体の新しいゴーレムが墓地へ並んだ。


 先ほどまでの十九体と合わせれば、二百体を超える。


「バッグが足りないな」


 イプシオはその場に座り込んだ。


 素材をアイテムボックスから取り出す。


「何を?」


「マジックバッグを作る」


 魔道具作成スキルを使い、次々とバッグを仕上げていく。


 十個。


 五十個。


 百個。


 それでも止まらない。


 最終的には三百個ほどが積み上がった。


 アリシアたちは、その作業を間近で見ていた。


「魔力の流れをよく見ろ」


 イプシオは作業を止めずに言う。


「収納空間を固定して、袋と接続する」


 アリシアが高速魔力循環を続けながら、その工程を追った。


 理解する。


 試す。


 失敗する。


 もう一度見る。


 やがて一つのマジックバッグが完成した。


「……できました」


 その瞬間だった。


 アリシアに新しい感覚が生まれる。


「魔道具作成スキル……」


 他の九人も次々と成功していた。


 十人の神官全員が魔道具作成スキルを発現させた。


 少し離れた場所。


 ステルスで姿を消したアレクサンドたちは、その一部始終を見ていた。


「イプシオは優秀ね」


 アレクサンドが小さく笑った。


「本人は知らないでしょうけど、アークイズムをしっかり受け継いでいるわ」


 ガイルも頷いた。


「俺も詳しくは知らねぇが……アーク先生って、すごい人だったんだな」


 アレクサンドは墓地を見る。


 イプシオは自分が何か特別なことをしているとは思っていない。


 必要だから教える。


 できるなら任せる。


 教えた者が自分で考え始めたら、前へ出させる。


 そして、自分がいなくてもできるようにする。


 アーク本人はここにはいない。


 それでも、その考え方だけは確かにここまで届いていた。




 魔石の回収が進み、墓地からアンデッドの気配は消えていた。


 数万体はいたと思われるアンデッドは一掃された。


 だが、イプシオは墓地を離れようとしなかった。


「どうしました?」


 アリシアが尋ねる。


「まだ何かある」


 広域索敵に、わずかな違和感が残っていた。


 アンデッドではない。


 もっと深い場所から魔力が流れている。


 イプシオは地面へ手を触れた。


「鑑定」


 意識を地下へ向ける。


 土。


 岩盤。


 そのさらに下。


 自然にできた地下空間とは異なる魔力の流れが確認できた。


「墓地そのものがダンジョン化してる」


「ダンジョン?」


 マックスが周囲を見る。


 地上から見ただけでは普通の墓地だった。


「地下に入口がある。行こう」


 イプシオは歩き出した。


 十九人も続く。


 アリーは魔石回収を続けるゴーレム部隊へ指示を残し、仲間たちを追った。


 墓地の奥。


 古い墓標が密集する一角でイプシオが止まる。


 再び地面を鑑定した。


「この下だ」


 土魔法を使う。


 地面が左右へ動き、階段が現れた。


 長い間、土と石に覆われていたらしい。


 地下から淀んだ魔力が流れてくる。


「索敵を切らすな」


「はい」


 二十人は階段を降りた。


 光属性で周囲を照らす。


 やがて石造りの通路へ出た。


 壁も床も自然の岩ではない。


 だが、人間が積み上げた石壁とも違っている。


「これがダンジョン……」


 アリシアが壁へ触れた。


「初めて入ったのか?」


「はい」


「俺もそんなに経験ないけどな」


 イプシオの言葉に、アリシアが笑った。


 そのまま進もうとしたイプシオが、ふと足を止める。


 壁の一部を見ていた。


「どうしました?」


「ちょっと待ってくれ」


 鑑定する。


 壁そのものではない。


 壁土に混じっているものを見る。


 イプシオは金属属性を使い、その一部だけを分離した。


 黒っぽい塊が掌へ落ちる。


「鉱石?」


 レビンが近づいた。


「みたいだな」


 イプシオはさらに鑑定した。


「鉄が入ってる」


 金属魔法を使う。


 不純物を分離する。


 形を整える。


 掌ほどの鉄のインゴットができあがった。


 アリシアたちが覗き込む。


「壁から鉄が?」


「他にもある」


 イプシオは別の場所を鑑定した。


 今度は違う成分を取り出す。


 精錬。


 金色のインゴットができた。


「金だ」


「金?」


 さらに調べる。


 銀。


 銅。


 次々と鉱石成分が分離されていく。


 イプシオは場所を変えながら鑑定を続けた。


 やがて見慣れない鉱石を取り出す。


「これは……ミスリルだな」


 青みを帯びたインゴットへ変わった。


 さらに奥の壁から別の成分を抜き出す。


「オリハルコン」


 次。


「アダマンタイトまである」


 七種類のインゴットが床へ並んだ。


 鉄。


 金。


 銀。


 銅。


 ミスリル。


 オリハルコン。


 アダマンタイト。


 神官たちは言葉を失っていた。


「墓地の下に、こんなものが……」


 アリシアがアダマンタイトのインゴットを見つめる。


「正確にはダンジョンの壁に含まれてる」


 イプシオは壁を軽く叩いた。


「掘るというより、必要な金属だけ分離した方が早そうだな」


 レビンが頷く。


「やってみるか」


 エースたちも壁へ向かった。


 その横で、アリシアはイプシオがやったことを思い返していた。


 鑑定。


 金属を認識する。


 必要なものだけを取り出す。


 不純物を分ける。


 精錬する。


「私にもできますか?」


 また同じ質問だった。


 イプシオも同じように答える。


「やってみればいい」


「はい」


 アリシアが壁へ手を向けた。


 高速魔力循環を維持する。


 魔力を壁の中へ通した。


 土とは違う。


 石とも違う。


 その中に存在する金属を意識する。


 小さな鉱石の塊が壁から抜け落ちた。


「あっ」


「そのまま続けろ」


 イプシオが金属魔法の感覚を教える。


 アリシアの魔力が鉱石を包んだ。


 不純物が落ちていく。


 小さな鉄の塊が残った。


「できました……」


 その瞬間、新しい属性が明確になった。


「金属属性……」


 アリーも試す。


 アレクサ。


 ゴルディ。


 ナターシャ。


 マックス、リッキー、トレイ、シュー、チャドも続く。


 十人が壁へ向かい、それぞれ金属を分離していった。


 鉄のインゴットができる。


 銀ができる。


 銅ができる。


 やがて十人全員が金属属性を覚醒させていた。


「神官が金属魔法……」


 マックスが自分の作ったインゴットを見る。


「もう驚かなくてもいいんじゃない?」


 ナターシャが笑った。


「それもそうだな」


 イプシオも壁へ向き直った。


「量を調べよう。使えるなら回収しておきたい」


 十九人が頷いた。


 イプシオを含めた二十人が壁へ散る。


 鑑定。


 分離。


 精錬。


 それぞれが作業を始めた。


 金属の塊が次々と取り出され、インゴットへ変わっていく。


 先ほどまでアンデッドを浄化していた二十人が、今度は地下で鉱石を精錬していた。


 誰もそれを不思議とは思わなくなり始めていた。


 必要なことを覚える。


 覚えたことを使う。


 そして使える者が増えれば、できることも増えていく。


 ダンジョンの入口には、完成したインゴットが次々と積み上がっていった。




 二十人による金属の精錬と精製は、その後も続いていた。


 ダンジョンの壁を鑑定すれば、鉄、金、銀、銅だけではなく、ミスリル、オリハルコン、アダマンタイトまで含まれている。


 高速魔力循環を維持したまま、金属属性で必要な成分を分離する。


 鉱石を取り出し、不純物を除去し、純度を高めてインゴットへ変える。


 最初は小さな塊だった。


 だが二十人で作業を続ければ、その量は瞬く間に増えていった。


 数百トン。


 数千トン。


 やがて数万トンを超え、それでも止まらない。


「これだけの量、どうやって持っていくんだ?」


 マックスが積み上がったインゴットを見る。


 イプシオは首を傾げた。


「アイテムボックスに入れればいいだろ?」


 試しに大量の鉄のインゴットを収納する。


 消えた。


 当然、重さは感じない。


「……そうだった」


 マックスも収納を始めた。


 二十人が次々とインゴットをアイテムボックスへ収めていく。


 最終的に精錬、精製した量は数十万トンに達していた。


 ところが、アリシアが奇妙なことに気づいた。


「イプシオさん、見てください」


 先ほどまで金属を取り出していた壁だった。


 大きく削れていたはずの部分が、もう半分以上塞がっている。


 二十人が見ている前でも再生は続いた。


「戻っていく……」


 アリーが壁へ触れる。


 しばらくすると、ほとんど元通りになった。


 イプシオが鑑定する。


「ダンジョン自体が再生してるみたいだな」


「では、また精錬できるのですか?」


「たぶんな」


 数十万トンもの金属を取り出しても、ダンジョンは失われない。


 その事実もエミリーが記録した。


 イプシオは通路の奥へ視線を向けた。


 妙な感覚があった。


 敵を索敵したわけではない。


 それなのに、この先へ素手で進むべきではないという感覚だけが強く残る。


「これから先は剣が必要な気がする」


「剣?」


 イプシオ自身、自分がなぜそう思ったのか分からなかった。


 鑑定する。


 新しい能力が表示されていた。


「フォアサイト……」


 未来をわずかに先取りする感覚。


 イプシオはフォアサイトに覚醒していた。


「なら準備しておこう」


 オリハルコンのインゴットを取り出す。


 金属属性で形を変え、剣を作った。


 片手剣。


 両手剣。


 それぞれ二十人分。


 合計四十本。


「好きな方を使え」


 アリシアは両手剣を選んだ。


 他の者たちも実際に握り、自分に合う方を選んでいく。


「剣を使ったことがない者は?」


 神官十人が手を上げた。


「じゃあ、そこからだ」


 イプシオが剣の手ほどきを始める。


 握り方。


 足運び。


 重心。


 振り下ろし。


 横薙ぎ。


 突き。


 身体強化と筋肉強化を使った状態で、剣に振り回されないよう何度も反復する。


 アリシアは両手剣を振り下ろした。


 最初は力任せだった。


「腕だけで振るな。身体ごと使え」


「はい!」


 もう一度。


 踏み込む。


 腰を使う。


 振り下ろす。


 一時間ほど経った頃、アリシアに剣士スキルが発現した。


 他の九人にも次々と発現する。


 神官十人全員が剣士スキルを習得した。


 エミリーはその様子も端末へ記録していた。


 数十万トンのインゴット。


 再生するダンジョン壁。


 イプシオのフォアサイト。


 神官十人の剣士スキル。


 確認した事実を整理し、教導管理システムへ報告する。


 二十人はさらに奥へ進んだ。


 しばらくすると、暗い通路の先から金属音が響いた。


 鎧を着たアンデッドが姿を現す。


 アンデッドナイト。


 二十体。


 腐食した剣を構え、一斉に迫ってきた。


 イプシオは剣を抜いた。


「光属性を剣に纏わせて斬れ!」


 二十人の剣へ光が集まる。


 だが最初は安定しない。


 光が剣から離れる。


 魔力が散る。


 剣全体を覆えない。


 それでも二十人は高速魔力循環を維持しながら戦った。


 剣へ光を流す。


 留める。


 斬る。


 また纏わせる。


 反復するうちに、剣へ属性を定着させる感覚が掴めてきた。


 一時間後。


 最後のアンデッドナイトがアリシアの両手剣に斬られた。


 光を纏った刃が鎧ごと切り裂き、アンデッドナイトを浄化する。


 二十体を殲滅した。


 そして二十人全員に、新たな能力が発現していた。


 付与属性。


「これなら剣そのものに魔法を乗せられる」


 イプシオは自分の剣を見る。


 しかし、ダンジョンの奥からはさらにアンデッドが現れた。


「まだ来ます!」


 アリシアが両手剣を構える。


「同じだ。光を纏わせて斬れ!」


 二十人が迎え撃った。


 光属性を剣へ付与する。


 斬る。


 浄化する。


 さらに付与する。


 何度も繰り返すうちに、剣を包む光が変わり始めた。


 より強く。


 より澄み。


 アンデッドへ触れた瞬間、光属性とは比較にならないほど強い浄化が起こる。


「イプシオさん、この光……」


 アリシアが両手剣を見た。


 イプシオも気づいていた。


「鑑定してみろ」


 アリシアが自分を鑑定する。


 目を見開いた。


「聖属性……」


 光属性の上位属性。


 聖属性。


 それはアリシアだけではなかった。


 二十人が互いを鑑定する。


 全員。


 二十人全員が聖属性に覚醒していた。


 神官も冒険者も関係なかった。


 教わり、試し、使い続けた結果、新しい力へ辿り着いた。


 アリシアは聖属性を纏わせた両手剣を握り直した。


 そして、さらに奥から現れるアンデッドへ向かって踏み込んだ。




 聖属性に覚醒してから、アリシアの戦い方は大きく変わった。


 両手で握ったオリハルコンの剣へ魔力を流す。


 付与属性。


 刀身を白い光が覆った。


 先ほどまで使っていた光属性とは明らかに違う。


 アンデッドを前にすると、聖属性の魔力が強く反応している。


「行きます!」


 アリシアが踏み込んだ。


 正面から迫ってきたアンデッドへ両手剣を振り下ろす。


 聖属性を纏った刃が肩口から入り、そのまま胴体を斬り裂いた。


 黒い靄が噴き出す。


 だが、それも一瞬だった。


 傷口から白い光が広がり、アンデッドの体そのものが浄化されていく。


「次!」


 アリシアは止まらない。


 横から迫る一体へ剣を薙ぐ。


 切断。


 返す剣で、さらに一体。


 両手剣の重さを身体強化と筋肉強化で支え、勢いを殺さず次の攻撃へ繋げる。


 剣を習い始めて、まだほとんど時間は経っていない。


 それでも振るたびに動きが変わった。


 踏み込み。


 重心移動。


 間合い。


 剣を振り抜いた後の姿勢。


 剣士スキルが戦闘経験を吸収するように上がっていく。


「アリシア、右!」


 マックスの声が飛ぶ。


「分かっています!」


 振り向かない。


 テレパシーと索敵で位置は把握していた。


 右から迫ったアンデッドを横薙ぎで切り刻む。


 浄化。


 さらに前へ出る。


「すごい……」


 アリーが思わず呟いた。


 だが、自分の役目を思い出す。


 アンデッドが浄化された場所には魔石が残っていた。


「回収しないと」


 先ほど墓地で使っていたゴーレムたちは、まだ地上で魔石を回収している。


 アリーはアイテムボックスを開いた。


「予備を使います」


 待機させていた魔石回収用の小型ゴーレムを取り出した。


 ゴーレムたちはすでにマジックバッグを装備している。


「戦闘には近づきすぎないでください。安全になった場所から魔石を回収。終わったら私のところへ戻ってください」


 ゴーレムたちが動き出した。


 アリシアたちが前へ進む。


 その後ろからゴーレムがついていく。


 アンデッドを倒す。


 魔石が残る。


 ゴーレムが拾う。


 マジックバッグへ収納する。


 次の魔石へ向かう。


 戦う者が回収のために足を止める必要がなくなった。


「便利だな」


 イプシオがその様子を見る。


「アリーに任せて正解だった」


 アリーは少し嬉しそうに笑った。


「もっと出しますか?」


「今はそれでいい。増えたら追加してくれ」


「はい」


 アリーは戦場とゴーレムの位置を同時に確認する。


 魔石を拾うだけだったゴーレムが、すでに一つの部隊として機能し始めていた。


 一方、最前線ではアリシアがさらに奥へ進んでいる。


 アンデッドが五体まとまって迫った。


「ホーリーバインド!」


 光の拘束が二体を止める。


 残る三体へ踏み込む。


 一体目。


 斬る。


 二体目。


 両手剣を返して胴を切り裂く。


 三体目が腕を伸ばしてきた。


 アリシアは一歩下がった。


 空振りさせる。


 踏み込む。


 両手剣を振り上げた。


 聖属性を纏った刃がアンデッドを切り裂いた。


 拘束していた二体も続けて浄化する。


 動きに迷いがなくなっていた。


 イプシオがそれを見ていた。


「俺より剣が上手くなってないか?」


 エースも苦笑する。


「なってるな」


「教えたの俺なんだけどな」


「そういうこともあるだろ」


「あるのか?」


 イプシオは首を傾げた。


 その間にもアリシアは戦い続ける。


 十体。


 二十体。


 百体。


 どれだけ斬ったのか、本人にも分からなくなっていた。


 ただ敵を見ている。


 剣の届く距離が分かる。


 相手が動く前に、どちらへ動こうとしているのかが読める。


 力任せに振る必要もなくなった。


 必要な場所へ。


 必要な角度で。


 必要なだけ剣を振る。


 両手剣が、まるで自分の腕の延長のように動いていた。


 最後に残ったアンデッドへ踏み込む。


 一閃。


 聖属性の光が走った。


 アンデッドは左右に分かれ、そのまま白い光へ包まれて消えた。


 静寂が戻った。


「終わりました?」


 アリシアが周囲を見渡す。


「この辺りにはいない」


 イプシオが索敵で確認した。


 アリーのゴーレムたちだけが動いている。


 散らばった魔石を拾い、マジックバッグへ収納していた。


 アリシアは息を整えながら両手剣を見る。


 刃こぼれ一つない。


 さすがにオリハルコンだった。


「アリシア、自分を鑑定してみろ」


 イプシオが言った。


「何かありました?」


「いいから見てみろ」


「はい」


 アリシアは自分自身へ鑑定を使った。


 覚醒した属性。


 習得した魔法。


 教導スキル。


 ゴーレムスキル。


 アイテムボックス。


 鑑定。


 魔道具作成。


 剣士スキル。


 付与属性。


 聖属性。


 その中に、見覚えのないものがあった。


 アリシアの動きが止まる。


「……剣聖?」


 もう一度見る。


 変わらない。


 剣聖。


「私が?」


「そう書いてあるな」


「でも、私……神官ですよ?」


「神官でも剣は使えるだろ」


「それはそうですけど……」


 アリシアは自分の両手剣を見る。


 数日前まで、治癒しか使えないと思っていた。


 剣などまともに握ったこともなかった。


 それが今では聖属性を剣へ纏わせ、アンデッドを切り刻んで浄化している。


 そして剣聖になった。


 アリーが笑った。


「剣聖アリシアですね」


「やめてください。恥ずかしいです」


「でも剣聖なのでしょう?」


「そうですけど……」


 仲間たちが笑った。


 アリシアも困ったように笑う。


 少し離れたところでは、エミリーが端末へ入力していた。


 アリシア。


 剣聖発現。


 聖属性を付与した両手剣によるアンデッド浄化。


 アリーによる魔石回収ゴーレム運用。


 戦闘と素材回収の並行化。


 一つずつ記録する。


 確認。


 送信。


 教導管理システムに、新しい記録が追加された。


 アリシアはそんなことも知らず、両手剣を肩へ担いでいた。


「イプシオさん」


「なんだ?」


「次は何を教えてくださいますか?」


「俺が聞きたいよ」


 アリシアは声を上げて笑った。


 その手には、聖属性の光を纏ったオリハルコンの両手剣があった。





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