150 だって嬉しいんですもの
宗教国家神聖ラトリアで、アリシアの中にあった常識は大きく形を変えていた。
神官として育った彼女は、治癒魔法を使えることを神の祝福だと教えられてきた。
治癒魔法を使える者が神官となり、人々を救う。
それを疑ったことはなかった。
だが、イプシオたちと出会ってから、わずかな間にその常識が崩れた。
「治癒しか使えないんじゃない。治癒しか教わってないんだ」
イプシオが口にした言葉を、アリシアは何度も頭の中で繰り返していた。
自分にも魔力がある。
魔力を感じ、循環させ、正しく扱えば新しい魔法を習得できる。
それを自分自身が証明してしまった。
神が嘘を教えたのではない。
教会が教えなかったのだ。
それどころか、教会上層部が国民をアンデッドへ変え、自分たちが救済しているように見せかけていた事実まで、教導管理システム端末には記録されている。
アリシアは九人の仲間を集めた。
アリー、アレクサ、ゴルディ、ナターシャ、マックス、リッキー、トレイ、シュー、チャド。
同じ教会で学び、同じように人々を治療してきた仲間たちだった。
「私たちは、治癒しか使えないと思っていました。でも違ったんです」
アリシアは自分が覚えた魔法を見せながら説明した。
「教わっていなかっただけなんです。神様が私たちから魔法を奪ったわけではありません」
誰もすぐには口を開かなかった。
信じてきたものが大きかったからこそ、簡単に気持ちを切り替えられるものではない。
やがてマックスが口を開いた。
「これからは、教会の言うことをそのまま聞いていては駄目だ」
しばらく考えた後の言葉だった。
「教会は神の名を使って嘘を吐いている。それと、俺たちが神を信じることは別だ」
アリシアが頷いた。
「私もそう思います」
残る八人も、それぞれに頷いていく。
教会を疑うことと、信仰を捨てることは同じではない。
自分の目で見て、自分で考える。
その選択を十人は始めていた。
「イプシオさんたちについていこう」
マックスの言葉に反対する者はいなかった。
こうして、十人だった新人冒険者の一団に十人の神官が加わった。
二十人。
少し離れた場所では、隠蔽魔法ステルスを使ったアレクサンドたちが、その様子を見守っていた。
アレクサンドが楽しそうに笑う。
「若いっていいわね」
隣にいたガイルが首を傾げた。
「おめぇも若いじゃねぇか?」
「意味が違うの」
アレクサンドの足が動いた。
「痛っ!」
脛を蹴られたガイルを見て、アンジェラが声を抑えて笑っていた。
当人たちに聞こえることはない。
アリシアたちは、すでに次のことを始めていた。
「イプシオさん」
「なんだ?」
「私にも、他の方へ教えられるでしょうか?」
イプシオは少し考えただけだった。
「やってみればいい」
「はい」
アリシアはアリー、アレクサ、ゴルディ、ナターシャの四人を自分の前へ座らせた。
「まず魔力を感じてください。無理に動かそうとしなくていいです。体の中にあるものを探すような感じで」
自分が教わったことを思い出しながら、一つずつ言葉にしていく。
「感じたら、ゆっくり循環させます。最初から速くしないでください」
四人が目を閉じた。
その横ではマックスたち五人も真似を始めている。
「俺たちもやろう」
「ああ」
アリシアは四人を見るだけで精一杯だった。
それでも、間違った魔力の流れを見つければ止め、もう一度説明する。
何度も繰り返した。
やがてアリーの掌に、小さな水球が浮かんだ。
「え?」
続いてアレクサ。
ゴルディ。
ナターシャ。
少し遅れて、マックスたちにも水が生まれる。
九人全員だった。
「水魔法……」
アリーが自分の掌を呆然と見つめている。
「私にも……」
その瞬間だった。
アリシアの中で何かが明確な形を取った。
《教導スキルを習得しました》
「……え?」
今度はアリシアが固まった。
イプシオが鑑定して笑った。
「出たみたいだな」
「教導……私が?」
「九人に水属性を発現させたんだ。十分だろ」
アリシアは自分の手を見た。
昨日まで、自分は教会から教わる側だった。
それが今、自分の教えで九人が新しい力を得た。
しばらくその事実を噛み締めてから、アリシアは顔を上げた。
「先生」
「先生はやめてくれ。俺も教わった側だから」
「では、何とお呼びすれば?」
「名前でいいだろ」
アリシアの表情が明るくなった。
「イプシオさん」
「ああ」
「イプシオさん」
「……ああ」
「イプシオさん」
さすがにイプシオが怪訝な顔をした。
「何故、何回も呼ぶ?」
アリシアは笑った。
「だって嬉しいんですもの」
イプシオには、その答えの意味がよく分からなかった。
だが、少し離れたところで見ていたベロニカたちには分かったらしい。
五人とも笑っていた。
二十人は、そのままアンデッドの討伐を続けていた。
町の外れには、まだ多くのアンデッドが徘徊している。
以前のアリシアたちなら、負傷者の治療を優先し、アンデッドそのものへの対処は教会の戦闘部隊に任せていただろう。
だが、今は違う。
「来ます!」
アリシアの声に、十九人が反応した。
前方から十数体のアンデッドが迫っている。
イプシオは剣を抜かなかった。
「よく見てろ。倒す前に動きを止める」
光属性の魔力が広がった。
「ホーリーバインド」
光の帯が伸び、先頭を歩いていたアンデッドの四肢を拘束した。
続けてエース、レビン、トレノたちも同じ魔法を放つ。
次々とアンデッドが拘束され、その場へ倒れていった。
それでも暴れようとする個体へ、さらに拘束を重ねる。
「拘束してから攻撃するんですか?」
アリシアが尋ねた。
「ああ。動かない相手なら外しにくいし、こっちも怪我しにくい」
単純な話だった。
だが、アリシアたちが教会で学んできた戦い方とは違う。
魔物と戦うなら、強力な攻撃魔法で倒す。
アンデッドなら、神官が光属性で浄化する。
そう教えられてきた。
イプシオたちは違った。
まず安全を作る。
その後で倒す。
「ホーリーバレット」
光弾が拘束されたアンデッドへ撃ち込まれた。
別方向からは、
「ピュリフィケーションバレット」
浄化の力を込めた弾丸が飛ぶ。
一発で足りなければ二発。
二発で足りなければ三発。
魔力を惜しむ様子もない。
高速魔力循環を続ける十人にとって、魔力を節約するために危険を冒す理由がなかった。
やがて最後のアンデッドが崩れた。
「次はやってみろ」
「はい!」
アリシアたち十人が前へ出た。
ほどなく別の群れが見つかった。
アリシアが索敵で位置を確認する。
「十二体です。右側に三体。中央に六体。左側に三体」
「そのままやればいい」
イプシオは後ろへ下がった。
アリシアが魔力を練る。
「ホーリーバインド!」
拘束。
アリーとアレクサが続く。
最初の数体を止めると、ゴルディとナターシャが残る個体へ光の拘束を伸ばした。
「止まりました!」
「撃つぞ!」
マックスの声に合わせ、
「ホーリーバレット!」
光弾が飛んだ。
リッキー、トレイ、シュー、チャドも続く。
拘束を抜けようとした一体には、アリシアがピュリフィケーションバレットを連続して撃ち込んだ。
アンデッドの体から黒い靄が消えていく。
戦闘は短時間で終わった。
マックスが倒れたアンデッドを確認してから言った。
「これなら安全に狩りができる」
他の九人も頷いた。
強い魔法を覚えたからではない。
戦い方そのものを教わった。
捕らえる。
動きを止める。
安全を確保する。
それから浄化する。
十人は同じ戦術を何度も反復した。
やがて、イプシオたちが指示する必要もなくなった。
二十人が町へ戻る途中、広場に多くの人々が集まっていた。
負傷者だった。
アンデッドに襲われた者もいれば、逃げる途中で怪我をした者もいる。
神官たちが動こうとした。
だが、それより先にエースが手を上げた。
「ヒールバレット」
治癒の弾丸が飛んだ。
レビンとトレノも続く。
三人は一人ずつ治療しなかった。
負傷者を索敵し、治癒が必要な者へ次々とヒールバレットを撃ち込んでいく。
十発。
二十発。
三十発。
広場を治癒魔法が飛び交った。
「そんな使い方を……」
アリシアが目を見開いた。
さらにベロニカ、ジリアン、ハーレイが前へ出る。
「怪我だけじゃ駄目よ」
「呪いもあるわ」
「まとめてやりましょう」
三人が魔力を循環させた。
「ピュリフィケーションバレット!」
浄化の弾丸が広場へばら撒かれる。
アンデッドから受けた呪い。
傷口に残っていた淀んだ魔力。
体内へ入り込んでいた異物。
それらが次々と浄化されていった。
苦しんでいた男が立ち上がる。
腕を負傷していた女性が何度も腕を曲げ伸ばしする。
子供を抱いていた母親が涙を流した。
広場にいた負傷者たちが、次々と回復していく。
アリシアたち十人は動けなかった。
治癒は自分たちの専門だった。
そう信じてきた。
神官だから治癒できる。
神に仕える者だから、人々を癒やせる。
だが、目の前では冒険者たちが治癒魔法をばら撒いている。
「……先生たちは、治癒まで」
アリシアが呟いた。
「先生じゃないって言っただろ」
イプシオが困った顔をする。
マックスは治療された人々を見ながら考えていた。
「俺たちが特別だったんじゃないのか」
誰も答えなかった。
「治癒しか使えなかったんじゃない。治癒だけを教えられていた。そして冒険者だって、教われば治癒を使える」
アリシアが自分の手を見る。
そこから小さな光が生まれた。
「だったら……私たちも、もっと治せるようになるかもしれない」
「なるんじゃないか?」
イプシオは普通に答えた。
「やってみればいい」
また同じ言葉だった。
アリシアは笑った。
「はい、イプシオさん」
少し離れた場所では、エミリーが一連の様子を静かに記録していた。
戦闘方法。
神官たちが習得した魔法。
負傷者の人数。
ヒールバレットによる治療。
ピュリフィケーションバレットによる呪いの浄化。
そして神官たちの反応。
記録を整理すると、教導管理システム端末へ入力する。
送信。
神聖ラトリアで起きている変化が、また一つ記録された。
エミリーはそれがどれほど大きな意味を持つのか、まだ知らなかった。
負傷者たちの治療が終わっても、イプシオたちの仕事は終わらなかった。
町の外には、浄化したアンデッドの残骸が大量に残っている。
アンデッドから得られる魔石は、冒険者にとって立派な素材だった。
アリシアたち十人は、再び町の外へ向かおうとするイプシオを見た。
「まだ何かするのですか?」
「ああ。魔石を回収する」
イプシオはそう答えると、その場にしゃがんだ。
地面へ手を当てる。
「土魔法?」
アリシアが覗き込む。
土が盛り上がり、人の形へ変わっていった。
高さは一メートルほど。
頭、胴体、両腕、両脚。
大きな戦闘用ゴーレムではない。
小柄で、ずんぐりとした土のゴーレムだった。
イプシオは魔力を流し込みながら細部を整える。
やがて土のゴーレムが立ち上がった。
「……動いた」
「ゴーレムだからな」
イプシオはアイテムボックスから小さな袋を取り出した。
以前に作っておいたマジックバッグだった。
それをゴーレムの肩から掛ける。
「アンデッドの魔石を回収して、この中へ入れてこい」
ゴーレムが歩き出した。
とことこと町の外へ向かっていく。
アリシアたちは無言で見送った。
しばらくしてアリーが尋ねた。
「……魔石を拾わせるためだけにゴーレムを?」
「そうだけど?」
「ゴーレムというのは、戦争などに使うものではないのですか?」
「別に荷物を運んでもいいだろ」
イプシオにとっては当たり前だった。
戦えるから戦わせなければならない理由などない。
必要な仕事をさせればいい。
それを見ていたエースが地面へ手を向けた。
「一体じゃ時間かかるな」
土が盛り上がる。
レビンも続いた。
「だったら増やせばいい」
トレノ、スレットも土魔法を使う。
少し離れたところでは、ベロニカが笑っていた。
「私たちも作りましょうか」
「賛成」
ジリアンが地面へ手を当てる。
ハーレイ、アレッタも続いた。
次々と一メートルほどの土ゴーレムが生まれていく。
八体。
イプシオの一体を加えて九体になった。
それぞれがアイテムボックスからマジックバッグを取り出し、ゴーレムへ渡す。
「魔石を拾ってきて」
「こっちは東側」
「お前はあっちだ」
九体のゴーレムが散っていった。
アリシアたちは、その光景を呆然と眺めていた。
戦闘が終わった場所を、小さな土のゴーレムたちが歩き回っている。
一体がアンデッドの残骸を見つけた。
しゃがみ込む。
土の指で魔石を取り出す。
肩から下げたマジックバッグへ入れる。
立ち上がる。
次へ向かう。
それを九体が黙々と繰り返していた。
「魔石拾いゴーレム……」
マックスが呟いた。
「便利だな」
リッキーが頷く。
「便利という問題なのでしょうか」
アリシアはまだ困惑していた。
つい先ほどまで、イプシオたちはアンデッドを拘束し、光弾と浄化魔法で処理していた。
町へ戻れば、大量の負傷者へ治癒魔法をばら撒いた。
呪いまで浄化した。
そして今はゴーレムに魔石を拾わせている。
何をしているのか、一つずつなら理解できる。
だが、それらを同じ冒険者が当たり前のように行っていることが理解できなかった。
「イプシオさん」
「なんだ?」
「冒険者というのは、これほど色々なことをするものなのですか?」
イプシオは少し考えた。
「俺も新人だから知らない」
「……新人?」
「ああ」
アリシアが黙った。
マックスたちもイプシオを見る。
「どのくらい冒険者を?」
「まだほとんど新人だぞ」
「嘘だろ」
マックスが思わず言った。
「本当だ」
イプシオは真顔だった。
アリシアたちは顔を見合わせた。
新人がアンデッドを狩り、魔法を教え、治癒し、ゴーレムまで作る。
では熟練冒険者とは何をするのだろう。
誰にも分からなかった。
やがて最初のゴーレムが戻ってきた。
肩に掛けたマジックバッグをイプシオへ差し出す。
「ご苦労」
袋を受け取り、中身を確認する。
大量の魔石が入っていた。
他のゴーレムたちも次々と帰ってくる。
エースたちがマジックバッグを回収していった。
「楽だな」
「拾い忘れも少なそうね」
「次からこれでいいんじゃない?」
本人たちはすでに次回の改善を話している。
アリシアは小さなゴーレムを見つめた。
魔法とは、神聖な儀式のためだけにあるものではない。
戦うためだけでもない。
治療だけでもない。
こんな使い方までできる。
「……面白い」
思わず言葉が漏れた。
イプシオが振り返る。
「やってみるか?」
アリシアは一瞬だけ驚いた。
そして笑った。
「はい」
その返事を聞いた残り九人も、自然と地面を見た。
今度は自分たちが教わる番だった。
魔石を拾い続ける九体のゴーレムを、アリシアたちは興味深そうに眺めていた。
高さは一メートルほどしかない。
戦闘に参加するわけでもなく、アンデッドの残骸から魔石を見つけては、肩から下げたマジックバッグへ入れていく。
「私たちにも作れますか?」
アリシアが尋ねた。
「やってみればいい」
イプシオの答えは、やはり同じだった。
十人は地面へ手を当てた。
「まず土を集める。最初から綺麗な形にしようとしなくていい」
イプシオが一つずつ説明する。
アリシアたちは高速魔力循環を続けながら、土属性へ意識を向けた。
地面が盛り上がる。
土を固め、胴体を作る。
そこから頭、腕、脚へと分けていく。
当然、最初から上手くはいかなかった。
アリーのゴーレムは右腕が妙に長い。
ゴルディが作ったものは頭が大きすぎた。
チャドのゴーレムは立ち上がった直後、そのまま前へ倒れた。
「脚を太くした方がいい」
レビンが助言する。
「なるほど」
チャドは一度崩して作り直した。
失敗しても材料は土だ。
何度でもやり直せる。
アリシアが作ったゴーレムが最初に立ち上がった。
一歩。
二歩。
少しふらつきながらも歩いていく。
「動きました!」
「その感覚を覚えておけ」
「はい!」
その直後、アリシアは新しい感覚を得た。
「ゴーレムスキル……」
「発現したか?」
「はい」
続いてアリーのゴーレムが動いた。
アレクサ、ゴルディ、ナターシャ。
マックスたちも次々と成功していく。
十人全員がゴーレムスキルを習得した。
新しく十体が加わり、魔石回収用のゴーレム部隊は十九体になった。
「まだあるぞ」
イプシオが言った。
「まだ?」
アリシアが笑う。
「次はアイテムボックスだ」
イプシオは魔石を一つ手に取った。
「収納する場所を意識する。そこへ物を入れる感覚で魔力を使う」
十人が試す。
何度か失敗した後、アリーの手から魔石が消えた。
「え?」
「取り出してみろ」
アリーが意識を集中すると、再び掌に魔石が現れた。
「できました!」
一人が成功すれば、その感覚を周囲へ伝える。
アリシアも成功した。
そこからアレクサ、ゴルディ、ナターシャと続き、マックスたちも次々に収納と取り出しを成功させた。
十人全員がアイテムボックスを習得する。
「これがあれば荷物を背負わなくてもいいのか」
マックスが驚いている。
「食料も入るぞ」
「旅が全然違うじゃないか」
「だから便利なんだ」
さらにイプシオは鑑定を教えた。
「見るだけじゃない。何なのか知ろうとするんだ」
アンデッドから回収した魔石を教材にする。
アリシアが魔石を見つめた。
意識を集中する。
それまで単なる黒い石にしか見えなかったものから、情報が読み取れた。
「アンデッドの魔石……」
「それが鑑定だ」
アリシアは別の魔石を見る。
さらにマジックバッグ。
自分の服。
近くにあった薬草。
見る対象を変えるたび、得られる情報も変わる。
「こんなことまで分かるんですか?」
「ああ。慣れればもっと詳しく分かる」
残る九人も次々と鑑定を試した。
十人全員に鑑定が発現した。
アリシアは自分を鑑定してみる。
昨日までの自分とは、表示されるものがまるで違う。
魔法が増えた。
教導スキルまで発現した。
そして今、ゴーレムスキル、アイテムボックス、鑑定まで加わっている。
「本当に、教わっていなかっただけなんですね」
アリシアが呟いた。
「俺もそうだったぞ」
イプシオは何でもないことのように答えた。
その頃には、新しく作られた十体のゴーレムも歩けるようになっていた。
イプシオがアイテムボックスから十個のマジックバッグを取り出す。
以前に作っておいたものだった。
一体ずつ肩へ掛けていく。
「これで十九体とも魔石を運べる」
イプシオは周囲を見渡した。
「アリー」
「はい?」
「十九体、任せていいか?」
突然十九体のゴーレムを任され、アリーは目を丸くした。
「私がですか?」
「ああ。魔石を拾わせるだけだから大丈夫だ」
アリーは十九体を見た。
小さな土のゴーレムが整然と並んでいる。
少し考えてから頷いた。
「分かりました」
アリーが十九体へ指示を出す。
「周囲に残っているアンデッドの魔石を探してください。見つけたらマジックバッグへ入れてください。終わったらここへ戻ってきてください」
十九体が一斉に動き出した。
それぞれ別方向へ散っていく。
アリーはその後ろ姿を見送りながら笑った。
「神官なのに、ゴーレム部隊を任されてしまいました」
「別にいいだろ」
イプシオが答える。
「神官がゴーレムを使っちゃいけない理由なんてない」
「そうですね」
以前なら、教会で教わっていないことをするだけでも不安を感じただろう。
今は違った。
知らないなら学べばいい。
使えるなら試せばいい。
自分で考えて決めればいい。
少し離れた場所では、エミリーが教導管理システム端末を操作していた。
神官十人。
ゴーレムスキル習得。
アイテムボックス習得。
鑑定習得。
ゴーレム十九体。
魔石回収作業。
指揮担当、アリー。
エミリーは確認できた事実を一つずつ記録していく。
感想ではなく、起きたことを残す。
入力した内容を確認する。
「これでいいわね」
送信した。
神聖ラトリアで起きた新たな変化が、教導管理システムへ共有された。
エミリーは端末を閉じる。
遠くでは十九体のゴーレムが黙々と魔石を拾っていた。
その様子を見守るアリーは、もう楽しそうに仲間へ指示を出している。
ほんの少し前まで、十人は治癒しかできないと思っていた神官だった。
今は違う。
できることは、まだ増えていた。




