144 人口
ダークライト魔導公国から一般住民の保護要請が出始めたことで、王宮では受け入れ可能な人口について改めて検討が行われた。
感情だけで決める話ではない。
何人までなら受け入れられるのか。
土地。
食料。
財政。
住宅。
雇用。
それらを確認する必要があった。
王国教導管理システムに現在の人口推移が表示される。
オーキスはその数字を見ながら呟いた。
「ずいぶん増えたものだな」
かつて、アルデバラン王国の人口は約二千万人だった。
それが大きく変わった最大の理由は、滅んだ帝国からの亡命者である。
その数、約二千五百万人。
さらに国内では結婚が増えた。
生活が安定したことで家庭を持つ者が増え、出産も続いた。
自然増は約五百万人に達している。
そこへ今回、ダークライト魔導公国から保護した者や亡命者が加わった。
細かな増減を含めれば、王国の人口は間もなく五千百万人に届く。
だが、増えたのは人口だけではない。
クレインが人口推移とは別の資料を確認する。
「死亡者数の減少も大きな要因です」
オーキスが頷いた。
以前なら助からなかった者が、今では死ななくなっている。
防衛力が上がった。
町や村を魔物に襲われても守れる。
街道の安全性も上がった。
治癒師が増えた。
薬師も増えた。
治癒魔法だけでなく、薬そのものの質も向上している。
公衆浴場が各地に建てられ、手洗い、洗濯、調理衛生といった衛生概念まで普及した。
そして全国民が日常的に行うようになった魔力循環。
子どもから老人まで魔力を巡らせている。
体調を崩す者そのものが大きく減った。
マーガレットが言った。
「生まれる人が増えたというだけではありません。亡くなる人が減った。その両方ですね」
「それで五千百万人か」
オーキスは別の数字を見る。
「問題は、まだ増やせるかだ」
クレインが答える。
「結論は出ています」
王国全土の農地。
未開拓地。
食料生産量。
住宅建設能力。
ゴーレムによる開拓能力。
各産業の雇用余力。
そして王国財政。
それらを王国教導管理システムに集約して確認した結果だった。
「現在の国力なら、さらに三千万人程度を養う余力があります」
アイクが思わず聞き返す。
「三千万人?」
「はい」
土地はある。
開拓可能な土地はまだ広大に残っている。
金もある。
金属インゴットから得られる税収だけでも王国財政には大きな余裕があった。
食料もある。
食料充足率は二百パーセントを超えた状態を維持している。
さらに人口が増えれば、働く者も増える。
農地を開拓する。
家を建てる。
工房を作る。
商売を始める。
教導によって職業技能を身につければ、受け入れた人々は消費するだけの存在ではなくなる。
オーキスは腕を組んだ。
「ならば、問題は受け入れ方か」
「はい」
マーガレットが答えた。
「お父様。亡命者として扱う必要はないと思います」
「どういうことだ?」
「移民です」
会議室にいた者たちがマーガレットを見る。
「現在、ダークライト魔導公国で一般住民から保護要請が出ています。でも、その人たちは犯罪者に捕らえられているわけではありません」
自分の意思で国を出たい。
アルデバラン王国で暮らしたい。
それなら保護ではない。
「正式に移民として受け入れましょう」
クレインが頷いた。
「なるほど」
犯罪被害者は保護する。
逃げてきた者は亡命者として受け入れる。
そして自ら移住を希望する一般住民には、移民という選択肢を用意する。
オーキスが尋ねる。
「公国には、あと何人いる?」
今度はアッシュが答えた。
「索敵と鑑定の結果が出ています」
ダークライト魔導公国。
現在人口、約五百万人。
その内訳まで千百人の騎士による索敵で調べられていた。
「一般住民、約四百五十万人」
アッシュが一度言葉を切る。
「犯罪者と判断された者が、約五十万人です」
アイクの表情が険しくなった。
「一割か」
政府関係者。
反体制派。
奴隷商。
人攫い。
盗賊。
傭兵崩れ。
犯罪へ直接関与している者を索敵と鑑定で確認した結果だった。
オーキスは数字を見つめた。
四百五十万人。
王国が受け入れ可能と判断した三千万人には、遥かに届かない。
「全員来ても養えるのか」
クレインが答える。
「数字の上では問題ありません」
「なら簡単だな」
オーキスがマーガレットを見る。
マーガレットも頷いた。
公国を奪う必要はない。
住民に国を捨てろと命じる必要もない。
アルデバラン王国という別の選択肢を示せばいい。
残りたい者は残る。
移りたい者は移る。
「移民希望者を募りましょう」
マーガレットの言葉に、誰も反対しなかった。
ダークライト魔導公国をどうするかではない。
そこに暮らす四百五十万人が、これからどこで生きたいのか。
決めるのは、彼ら自身だった。
ダークライト魔導公国からの移民受け入れについて、大きな方針は決まった。
一般住民は約四百五十万人。
仮にそのすべてが移住を希望しても、現在のアルデバラン王国には受け入れる余力がある。
だが、マーガレットには一つだけ譲れない条件があった。
「移民の際には、鑑定とポストコグニションは必須ですわ」
マーガレットが言い切った。
オーキスが娘を見る。
「全員か?」
「全員です」
迷いはなかった。
「王国にふさわしくない者が紛れるかもしれません」
ダークライト魔導公国では、一般住民と犯罪者が綺麗に分かれて暮らしているわけではない。
政府関係者。
反体制派。
奴隷商。
人攫い。
盗賊。
傭兵崩れ。
犯罪組織へ協力していた商人や役人もいる。
それらが一般住民に紛れて移民を希望する可能性は十分にあった。
クレインが尋ねる。
「鑑定だけでは不十分でしょうか?」
「不十分です」
マーガレットは即答した。
「鑑定で分かることと、実際にその人が何をしてきたかは別です」
だからポストコグニションを使う。
過去視。
本人の過去に何があったのかを確認する。
「犯罪歴だけを見るのか?」
オーキスが尋ねる。
「いいえ。そこは慎重に判断する必要があります」
マーガレットは少し考えて続けた。
「犯罪をしたことがある。それだけで拒否するのは違いますわ」
アイクが頷く。
ダークライト魔導公国では、アルデバラン王国とは事情が違う。
食べるために盗んだ者。
家族を守るために法を破った者。
犯罪組織に脅され、仕方なく手伝わされた者。
奴隷として命令されただけの者。
そうした者まで、人攫いや奴隷商と同じ扱いにはできない。
「見るべきなのは、その人が何をしたか。そして、なぜしたのかです」
ロックウェルが口を開く。
「自分の利益のために他人を攫い、売った者と、飢えた子どものために食料を盗んだ者を同じにはできませんな」
「その通りです」
マーガレットが頷いた。
アッシュが王国教導管理システムを確認する。
「問題は人数です。最大四百五十万人を確認するとなれば、相当な作業になります」
以前なら、それだけで不可能だっただろう。
だが、今は違う。
三騎士団千百人。
全員がポストコグニションを習得している。
鑑定を使える者も王国内には多数いる。
さらに教導スキルを持つ者まで増え続けている。
マーガレットが答える。
「一度に受け入れる必要はありません」
移民希望者を登録する。
鑑定する。
ポストコグニションで確認する。
問題がなければ受け入れる。
移住先を決める。
住居を用意する。
仕事を紹介する。
必要なら教導を行う。
順番に進めればいい。
「人数を競う必要はありませんわ」
クレインが頷いた。
「受け入れ能力があるからといって、急ぐ理由はありませんな」
「ええ」
四百五十万人を一日で移住させる必要などない。
むしろ急激に人口を動かせば、受け入れる側にも負担が出る。
オーキスが尋ねる。
「拒否された者はどうする?」
マーガレットは少し考えた。
「犯罪者だからという理由だけで、こちらから処罰する必要はないと思います」
「入国させないだけか」
「はい。ただし、人攫いや奴隷売買を現在も行っている者なら別です」
それは移民審査とは別の問題だった。
すでに王国が犯罪抑止の対象としている。
オーキスが頷く。
「分けて考えるべきだな」
「はい」
移民として受け入れるか。
犯罪者として対処するか。
同じ判断ではない。
アイクが尋ねる。
「では、移民希望者には最初に説明する必要がありますな」
マーガレットが頷いた。
「当然ですわ」
何を調べるのか。
なぜ調べるのか。
どのような者を拒否するのか。
最初から明らかにしておく。
「それでもアルデバラン王国へ移住したい人だけ、申請してもらいます」
クレインが少し笑った。
「それだけでも犯罪者の一部は申請を諦めそうですな」
「それで構いません」
マーガレットはきっぱり答えた。
アルデバラン王国には余裕がある。
土地もある。
食料もある。
金もある。
だからといって、誰でも無条件に受け入れるわけではない。
この国で暮らす者を守る責任もある。
現在の国民。
帝国から来た者。
今回保護された者。
そして、これから移民してくる者。
その誰もが安心して暮らせる国でなければならない。
オーキスは全員を見渡した。
「よし。移民を受け入れる」
そして条件を加える。
「鑑定とポストコグニションによる確認を必須とする。問題のない者には、アルデバラン王国で暮らす道を開け」
「はい」
マーガレットが答えた。
四百五十万人に命令するのではない。
救出でもない。
亡命でもない。
初めて彼ら自身に選ばせる。
残るのか。
移るのか。
どこで生きるのか。
アルデバラン王国が用意するのは、その選択肢だった。
ダークライト魔導公国からの移民受け入れが決まると、最初に動いたのは冒険者ギルドだった。
公国内には各地に冒険者ギルドの支部がある。
アルデバラン王国が役人を送り込み、移民を集める必要はない。
各支部に告知が出された。
アルデバラン王国への移住を希望する者を受け付ける。
強制ではない。
残りたい者は残ればいい。
移住したい者だけが申請する。
ただし、受け入れには審査がある。
犯罪へ関与していた者は拒否される場合がある。
公国民に知らされたのは、それだけだった。
最初は様子を見る者が多かった。
「本当に行けるのか?」
「家族も一緒でいいのか?」
「向こうで仕事はあるのか?」
ギルド職員は王国から伝えられた内容を説明した。
家族単位で申請できる。
住居は用意される。
仕事も紹介される。
読み書きのできない者には教導も行われる。
説明を聞いた者が家族へ話す。
その家族が隣人へ話す。
噂は急速に広がった。
やがて最初の移民希望者たちがアルデバラン王国へ移送された。
そこで審査が始まった。
一人ずつ確認する。
名前。
家族。
これまでの仕事。
希望する仕事。
そして鑑定。
審査を担当する騎士たちは、それだけで終わらなかった。
一人の男が席に座った。
「商人をしていた」
「何を扱っていた?」
「日用品だ。布や食器なんかを売っていた」
男は落ち着いていた。
騎士が鑑定する。
確かに商人だった。
だが、続けて過去を確認した騎士の表情が変わった。
何も説明しない。
ソートグラフィー。
空中に映像が現れた。
夜の街道。
馬車が一台。
その荷台には、手を縛られた亜人たちが乗せられている。
男の顔から笑みが消えた。
映像の中には、目の前に座っている男自身がいた。
奴隷商から金貨の入った袋を受け取っている。
「これは……」
映像が変わる。
別の日。
若い女性を二人の男と一緒に馬車へ押し込んでいた。
さらに変わる。
奴隷商との取引。
金貨。
拘束された亜人。
男自身の声まで聞こえる。
「待ってくれ!」
審査を担当する騎士が男を見る。
「何を?」
「違うんだ。事情がある」
騎士は再び過去を確認した。
別の映像が現れる。
男が笑いながら金貨を数えていた。
脅されている様子はない。
家族を守るためでもない。
自分から取引を持ちかけている。
映像が消えた。
「移民申請を却下する」
「待て!」
「次の方」
男が何を言っても結果は変わらなかった。
別の審査場所では、痩せた男が俯いていた。
「犯罪をしたことがあります」
審査が始まる前に自分から告げた。
「何をした?」
「パンを盗みました」
騎士は表情を変えない。
過去を確認する。
ソートグラフィー。
小さな店。
男が周囲を気にしながらパンを二つ懐へ入れている。
映像が変わった。
粗末な家。
盗んだパンを二人の子どもへ渡していた。
男自身は食べていない。
さらに過去を見る。
仕事を探している。
断られる。
別の場所でも断られる。
家へ帰る。
空腹で泣く子どもたち。
そこで映像は消えた。
男は俯いたままだった。
「申し訳ありません」
騎士が尋ねる。
「子どもは?」
「一緒に来ています」
「二人とも?」
「はい」
騎士は確認を終えた。
「移民申請を受理する」
男が顔を上げる。
「え?」
「次の手続きへ進んでくれ」
「でも、私は盗みを」
「確認した」
「では、なぜ?」
騎士は短く答えた。
「犯罪歴だけで判断するとは聞いていない」
男は何も言えなくなった。
同じような審査が続いた。
税を払えず逃げた者。
許可なく森で狩りをした者。
家族を守るため役人へ抵抗した者。
犯罪組織に脅され、荷物を運ばされた者。
過去を見る。
事情を見る。
自分の利益のために他人を傷つけたのか。
追い詰められて選択肢を失っていたのか。
一つずつ判断された。
王国教導管理システムには審査結果が次々と登録されていく。
受け入れ。
追加確認。
拒否。
そして受け入れが決まった者には、次の項目が追加された。
家族構成。
得意なこと。
希望する仕事。
希望する居住地。
必要な教導。
移民希望者が増えるほど、審査も速くなった。
教導スキルを持つ者が新たな審査担当者を育てる。
覚えた者が、また次の者へ教える。
人手不足になれば教導する。
それが今のアルデバラン王国だった。
やがて最初の大きな集団が新しい居住地へ向かった。
農地が広がっている。
建設中の住宅が並ぶ。
ゴーレムが資材を運んでいた。
移民たちはそれを眺めながら歩いていく。
誰かに売られて来たのではない。
捕虜として連れて来られたのでもない。
自分で申請した。
自分で選んだ。
そして審査を通った。
これから何をするのかも、自分で選べる。
ダークライト魔導公国から人が動き始めていた。
軍隊に追われたからではない。
アルデバラン王国が侵攻したからでもない。
より良い場所で暮らせると知った人々が、自分の意思で国境を越え始めていた。
ダークライト魔導公国からアルデバラン王国への移民は、その後も続いた。
最初は数百人だった。
それが数千人になり、数万人になった。
家族で移住する者。
店を畳んだ商人。
工房を閉じた職人。
農地を手放した農民。
冒険者ギルドを訪れ、自分から移民を申請する。
誰も強制していない。
アルデバラン王国へ移るのか。
ダークライト魔導公国に残るのか。
決めるのは本人だった。
そして一般住民約四百五十万人のうち、百万人がアルデバラン王国への移住を選んだ。
これまで保護した者や亡命者を含めれば、ダークライト魔導公国から流出した人口はさらに多い。
それでもアルデバラン王国に混乱は起きなかった。
土地がある。
食料がある。
金がある。
仕事もある。
受け入れた移民は王国各地へ分散した。
農業を選ぶ者。
紡織を学ぶ者。
料理人になる者。
建築に携わる者。
商売を始める者。
冒険者を目指す者。
読み書きができなければ教わる。
技能がなければ学ぶ。
そして魔力循環も教えられた。
移住したばかりの者たちは最初こそ戸惑った。
だが、一度覚えれば続ける者が多かった。
魔力を巡らせながら働く。
魔力を巡らせながら学ぶ。
元から暮らしていた王国民と同じ生活へ、少しずつ馴染んでいった。
人口が百万人増えれば、百万人分の食料が必要になる。
同時に、働く者も百万人近く増える。
王国では人口増加が、そのまま負担になるわけではなかった。
一方。
ダークライト魔導公国では、逆のことが起きていた。
百万人が消えた。
その中には農民もいた。
職人もいた。
商人もいた。
運送業者もいた。
料理人もいた。
物を作る者。
運ぶ者。
売る者。
買う者。
社会を動かしていた人々が、自分の意思で公国を離れた。
市場から商品が減った。
農地では耕す者が減った。
工房では作る者が減った。
荷馬車も減った。
店を開いても商品が入ってこない。
商品が入っても値段が高い。
「パンはないのか?」
「今日はもうない」
「昨日もそう言っていただろう!」
「俺に言うな。小麦が来ないんだ!」
金を持っていても買えない。
さらに、公国の信用はすでに大きく傷ついている。
奴隷取引で約束された商品が消える。
前金を返せない。
商人同士の契約も守られない。
国外の商人も、公国との取引を避け始めていた。
食料を自国で十分に生産していなかったことが、ここへ来て重くのしかかった。
買えばいい。
以前はそれで済んだ。
今は買えない。
金が足りない者が増えた。
金があっても商品がない。
売る側から信用されなければ、取引そのものが成立しない。
食料価格は上がり続けた。
最初に食事を減らしたのは貧しい者だった。
三食が二食になる。
二食が一食になる。
親が食べずに子どもへ渡す。
老人が若い者へ譲る。
それでも足りない。
やがて王国教導管理システムに、新しい情報が登録された。
餓死者。
一人ではなかった。
別の町でも。
別の村でも。
食料不足による死者が確認され始めていた。
王宮でも、その情報は共有された。
マーガレットが静かに呟く。
「予測より早かったですわね」
クレインも状況を確認していた。
「百万人の移住が大きかったのでしょう」
「それだけではありませんわ」
マーガレットは首を振った。
もともと生産力が低かった。
犯罪経済への依存。
商業信用の失墜。
食料の不足。
そこへ人口流出が重なった。
一つの原因で崩れているのではない。
積み重なっていた問題が、一気に表面化しただけだった。
オーキスが尋ねる。
「移民の受付は続いているな?」
「はい」
「ならば続けろ」
それだけだった。
クレインが確認する。
「受け入れ可能人数にも、まだ十分な余裕があります」
「なら問題ない」
オーキスはダークライト魔導公国の状況を見る。
餓死者が出ている。
だからといって、アルデバラン王国が公国を統治する理由にはならない。
食料を送り込み、公国そのものを支えるとも決めていない。
「余たちは選択肢を閉じておらぬ」
オーキスが言った。
移民を希望するなら受け入れる。
審査を通れば、新しい土地で暮らせる。
仕事もある。
食料もある。
教導も受けられる。
それでも残る者はいる。
生まれた土地を離れたくない者。
家を捨てたくない者。
公国が立ち直ると考える者。
理由はそれぞれだった。
「残ることを選ぶのも、その者の自由だ」
マーガレットが頷く。
「成人で、自分で判断できる者ならばですわね」
「そうだ」
自分で選べない者は別だった。
奴隷。
拘束されている者。
保護者を失った子ども。
犯罪者によって自由を奪われた者。
そうした者を見つければ、これまで通り保護する。
だが、自分で選べる者の人生まで王国が決めることはしない。
公国を出る道はある。
残る道もある。
アルデバラン王国は、そのどちらも強制しなかった。
オーキスは静かに言った。
「自分の国を選ぶのは、王ではない」
誰も答えなかった。
「そこに生きる民だ」
ダークライト魔導公国から百万人が去った。
そして残った者たちにも、まだ選択肢は残されていた。
どちらを選ぶか。
その答えまで、アルデバラン王国が決めることではなかった。




