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戦わずに世界を変えた男――教育と物流で“循環国家”を作ったら、いつの間にか大陸が一つになっていた  作者: 慈架太子


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143 魔力循環

三騎士団への教導が終わると、ダークライト魔導公国全域を対象とした広域索敵が始まった。


王国騎士団七百人。


魔導騎士団二百人。


近衛騎士団二百人。


合わせて千百人。


近衛騎士団は王宮警備に必要な人数を残し、交代で索敵へ参加している。


騎士たちはダークライト魔導公国へ行く必要すらなかった。


アルデバラン王国にいながら、公国全域を調べることができる。


「広域索敵を開始する」


アイクの指示が出る。


千百人の騎士たちが魔力循環を高速で回した。


水。


風。


土。


光。


闇。


火。


六属性を混ぜた索敵が遠く離れた公国へ広がっていく。


町。


村。


街道。


森。


山。


砦。


公都。


人が集まっている場所。


地下に作られた空間。


森の奥に隠された建物。


異常を感じれば、すぐにリモート・ビューイングを使う。


遠隔透視。


離れた場所を直接見る。


建物の内部を確認する必要があればクレヤボヤンス。


会話を聞きたければクレアオーディエンス。


距離も壁も、情報を隠す役には立たなかった。


「北部の屋敷。地下に亜人三十二人を確認」


一人の騎士が告げる。


別の騎士がすぐにリモート・ビューイングを重ねた。


「確認しました。見張り六人。地下入口に二人、建物内部に四人」


さらに別の騎士がクレアオーディエンスを使う。


遠く離れた屋敷の中で交わされている会話を拾った。


「明日の朝には移すぞ」


「どこへ?」


「西の奴隷商だ」


聞こえる。


さらにサイコメトリーとポストコグニションを使えば、過去に何が行われたのかまで確認できる。


ソートグラフィーで映像として残すこともできた。


そして千百人が得た情報は、その場限りで消えることも、紙の報告書として積み上げられることもない。


王国教導管理システム。


千百人が確認した情報が次々と登録され、一元管理されていく。


場所。


人物。


施設。


会話。


映像。


過去の出来事。


魔導研究。


犯罪者同士の繋がり。


同じ人物を別の騎士が確認すれば、その情報が重なる。


別の場所で同じ名前が出れば、さらに繋がる。


一人の人攫いから奴隷商へ。


奴隷商から傭兵崩れへ。


傭兵崩れから役人へ。


役人から政府関係者へ。


反対側を調べれば、反体制派にも同じような繋がりが見つかった。


アイク、アッシュ、ロックウェルも王国教導管理システムに集約されていく情報を確認していた。


「酷いものだな」


アイクが呟く。


アッシュが別の情報を確認する。


「こちらでは反体制派が奴隷商から資金を受け取っています」


政府と反体制派。


表向きは対立している。


だが、人攫いと奴隷売買に関しては違った。


利益になる。


だから互いに邪魔をしない。


調べれば調べるほど、真っ黒だった。


魔導騎士団は研究施設も徹底的に調べた。


魔法陣。


魔道具。


研究資料。


実験設備。


研究者。


資金の流れ。


リモート・ビューイングとクレヤボヤンスがある以上、建物の外からでも内部を確認できる。


クレアオーディエンスを使えば研究者同士の会話まで聞ける。


証拠保全にも問題はなかった。


何かを燃やして隠そうとしても遅い。


その前に見られている。


記録されている。


過去まで確認される。


公国側には、自分たちが調べられていることすら分からない。


隠せる場所がなかった。


そして亜人が発見されれば、すぐに保護が始まる。


周囲を索敵。


リモート・ビューイングで確認。


犯罪者の位置を把握する。


転移。


保護。


帰還。


公国の町を占領する必要はない。


土地もいらない。


政権にも興味はない。


保護できる亜人は片っ端から保護した。


ダークライト魔導公国は、文字通り丸裸になっていた。


一方、アルデバラン王国の人口は五千万人を超えている。


そして五千万人を超える国民には、すでに一つの習慣が定着していた。


魔力循環。


農民が畑を耕しながら。


職人が物を作りながら。


商人が店に立ちながら。


料理人が料理をしながら。


文官が仕事をしながら。


教師が教えながら。


子どもたちも日常的に魔力を巡らせている。


王宮でも同じだった。


国王オーキス・アルデバランは執務を続けながら、当たり前のように魔力循環を行っていた。


国王ですら例外ではない。


いや。


もはや、例外を作る理由そのものがなかった。


魔力循環は訓練ではない。


アルデバラン王国では、すでに日常になっていた。




ダークライト魔導公国への広域索敵が始まってから、王国教導管理システムには膨大な情報が蓄積されていた。


王宮の会議室。


オーキスはクレイン、アイク、アッシュ、ロックウェルを集めていた。


マーガレットも同席している。


目の前に紙の報告書はない。


必要な情報は王国教導管理システムに記録され、誰が、いつ、どこで、何を確認したのかまで整理されている。


推測する段階は終わっていた。


政府関係者が奴隷商と繋がっていた。


役人が人攫いから金を受け取っていた。


捕らえた亜人を保管する場所まで用意されていた。


反体制派も変わらない。


人攫いと取引する。


奴隷商から資金を得る。


傭兵崩れを利用する。


盗賊とも繋がる。


表では政府を批判しながら、裏では同じ犯罪から利益を得ていた。


オーキスは一通り確認してからクレインを見た。


「クレイン」


「はい」


「以前、お前に問うたな」


クレインは何を言われるのか分かっていた。


「非人道国家は人類の敵だと」


「はい」


「これでもまだ、ダークライト魔導公国は人類の敵ではないか?」


会議室が静かになった。


クレインはすぐには答えなかった。


迷っているのではない。


王国教導管理システムに集められた情報を、もう一度見ていた。


そして顔を上げる。


「人類の敵です」


明確だった。


オーキスは黙って続きを待つ。


「以前の私は、確認すべきことが残っていると考えておりました」


クレインは言った。


「政府がどこまで関与しているのか。反体制派はどうなのか。公国自身に犯罪を抑止する意思があるのか」


「今は?」


「確認できました」


クレインは王国教導管理システムに表示されている情報へ視線を向ける。


「政府にも犯罪へ関与している者がいる。反体制派にもいる。人攫い、奴隷商、傭兵崩れ、盗賊。それぞれが利益によって結びついております」


アイクが腕を組む。


クレインは続けた。


「何より、公国内で人が商品として扱われている」


種族を理由に攫う。


拘束する。


売る。


買う。


働かせる。


逃げれば捕らえる。


それが一部の犯罪者だけで完結していない。


「国の中に犯罪組織が存在するというだけなら、我が国にも犯罪者は出るでしょう」


オーキスが頷いた。


「そうだな」


「違いは、それをどう扱うかです」


アルデバラン王国なら捕らえる。


裁く。


被害者を保護する。


再発を防ぐ。


少なくとも犯罪を犯罪として扱う。


ダークライト魔導公国では違った。


取り締まるべき者が利益を受け取る。


体制を変えると主張する者まで同じ利益を受け取る。


「これを国家の一部に犯罪者がいるというだけの問題として扱うことは、もうできません」


クレインは断言した。


「人類の敵と判断します」


オーキスはクレインから視線を外し、三団長を見る。


「アイク」


「同意します」


返答は早かった。


「王国騎士団が確認したものだけでも十分です」


「アッシュ」


「同じです」


アッシュも迷わない。


「研究施設も確認しました。表から見えなかったものまで調べた上で申し上げます。擁護できるものはありません」


「ロックウェル」


「異論ございません」


三人とも同じだった。


オーキスは再びクレインを見る。


「ならば、余が最初に言ったことは変わらぬ」


「はい」


「力なき正義は無力だ」


誰も口を挟まない。


「正義なき力は暴力だ」


オーキスの声は静かだった。


怒鳴る必要はなかった。


「我らは正義と信じる。そして今の我らには力がある」


千百人の騎士が公国全域を索敵できる。


遠くから見ることができる。


声を聞ける。


過去を確認できる。


証拠を残せる。


必要なら転移できる。


被害者を保護できる。


だが、オーキスは続けた。


「だからといって、公国を奪う理由にはならぬ」


クレインが頷く。


「はい」


「土地はいらぬ。公都もいらぬ。あの国を統治するつもりもない」


欲しいものは何もない。


「だが、犯罪は止める」


アイクが答えた。


「王国騎士団も同じ考えです」


「亜人は保護する」


「はい」


「人攫いと奴隷商は?」


アイクの答えは短かった。


「潰します」


アッシュが続ける。


「犯罪に協力する魔導師も同様です」


オーキスは最後にクレインを見る。


「ブレーキはどうした?」


クレインは僅かに笑った。


「ございます」


「踏むか?」


「いいえ」


即答だった。


「なぜだ?」


クレインは少しも迷わなかった。


「止めるべきなのは、我々ではありません」


オーキスの口元が僅かに上がる。


クレインは続けた。


「今止めるべきなのは、ダークライト魔導公国で行われている犯罪です」


以前とは違う。


懸念ではなく、確認した事実を見て判断している。


ブレーキを捨てたわけでもない。


踏むべき場所を間違えなくなっただけだった。


オーキスは頷く。


「ならば続けろ」


「仰せのままに」


会議はそれだけで終わった。


アルデバラン王国の方針は、何も変わっていない。


侵略しない。


征服しない。


支配しない。


だが、目の前で続いている犯罪を見過ごすこともしない。


力を持った王国が選んだのは、その道だった。




ダークライト魔導公国への広域索敵が進むにつれ、新たな問題が浮かび上がった。


保護対象は亜人だけではなかった。


「人間もいます」


王宮の会議室で、アッシュが王国教導管理システムに表示された情報を確認していた。


人間の奴隷。


借金を理由に売られた者。


攫われ、そのまま奴隷商へ渡された者。


親によって売られた子どもまでいる。


さらに別の場所では、女性たちが娼館へ売買されていた。


本人の意思など関係ない。


金を払った者から別の者へ。


奴隷商から娼館へ。


娼館から別の町へ。


人間もまた商品として扱われていた。


オーキスの表情が険しくなる。


「亜人だけではなかったか」


「はい」


アイクが答える。


「相当な人数です。現在も確認を続けています」


ロックウェルが王国教導管理システムに登録された情報を見る。


「陛下。保護対象を亜人に限定する理由は、もうないのではありませんか」


オーキスはすぐには答えなかった。


感情だけなら簡単だった。


助ければいい。


だが、国王として考える必要がある。


保護した後、その人々はどこで暮らすのか。


食料はあるのか。


仕事はあるのか。


住居は用意できるのか。


一万人なら可能でも、十万人なら。


百万人なら。


どこまで増えるか、まだ分からない。


「クレイン」


「はい」


「受け入れられるか?」


クレインは少し考えてから答えた。


「人数次第、と申し上げるところですが」


そこで言葉を切った。


「現在の我が国なら、相当数を受け入れられます」


アルデバラン王国の人口は五千万人を超えた。


だが、土地が不足しているわけではない。


開拓可能な土地は、まだ広大に残されている。


ゴーレムによる開墾も始まっている。


魔法による建築もできる。


道路も短期間で整備できる。


「食料は?」


オーキスが尋ねる。


「食料充足率は二百パーセントを超えた状態を維持しております」


「余裕があるな」


「はい」


人口五千万人を養っても、それを大きく上回る食料を生産できている。


農業革命によって生産力そのものが変わっていた。


さらに金属インゴットから得られる税収がある。


鉄。


金。


銀。


銅。


錫。


鉛。


ミスリル。


オリハルコン。


アダマンタイト。


国内で産出し、加工し、流通させる。


その規模は以前の王国とは比較にならない。


財政にも余裕がある。


大陸でもっとも裕福な国と言ってよかった。


アッシュが呟く。


「金も食料も土地もある」


クレインが頷く。


「受け入れない理由を探す方が難しいでしょう」


マーガレットが王国教導管理システムの別の情報を確認していた。


「仕事もあります」


紡織。


農業。


食品加工。


建築。


街道整備。


公衆浴場。


教育。


物流。


商業。


冒険者ギルド。


人手を必要としている場所はいくらでもあった。


オーキスは腕を組んだ。


「だが、保護した者を養い続けるつもりはない」


「もちろんです」


マーガレットが答える。


「最初は保護します。その後は教導です」


読み書き。


計算。


魔力操作。


魔力循環。


生活技能。


職業技能。


必要なものを教える。


自分で働き、自分で生活できるようにする。


これまで何度も行ってきた方法だった。


アイクが口を開いた。


「今の王国なら、受け入れた者がここで暮らしたいと思うでしょうな」


それも大きな変化だった。


国民の幸福度は九十五パーセントを超えている。


識字率は九十八パーセント。


食べ物は足りているだけではない。


美味いものがある。


肉。


魚。


野菜。


パン。


菓子。


酒。


各地で料理も発達している。


そして病に苦しむ者もいない。


浄化。


治癒。


衛生教育。


公衆浴場。


さらに今では全国民が日常的に魔力循環を行っている。


子どもから老人まで魔力を巡らせる。


身体そのものが以前とは比較にならないほど健全になっていた。


オーキスが改めて尋ねる。


「人間の奴隷も保護する。それで異論はないか?」


「ありません」


アイクが答えた。


アッシュもロックウェルも頷く。


クレインも同じだった。


「娼婦は?」


今度は少しだけ沈黙があった。


マーガレットが口を開く。


「本人に選んでもらえばよいのではありませんか?」


オーキスが娘を見る。


「選ばせる?」


「はい。無理に連れてくる必要はありません」


奴隷として拘束されている者。


本人の意思に反して娼館へ売られた者。


逃げたくても逃げられない者。


そうした人々には選択肢そのものがない。


ならば選択肢を渡せばいい。


「アルデバラン王国へ来たいなら保護する。残りたいなら残る。それでよいと思います」


クレインが頷いた。


「妥当でしょう」


オーキスは三団長を見る。


異論はなかった。


「決まりだ」


国王の言葉は短かった。


「亜人だけではない。人間の奴隷も保護対象とする。娼館にいる者についても本人の意思を確認し、希望する者は保護せよ」


アイクが一礼する。


「承知しました」


「来た者には食わせろ。住む場所も用意しろ」


オーキスは続ける。


「その後は教えろ」


いつまでも保護される者にはしない。


自分で生きられるようにする。


アルデバラン王国には、それができるだけの余裕があった。


土地がある。


食料がある。


仕事がある。


金がある。


そして何より、人を育てる仕組みがある。


救うだけでは終わらない。


保護の先に自立を置く。


それが、この国が選んできたやり方だった。




ダークライト魔導公国からの保護は、その後も続いた。


亜人。


人間の奴隷。


本人の意思に反して娼館へ売られていた女性たち。


王国教導管理システムによって居場所を確認し、周囲の状況を調べる。


保護を希望する者には転移で接触する。


そしてアルデバラン王国へ移送する。


それだけではない。


自力で公国を脱出し、国境を越えてくる亡命者も増えていた。


最終的に、保護した者と亡命してきた者を合わせると、およそ八十万人。


アルデバラン王国の人口は、さらに増えた。


だが、混乱はほとんど起きなかった。


食料には余裕がある。


土地もある。


住居は魔法とゴーレムによって建設できる。


教導できる人材もいる。


読み書きのできない者には文字を教える。


魔力操作を知らない者には基礎から教える。


魔力循環。


生活技能。


職業技能。


農業。


紡織。


料理。


建築。


本人の適性と希望を確認しながら、それぞれの生活を作っていく。


保護した人数は多い。


それでもアルデバラン王国にとって、支えきれない人数ではなかった。


問題が深刻になっていたのは、むしろ人を失った側だった。


ダークライト魔導公国。


人が減った。


それだけではない。


商品も減った。


奴隷として売買されていた人々は、公国では商品として扱われていた。


亜人。


人間。


娼館へ売られる女性。


それらが次々と消えた。


奴隷商は売るものを失った。


買い手は金を用意しても商品を受け取れない。


約束した期日に引き渡せない。


前金を受け取っていた者は返すこともできない。


商取引の信用が崩れ始めた。


「また消えた?」


奴隷商が怒鳴る。


「はい。昨夜までは地下にいたはずです」


「見張りは何をしていた!」


「誰も入っていません!」


そんな話が各地で繰り返される。


鍵は壊されていない。


壁にも穴はない。


見張りも倒されていない。


それなのに、捕らえていた者だけが消える。


アルデバラン王国が遠隔で場所を確認し、転移によって保護していることなど彼らには分からなかった。


やがて奴隷商だけではなく、別の商人まで取引を避けるようになった。


商品を用意できない。


約束を守れない。


信用できない。


商売は信用がなければ成立しない。


さらに深刻だったのが食料だった。


ダークライト魔導公国は十分な食料を自国で生産していなかった。


外から買えばいい。


これまではそれで済んでいた。


だが、経済が疲弊すれば買うこともできなくなる。


金がない。


信用もない。


商品もない。


食料を売る側も、代金を回収できない相手との取引を嫌う。


市場から食料が減り始めた。


値段が上がる。


買える者が減る。


さらに商人が離れる。


悪循環だった。


その影響を最初に受けたのは犯罪者ではない。


普通に暮らしていた住民だった。


食料が買えない。


仕事がない。


物価だけが上がる。


公国政府へ訴えても状況は変わらない。


そんな中、アルデバラン王国へ一つの情報が届いた。


冒険者ギルドからだった。


王宮。


マーガレットは王国教導管理システムへ登録された情報を確認していた。


「一般住民から保護要請?」


バルドから共有された情報だった。


ダークライト魔導公国内の冒険者ギルドへ、住民が相談に来ている。


奴隷ではない。


捕らえられてもいない。


犯罪組織に追われているわけでもない。


ただ、暮らしていけない。


食べられない。


仕事がない。


子どもを養えない。


アルデバラン王国へ行けないか。


そんな相談が増えていた。


マーガレットはしばらく情報を追った。


人口の流出。


市場の縮小。


奴隷取引の崩壊。


商業信用の失墜。


食料価格の上昇。


生産力の不足。


政府と反体制派の犯罪への関与。


どれか一つなら耐えられたかもしれない。


だが、同時に起きている。


マーガレットは未来視を使わなかった。


必要なかった。


数字と現在起きていることだけで、ある程度の先は読める。


「まずいわね」


隣にいたクレインが尋ねる。


「何がでしょう?」


「この国、持たないわ」


マーガレットはダークライト魔導公国の情報を示した。


「今までは犯罪者に捕らえられた人を保護していた。でも、これからは違う」


一般住民まで外へ出ようとしている。


それは意味が違う。


「人が減れば、生産する人も減る」


農民。


職人。


商人。


運送業者。


働く者が減れば、さらに物が減る。


物が減れば値段が上がる。


暮らせなくなった者が、また国を出る。


「その繰り返しになります」


クレインの表情が変わった。


「国家そのものが維持できなくなると?」


「その可能性が高いわ」


マーガレットは頷いた。


「問題は、その後よ」


公国が倒れること自体ではない。


そこに暮らしている人間がいる。


「このまま倒壊したら、大量の難民が出る」


八十万人を受け入れた。


だが、次も同じ規模とは限らない。


百万人。


二百万人。


さらに増える可能性もある。


マーガレットはすぐに立ち上がった。


「お父様に報告します」


ダークライト魔導公国を攻める必要などなかった。


アルデバラン王国が何もしなくても、すでに崩れ始めている。


だが、その崩壊によって苦しむ者まで放置する理由もなかった。


次に考えるべきなのは公国をどう倒すかではない。


**倒れた時、人をどう救うか。**


問題はすでに、そこまで進んでいた。





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