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戦わずに世界を変えた男――教育と物流で“循環国家”を作ったら、いつの間にか大陸が一つになっていた  作者: 慈架太子


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131 王国の整備

アルデバラン王国には、各地から大量のインゴットが集まり続けていた。


鉄。


銅。


錫。


鉛。


銀。


金。


ミスリル。


オリハルコン。


アダマンタイト。


二十七人の貴族領から始まったインゴットによる納税は、既存貴族の領地にも広がった。


王国の備蓄は増える一方だった。


そこで王国は方針を変えた。


貯め込むのではなく、使う。


最初に手を付けたのは防壁だった。


主要都市の防壁をミスリルで強化する。


重要な橋にはオリハルコンを使う。


魔物の脅威が大きい辺境では、防壁そのものをアダマンタイトで強化していった。


以前なら考えることすら難しい使い方だった。


ミスリルもオリハルコンもアダマンタイトも希少金属である。


武具に少量使われるだけでも高価だった。


それを防壁や橋へ大量に投入している。


「贅沢ですな」


工事を確認していた文官が呟いた。


隣にいた騎士が完成した防壁を見る。


「だが、壊されない方が安い」


結果はすぐに現れた。


魔物が防壁を破れない。


橋も簡単には壊れない。


辺境の街では、魔物が接近しても住民が避難する時間を十分に確保できるようになった。


王国内の魔物被害は猛烈な勢いで減っていった。


希少金属だけが使われたわけではない。


通常の防壁には、アース・ドラゴンの鱗が利用された。


かつてのスタンピードで討伐された一万体ものアース・ドラゴン。


その素材は大量に保管されている。


巨大な鱗を加工し、防壁の表面へ貼り付ける。


それだけで強度は従来とは比較にならなかった。


「まだ残っているのか?」


「大量にあります」


倉庫を管理する文官の回答に、工事責任者が笑った。


一万体分である。


使っても使っても、すぐにはなくならない。


交通も変わり始めた。


これまで一部で利用されていたゴーレム馬車が、民間にも解禁された。


中心となったのは鉄製のゴーレム馬車だった。


通常の馬車より遥かに頑丈で、荷物も大量に運べる。


さらにミスリルゴーレム。


オリハルコンゴーレム。


アダマンタイトゴーレム。


用途に応じたゴーレムも生産されていった。


動力には魔石を使う。


魔石についても不足する心配はなかった。


以前のスタンピードで討伐されたアース・ドラゴンをはじめ、強力な魔物の魔石が大量に備蓄されている。


そしてゴーレムの運用そのものも進歩していた。


以前はゴーレム魔導師が付き添い、制御する必要があった。


今は違う。


アルフレッド侯爵が、自動運転と自動制御の仕組みを確立していた。


目的地を設定する。


経路を認識する。


障害物があれば停止する。


必要なら迂回する。


ゴーレム魔導師が並走する必要はなくなった。


大量生産された鉄製ゴーレム馬車が、王国各地の街道を走り始める。


それに合わせて街道そのものも整備された。


道幅を広げる。


地面を固める。


橋を補強する。


急な坂を緩やかにする。


物流量は急速に増えていった。


建築にも変化が現れた。


オリハルコンを使った建物さえ、王都では珍しいものではなくなり始めている。


さらにアダマンタイトの特性を利用した屋敷も建てられた。


アダマンタイトは電気を通さない。


落雷を受けても、建物内部へ電気が流れない。


安全性を重視する施設にも利用され始めた。


希少金属。


魔物素材。


魔石。


以前なら国庫の奥で大切に保管されていたものが、王国中へ流れ出している。


道路になる。


橋になる。


防壁になる。


建物になる。


ゴーレムになる。


資源を蓄えるだけでは国は豊かにならない。


使って初めて、人々の生活を支える力になる。


アルデバラン王国は、増え続ける資源を惜しみなく国土の整備へ回し始めていた。




鉄製のゴーレム馬車が普及すると、最初に大きく変わったのは物流だった。


商人たちはすぐに飛びついた。


馬を必要としない。


大量の荷物を積める。


頑丈で壊れにくい。


しかも整備された街道を、自動制御によって目的地まで走る。


王都の商業ギルドでは、導入を希望する商人が次々と申し込みに訪れていた。


「三台欲しい」


「うちは五台だ」


「十台まとめて用意できないか?」


生産する側も対応した。


鉄の供給量は十分にある。


金属属性を覚醒した者も増えている。


ゴーレム魔導学校からは新しい技師が次々と育っていた。


アルフレッド侯爵が確立した自動運転と制御の仕組みも共有されている。


鉄製ゴーレム馬車は各地の工房で大量生産されるようになった。


商人だけではない。


農村でも使われ始めた。


収穫した麦。


野菜。


果物。


酒。


布。


木工製品。


これまで何台もの馬車を使って運んでいた荷物が、一度に大量輸送できる。


馬を休ませる必要もない。


餌もいらない。


動力となる魔石を交換すれば再び動く。


地方で作られた商品が、以前より早く王都へ届くようになった。


逆に王都や大都市で作られた商品も地方へ流れる。


物流が増えると、街道の整備もさらに進んだ。


各領地のゴーレムが投入される。


地面を均す。


道幅を広げる。


排水路を作る。


傷んだ場所を補修する。


橋も架け替えられていった。


主要な橋にはオリハルコンが使われる。


以前なら洪水や大型魔物によって橋が破壊されることもあった。


新しい橋は違った。


大型のゴーレム馬車が何台通っても問題ない。


川が増水しても耐える。


魔物がぶつかった程度ではびくともしない。


辺境では、さらに大きな変化が起きていた。


アダマンタイトで強化された防壁の外側に大型の魔物が現れた。


アースベア。


以前なら騎士や冒険者が急いで駆けつける必要があった。


だが、アースベアが防壁へ体当たりしても、壁は揺れなかった。


二度目。


三度目。


それでも変わらない。


防壁の上にいた衛兵が、その様子を見下ろしていた。


「硬いな……」


「アダマンタイトだからな」


衛兵たちは慌てていなかった。


住民を避難させる時間は十分にある。


その間に冒険者へ念話を送ればいい。


しばらくすると飛行してきた冒険者たちが到着し、アースベアを討伐した。


街に被害はなかった。


別の町では、アース・ドラゴンの鱗を貼った防壁が使われていた。


一万体ものアース・ドラゴンから得た大量の鱗。


その在庫が、王国各地の防壁へ回されている。


従来の石造りの防壁と比較すれば、強度は数百倍に達していた。


魔物に襲われても壊れない。


壊れなければ修理も減る。


修理が減れば、そのために使っていた人手や資材を別の場所へ回せる。


王宮には各地から被害報告が集められていた。


宰相クレイン・レッドバルトは教導記録閲覧端末で数字を確認する。


魔物による建物被害。


街道の損傷。


橋の崩落。


防壁の破損。


どれも減っていた。


「ここまで変わりますか」


隣にいた文官が答える。


「壊れませんから」


あまりにも単純な理由だった。


クレインは笑った。


資源を使った。


その結果、被害が減った。


修繕費も減った。


物流は増えた。


商業も活発になった。


そして民間へ解禁されたゴーレム馬車が、その流れをさらに速めている。


王都では、オリハルコンを建材として使った建物も増え始めていた。


珍しがって足を止める者も、以前ほど多くない。


アダマンタイトを利用した建物も建設されている。


落雷の危険を減らせるため、重要な施設や倉庫にも利用された。


少し前まで希少金属だったものが、今では王国の安全と生活を支える材料になっている。


それでも各領地からインゴットは納められ続けていた。


使っている。


だが、また入ってくる。


クレインは増え続ける備蓄量を確認した。


「もっと使えそうですな」


王国の整備は、まだ始まったばかりだった。




王国の整備は都市や街道だけに留まらなかった。


大量に生産される鉄製ゴーレム馬車は、地方の小さな村にも入り始めていた。


農村では収穫物の運搬に使われる。


漁村では魚を都市へ運ぶ。


山間部では木材や加工品を運び出す。


これまで輸送に何日もかかっていた地域でも、状況は大きく変わった。


しかもゴーレム馬車は自動で走る。


目的地を設定すれば、アルフレッド侯爵が確立した制御によって街道を進む。


障害物があれば停止する。


通行できなければ迂回する。


ゴーレム魔導師が付き添う必要はなかった。


ある農村では、収穫した大量の野菜を鉄製ゴーレム馬車へ積み込んでいた。


「これで三台目だ」


農民がアイテムボックスから木箱を取り出す。


隣にいた商人が笑った。


「まだ積めるぞ」


「前なら馬車何台分だ?」


「考えたくもないな」


二人とも笑った。


大量に運べる。


輸送に使う人手も減った。


余った人手は農地の拡張や加工品の生産へ回せる。


物流の変化は、生産そのものを変え始めていた。


以前は作っても運べないから、生産量を増やせなかった地域もある。


今は違う。


運べる。


ならば作れる。


農業専門学校で学んだ者たちは農地を広げた。


醸造や酒造を学んだ者たちは、余剰作物を加工する。


紡織を学んだ者たちは、布や衣服を作る。


木工を学んだ者たちは家具や生活用品を作った。


それらがゴーレム馬車によって王国中へ運ばれていく。


物流が産業を繋ぎ始めていた。


一方、辺境では防壁の強化が続いていた。


通常の町では、既存の防壁へアース・ドラゴンの鱗を貼り付ける。


重要な都市にはミスリル。


さらに魔物の多い地域ではアダマンタイトが使われた。


防壁の外で魔物が暴れても、以前ほど恐れる必要はない。


衛兵たちにも余裕が生まれていた。


索敵で魔物を発見する。


念話で位置を共有する。


必要なら住民へ避難を知らせる。


冒険者ギルドへも同時に連絡する。


防壁が時間を稼いでくれる。


その間に対応すればいい。


ある辺境の町では、数十体のオークが現れた。


衛兵が索敵で確認する。


「北側にオーク。三十二体」


すぐに念話が飛ぶ。


だが、町に混乱は起きなかった。


防壁がある。


衛兵自身も六属性を使える。


飛行もできる。


やがて冒険者たちが到着した。


防壁の外へ飛び、短時間で討伐を終える。


町の中では商店が普段通り営業していた。


子供たちは学校で授業を受けている。


以前なら魔物の接近だけで町中が騒ぎになっていた。


今では日常を止める必要すらなくなりつつあった。


王宮では、魔物被害の統計が更新されていた。


魔物による死傷者。


家屋の損壊。


橋の破壊。


街道の寸断。


農地への被害。


どの数字も下がっている。


クレインは端末を確認しながら頷いた。


「防壁だけではありませんな」


魔導騎士団長アッシュが答える。


「発見が早くなっています。索敵と念話が民間まで広がった影響も大きいでしょう」


騎士団長アイクも頷く。


「魔物を発見してから騎士団へ知らせるまでの時間が、以前とは比較になりません」


近衛騎士団長ロックウェルは別の点を見ていた。


「街道が良くなったことで、地上部隊の移動も早くなっています」


防壁だけを強くしたのではない。


索敵。


念話。


飛行。


街道。


ゴーレム馬車。


冒険者。


騎士団。


それぞれが繋がった結果だった。


オーキスは三団長からの報告を聞き、端末に表示された数字を見る。


「贅沢に使ったつもりだったがな」


クレインが笑う。


「結果として安くついております」


防壁が壊れない。


橋も壊れない。


街道の復旧も減る。


魔物による被害も減る。


そして何より、人が死なない。


資源を倉庫に積んでいるだけでは得られなかった結果だった。


オーキスは頷いた。


「ならば続けろ」


「承知いたしました」


王国には、まだ大量の資源がある。


各領地から新しいインゴットも納められ続けている。


一万体のアース・ドラゴンから得た素材も、まだ残っていた。


使えるものを使わない理由はない。


アルデバラン王国の整備は、さらに加速していった。




王国中で大量の資源が使われるようになると、新しい仕事も増えていった。


防壁を強化する。


橋を架け替える。


街道を整備する。


ゴーレム馬車を生産する。


建物を建てる。


必要な人材は、各地の専門学校から次々と育ってくる。


鍛冶。


木工。


建築。


金属加工。


ゴーレム魔導師。


学校で学んだ者が現場へ入り、そこで得た経験を次の者へ教える。


王国が細かな方法まで決めなくても、現場では改善が続いていた。


鉄製ゴーレム馬車も用途を広げていた。


ある町では、乗合ゴーレム馬車が運行を始める。


決まった時間に町を出る。


途中の村や町へ立ち寄りながら目的地へ向かう。


動力は魔石。


アルフレッド侯爵が確立した自動制御によって走るため、ゴーレム魔導師が付き添う必要もない。


ただし、王国の人々にとって遠くへ行く方法は他にもある。


急ぐなら飛行すればいい。


それでも乗合ゴーレム馬車を利用する者は増えていた。


急いでいないからだった。


家族で乗る。


友人たちと乗る。


窓から景色を眺める。


途中の町へ立ち寄る。


食事を楽しむ。


気に入った品を買って帰る。


目的地へ着くことだけではなく、移動そのものを楽しむ。


そんな人々が現れ始めていた。


「次の休み、どこか行かない?」


「飛んで?」


「ゴーレム馬車にしようよ。途中の町にも寄りたいし」


急ぐなら飛行。


旅を楽しむなら乗合ゴーレム馬車。


人々は目的に合わせて移動手段を選ぶようになった。


商人たちは、その変化を見逃さなかった。


ゴーレム馬車が停車する町には飲食店が増える。


宿屋も増える。


菓子。


酒。


料理。


布製品。


木工品。


その土地で作られた品を旅人向けに売る店も現れた。


飛行なら通り過ぎていた小さな町にも人が立ち寄る。


街道整備から、思いがけず新しい商売が生まれていた。


大型の鉄製ゴーレム馬車には、別の用途があった。


食料。


建築資材。


インゴット。


災害時の救援物資。


荷物を積み、目的地を設定する。


後は自動で走っていく。


王国騎士団でも利用方法が検討された。


訓練場に大型ゴーレム馬車が並んでいる。


アイクが一台を確認した。


「これなら補給を人間から切り離せるな」


アッシュが尋ねる。


「アイテムボックスがありますが?」


「ある。だから俺たちが運べないわけではない」


アイクはゴーレム馬車を軽く叩いた。


「だが、運べることと、俺たちが運ぶ必要があることは別だ」


アッシュは少し考えてから頷いた。


騎士が物資をアイテムボックスへ収納して運ぶことはできる。


飛行もできる。


転移を使える者もいる。


だが、食料や資材を届けるだけのために、人間を一人使う必要はない。


大型ゴーレム馬車なら、荷物だけを目的地へ送り出せる。


御者もいらない。


ゴーレム魔導師の同行も必要ない。


「我々は我々の仕事をすればいい、ということですか」


「ああ」


騎士は戦う。


教師なら教える。


治癒を使える者なら負傷者を見る。


そして物資はゴーレム馬車に任せる。


人間ができる仕事を、何でも人間にさせる必要はなかった。


アルフレッド侯爵のもとでは、自動制御の改良も続いている。


停止。


発進。


速度調整。


障害物の認識。


迂回。


目的地までの経路選択。


実際に利用した者たちから改善案が届く。


アルフレッド侯爵と技師たちは内容を確認し、使えるものを取り入れる。


改良された制御方法は各地のゴーレム魔導学校へ共有された。


建築でも資源の使い方が洗練されていた。


オリハルコンが大量にあるからといって、建物すべてをオリハルコンで作る必要はない。


柱や梁など、必要な場所へ使う。


アダマンタイトは電気を通さない。


その性質を利用し、落雷への対策が必要な建物へ使われた。


王宮。


クレインは端末を見ていた。


「使っているのですがな」


オーキスが隣から数字を見る。


「また増えたのか?」


「はい。各領地から納められる量の方が多いようです」


街道。


橋。


防壁。


建物。


ゴーレム。


物流。


そして新しく生まれ始めた旅の楽しみ。


インゴットは王国中で別の価値へ変わっている。


オーキスは窓の外を見る。


地上をゴーレム馬車が走っていた。


その上空では、急ぐ者たちが飛んでいる。


どちらを使うかは民が決めればいい。


「もっと使えそうだな」


「ええ」


クレインは笑った。


使っても、また入ってくる。


王国の整備は、まだ終わりそうになかった。





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