120 救済の行脚
翌朝。
第二村の中央広場には、出発を控えた者たちが集まっていた。
前日の会議で方針は決まっている。
帝国を倒すためではない。
帝国を立て直すためでもない。
困窮している帝国民を見つけ、自分たちで生きられる状態まで引き上げる。
そのための行動が始まる。
アレクサンドは念話を開いた。
『班分けを伝えるわ』
返事を待たず、名前を読み上げていく。
『シメオン、ジェーク、リッキー、チャド。あなたたちの四班は、それぞれ十人で動いて』
四人が頷いた。
合計四十人。
第一村と第二村で教導を経験し、すでに他人へ基礎を伝えられる者たちが選ばれている。
『近隣の村を回って。最初に状態を確認すること。食料が不足しているのか、病人がいるのか、農地が荒れているのか。必要なものは村ごとに違うわ』
『全部同じように教導する必要はないんだな?』
シメオンの問いに、アレクサンドは頷く。
『ないわ。救済の形を押しつけないで。まず、その村が何に困っているのかを見て』
食料が必要なら食料を出す。
治療が必要なら治療する。
農業が止まっているなら、再開できるようにする。
自衛できないなら、その方法を教える。
第二村と同じものを作ることが目的ではない。
『自分たちで暮らせるようになったら、次へ行って』
『了解』
四人から同時に返事が届いた。
アレクサンドは次へ移る。
『ホセ、パトリック、シェーン、ラザロ、ブレイドン、コデイ』
六人が顔を上げた。
『あなたたちも十人ずつ。合計六十人で動いてもらうわ』
『俺たちは?』
ホセが尋ねた。
『村より少し大きな街を調べて』
アレクサンドは周囲に広げた地図を指した。
帝国の街道沿いには、いくつかの町が点在している。
かつては周辺の村から農産物が集まり、商人や職人が暮らしていた場所だった。
今もその機能が残っているとは限らない。
『困窮していなければ、何もしなくていいわ』
その言葉に何人かが目を瞬いた。
『救済しないのか?』
『必要がないならね』
アレクサンドは当然のように答えた。
『私たちは帝国中を作り替えに行くわけじゃないの。自分たちで暮らせている街なら、そのままでいいでしょう』
ホセが納得して頷いた。
『困窮していた場合は?』
『原因を確認してから救済して。食料だけ渡して終わりにはしないでね。物流が止まっているなら原因を調べる。働く場所がないなら、何を生産できるかを見る。病気が広がっているなら治療と衛生を優先する』
『分かった』
『それと、街には帝国の役人が残っている可能性が高いわ』
六人の表情が変わった。
『貴族、領主、文官を見つけたら、先に鑑定して』
前日の方針そのものだった。
身分だけで排除はしない。
だが、身分だけで信用することもない。
『フェリクス、ロイド、ブラッド、レオン』
『はい』
今度は四人が応じた。
『あなたたちは二十人ずつで、残る八百八十人の教導を進めて』
合計八十人。
第二村には、すでに千人の教導経験者がいる。
その力も使える。
『私たちが帰ったあと、この村を動かすのはあなたたちよ。急ぐ必要はないけれど、確実に進めて』
フェリクスが頷いた。
『千人にも手伝ってもらう』
『ええ。教えること自体が訓練になるわ』
これで役割は決まった。
だが、アレクサンドにはもう一つ伝えておくことがあった。
『全員、聞いて』
念話の範囲を広げる。
『移動中に帝国兵と遭遇する可能性があるわ』
空気がわずかに引き締まった。
『向こうが武器を向けても、殺傷は禁止』
アレクサンドは明確に言った。
『戦闘する必要もないわ。捕縛、拘束、保護空間。使えるものを使って無力化して』
今の彼らなら、それで十分だった。
『武器と防具は没収。必要なら身ぐるみ剥いでも構わないわ』
何人かが苦笑した。
『ただし、目的は辱めることではないわよ。再び武装できない状態にすること』
『その後は?』
『投降するなら鑑定して』
アレクサンドは即答した。
『命令に従っていただけなのか。自分から民を害していたのか。これからどうしたいのか。確認して判断して』
兵士だから敵。
投降したから味方。
そんな単純な区分はしない。
『貴族、領主、文官、指揮官については、何を言われてもまず鑑定』
ガイルが横で小さく笑った。
『随分念を押すな』
『必要なのよ』
アレクサンドは平然と答えた。
『昨日話したでしょう。この国には、こちらの想像を超える人がいるの』
今度はあちこちから苦笑が漏れた。
アレクサンドは最後に全員を見渡した。
『判断に困ったら、自分たちだけで結論を出さなくていいわ』
念話がある。
距離は問題にならない。
『何かあったら、すぐ念話して』
短い返事が次々と返ってきた。
準備は終わった。
第二村から、最初の救済班が動き始めようとしていた。
最初に第二村を出たのは、シメオンたち四班だった。
それぞれ十人。
目指す方向は異なる。
全員が飛行できる以上、街道に沿って移動する必要はない。索敵と遠隔透視を併用し、人の生活反応を探しながら四方へ散っていった。
第二村を出て十五分ほど経った頃、シメオンが速度を落とした。
『前方に村がある』
九人も遠隔透視を向ける。
三十軒ほどの家が集まった小さな村だった。
周囲には畑が広がっているが、耕されている土地は半分にも満たない。
『人は四十人くらいだな』
『子供が九人。老人が多い』
『武装している人間はいない』
別の者が倉庫を確認した。
『食料も少ない。かなり厳しそうだ』
シメオンは頷いた。
『行こう』
十人は村の少し手前へ降りた。
突然空から村の中へ降りれば、住民を怯えさせるだけだ。
こちらへ気づいた二人の男が、農具を手に村の入口まで出てきた。
「何の用だ」
警戒している。
当然だった。
「第二村から来た」
シメオンが答えると、二人の表情が変わった。
「第二村?」
「近隣の村を回っている。困っていることがあるなら手伝う」
二人は顔を見合わせた。
すぐには信用しなかった。
「……金ならないぞ」
「取らない」
「食料も渡せない」
「いらない」
ますます怪訝な顔をされた。
シメオンは村の周囲へ目を向ける。
「畑がかなり余っているな。人手が足りないのか?」
年上の男がしばらく黙ったあと、口を開いた。
「人が減った」
話を聞くと、以前は二百人近くが暮らしていたという。
徴兵で若者が連れていかれた。
徴発が続き、村を捨てた者もいた。
病で死んだ者もいる。
さらに農具まで徴発され、壊れた道具を直せる鍛冶職人もいなくなった。
残った四十人ほどでは、以前の農地を維持できない。
シメオンは念話で班員へ指示した。
『村全体を確認して』
九人が散る。
遠隔透視、鑑定、索敵。
ほどなく情報が戻ってきた。
『病人が七人いる。栄養状態も良くない』
『井戸は使える。水にも問題はない』
『倉庫の食料は一月も持たないと思う』
『農地そのものは使える。放棄されてるだけだ』
必要なものが見えた。
シメオンは男へ向き直った。
「まず病人を診る。そのあと畑を戻そう」
「畑を?」
「ああ」
「だが、人がいないんだ」
シメオンは笑った。
「四十人いるだろ」
男には意味が分からなかった。
十人は村へ入った。
病人には治癒と浄化を施す。
不足している食料もアイテムボックスから出した。
ただし、食料を積み上げて終わりにはしない。
村人を集め、魔力操作と魔力循環から教導を始める。
「力を入れすぎるな。まず魔力を感じろ」
シメオンが教える横では、班員たちが数人ずつを受け持っていた。
しばらくすると、一人の老人が土魔法を発現させた。
地面が盛り上がる。
「うわっ!」
本人が驚いて尻餅をついた。
周囲から声が上がった。
「今の、俺がやったのか?」
「そうだ」
「俺は六十を過ぎてるぞ」
「魔法に年齢は関係ないだろ。もう一度やってみろ」
老人が恐る恐る手を伸ばす。
今度は先ほどより小さかったが、確かに土が動いた。
別の場所では若い女性が水魔法を発現させていた。
子供たちも魔力循環を続けている。
農地では土魔法を覚えた者から畝を作り始めた。
わずか四十人。
だが、昨日までの四十人とは違う。
『シメオン』
ジェークから念話が届いた。
『こっちも村を見つけた』
『状態は?』
『食料は残ってる。でも村の周囲に魔物が増えてる。畑へ出られないらしい』
『なら自衛を優先した方がいいな』
『そのつもりだ』
続いてリッキーからも連絡が入る。
『こっちは百人くらいいる。かなり痩せてるな。まず食わせる』
チャドからも届いた。
『俺たちのところは食料がある。問題は橋だ。街道へ出る橋が落ちてる』
シメオンは思わず笑った。
『見事に違うな』
『アレクサンドの言った通りだ』
四つの村。
困っていることは四つとも違う。
同じ方法を押しつけても意味がない。
必要なものを確認し、それぞれに合った方法で自立できるようにする。
四班は早くも、自分たちで判断して動き始めていた。
その頃、ホセたち六班は村を越え、少し大きな街を探していた。
ホセの班が見つけた街には石造りの外壁が残っていた。
人も多い。
遠隔透視した一人が報告する。
『千人以上いる』
『困窮してるか?』
『待ってくれ……食料はある』
中央広場には、穀物を積んだ荷車が何台も並んでいた。
ならば救済は必要ない。
そう思った直後だった。
『ホセ。広場の反対側を見ろ』
武装した兵士たちがいる。
その奥には、上等な服を着た男たち。
そして穀物の前には、痩せた住民たちが列を作っていた。
ホセはしばらく光景を見つめた。
『食料がないんじゃないな』
誰も答えない。
『あるのに、住民へ回ってない』
九人の表情が変わった。
ホセはアレクサンドの言葉を思い出した。
貴族。
領主。
文官。
まず鑑定。
『街へ入るぞ』
ホセは高度を落とした。
『何が起きてるのか、先に確認する』
ホセたち十人は、街の外へ降りた。
門は開いている。
門番はいない。
かつては人や荷馬車が行き交っていたのだろうが、街道には轍だけが残り、人の姿はほとんどなかった。
『まず広場へ行く。手は出すなよ』
『分かってる』
『鑑定が先だ』
十人は歩いて街へ入った。
住民たちは突然現れた一行を警戒したが、声をかけてくる者はいない。
痩せている。
服も傷んでいる。
それでも商店らしき建物はいくつか残っていた。
完全に死んだ街ではない。
中央広場へ近づくにつれ、人の声が聞こえてきた。
「次!」
兵士の声だった。
穀物を積んだ荷車の前に、住民が並んでいる。
一人の女性が小さな袋を差し出した。
兵士が中を確認する。
「足りん」
「でも、これしか……」
「なら渡せん。次!」
女性が何か言おうとしたが、後ろから別の兵士が押し退けた。
ホセは足を止めた。
『見えたか?』
『ああ』
『まだ動くな』
感情で決めない。
まず確認する。
十人がそれぞれ鑑定を使った。
兵士。
荷車。
穀物。
広場の端に立つ上等な服の男たち。
情報が次々と揃っていく。
『穀物は領主の倉庫から出したものだ』
『住民から徴収した分がかなり含まれてる』
『あの男が領主代理だ』
『領主本人は?』
『街にはいない』
ホセは領主代理へ鑑定を向けた。
何を命じたのか。
何を知っているのか。
何を目的としているのか。
結果を確認したホセの顔から表情が消えた。
『どうだ?』
『住民から徴収した穀物を、住民へ売り戻してる』
一瞬、誰も言葉を返さなかった。
『何のために?』
『領主へ納める金を作るためだ』
『この状態で?』
『そうらしい』
ホセは周囲を見た。
痩せた住民。
積まれた穀物。
それを守る兵士。
食料がないのではない。
生産できないわけでもない。
目の前にある。
ただ、それを住民が食べられない。
『困窮してるな』
ホセが呟いた。
『ああ』
『なら救済対象だ』
十人は歩き出した。
兵士の一人が気づいた。
「止まれ!」
ホセたちは止まらない。
「何者だ!」
「第二村から来た」
その言葉に、周囲がざわついた。
領主代理の男が前へ出る。
「第二村だと?」
「この街の状態を確認しに来た」
「誰の許可を得ている!」
ホセは男を見た。
「必要なのか?」
「当然だ! この街は――」
男が言い終える前に、兵士たちが剣へ手をかけた。
ホセは念話を送る。
『殺傷なし』
九人から返事が届く。
兵士が剣を抜いた。
その瞬間、地面から土が伸びた。
「なっ!」
腕。
脚。
胴。
十数人の兵士が一斉に拘束される。
剣を抜ききることさえできない。
別方向から槍を構えた兵士も、保護空間に包まれた。
「出られない!」
「何だこれは!」
兵士たちが騒ぎ始める。
ホセはその間を歩いた。
「武器を回収してくれ」
班員たちが剣と槍を取り上げる。
防具も外していく。
抵抗する者は拘束を強めるだけだった。
戦闘と呼べるものにはならない。
領主代理が青ざめた。
「き、貴様ら! 帝国の役人に何をしている!」
ホセは男へ向き直った。
「まだ何もしてない」
「兵を拘束したではないか!」
「武器を向けられたからな」
「これは反逆だぞ!」
ホセは少し考えた。
「誰に対する?」
男が言葉に詰まる。
ホセはそれ以上付き合わなかった。
『兵士を一人ずつ鑑定する』
十人が動いた。
命令に従っていただけの者。
住民への暴行に加わった者。
徴収した食料を横流ししていた者。
結果は同じではない。
『六人は問題が大きい』
『記録しておけ』
『残りは?』
『少なくとも今すぐ住民を害する意思はない』
ホセは拘束された兵士たちへ向いた。
「武器と防具は返さない」
「そんな!」
「投降するなら鑑定を受けろ。帝国軍へ戻りたいなら止めない。ただし、この街で住民に武器を向けるのは終わりだ」
兵士たちは互いの顔を見た。
その間に班員が荷車を調べていく。
『ホセ。これだけじゃない』
『何が?』
『倉庫だ』
遠隔透視の映像が念話で共有された。
広場から少し離れた場所。
大きな倉庫が三棟。
その内部に、穀物袋が積み上げられている。
ホセは目を細めた。
「食料がない街じゃなかったんだな」
領主代理の顔が引きつった。
ホセは住民たちへ視線を向けた。
「この街で、農業をやっている者はいるか?」
何人もの手が上がった。
「商人は?」
数人。
「職人は?」
さらに手が上がる。
ホセは頷いた。
人がいる。
食料もある。
仕事ができる者もいる。
なら、この街に足りないものは明確だった。
『アレクサンド』
ホセは第二村へ念話を飛ばした。
『街を一つ見つけた。人口は千人以上。食料も生産能力も残ってる』
すぐに返事が届く。
『それで?』
ホセは領主代理を見た。
『困窮の原因も見つけた』
短い沈黙の後、アレクサンドの声が返った。
『なら、あなたたちで判断して』
ホセは笑った。
『了解』
ホセは領主代理へ視線を戻した。
男はまだ状況を理解できていないようだった。
「貴様らは何をするつもりだ」
「この街の人たちが、自分たちで暮らせるようにする」
「勝手なことをするな! この街は領主様の――」
ホセは男への鑑定結果をもう一度確認した。
住民の困窮を認識している。
徴収を続ければ餓死者が出る可能性も理解している。
それでも命令を止めなかった。
さらに第二村の教導についても知っていた。
その力を利用すれば、自分もより上の地位へ進めるのではないか。
そんな考えまで鑑定に現れている。
ホセは小さく息を吐いた。
「ここには置けないな」
「何?」
「第二村へ行っても同じだ。教導も受けられない」
領主代理の表情が変わった。
「なぜ貴様が決める!」
「鑑定したからだ」
それ以上の説明はしなかった。
説得する必要もない。
「この街から出ていってくれ」
「ふざけるな! 私は領主様よりこの街を任された――」
「それは領主と話してくれ」
ホセは班員へ目を向けた。
「拘束を」
男の身体が保護空間に包まれた。
「待て! 話は終わっていない!」
「俺たちの話は終わった」
保護空間はそのまま浮き上がった。
街の外まで運び、地面へ降ろす。
拘束を解いた。
武器は持たせない。
「どこへ行けというのだ!」
「自分で決めてくれ」
「食料は!」
ホセは答えなかった。
十人は街へ戻った。
領主代理の姿は、すぐに見えなくなった。
中央広場では、拘束された兵士たちがまだ残っている。
ホセは彼らの前に立った。
「もう一度聞く。投降する者は?」
しばらく誰も動かなかった。
やがて一人の若い兵士が手を上げた。
「……俺は、もう兵士を辞めたい」
「理由は?」
「三月、給金をもらってない」
周囲の兵士から乾いた笑いが漏れた。
別の男も手を上げる。
「俺もだ。家族がこの街にいる」
「俺は徴兵された」
「戻っても食えるか分からん」
次々と声が上がった。
ホセたちは一人ずつ鑑定した。
虚偽がないことを確認する。
住民への加害が確認された六人についても、事実を記録した。
だが、その場で裁くことはしない。
「罪が消えたわけじゃない」
ホセは六人へ告げた。
「記録は残す。ただ、俺たちはお前たちを裁くために来たわけじゃない」
六人は黙っていた。
「この街に残るなら、もう住民に手を出すな。働くなら自分で仕事を探せ」
その後、拘束を解いた。
武器も防具も返さなかった。
兵士だった者たちは、もはや武装した集団ではない。
ただの人間として広場に立っていた。
ホセは住民たちへ向き直った。
「倉庫を開ける」
ざわめきが広がった。
「ただし、俺たちが配るんじゃない」
住民たちが顔を見合わせる。
「この街の人間で管理してくれ」
「俺たちで?」
「そうだ」
農業を知る者。
商売を知る者。
倉庫管理の経験がある者。
読み書きや計算ができる者。
十人は鑑定しながら、住民の技能を確認していった。
商人だった老人が三人。
元倉庫番が二人。
農民は百人を超える。
鍛冶職人。
大工。
料理人。
裁縫職人。
荷運びをしていた者までいる。
街を動かす人間は、すでに街の中にいた。
『教導を始めよう』
ホセの念話に九人が応じた。
まず魔力操作と魔力循環。
次に生活と生産へ直結する能力。
農民には土と水。
職人には火や金属。
商人や倉庫番には鑑定も教えていく。
十人だけで千人以上を見る必要はない。
最初に教導した者へ、次の者を教えてもらえばいい。
第二村で行われたことと同じだった。
その頃、第二村でも八百八十人への教導が進んでいた。
フェリクス、ロイド、ブラッド、レオンの四班が中心となり、すでに教導を終えた千人も教師側へ回っている。
『魔力を押し出すんじゃない。循環させろ』
『できた!』
『そこで止めるな。そのまま続けて』
広場だけでは足りず、村の各所で教導が行われていた。
昨日まで教わる側だった者が、今日は隣の者へ教えている。
アレクサンドは少し離れた場所から、その様子を見ていた。
そこへ次々と念話が届く。
『ジェークだ。魔物の排除は終わった。村人に索敵と戦闘術を教えてる』
『リッキー。こっちは食事を済ませた。今から農地を確認する』
『チャドだ。橋は直した。村人にも補修方法を教えてる』
続いてホセ。
『街の教導を開始した。領主代理は排除。兵士は武装解除済み。殺傷なし』
アレクサンドは一つずつ報告を聞いた。
自分が指示を出す必要はなかった。
各班が現地を見て、自分たちで判断している。
ガイルが隣へ来た。
「順調そうだな」
「ええ」
「俺たち、いらなくなってきたんじゃないか?」
アレクサンドは第二村を見渡した。
教える者。
教わる者。
畑で働く者。
食事を作る者。
さらに、別の村を救うため飛び立った者たち。
「それでいいのよ」
アレクサンドは答えた。
助けられた村が、次の村を助ける。
教わった者が、次の者を教える。
王国の二十七人がいなくなっても、その流れが止まらなければいい。
帝国を変えるための軍隊など必要なかった。
必要なのは、自分で生きられる人間を増やすことだけだった。
第二村から始まった救済の行脚は、すでに次の土地へと広がり始めていた。




