117 領主を裁く
第二村へ連行された二千人の私兵は、ほとんど動けなくなっていた。
武器も防具もない。
馬も保護空間へ収容されている。
破壊不能ゴーレムを相手に詠唱魔法を撃ち続け、自分たちで魔力を使い果たした。
地面に横たわる者。
座り込んだまま動けない者。
肩で息をしている者。
その中で、指揮官だけが大声で喚いていた。
「我々は領主様の兵だぞ! このようなことをして許されると思っているのか!」
アンドリューは相手にしなかった。
「鑑定を始める」
第二村の千人が動く。
全員が司法スキルを持っている。
二千人を分担して、一人ずつ調べていった。
鑑定。
サイコメトリー。
ポストコグニション。
過去を確認する。
必要な証拠はソートグラフィーで映像として残す。
最初に調べられたのは指揮官だった。
レイラの表情が変わる。
「酷いわね」
領民の虐殺。
抵抗できない者への殺害命令。
さらに命令とは関係なく、自らの私怨で領民を殺していた。
一度ではない。
アレクサンドが確認された過去を記録する。
映像が証拠として残った。
指揮官が叫ぶ。
「領主様の命令だ!」
アンドリューが答えた。
「お前自身の殺人まで領主の命令なのか?」
指揮官が黙った。
調査は私兵たちへ移る。
そこで第二村の住民たちは、さらに大きな問題を知ることになった。
私兵の九割。
殺人の実行犯だった。
だが、指揮官とは事情が違う者も多い。
領主。
代官。
上官。
命令に逆らえば、自分や家族が処罰される。
そう脅され、領民の殺害に加わった者たちがいた。
レイラは一人ずつ過去を確認する。
「命令されたことは事実ね」
だが、それで殺人そのものが消えるわけではない。
命令した者がいる。
実行した者もいる。
どちらも分けて確認する必要がある。
さらに残りの一割にも無実の者はいなかった。
領民への暴行。
略奪。
婦女暴行。
立場を利用し、それを繰り返している。
こちらは命令ですらなかった。
私兵という立場を使って、自ら行っていた犯罪だった。
第二村の広場には、次々と証拠映像が蓄積されていった。
そして調査を進めるほど、二人の名前が繰り返し現れる。
領主。
そして代官。
殺せ。
逆らう者を処分しろ。
作物を差し出さない村を見せしめにしろ。
命令の記録。
命令を受けた私兵の記憶。
殺害された領民。
複数の証拠がつながっていく。
アンドリューが言った。
「殺人教唆だな」
レイラが頷く。
「領主と代官が元凶よ。証拠も十分あるわ」
第二村へ二千人の私兵を送り込んだことだけではない。
それ以前から領民への犯罪を命じていた。
アンドリューは千八百八十人へテレパシーをつないだ。
『領主と代官を逮捕する』
村人たちへ異論がないか確認する。
反対する者はいなかった。
派遣する者も決める。
盗賊討伐に参加した四十班ではない。
街道補修に参加した四十班でもない。
まだ大規模な作戦へ参加していない別の四十班。
二百人。
経験を一部の者だけに集中させないためだった。
だが、すぐには出発しない。
アンドリューが言った。
「先にこいつらを終わらせる」
領主を捕まえるために、目の前の司法手続きを途中で放置するつもりはない。
証拠が揃った者から裁判を行う。
指揮官。
罪の重い私兵。
司法スキルを持つ村人たちが証拠を確認する。
判決。
有罪。
刑の執行。
死体は浄化する。
分解する。
アンデッド化を防ぎ、肥料へ変える。
農地へ運ぶ。
一人。
また一人。
裁判は続いていく。
二千人すべての罪を確認する。
領主の逮捕は、その後だった。
第二村は急がなかった。
元凶が領主だからといって、目の前の手続きを飛ばす理由にはならなかった。
私兵たちの裁判は続いた。
第二村の千人が交代しながら司法手続きを進める。
鑑定。
サイコメトリー。
ポストコグニション。
ソートグラフィー。
同じ手順を一人ずつ繰り返す。
領民を殺害した事実。
誰から命令を受けたのか。
命令に逆らえる状況だったのか。
その前後に何をしていたのか。
一つの行為だけを切り取らない。
過去を確認できるからこそ、経緯まで調べる。
私兵の九割が殺人の実行犯。
その事実は変わらなかった。
だが、確認を続けるうちに、領主と代官が作り上げた支配の仕組みも明らかになっていった。
命令に逆らった兵士への処罰。
家族への脅迫。
領民を見せしめとして殺害する命令。
村から食料を徴収するための暴力。
一つの記憶だけではない。
別の私兵を調べても、同じ命令が出てくる。
さらに別の者からも出てくる。
アレクサンドは、それらをすべて記録した。
証言だけではない。
ポストコグニションで過去そのものを確認し、ソートグラフィーで映像として残していく。
命令を出す領主。
それを具体的な指示へ変える代官。
指揮官へ伝達する場面。
実際に領民が殺害された場面。
一本の線につながっていった。
アンドリューは証拠映像を確認する。
「これなら逃げられないな」
「ええ」
レイラが答えた。
「領主と代官の逮捕理由として十分よ」
一方、残る一割の私兵についても裁判が進んでいた。
こちらは殺人の実行犯ではない。
だから無罪。
そうはならなかった。
領民への暴行。
略奪。
婦女暴行。
私兵という立場を利用して繰り返していた者が見つかる。
命令されたわけでもない。
自分の意思で行っていた。
一人ずつ証拠が残される。
裁判。
判決。
有罪。
刑の執行。
処理された遺体は浄化し、分解して肥料へ変えた。
畑へ運ばれていく。
私兵たちの人数が減っていった。
時間はかかる。
だが、第二村の千人が司法スキルを持っている。
一つの裁判所で二千人を順番に待たせる必要はなかった。
複数の場所で同時に証拠を確認する。
判断に迷う案件は急がない。
別の者が確認する。
複数の記録を照合する。
アンドリューも途中で何度か止めた。
「命令されたという事実と、何をしたかは分けて見ろ」
第二村の住民たちが頷く。
感情で裁くための司法ではない。
領主軍が村を襲いに来た。
だから全員死刑。
そんな処理なら、最初から鑑定も裁判も必要ない。
何をしたのか。
なぜしたのか。
誰が命じたのか。
それを確認してから裁く。
その作業が続いた。
そして最後の一人の判決が出た。
広場が静かになる。
私兵二千人。
すべての裁判が終了した。
アレクサンドも記録を止める。
アンドリューは、次の四十班を呼んだ。
五人一班。
四十班。
二百人が広場へ集まる。
盗賊討伐には参加していない。
街道補修にも参加していない。
今回が最初の大規模な作戦行動になる者たちだった。
レイラが二百人へ言った。
「これから領主と代官を逮捕するわ」
討伐ではない。
処刑でもない。
逮捕する。
領主だから特別扱いするつもりもなかった。
アンドリューが続ける。
「証拠は揃っている。だが、現地でも確認する」
領主館。
代官の執務室。
命令書。
犯罪に使われた物。
被害を受けた領民。
現地にはまだ証拠がある可能性が高い。
それらも回収する。
「領主と代官は生きたまま捕縛する。邪魔する者も、まず武器を奪え。殺すな」
二百人が頷いた。
索敵。
テレキネシス。
バインド系魔法。
鑑定。
サイコメトリー。
ポストコグニション。
ソートグラフィー。
すでに必要な能力は持っている。
ゴーレムも使える。
アンドリューが最後に告げた。
「行くぞ」
二百人が飛び上がった。
領主と代官を裁くための逮捕が始まった。
私兵二千人の裁判を終えると、領主と代官の逮捕へ移った。
今回参加するのは、盗賊討伐にも街道補修にも参加していない別の四十班二百人。
アンドリューとレイラ。
ガイルたち二十七人。
ゴーレム魔導師二百人。
合計四百二十九人だった。
一行は必要なゴーレムをアイテムボックスへ収納し、領都へ向けて飛行する。
アレクサンドは今回も記録を担当した。
目的は領主と代官の逮捕。
領都そのものを攻撃するわけではない。
領都が見えるより早く、四百二十九人の索敵が周囲へ広がった。
レイラがリモートビューイングを重ねる。
「領主館と兵舎に私兵が三百人ほど。領主と代官も領主館にいるわ」
アンドリューがテレパシーをつなぐ。
『領民には手を出すな。私兵は武装解除。領主と代官は生きたまま逮捕する』
四百二十九人が領主館上空へ到達した。
兵舎から私兵が飛び出してくる。
剣。
槍。
弓。
盾。
鎧。
アンドリューが告げる。
「没収」
二百人がテレキネシスを使った。
武器だけではない。
兜。
胸当て。
籠手。
脚甲。
鎧。
兵舎と武器庫に保管されていた予備の武器や防具も浮き上がる。
そのままアイテムボックスへ収納した。
馬具も外し、馬は保護空間へ収容する。
私兵たちは詠唱魔法で抵抗を始めた。
ゴーレム魔導師たちが六十機の破壊不能ゴーレムを展開する。
その後ろにも鉄製ゴーレムが並んだ。
ファイアボール。
ウィンドカッター。
ストーンバレット。
魔法が次々と直撃する。
六十機は無傷だった。
アンドリューがテレパシーで伝える。
『第二村へ来た二千人も同じことをした。魔力を失っただけだ』
詠唱を止める者が現れた。
それでも攻撃を続ける者だけをバインド系の魔法で拘束する。
アンドリューは二メートル級ゴーレムを先行させた。
五メートル級は領主館の周囲へ配置する。
裏口。
地下通路。
逃走に使えそうな場所にもゴーレムを置いた。
四百二十九人が領主館へ入る。
レイラが索敵する。
「領主と代官は二階よ」
だが、すぐには二人のところへ向かわない。
アンドリューが言った。
「館内にいる者を確認する」
家令。
執事。
侍女。
料理人。
庭師。
事務官。
使用人。
領主館で働いている者たちを一か所へ集めた。
逃げようとする者はいないか索敵を続ける。
武器を隠し持っている者がいれば、テレキネシスで没収した。
アンドリューが使用人たちへ告げる。
「領主と代官を殺人教唆の容疑で逮捕する。お前たちについても確認する」
家令が顔色を変えた。
使用人だから無罪とは限らない。
領主の犯罪を手伝った者。
命令書を作った者。
証拠を隠した者。
領民への犯罪に加担した者がいる可能性もある。
反対に、何も知らず働いていただけの者もいる。
立場だけでは判断しない。
二百人が鑑定を始めた。
必要に応じてサイコメトリーとポストコグニションを重ねる。
犯罪への関与が疑われる者は、その場でバインド系の魔法によって拘束した。
罪が確認できない者には手を出さない。
アレクサンドは確認の手順も記録する。
領主館の使用人だから一括して捕縛するのではない。
一人ずつ確認する。
それが終わると、館内の押収へ移った。
隠し部屋。
執務室。
書庫。
代官の部屋。
事務室。
金庫。
私兵の詰所。
そこにある書類を現場で選別しない。
帳簿。
徴税記録。
契約書。
命令書。
手紙。
記録簿。
メモ。
封書。
二百人がすべてアイテムボックスへ収納する。
「必要かどうかは第二村で調べる」
アンドリューが言った。
書類だけではない。
記録に使われた魔道具。
印章。
金庫の中身。
犯罪との関係を現場で判断できない物も押収する。
誰が、どの部屋から、何を押収したのか。
アレクサンドがソートグラフィーで作業そのものを映像として残していく。
押収が終わると、ようやく二階へ向かった。
二メートル級ゴーレムが先行する。
領主の執務室前で止まった。
レイラが確認する。
「領主と代官。二人とも中にいるわ」
アンドリューが扉を開いた。
豪華な机の向こうで領主が立ち上がる。
隣には代官。
「何者だ!」
アンドリューは答えた。
「第二村から来た」
領主の顔色が変わる。
「殺人教唆の容疑で、お前たちを逮捕する」
ウォーターバインド。
二人の身体が水の拘束に包まれた。
領主だから、その場で裁くことはしない。
代官も同じだった。
証拠も押収した。
館の者たちも調べた。
二人を第二村へ連行する。
裁判は、そこからだった。
領主と代官を拘束した後も、すぐには第二村へ戻らなかった。
領主館の確認を最後まで終わらせる必要がある。
家令。
執事。
事務官。
侍女。
料理人。
庭師。
使用人。
一人ずつ鑑定する。
犯罪への関与が疑われれば、サイコメトリーとポストコグニションを重ねた。
領主や代官から何を命じられていたのか。
領民への犯罪を知っていたのか。
実際に加担したのか。
命令書の作成や証拠の隠蔽に関わったのか。
立場ではなく行為を見る。
犯罪への関与が確認された者は拘束する。
関与していない者には手を出さない。
確認が終わると、押収物をもう一度確認した。
領主館に残されていた書類類はすべてアイテムボックスへ収納してある。
現場では選別しない。
書庫の書類。
執務室の帳簿。
事務官が管理していた記録。
代官の部屋にあった文書。
金庫の中身。
印章。
記録用の魔道具。
私兵の詰所に残されていた書類。
犯罪と関係があるかどうかは、第二村へ持ち帰ってから調べる。
アレクサンドは押収作業の最初から最後まで記録した。
どの部屋から何を回収したのか。
誰が回収したのか。
その時、誰が立ち会っていたのか。
後から確認できる。
領主と代官。
犯罪への関与が確認された領主館の者。
領主館に残っていた私兵。
それぞれを拘束した状態でアイテムボックスの保護空間へ収容する。
無関係と確認された使用人たちは領主館に残した。
保護していた馬も必要な分は連れて帰る。
アンドリューが言った。
「戻るぞ」
ゴーレムをアイテムボックスへ収納する。
四百二十九人が第二村へ帰還した。
すぐに裁判が始まった。
最初に押収物を整理する。
第二村の千人が分担した。
鑑定。
サイコメトリー。
ポストコグニション。
帳簿一冊。
命令書一枚。
手紙一通。
印章。
金庫から回収した物。
必要なものを一つずつ確認する。
私兵二千人から得た証拠とも照合した。
誰が命令したのか。
誰が文書を作ったのか。
誰が伝えたのか。
誰が実行したのか。
点だった証拠がつながっていく。
アレクサンドは確認された過去をソートグラフィーで映像化した。
領主が命令する。
代官が具体的な指示へ変える。
指揮官へ伝える。
私兵が村へ向かう。
領民が殺される。
別の記録では、徴税に従わない村への見せしめを命じていた。
さらに別の帳簿からも同じ村の名前が出てくる。
領主と代官の殺人教唆を裏付ける証拠が積み上がった。
裁判が始まる。
第二村の住民たちは、領主だから特別な席を用意しなかった。
拘束された被告の一人として扱う。
最初は代官。
証拠を確認する。
私兵たちの過去。
押収した書類。
サイコメトリー。
ポストコグニション。
ソートグラフィーで残された映像。
複数の証拠が同じ事実を示していた。
有罪。
刑が執行された。
次は領主。
領主は最後まで自分の権限を主張した。
「この領地は私のものだ! 領民をどう扱おうと領主である私の権利だ!」
アンドリューが答えた。
「領地を治める権限と、人を殺す権利は別だ」
証拠を確認する。
殺人教唆。
領民への虐殺命令。
私兵を使った暴力。
第二村への武力による接収命令。
どれも映像と記録が残っている。
判決が出た。
有罪。
刑は即座に執行された。
遺体は浄化する。
分解する。
アンデッド化を防ぎ、肥料へ変える。
代官も領主も例外にはしなかった。
領主館から連行された犯罪関与者についても、一人ずつ裁判が続いた。
無罪なら解放する。
有罪なら罪に応じて裁く。
最後の裁判が終わった。
アレクサンドは魔道具を確認した。
私兵の襲撃。
武装解除。
破壊不能ゴーレムへの攻撃。
捕縛。
二千人の裁判。
領主と代官への逮捕決定。
領主館への進入。
使用人の確認。
書類の一括押収。
第二村での証拠精査。
そして裁判。
一連の流れがすべて残っている。
第二村は領主を倒したのではない。
罪を調べ、証拠を集め、逮捕し、裁判した。
相手が領主になっても、司法の手順は変わらなかった。




