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戦わずに世界を変えた男――教育と物流で“循環国家”を作ったら、いつの間にか大陸が一つになっていた  作者: 慈架太子


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116/311

116 領主私兵急襲

街道補修を終えた四百二十九人は、第二村へ帰還した。


百キロメートルの街道。


崩落箇所の復旧。


路肩の補強。


排水。


水締め。


転圧。


そして三本の橋梁。


一日の作業はすべて終わっていた。


アレクサンドは記録した映像を確認すると、魔道具を三つ複製した。


「届けてくる」


ガイルたちへ声をかけ、アーク邸へ転移する。


マーガレットを訪ね、魔道具を差し出した。


「殿下。第二村へ続く街道の復旧記録です」


「百キロだったわね」


「はい。橋梁も三本復旧しました」


マーガレットは映像を受け取った。


補修前の街道。


雨で削られた路面。


崩落した斜面。


失われた路肩。


埋まった排水溝。


作業が始まる。


土砂を入れる。


均す。


散水。


水締め。


ゴーレムによる転圧。


沈下した場所を確認して、再び土砂を入れる。


橋梁工事では川底の残骸を撤去し、基礎から作り直していた。


橋台。


橋脚。


橋桁。


床板。


金具。


最後には五メートル級ゴーレムを歩かせて荷重を確認する。


マーガレットは最後まで確認した。


「これも残すべき記録ね」


映像を複製すると、その一つを持って冒険者ギルドへ向かった。


ギルドマスターのバルドが迎える。


「ようこそ、殿下」


「今回は街道と橋よ。確認してください」


バルドが映像を見る。


最初は静かだった。


だが、崩落した街道の復旧が始まると身を乗り出した。


「ただ土を埋めているわけではありませんな」


「ええ」


路盤を整える。


水締めする。


転圧する。


排水を確保する。


崩落した場所では下から積み直し、擁壁まで作る。


さらに三本の橋梁。


二本は再建。


一本は補修。


百キロの街道と三本の橋が、一日で復旧していく。


映像が終わった。


バルドが腕を組む。


「土木スキルとゴーレムスキル。救援には必須になりそうですな」


魔物を倒すだけでは救援にならない。


道がなければ食料を運べない。


橋が落ちれば人も物資も止まる。


崩落すれば村そのものが孤立する。


バルドは記録を教育資料として保存した。


マーガレットは冒険者ギルドを出ると、そのまま王宮へ向かった。


国王オーキス。


王妃バイオレット。


宰相クレイン。


魔導騎士団長アッシュ。


騎士団長アイク。


近衛騎士団長ロックウェル。


大臣や貴族たちも集まっている。


アイクがマーガレットを見るなり豪快に笑った。


「殿下がお持ちになる映像は毎回驚かされますぞ。今回も楽しみですな」


国王も笑った。


「私も同じことを思っていたところだ」


映像が始まる。


百キロの街道。


三本の橋梁。


土魔法だけで終わらせない。


路面を整える。


排水を作る。


散水する。


水締め。


ゴーレムによる転圧。


橋梁は基礎から施工する。


映像が進むにつれ、大臣や貴族たちの表情が変わった。


アイクが唸る。


「やはり災害支援には土木スキルとゴーレムスキルが必要ですな」


アッシュも頷いた。


「百キロの街道補修と橋三本の復旧。それも現場で一日ですか」


ロックウェルが腕を組む。


「通常では考えられませんな」


アイクが映像を見ながら言った。


「騎士団の訓練計画を見直さねばなりません。戦闘だけを教えている場合ではありませんぞ」


宰相クレインも否定しなかった。


大臣たちも同じだった。


国王オーキスは嬉しそうに映像を見ている。


一つの村で生まれた技術が、また王国へ戻ってきた。


その頃。


第二村から離れた街道を、大勢の武装した兵士が進んでいた。


領主の私兵。


第二村へ向かっている。


だが、その動きを知らない者はいなかった。


第二村の千八百八十人。


アンドリュー。


レイラ。


そしてガイルたち二十七人。


索敵は、すでに彼らを捉えていた。




第二村の広場にアンドリューとレイラが立っていた。


周囲にはガイルたち二十七人。


村人千八百八十人も、それぞれの場所で普段の仕事を続けている。


慌てている者はいない。


広域索敵には、かなり前から武装集団が映っていた。


レイラが目を閉じたまま言う。


「街道を進んでいるわ。こちらへ向かっている」


アンドリューが尋ねる。


「人数は?」


「二千人ほど。騎兵もいる。領主の私兵ね」


ガイルが確認する。


「第二村が目的か?」


「間違いないわ」


街道を百キロ補修した直後だった。


皮肉なことに、領主の私兵は第二村の住民たちが直したばかりの街道を進んでいる。


だが、それを壊す必要はない。


街道は村のために作ったものだ。


敵を止めるために自分たちで破壊しては意味がない。


アンドリューはテレパシーを使った。


『武装した兵士約二千人がこちらへ向かっている』


千八百八十人へ同時に伝える。


農地。


鍛冶工房。


木工工房。


紡織工房。


薬房。


治癒院。


それぞれの場所で働いていた者たちが顔を上げた。


『仕事は続けてくれ。こちらから攻撃はしない』


それだけだった。


村には高さ十メートル、幅五メートルの防壁がある。


その前には幅十メートル、深さ十メートルの堀。


四隅には櫓。


さらに千八百八十人が六属性を使える。


索敵。


飛行。


テレキネシス。


テレパシー。


鑑定。


教導。


第二村の最初の千人は司法スキルまで持っている。


ガイルがアンドリューを見る。


「どうする?」


「来てもらう」


「迎撃しないのか?」


「ああ。村へ攻撃するなら、その時点で捕縛する」


レイラも頷く。


「領主の私兵というだけでは犯罪者とは限らないもの」


命令されて来ただけの兵士もいる。


何も知らされていない者もいるかもしれない。


領主に仕えている。


それだけで罪にはならない。


だから先に殺さない。


攻撃されたとしても、殺す必要はない。


捕縛。


拘束。


鑑定。


証拠収集。


裁判。


盗賊団で確立した手順を、そのまま使えばいい。


アンドリューが尋ねる。


「ゴーレムは?」


「いつでも出せる」


ガイルが答えた。


鉄製ゴーレムも増えている。


盗賊団から回収した金属を精錬し、村で新たに作ったものだ。


だが、まだ出さない。


相手が何をするのか確認してからでいい。


レイラが再び索敵する。


「距離、三十キロ」


その情報もテレパシーで共有された。


村人たちは仕事を続けている。


鍛冶工房では鉄を打つ音がする。


紡織工房では糸紡ぎ機と機織り機が動いている。


農地では作物への散水が続く。


八百八十人への教導も止まっていない。


彼らはまだ第二村へ来たばかりだ。


魔力循環。


魔力操作。


基礎から教わっている。


その八百八十人も、武装集団が接近していることは聞いていた。


それでも教師役の千人が動じない。


だから教わる側も席を立たなかった。


やがてレイラが告げる。


「二十キロ」


ガイルたち二十七人は防壁付近へ移動した。


アンドリューとレイラも向かう。


櫓へ上がる必要はない。


リモートビューイング。


遠く離れた私兵たちの姿を確認する。


隊列を組んでいる。


槍。


剣。


弓。


騎兵。


荷馬車。


明らかに村を訪問する装備ではなかった。


レイラが鑑定を重ねる。


「領主軍で間違いないわ」


アンドリューは静かに答えた。


「なら、来るまで待とう」


十キロ。


五キロ。


距離が縮まっていく。


ここまで来れば、防壁の上からでも土煙が見える。


村人たちも仕事を止め始めた。


アンドリューは千八百八十人へテレパシーを送る。


『捕縛の準備』


返事が次々と返ってきた。


ウォーターバインド。


シャドウバインド。


ダークバインド。


バインドバレット。


盗賊団を一人も戦闘で殺さず捕縛した魔法だ。


私兵二千人が街道を進んでくる。


その先には、自分たちが襲うつもりでいる第二村がある。


だが彼らはまだ知らない。


その村が、すでに盗賊千六百四十人を捕縛し、三つの拠点を消滅させた村だということを。




領主の私兵二千人が第二村へ近づいてきた。


アンドリューとレイラは防壁の前に立っている。


ガイルたち二十七人も並んでいた。


村人たちは防壁の内側から索敵を続ける。


距離、一キロ。


レイラが鑑定する。


「二千人。騎兵も含まれているわ」


アンドリューがテレパシーを使った。


『準備』


ゴーレム魔導師たちが動く。


アイテムボックスが開いた。


二メートル級。


五メートル級。


次々とゴーレムが地面へ現れる。


合計六十機。


破壊不能のゴーレムが横一列に並んだ。


道を塞ぐ。


その後ろには、第二村で作られた鉄製ゴーレムを配置する。


一列。


二列。


さらにその後ろにはアンドリューたちがいる。


私兵から見れば、突然巨大な壁が出現したようなものだった。


進軍速度が落ちる。


だが止まらない。


距離、五百メートル。


アンドリューが言った。


「武器を取るぞ」


千八百八十人のテレキネシス。


私兵たちが異変に気づく。


剣が鞘から抜けた。


槍が手から離れる。


弓が浮かぶ。


短剣。


斧。


盾。


予備の武器。


荷馬車に積まれていた武器まで浮き上がる。


それだけではない。


兜。


胸当て。


肩当て。


籠手。


脚甲。


鎧。


防具も外れていった。


革製品も含めて武装に使われている物を鑑定しながら没収する。


私兵たちが慌てて押さえようとする。


だが、千八百八十人のテレキネシスから逃れられない。


浮き上がった武器と防具は、そのままアイテムボックスへ収納された。


数分もかからなかった。


二千人の私兵から武装が消えた。


騎兵たちも例外ではない。


武器。


防具。


馬具。


すべて没収する。


そして馬そのものは傷つけない。


一頭ずつアイテムボックスの保護空間へ収容していく。


馬が次々と消える。


騎兵だった者たちは地面へ降ろされた。


最後の一頭を収容すると、私兵二千人は徒歩になった。


武器はない。


防具もない。


馬もいない。


その正面には六十機のゴーレムが並んでいる。


私兵たちの足が止まった。


隊列の前方から怒声が飛ぶ。


数人がゴーレムへ向かって走った。


拳を叩きつける。


蹴る。


何も起きない。


別の兵士が石を拾った。


投げる。


石が砕けただけだった。


五メートル級ゴーレムが一歩前へ出る。


地面が震えた。


私兵たちが後退する。


二メートル級も前進する。


六十機。


横へ広がり、第二村へ続く街道を塞いでいる。


壊せない。


押し退けられない。


迂回しようとすれば、その後ろにも鉄製ゴーレムがいる。


さらに上空には村人たちが飛行していた。


アンドリューは私兵たちを見た。


まだ攻撃しない。


相手が領主の私兵であることと、犯罪者であることは同じではない。


だが、ここまで武装して第二村へ来た理由は確認する必要がある。


レイラが鑑定を始めた。


アンドリューはテレパシーで私兵全体へ声を届ける。


『聞こえているな』


二千人が周囲を見る。


声を張り上げている者はいない。


それでも頭の中へ直接声が届いている。


『ここから先へ進むな。お前たちの目的を確認する』


前方にいた指揮官らしい男が叫んだ。


「領主様の命令だ! この村は領主様の土地だ! 抵抗するな!」


アンドリューの表情は変わらない。


「何をしに来た」


「村を接収する! 住民は領主様の命令に従え!」


その言葉も記録されている。


アレクサンドはすでにソートグラフィーを使っていた。


私兵の接近。


武装。


武器と防具の没収。


馬の保護。


そして指揮官の発言。


すべて映像として残している。


レイラがアンドリューを見る。


「命令の内容も確認できたわ」


「なら次だな」


アンドリューが千八百八十人へテレパシーをつなぐ。


『捕縛する』


ウォーターバインド。


シャドウバインド。


ダークバインド。


バインドバレット。


千八百八十人の魔力が一斉に動いた。


二千人の私兵へ、拘束魔法が伸びていった。




武器も防具も馬も失った私兵たちは、六十機のゴーレムを睨んでいた。


前方には破壊不能のゴーレム。


その後ろにも第二村で製作した鉄製ゴーレムが並んでいる。


指揮官が叫んだ。


「魔法だ! ゴーレムを破壊しろ!」


私兵たちが一斉に詠唱を始めた。


長い詠唱があちこちから聞こえる。


火。


水。


風。


土。


覚えている攻撃魔法を次々と放った。


ファイアボール。


ウォーターボール。


ウィンドカッター。


ストーンバレット。


大量の魔法が六十機のゴーレムへ飛んでいく。


爆発。


水飛沫。


土煙。


風が巻き上がる。


私兵たちは次の詠唱に入った。


再び魔法が飛ぶ。


三度。


四度。


五度。


破壊不能のゴーレムは動かなかった。


防御する必要すらない。


魔法が直撃しても傷一つつかない。


五メートル級ゴーレムの巨体もその場に立ち続けている。


その後ろに並ぶ鉄製ゴーレムまで攻撃はほとんど届かなかった。


「続けろ!」


指揮官が叫ぶ。


私兵たちは詠唱する。


魔法を放つ。


また詠唱する。


火球が炸裂する。


風刃がぶつかる。


石弾が砕ける。


それでも六十機のゴーレムには何も起こらない。


アンドリューたちは攻撃しなかった。


レイラも止めない。


ガイルたち二十七人も見ているだけだ。


アレクサンドだけが映像を記録している。


攻撃しているのは私兵だけだった。


しばらくすると変化が現れた。


魔法の数が減る。


詠唱の声も弱くなっていく。


一人の兵士が膝をついた。


続いて別の兵士が座り込む。


肩で息をする者。


地面に手をつく者。


顔色を悪くする者。


魔力を使い果たしたのだ。


それでも指揮官は叫んだ。


「撃て! 撃ち続けろ!」


数人が詠唱を始める。


だが、途中で止まった。


魔力が足りない。


発動しても小さな火球しか出ない。


それがゴーレムに当たり、消える。


やがて攻撃は完全に止まった。


二千人の私兵は青息吐息だった。


立っているだけで精一杯の者も多い。


対する六十機のゴーレム。


無傷。


一機も壊れていない。


一歩も退いていない。


私兵たちが疲弊しただけだった。


アンドリューがゴーレムを見た。


続いて私兵たちを見る。


「終わったか?」


返事はない。


息を整える音だけが聞こえる。


レイラが鑑定する。


「かなり魔力を消耗しているわ」


ガイルが呆れたように私兵たちを見る。


「自分たちで動けなくなったな」


アンドリューはテレパシーを使った。


『こちらは一度も攻撃していない』


二千人の頭へ直接届く。


『お前たちが勝手に魔法を撃ち、勝手に魔力を使い切っただけだ』


私兵たちが六十機のゴーレムを見る。


ようやく理解した者もいた。


壊せない。


少なくとも自分たちの魔法では破壊できない。


その事実だけは十分に伝わった。


アンドリューが村人たちへ伝える。


『捕縛する』


ウォーターバインド。


シャドウバインド。


ダークバインド。


バインドバレット。


千八百八十人から拘束魔法が放たれた。


疲弊した私兵たちに抵抗する余力は残っていない。


腕。


脚。


身体。


次々と拘束される。


二千人の捕縛が終わった。


だが、ここでも処刑はしない。


レイラが言う。


「鑑定を始めましょう」


第二村の千人が動いた。


鑑定。


サイコメトリー。


ポストコグニション。


私兵一人一人の過去を確認する。


領主から何を命令されたのか。


第二村へ何をしに来たのか。


これまで何をしてきたのか。


アレクサンドがソートグラフィーで証拠を映像化する。


領主の私兵だから有罪なのではない。


命令に従ったから有罪なのでもない。


罪があるかどうかを確認する。


盗賊団と同じだった。


捕縛。


拘束。


鑑定。


証拠収集。


裁判。


そして執行。


第二村が一度決めた司法の手順は、相手が二千人の領主私兵になっても変わらなかった。


アンドリューは拘束された兵士たちを見渡した。


「村へ運ぶぞ」


第二村で、二千人の裁判が始まろうとしていた。





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