114 討伐完了
第二村へ帰還した一行は、すぐに後処理へ入った。
最初に運び込まれたのは、三つの盗賊団の拠点から回収した大量の金属だった。
剣。
槍。
斧。
鎧。
鍋。
釜。
牢の鉄格子。
檻。
手枷。
足枷。
鎖。
金属製の扉。
蝶番。
錠前。
柵から取り外した金具。
すべて鍛冶工房へ運ぶ。
千人がすでに金属属性と鍛冶スキルを持っている。
武器として残す必要はない。
金属属性で不純物を取り除き、精錬する。
形を失った武器や牢が、次々と鉄のインゴットへ変わっていった。
盗賊たちが人を襲うために使っていた金属は、これから村で鍋や釜、農具、建築資材として使われる。
金属の処理と並行して、司法手続きも始まった。
アイテムボックスの保護空間から、拘束された盗賊たちを順番に出していく。
捕縛した盗賊は千六百四十人。
最初に衣服を脱がせた。
武器。
暗器。
毒。
証拠になる物。
何かを隠し持っていないか確認するためだった。
下着だけを残し、バインド系の魔法による拘束は解除しない。
二十人ずつ裁判へ送る。
第二村の千人は司法スキルを持っている。
一部の者だけに判断を任せる必要はなかった。
鑑定。
サイコメトリー。
ポストコグニション。
そしてソートグラフィー。
一人ずつ罪を確認する。
過去を見る。
物や場所に残された情報と照合する。
確認した内容を映像として残す。
盗賊拠点で収集した証拠も使われた。
略奪。
殺人。
誘拐。
暴行。
村への襲撃。
奪った物資。
捕らえた人間。
複数の情報を照らし合わせてから判決を出す。
昨日決めた手順を崩さない。
捕まえたから有罪なのではない。
盗賊団にいたから処刑するのでもない。
確認する。
証拠を残す。
裁判する。
その上で処分を決める。
第二村の住民たちは交代しながら裁判を続けた。
判決が出る。
有罪。
次も有罪。
その次も有罪。
無罪と判定される者は現れなかった。
有罪が確定した者には、その場で刑が執行された。
死体も放置しない。
ピュリフィケーション。
浄化する。
土属性の魔法も使い、死体を細かく分解して肥料へ変えていく。
アンデッド化させないためでもある。
完成した肥料は農地へ運ばれた。
昨日まで人を襲っていた盗賊たちは、最後には畑を育てる土へ戻っていった。
裁判は続く。
千六百四十人。
時間はかかった。
それでも省略しない。
最後の一人まで鑑定し、過去を確認し、証拠を映像として残した。
やがて最後の判決が出た。
有罪。
盗賊千六百四十人。
無罪、零人。
全員の刑が執行された。
だが、司法手続きはまだ終わっていなかった。
次は保護した九百十五人だった。
人質だから無条件で信用することはしない。
盗賊が人質を装っている可能性。
犯罪者が盗賊団に捕らえられていた可能性。
武器や危険物を隠し持っている可能性。
どれも否定できない。
治療を終えた九百十五人を順番に鑑定していく。
サイコメトリー。
ポストコグニション。
必要ならソートグラフィーで映像を残す。
しばらくして、村人たちの表情が変わった。
「いたぞ」
人質の中から犯罪歴を持つ者が見つかった。
一人ではない。
確認が進むにつれて人数が増えていく。
最終的に三十五人。
その場でバインド系の魔法を使う。
拘束。
人質として保護された九百十五人のうち、三十五人が今度は被告として裁判を受けることになった。
人質の中から見つかった三十五人は、他の者たちから離された。
ウォーターバインド。
シャドウバインド。
ダークバインド。
使いやすいバインド系の魔法で拘束する。
だが、犯罪歴が確認されたというだけで処刑はしない。
盗賊たちと同じ司法手続きを行う。
鑑定。
サイコメトリー。
ポストコグニション。
ソートグラフィー。
過去を確認する。
証拠を映像として残す。
三十五人が何をしたのか、一人ずつ調べていった。
盗賊団とは無関係の場所で人を殺した者。
略奪を行った者。
旅人を襲った者。
別の盗賊団に所属していた者。
犯罪を犯した後、この三つの盗賊団に捕らえられた者もいた。
人質であったことと、過去の罪は別だった。
第二村の住民たちは交代しながら裁判を行う。
証拠を確認する。
本人の過去と照合する。
判決を出す。
有罪。
次も有罪。
三十五人の裁判が進んでいく。
無罪となる者はいなかった。
最後の一人まで有罪が確定した。
刑は即座に執行された。
死体は浄化する。
分解する。
肥料へ変える。
農地へ運ぶ。
これで司法手続きは終わった。
捕縛した盗賊。
千六百四十人。
全員有罪。
人質として保護した者。
九百十五人。
そのうち犯罪者、三十五人。
全員有罪。
残ったのは八百八十人だった。
怪我人はいない。
病人もいない。
盗賊団の拠点で保護した時から治療を続けていた。
ヒールバレット。
ピュリフィケーションバレット。
ポーション。
十分な食事。
必要な処置を受け、全員が回復している。
アンドリューとレイラは八百八十人を村の広場へ集めた。
第二村の住民たちも周囲にいる。
アンドリューが話す。
「これで確認は終わった」
八百八十人が静かに聞いていた。
「お前たちに罪はない。だから、ここから先は自分で決めろ」
誰かが顔を上げた。
アンドリューは続ける。
「この村に残ってもいい。村を出てもいい。元いた場所へ戻りたいなら、それでもいい」
レイラも言った。
「無理にここで暮らす必要はないわ。決めるのはあなたたちよ」
第二村が八百八十人を所有するわけではない。
王国から来たガイルたちが行き先を決めることもない。
選ぶのは本人たちだった。
八百八十人の間で相談が始まった。
長く捕らえられていた者もいる。
帰る村を失った者。
家族を失った者。
故郷そのものが荒れている者もいた。
やがて一人の男が前へ出た。
「俺は、ここに残りたい」
続いて女性が手を上げる。
「私も」
「俺もだ」
「ここで暮らしたい」
声が増えていく。
確認した結果、村を出ることを希望した者はいなかった。
八百八十人。
全員が第二村への残留を希望した。
アンドリューは頷く。
「分かった。なら今日から一緒に暮らせばいい」
それだけだった。
特別扱いもしない。
元人質という身分を作る必要もない。
第二村の人口は千人から千八百八十人になった。
レイラが八百八十人へ聞く。
「仕事は、これから考えてもらうわ」
農業。
建築。
土木。
木工。
鍛冶。
紡織。
薬師。
治癒。
調理。
酒造。
村にはすでにいくつもの仕事がある。
だが、今ある仕事だけから選ばせる必要もない。
「何をしたいか考えて。やりたい仕事がなければ、新しく作ってもいいわ」
その日のうちに八百八十人への教導が始まった。
最初は魔力循環。
魔力操作。
第二村の千人が教師になる。
一人の教師が一人だけを見る必要すらない。
あちこちで教導が始まった。
ガイルは少し離れた場所から、その光景を眺めていた。
もう自分たち二十七人が八百八十人を教える必要はなかった。
第二村には千人の教師がいる。
アンドリューもレイラもいる。
救われた村が、新しく救われた者を教えている。
ガイルは何も言わなかった。
教導はすでに、彼らの手を離れて動き始めていた。
八百八十人への教導が始まった頃、村の別の場所では新しい作業が始まっていた。
鍛冶工房の前に、鉄のインゴットが積まれている。
三つの盗賊団から回収した金属を精錬したものだった。
武器。
鎧。
鉄格子。
檻。
手枷。
足枷。
鎖。
扉。
金具。
それらはすでに元の形を残していない。
アレクサンドが一本の鉄のインゴットを手に取った。
前日の盗賊狩りで、ガイルたち二十七人はゴーレムスキルを覚醒している。
アンドリューとレイラ、作戦に参加した第二村の二百人も同じだ。
覚醒したなら使ってみる。
それだけだった。
「作ってみるか」
ガイルが答えた。
「ああ」
二十七人が鉄のインゴットを並べる。
金属属性。
鉄が形を変え始めた。
脚。
胴体。
腕。
頭部。
人型を基本にしながら、動かすことを意識して形を整えていく。
ゴーレム魔導師たちが近くで見ていた。
手を出す必要はなかった。
二十七人は三つの盗賊団を壊滅させるまで、二メートル級と五メートル級のゴーレムがどう動くのかを見続けている。
進む。
止まる。
物を運ぶ。
道を塞ぐ。
狭い場所へ入る。
人を傷つけずに進路を制限する。
作戦の中で何度も動きを見ていた。
アレクサンドの前で、一体の鉄製ゴーレムが完成した。
高さは二メートルほど。
「動け」
鉄の脚が一歩を踏み出す。
もう一歩。
方向を変える。
止まる。
再び歩く。
アレクサンドが次の指示を出した。
「そこのインゴットを運べ」
ゴーレムが鍛冶工房の前まで歩く。
鉄のインゴットを持ち上げた。
指定された場所まで運び、静かに置く。
ガイルたちが作ったゴーレムも次々と動き始めた。
二十七体の鉄製ゴーレム。
歩かせる。
荷物を持たせる。
並ばせる。
停止させる。
簡単な作業を繰り返す。
アンドリューとレイラも加わった。
第二村の二百人も、教導を交代しながら鍛冶工房へ来る。
昨日覚醒したゴーレムスキルを実際に使う。
鉄を成形する。
ゴーレムを作る。
動かす。
失敗すれば直す。
歩幅が大きすぎる。
腕の動きが悪い。
重心が偏っている。
一度止める。
金属属性で形を修正する。
再び動かす。
ゴーレム魔導師たちは必要な時だけ助言した。
やがて鍛冶工房の周囲を、何十体もの鉄製ゴーレムが動くようになった。
荷物を運ぶ。
木材を運ぶ。
畑へ肥料を運ぶ。
建築現場へ資材を届ける。
覚えたばかりのスキルが、その日のうちに村の労働力へ変わっていく。
アレクサンドはその様子も記録していた。
サイコメトリー。
ポストコグニション。
ソートグラフィー。
盗賊狩りの記録は、すでに最初から最後まで残してある。
三つの盗賊団の発見。
作戦編成。
ゴーレム投入。
テレキネシスによる武器の没収。
捕縛。
拘束。
人質の保護。
証拠収集。
拠点からの物資回収。
拠点の破壊。
第二村への帰還。
そして裁判。
盗賊千六百四十人。
全員有罪。
刑の執行。
人質九百十五人の鑑定。
その中から犯罪者三十五人を発見したこと。
三十五人を改めて裁判にかけ、有罪を確認して刑を執行したこと。
残った八百八十人を保護したこと。
さらに作戦へ参加した者たちがゴーレムスキルを覚醒したことも記録されている。
アレクサンドは映像を確認した。
都合の悪い部分を消す必要はない。
成功だけを残す必要もない。
何を考え。
何を確認し。
どう判断したのか。
それが分からなければ、次に使う者の教材にはならない。
記録を三つ複製する。
一つはマーガレットへ。
残りも必要な場所へ届けられる。
アレクサンドは魔道具をアイテムボックスへ収納した。
「少し王国へ戻る」
ガイルが振り返る。
「記録か」
「ああ。殿下へ届けてくる」
アレクサンドの姿が消えた。
第二村で行われた初めての大規模な司法運用。
その記録が、再び王国へ渡ろうとしていた。
アレクサンドはアーク邸へ転移した。
マーガレットを訪ね、持ち帰った魔道具を差し出す。
「殿下。第二村周辺の盗賊討伐が完了しました。記録です」
「ご苦労様。確認するわ」
マーガレットは魔道具を受け取った。
映像が始まる。
千三十七人による広域索敵。
三つの盗賊団の発見。
第二村の二百人を十班へ再編。
アンドリューとレイラが作戦行動の責任者となり、ガイルたち二十七人は補佐へ回っている。
ゴーレムを先行させる。
テレキネシスで武器を没収し、そのままアイテムボックスへ収納。
バインド系の魔法による捕縛と拘束。
人質を発見すると、治療して食事を持たせ、アイテムボックスの保護空間へ収容する。
盗賊も拘束したまま保護空間へ収容。
サイコメトリー。
ポストコグニション。
ソートグラフィー。
犯罪の証拠を映像として残す。
拠点にあった金属や木材を回収し、最後に拠点を破壊する。
三つの盗賊団。
捕縛した盗賊、千六百四十人。
保護した人質、九百十五人。
映像は第二村へ帰還した後も続いていた。
盗賊を一人ずつ鑑定する。
過去を確認する。
証拠と照合する。
裁判。
刑の執行。
千六百四十人全員が有罪だった。
マーガレットは黙って映像を見続けた。
次に映ったのは人質だった。
九百十五人にも同じように鑑定を行っている。
そこで三十五人の犯罪者が見つかった。
「人質の中にもいたのね」
「はい。人質であることと、犯罪歴がないことは別です」
マーガレットは頷いた。
三十五人にも司法手続きが行われる。
証拠を確認。
裁判。
全員有罪。
残った八百八十人は治療を終え、第二村への残留を希望した。
そして映像の最後。
盗賊狩りに参加した第二村の二百人。
アンドリュー。
レイラ。
ガイルたち二十七人。
二百二十九人がゴーレムスキルを覚醒していた。
さらに鉄のインゴットからゴーレムを作り、実際に動かしている。
マーガレットは映像を止めた。
「分かったわ。引き続き頼むわね」
「承知しました」
アレクサンドは転移で第二村へ戻った。
マーガレットはすぐに記録を複製した。
一つを持って冒険者ギルドへ向かう。
ギルドマスターのバルドへ魔道具を渡した。
「第二村の続きです。確認してください」
「承知しました」
バルドが映像を見る。
盗賊の捕縛までは静かに見ていた。
だが、人質の鑑定が始まり、三十五人の犯罪者が見つかったところで表情が変わった。
「人質にも犯罪者がいましたか」
「ええ」
バルドは映像を巻き戻して、もう一度確認した。
救出した。
怪我を治した。
食事を与えた。
だから信用する。
そうはしていない。
「これは重要ですな」
冒険者ギルドが今後、各地で救済活動を行うなら同じ状況は起こり得る。
盗賊から救出された者。
奴隷として捕らえられていた者。
戦乱から逃れてきた者。
保護することと、確認することは両立する。
バルドは記録を教育資料として保存することを決めた。
マーガレットは次に王宮へ向かった。
国王オーキス。
王妃バイオレット。
宰相クレイン。
魔導騎士団長アッシュ。
騎士団長アイク。
近衛騎士団長ロックウェル。
大臣や貴族たちも映像を確認する。
三つの盗賊団を一人もその場で殺さず捕縛した。
司法手続きを経て処分した。
そこまでは前回の救済記録から予想できる。
だが、人質九百十五人を改めて調べ、三十五人の犯罪者を発見した場面では会議室がざわめいた。
アイクが言った。
「保護した者まで確認する必要がありますな」
ロックウェルも頷く。
「王都へ避難民を受け入れる場合にも使えます」
アッシュが映像の続きを見る。
二百二十九人のゴーレムスキル覚醒。
鉄製ゴーレムの製作。
昨日までゴーレムを使えなかった第二村の住民が、すでに自分たちで作り始めている。
クレインが呟いた。
「また広がりましたな」
マーガレットはアルフレッド侯爵へ渡す分の記録をクレインへ預けた。
「こちらもお願いします」
「承知しました」
第二村で生まれた経験が、また王国へ戻ってきた。
捕縛。
司法。
保護。
犯罪者の選別。
ゴーレム運用。
一つの村で得られた経験が記録され、別の組織へ渡される。
そして受け取った者が、それぞれの場所で使い始める。
救済記録は、また一つ増えていた。




