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戦わずに世界を変えた男――教育と物流で“循環国家”を作ったら、いつの間にか大陸が一つになっていた  作者: 慈架太子


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111 工房と司法

翌日。


レイラは二百人の村人を連れて森へ入っていた。


今日の目的は狩りではない。


材木だった。


レイラが一本の木を見上げる。


「始めましょう」


二百人が風属性を使った。


ウィンドカッター。


風の刃が幹へ走る。


太い木が次々と切り倒されていった。


倒した木の枝を払う。


幹を適当な長さに切る。


さらにウィンドカッターでスライスし、使いやすい材木へ加工していく。


残った切り株も放置しない。


土魔法で根ごと掘り起こす。


付着した土を落とし、細かく切り分けて薪にする。


枝も薪として使える大きさに揃えた。


材木。


薪。


できたものからアイテムボックスへ収納していく。


二百人が同時に作業するため速い。


およそ五百本の木を加工したところで、レイラは周囲を見渡した。


「これだけあれば十分ね。戻りましょう」


二百人が飛行して村へ戻る。


村ではすでに次の作業が始まっていた。


今日作るのは五つの施設。


木工工房。


紡織工房。


鍛冶工房。


薬房。


治癒院。


千人が土属性と建築スキルを使う。


すでに昨日、全員が土木と建築を習得している。


基礎を作る。


壁を立てる。


床を作る。


屋根を作る。


作業場を区切る。


必要な水路や排水も下水処理システムへ接続していく。


五つの建物が次々と形になった。


完成すると、レイラたちが森から持ち帰った材木を取り出す。


魔法で乾燥させた。


すぐに加工できる材料へ変わる。


紡織工房ではアンジェラが動いていた。


持ち帰った材木を加工する。


糸紡ぎ機。


一基。


二基。


十基。


同じ構造のものを次々と作っていく。


百基。


続いて機織り機も作る。


こちらも百基。


広い紡織工房に二百基の機械が並んだ。


アンジェラがアイテムボックスから綿花を取り出す。


「まず糸を作るわよ」


二百人が集まった。


一度に使える糸紡ぎ機は百基。


最初の百人が作業につく。


残る百人は、その様子を見る。


アンジェラが実際に綿花を扱った。


綿花から繊維を取り出す。


整える。


糸紡ぎ機へ掛ける。


糸を紡ぐ。


レイラとアンも二百人の間を回りながら教導する。


最初は手元を確認しながら動かしていた村人たちも、少しずつ慣れていった。


糸ができる。


巻き取る。


交代する。


次の百人が糸紡ぎ機を動かす。


工房の中に大量の糸が積み上がっていった。


「次は布よ」


百基の機織り機を稼働させる。


紡いだ糸を掛ける。


縦糸。


横糸。


織る。


アンジェラが教導する。


レイラとアンも回る。


百人が織り、百人が次の作業を準備する。


交代しながら機織り機を動かした。


糸が布へ変わっていく。


長い布が次々と完成した。


だが、布を作っただけでは終わらない。


アンジェラは完成した布を広げた。


「仕立てもやるわよ」


裁断する。


縫う。


形を整える。


最初に作ったのは下着だった。


毎日交換できるだけの数が必要になる。


続いてタオル。


浴場でも家庭でも使える。


二百人が作業を繰り返した。


下着。


タオル。


数十枚。


百枚。


さらに増えていく。


数百枚が完成した頃だった。


二百人の身体が一斉に光り始めた。


紡織スキル。


全員が覚醒した。


アンジェラが鑑定で確認する。


問題ない。


糸を紡げる。


布を織れる。


仕立てもできる。


アンジェラは工房に並んだ糸紡ぎ機と機織り機を見渡した。


これから綿花は村の農地で収穫できる。


材料を外から与え続ける必要もない。


育てる。


収穫する。


糸にする。


布にする。


衣類へ仕立てる。


この村の中だけで、衣類を作るための流れがつながった。




別の二百人は鍛冶工房に集まっていた。


教導するのはアダムスだった。


この村には、もともと鍛冶師がいる。


だが、材料も設備も不足し、まともに仕事ができなくなっていた。


工房の前には壊れた農具や鍋が集められている。


刃の欠けた鎌。


折れた鍬。


穴の開いた鍋。


使えなくなった釜。


古い武器もあった。


アダムスが二百人を見渡す。


「まず金属を理解しろ」


金属属性。


鉄をただ硬い物として見るのではない。


金属そのものを魔力で捉える。


形を変える。


分ける。


集める。


精錬する。


アダムスが壊れた農具へ手を向けた。


金属部分が動く。


不純物を除き、鉄だけを集めていく。


やがて一つのインゴットが完成した。


二百人も同じように試す。


壊れた農具。


鍋。


釜。


武器。


使えなくなっていた金属製品を材料へ戻していく。


理解が深まるにつれて、二百人の身体が次々と光った。


金属属性。


覚醒。


「そのまま続けろ」


大量の金属が精錬されていった。


使えない道具が消え、代わりに鉄のインゴットが積み上がっていく。


材料はできた。


次は鍛冶だった。


二百人が土属性を使い、工房内に溶鉱炉を作る。


村の鍛冶師が前へ出た。


久しぶりに仕事ができる。


鉄を扱う。


熱する。


叩く。


延ばす。


形を整える。


作るのは武器ではなかった。


鍋。


釜。


生活に必要なものを優先する。


アダムスは口を出しすぎない。


ここから先は村の鍛冶師の仕事だった。


二百人が鍛冶師の作業を見て、自分でも鉄を扱う。


金属属性も使う。


熱した鉄を叩く。


形を作る。


失敗すれば、もう一度材料へ戻せばいい。


鍋が完成した。


続いて釜。


さらに二百人が作業を繰り返していく。


やがて身体が光り始めた。


鍛冶スキル。


二百人が覚醒した。


同じ頃。


木工工房にも二百人が集まっていた。


レイラたちが森から持ち帰った材木を取り出す。


魔法で乾燥させる。


これで加工できる。


この村には大工と木工職人もいた。


今度は彼らが教師になった。


材木を切る。


削る。


組む。


木工職人が作り始めたのは樽だった。


これから酒を仕込む。


味噌も作る。


醤油も作れる。


保存にも使える。


ならば樽はいくらあっても困らない。


二百人も同じ作業を始めた。


ウィンドカッターで材木を切る。


細かな加工は道具も使う。


板を曲げる。


組み合わせる。


隙間ができないように調整する。


一つ。


二つ。


十。


二十。


工房に樽が並んでいった。


村の職人たちが教え、二百人が作る。


その途中で光が生まれた。


木工スキル。


大工スキル。


二百人が二つのスキルへ覚醒した。


薬房ではアンとミキが二百人を教導していた。


まず魔物の脂を取り出す。


木灰を用意する。


石鹸作りだった。


材料を処理する。


混ぜる。


型へ流す。


固める。


切り分ける。


石鹸が次々と作られていく。


続いて薬草を取り出した。


今度はポーション。


薬草を鑑定する。


必要な部分を選ぶ。


処理する。


魔力を使って成分を整える。


体力回復ポーションを作っていく。


二百人が交代しながら作業を続けた。


石鹸。


体力回復ポーション。


完成品が薬房へ並んでいく。


そして二百人の身体が光った。


薬師スキル。


ポーション作成スキル。


二つが覚醒した。


残る二百人がいる治癒院では、カレラが教導していた。


「二人一組になってください」


百組に分かれる。


ヒールバレット。


ピュリフィケーションバレット。


互いに魔法を掛け合う。


治療する相手がいなければ、実際に怪我をする必要はない。


魔力を相手へ届ける。


状態を確認する。


癒やす。


浄化する。


役割を交代する。


何度も繰り返した。


やがて二百人の身体が光る。


治癒師スキル。


覚醒。


五つの工房と施設で、村人たちは新しい技術を次々と自分たちのものにしていった。




午後。


五つの施設に分かれていた千人が、講堂と教室へ集まった。


午前中に習得したものは、それぞれ違う。


紡織工房の二百人。


紡織スキル。


鍛冶工房の二百人。


金属属性と鍛冶スキル。


木工工房の二百人。


木工スキルと大工スキル。


薬房の二百人。


薬師スキルとポーション作成スキル。


治癒院の二百人。


治癒師スキル。


だが、この村では一部の者だけが技術を持った状態で終わらせない。


千人全員が教導を持っている。


アンドリューが言った。


「午前中に覚えたことを、今度は互いに教え合ってくれ」


千人が動き始めた。


紡織を覚えた者が、糸を紡ぐ方法を教える。


綿花から繊維を取り出す。


糸にする。


機織り機で布を織る。


布を裁断する。


下着やタオルへ仕立てる。


鍛冶を覚えた者は金属属性の理解から教えた。


壊れた金属製品を精錬する。


不純物を除く。


インゴットに戻す。


熱する。


叩く。


鍋や釜へ加工する。


木工を覚えた者は材木を扱う。


乾燥させる。


切る。


削る。


組み合わせる。


樽を作る。


薬師スキルを覚えた者は石鹸とポーションの作り方を教える。


治癒師となった者はヒールバレットとピュリフィケーションバレットを使い、治療する時の魔力の扱いを伝えていく。


一人が教える。


教わった者が実際にやる。


できるようになれば、今度はその者が別の者へ教える。


千人の中で教導が循環した。


身体が次々と光り始める。


紡織スキル。


金属属性。


鍛冶スキル。


木工スキル。


大工スキル。


薬師スキル。


ポーション作成スキル。


治癒師スキル。


夕方になる頃には、千人全員が八つの技術と属性を習得していた。


これで誰か一人の職人がいなくなれば止まる村ではない。


綿花があれば布を作れる。


木があれば家具も樽も作れる。


鉄があれば鍋や釜を作れる。


魔物の脂があれば石鹸を作れる。


薬草があればポーションを作れる。


怪我人や病人が出れば治療できる。


その様子を、アレクサンドは記録していた。


サイコメトリー。


物や場所に残された情報を読み取る。


ポストコグニション。


過去に起きた出来事を確認する。


そしてソートグラフィー。


得られた情報を映像として魔道具へ記録していく。


この村へ到着した時の様子。


千人の村人。


二百人の怪我人。


三百人の病人。


飢えた人々が初めて食事を取った光景。


魔力循環と魔力操作。


水属性への覚醒。


解体。


調理。


狩り。


六属性。


倉庫。


農地。


防壁。


下水処理システム。


住居。


大浴場。


公衆トイレ。


そして今日作られた五つの施設。


紡織工房。


鍛冶工房。


木工工房。


薬房。


治癒院。


救援隊がすべてを作った記録ではない。


前の村から来た十人が教え、この村の千人が自分たちで作り、自分たちで技術を習得していった記録だった。


アレクサンドは魔道具へ記録された映像を確認する。


第二村救済の経過が、そのまま残されている。


次の村でも使える。


その次でも使える。


どこで何を教えたのか。


どのような順序で自立へ進んだのか。


映像を見れば確認できる。


夕食の時間になった。


千人は自分たちで料理を作り、腹いっぱい食べた。


片づけはピュリフィケーションで済ませる。


その後、千人と第一村から同行してきた十人が講堂へ集まった。


前に立ったのはアレクサンドだった。


「今から三つの能力を教導します」


サイコメトリー。


ポストコグニション。


ソートグラフィー。


千十人が魔力循環と魔力操作を続けながら、アレクサンドの教導を受ける。


物に残る情報を読む。


過去に起きた出来事を確認する。


そして見たもの、考えたものを映像として残す。


教導が進む。


やがて講堂の中に光が広がった。


千人。


そして第一村から来た十人。


千十人が、三つの能力へ覚醒した。


アレクサンドはその光景を見渡した。


これで第二村にも、自分たち自身で出来事を記録する手段ができた。




三つの能力への覚醒を確認すると、アレクサンドは前を譲った。


代わってアンドリューが千人の前に立つ。


第一村から同行した九人も、その後ろに並んだ。


アンドリューは千人を見渡した。


「明日から盗賊狩りを始める」


講堂が静かになった。


食料を得るための狩りではない。


この村の周辺には盗賊がいる。


さらに帝国兵や領主の私兵が現れる可能性もある。


村が豊かになれば、食料や物資を奪おうとする者が来ることも考えなければならない。


だが、アンドリューは続けた。


「先に決めておく。捕まえる時には殺さない」


千人が聞いている。


「俺たちは盗賊を見つけたから殺す、帝国兵だから殺す、領主の私兵だから殺す、そんなことはしない」


第一村でも話し合って決めたことだった。


犯罪者をどう扱うのか。


誰が罪を確認するのか。


誰が処罰を決めるのか。


それを決めずに力だけを持てば、今度は自分たちが好き勝手に人を裁く側になってしまう。


アンドリューは黒板へ手順を書いた。


捕縛。


拘束。


鑑定。


証拠収集。


裁判。


執行。


「この順番だ」


最初は捕縛。


ウォーターバインド。


シャドウバインド。


ダークバインド。


バインドバレット。


使う魔法は状況に合わせればいい。


バインド系の魔法で捕縛する。


続いて拘束。


武器を奪い、抵抗できない状態にする。


「そこで終わりじゃない」


次は鑑定だった。


相手が何をしたのか。


どのような罪を犯したのか。


確認する。


だが、鑑定だけで処罰を決めない。


証拠も集める。


今日覚醒した能力が使える。


サイコメトリー。


現場に残された情報を読む。


ポストコグニション。


過去に起きた出来事を確認する。


ソートグラフィー。


確認した内容を映像として残す。


アンドリューはアレクサンドが記録に使った魔道具を示した。


「証拠は残せ」


言った。


言わない。


やった。


やっていない。


それだけで人を裁かない。


鑑定する。


調べる。


証拠を集める。


記録する。


その上で裁判を行う。


「処罰を決めるのは俺たちじゃない。この村だ」


アンドリューたち十人は第一村の人間である。


ガイルたちはアルデバラン王国の人間だ。


ここは帝国。


第二村の住民を裁く仕組みは、第二村の住民自身が作らなければならない。


第一村で決めた司法の仕組みを説明する。


どのように罪を確認するのか。


誰が裁判に参加するのか。


どのように記録を残すのか。


処罰を決めた後、誰が執行するのか。


千人から質問が上がった。


「帝国兵が来た場合は?」


アンドリューは即答した。


「同じだ」


「領主様の兵でも?」


「同じだ」


帝国兵だから無条件で敵ではない。


領主の私兵だから犯罪者でもない。


逆も同じだった。


身分があるから、何をしても許されるわけではない。


「罪を犯しているなら捕縛する。拘束する。鑑定する。証拠を集める。その後に裁判だ」


盗賊でも。


帝国兵でも。


領主の私兵でも。


手順は変えない。


千人の間で話し合いが始まった。


第一村の仕組みをそのまま使う必要もない。


自分たちの村で運用できる形を考える。


教導とテレパシーがあるため、意見はすぐに共有された。


やがて第二村でも基本方針が決まった。


捕縛。


拘束。


鑑定。


証拠収集。


裁判。


執行。


戦闘で勝った者が、その場で相手の生死を決めることはしない。


捕縛時には殺さない。


罪があるなら、司法手続きの後に裁く。


方針が定まった時だった。


千人の身体が一斉に光った。


司法スキル。


覚醒。


アンドリューはそれを鑑定で確認した。


これで準備はできた。


食料を作れる。


衣類を作れる。


薬を作れる。


住居も作れる。


自分たちを治療できる。


そして犯罪者が現れれば、自分たちの手続きで裁くこともできる。


アンドリューは千人へ告げた。


「明日、盗賊を探す」


村を守るための力を得た。


だが、その力をどう使うのかも決めた。


第二村は、自分たちで生きるだけではなく、自分たちで秩序を維持する段階へ進んでいた。





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