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戦わずに世界を変えた男――教育と物流で“循環国家”を作ったら、いつの間にか大陸が一つになっていた  作者: 慈架太子


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110/311

110 農地 防壁 下水 住居 浴場 トイレ

翌日。


千人の村人たちは広場へ集まった。


今日は五人一班に分かれる。


二百班。


さらに四十班ずつ五つに分かれ、それぞれ二百人で別の作業を担当することになった。


レイラは四十班、二百人を連れて村の農地へ向かった。


そこには縦千メートル、横千メートルの巨大な土地が広がっていた。


百万平方メートル。


かつては村人たちの生活を支えていた農地だったが、今では荒れ果て、雑草が生い茂っている。


レイラが土属性を使った。


「まず区画を作るわよ」


一面を十メートル四方とする。


縦に百面。


横に百面。


二百人も土魔法を使い始めた。


地面に次々と境界が作られていく。


全員が教導を持っている。


分からない者がいれば、その場で互いに教える。


作業は止まらなかった。


やがて縦百面、横百面。


一万面の畑の区画が完成した。


「次は耕すわ」


レイラが土魔法で農地を天地返しする。


表面の土が沈み、下にあった土が持ち上がる。


二百人も一斉に続いた。


広大な農地が次々と耕されていく。


一万面。


すべての天地返しが終わった。


次に二百人が畑へ向けて魔法を放つ。


ヒールバレット。


ピュリフィケーションバレット。


大量の魔法が一万面の畑へ降り注いだ。


終わると水属性で全面へ散水する。


乾いていた土が水を吸い込んでいった。


ここから作付けを始める。


千面に芋。


千面に玉ねぎ。


二千面に大豆。


二千面に小麦。


二千面に綿花。


最後の二千面には砂糖黍。


これで一万面。


全面へ作付けする。


アイテムボックスから種芋、玉ねぎの球根、大豆と小麦と綿花の種、砂糖黍の苗を取り出した。


二百人が一斉に動く。


土魔法で植える場所を開ける。


テレキネシスで種や苗を動かす。


植える。


土を戻す。


次の場所へ移る。


二百人が魔法を使って作業することで、広大な畑が次々と埋まっていった。


芋。


玉ねぎ。


大豆。


小麦。


綿花。


砂糖黍。


一万面すべてへの作付けが終わった。


再びヒールバレットとピュリフィケーションバレットを大量にばら撒く。


そして全面へ散水した。


その直後だった。


二百人の身体が次々と光り始める。


農業スキル。


二百人全員が覚醒した。


レイラは二百人をまとめていた女性を呼んだ。


名はカレラ。


「カレラ。明日からも毎日、今やった作業を繰り返して」


カレラは一万面の畑を見渡した。


昨日まで荒れ地だった場所に、すでに作物が植えられている。


「承知しました」


レイラは頷いた。


これで農地は任せられる。


一方、別の四十班、二百人は村の外周で作業していた。


担当するのは防壁。


アンが教導する。


「高さ十メートル。幅五メートルよ」


二百人が土魔法を使う。


地面が隆起した。


大量の土が持ち上がり、分厚い壁へ変わっていく。


村を囲うように防壁が伸びる。


一人ではない。


二百人が同時に作っている。


さらに防壁の四隅には櫓を作った。


櫓へ上がるための階段も設置する。


防壁の前では堀を掘った。


幅十メートル。


深さ十メートル。


掘り出した土はそのまま防壁へ使う。


堀が村を囲うと、二百人が水属性を使った。


大量の水が流れ込む。


見る間に堀が満たされていった。


高さ十メートル、幅五メートルの防壁。


その前には幅十メートル、深さ十メートルの水堀。


四隅には櫓。


階段もある。


村を守る新しい防壁が完成した。


作業を終えた二百人の身体が光った。


土木スキル。


建築スキル。


二百人全員が二つのスキルを覚醒した。




別の四十班、二百人は村の中で作業を始めていた。


担当するのは下水処理システムだった。


教導するのはミキ。


マリーは一人で森へ向かっている。


目的はスライムだった。


ミキは二百人へ、下水処理システムの構造をテレパシーで共有した。


「まず下水路を作るわよ」


村の各所から汚水を集める。


集めた汚水を村の外に設置する下水処理場へ流す。


二百人が土属性を使った。


地面の下へ下水路を作っていく。


一本だけではない。


これから建設される住居。


大浴場。


公衆トイレ。


それぞれから出る汚水を集められるように枝分かれさせる。


二百人が同じ構造を理解しているため、別々の場所から作業しても下水路は正確につながっていった。


掘る。


固める。


水が漏れないように壁を作る。


傾斜をつけ、汚水が自然に流れるようにする。


村の地下に下水路が広がっていく。


同時に村の外では下水処理場の建設が始まった。


大きな処理槽を複数作る。


流れ込んだ汚水を溜める場所。


スライムを収容する場所。


処理された水を流す場所。


二百人が土魔法を使い続けた。


しばらくすると、空からマリーが戻ってきた。


テレキネシスで運んでいる檻の中には、捕らえたスライムが入っている。


「捕まえてきたわ」


処理場へ降りたマリーは、檻ごとスライムを設置した。


檻は処理槽の中に固定する。


スライムが汚物を処理できる一方で、外へ逃げることはできない。


ミキが下水路へ水を流した。


二百人が各所を確認する。


水は下水路を通る。


途中で漏れない。


最後は下水処理場へ流れ込んだ。


「大丈夫ね」


下水処理システムが完成した。


直後。


作業していた二百人の身体が光った。


土木スキル。


建築スキル。


二つのスキルが覚醒した。


さらに別の四十班、二百人は住居を建設していた。


古い家をそのまま修繕するのではない。


千人が安全に暮らせる住居を新しく作る。


一棟につき百人が居住できる集合住宅。


それを十棟。


二百人が土属性を使う。


基礎を作る。


壁を立ち上げる。


床を作る。


部屋を区切る。


階段を設置する。


屋根を作る。


水属性と土属性を使って、生活に必要な設備も整えていく。


一棟。


二棟。


三棟。


同じ構造の集合住宅が次々と建っていった。


十棟が完成する。


これで千人が暮らせる。


だが、建設はまだ終わらない。


次に作るのは教導のための建物だった。


講堂と教室。


合わせて十棟。


これからこの村では、覚えた者が別の者へ教えていく。


さらに次の村から人を受け入れることもできる。


教導する場所は必要だった。


二百人はそのまま作業を続けた。


広い講堂。


複数の教室。


土属性で机と椅子も作っていく。


千人が一度に学ぶ必要はない。


班ごとに分かれて教導できるようにする。


やがて十棟すべてが完成した。


作業を終えた二百人の身体が光る。


土木スキル。


建築スキル。


二百人が同時に覚醒した。


残る四十班、二百人が担当していたのは大浴場と公衆トイレだった。


こちらも土魔法で建物を作る。


大浴場には広い浴槽。


身体を洗う場所。


脱衣する場所。


大量の水を扱える給排水設備。


公衆トイレも複数建設していく。


重要なのは排水だった。


すでに完成している下水路へ、大浴場と公衆トイレを接続する。


浴場から出た排水。


トイレから出た汚水。


どちらも村の地下を通り、下水処理場へ流れる。


二百人が実際に水を流して確認した。


問題なく処理場まで流れていく。


大浴場。


公衆トイレ。


完成。


最後の二百人の身体も光った。


土木スキル。


建築スキル。


これで農地を担当した二百人は農業スキル。


残る八百人は土木と建築スキルを覚醒した。


一日の作業で、村の姿は大きく変わっていた。




五つに分かれていた二百班が、広場へ戻ってきた。


農地。


防壁。


下水処理システム。


集合住宅と教導施設。


大浴場と公衆トイレ。


朝までとは村の姿が変わっている。


だが、アンドリューたち十人は作業を終わりにはしなかった。


千人には教導スキルがある。


一部の者だけが農業を知り、一部の者だけが建築できる状態で終わらせる必要はなかった。


アンドリューが千人へ言った。


「今度は教え合え」


農地を担当した二百人は農業スキルを覚醒した。


残る八百人は土木と建築スキルを覚醒している。


ならば交換すればいい。


千人は五人一班のまま動き始めた。


農地を担当した者たちは、自分たちが今日行った作業を教える。


土を区画する。


天地返しする。


ヒールバレット。


ピュリフィケーションバレット。


散水。


種芋、球根、種、苗木の植え方。


作物を育てるために何を見るのか。


教導を使って理解を伝えていく。


一方、土木と建築を覚醒した八百人も、自分たちが経験したことを教える。


土を動かす。


壁を作る。


建物を支える。


床を作る。


屋根を作る。


水路へ傾斜をつける。


水が漏れないように固める。


それぞれが今日の作業で得た理解を共有していった。


教わった者は、すぐに試す。


広場の端で土を耕す。


小さな壁を作る。


溝を掘る。


水を流す。


土で小さな建屋を作る。


一度覚えれば、今度はその者も教える側へ回った。


教導が千人の中を循環する。


やがて身体が光り始めた。


最初は農地へ行かなかった者たちだった。


農業スキル。


次々と覚醒していく。


続いて農地を担当していた二百人の身体も光った。


土木スキル。


建築スキル。


互いに教え合うことで、持っていなかったスキルを補っていった。


しばらくすると光は収まった。


千人全員。


農業スキル。


土木スキル。


建築スキル。


全員が三つのスキルを習得した。


アンドリューが鑑定で確認する。


問題ない。


これでカレラたち二百人が農地へ行けない日があっても、別の者が代われる。


防壁が壊れても直せる。


住居も作れる。


下水路も修繕できる。


必要なら新しい建物を増やすこともできる。


誰か一人がいなければ何もできない村ではなくなっていく。


レイラは大浴場へ向かった。


「せっかく作ったんだから使いましょう」


千人が大浴場へ集まる。


もちろん一度に入るわけではない。


班ごとに順番を決めた。


水属性で浴槽へ水を張る。


魔力を使って湯を沸かす。


広い浴槽から湯気が立ち上った。


最初の班が身体を洗う。


石鹸は前の村から持ってきたものを使った。


手を洗う。


身体を洗う。


髪を洗う。


汚れを落としてから浴槽へ入る。


「ああ……」


思わず声を漏らす者がいた。


長くまともに身体を洗う余裕さえなかった。


昨日までは食べることで精一杯だった。


今日は違う。


腹いっぱい食べられる。


住む場所がある。


トイレがある。


汚水を処理する設備もある。


そして温かい湯に入れる。


交代しながら千人が浴場を使っていった。


使った水はそのまま捨てられるわけではない。


排水口へ流れる。


地下の下水路を通る。


下水処理場へ運ばれる。


設置されたスライムが汚物を処理する。


今日作った設備が、すでに一つの仕組みとして動き始めていた。


アンドリューは浴場の外から村を見渡した。


高い防壁。


その向こうには広大な農地。


新しい集合住宅。


教導に使える講堂と教室。


公衆トイレ。


地下には下水路。


一日前にはなかったものばかりだった。


だが、建物を作ったこと以上に重要なものが残った。


千人が、自分たちで作り方を知った。


壊れても直せる。


足りなくなれば増やせる。


そして次の誰かへ教えることもできる。


村は少しずつ、救援を必要としない場所へ変わり始めていた。




大浴場から出た村人たちは、新しく建てた集合住宅へ移っていった。


一棟に百人。


十棟で千人。


寝台。


机。


椅子。


棚。


必要なものは土属性や氷属性で作れる。


水が必要なら水属性を使えばいい。


汚水は下水路へ流せる。


以前の家から必要なものをアイテムボックスへ収納し、新しい住居へ運び込んでいった。


千人が次々と入居する。


アンドリューたち十人は、その様子を見ていた。


「早かったな」


アンドリューが呟く。


レイラが頷いた。


「千人いるもの。それに、もう全員が魔法を使えるわ」


人数だけではない。


六属性。


テレキネシス。


テレパシー。


レビテーション。


飛行。


アイテムボックス。


鑑定。


教導。


さらに今日、農業、土木、建築まで千人全員が習得した。


一人が土を動かすのとは違う。


千人が同じ目的で魔法を使えば、一日で村の姿そのものを変えられる。


広場では夕食の準備が始まっていた。


もう指示する必要はなかった。


千人が自分たちで冷蔵倉庫へ向かう。


狩った魔物の肉を取り出す。


必要な量を鑑定する。


肉と内臓へピュリフィケーションを使う。


浄化。


ウォーターカッターで切り分ける。


寸胴鍋には骨、内臓、肉を入れる。


水を張る。


魔力を注ぎ込み、そのまま煮込む。


石焼き台では肉やホルモンを焼いていく。


料理する者。


食器を用意する者。


料理を運ぶ者。


それぞれが自分で仕事を見つけて動いていた。


やがて大量の料理が並んだ。


千人が席につく。


アンドリューが言った。


「食え」


一斉に食事が始まった。


肉を食べる。


スープを飲む。


また肉を取る。


三日前とは違い、遠慮する者はいない。


自分たちで狩った魔物だ。


冷蔵倉庫にも冷凍倉庫にも、まだ大量の食料が残っている。


腹いっぱい食べればいい。


食事を終えた者から片づけを始めた。


食器を集める。


ピュリフィケーション。


汚れていた食器が浄化される。


石焼き台。


寸胴鍋。


調理に使った器具も次々とピュリフィケーションで浄化していく。


千人が使えば、片づけに時間はかからなかった。


食後。


千人は新しく建てた講堂と教室へ分かれて入った。


ここでもアンドリューたち十人だけが教師になるわけではない。


千人全員が教導を持っている。


今日経験したことを互いに確認する。


農地。


防壁。


下水処理システム。


集合住宅。


大浴場。


公衆トイレ。


担当した者が、別の作業を担当した者へ教える。


どのように作ったのか。


どこへ魔力を使ったのか。


下水路にはなぜ傾斜が必要なのか。


冷蔵倉庫と冷凍倉庫では、氷の魔力をどう調整するのか。


教える。


質問する。


分からなければ実際に小さな模型を土魔法で作る。


教室のあちこちで教導が続いた。


レイラはその様子を見ながら、自分を鑑定した。


教導スキル。


レベル五。


だが、レイラ一人の教導レベルだけを気にする必要はなくなっていた。


ここには千人の教導持ちがいる。


一人が理解すれば、五人へ伝えられる。


五人が理解すれば、それぞれが別の者へ伝えられる。


覚えた知識が千人の中を巡っていく。


「私たち、もうそんなに教えなくてもよさそうね」


レイラが言った。


アンドリューも講堂を見渡す。


「そうだな」


一か月前。


二人は教えられる側だった。


食べさせてもらった。


魔力循環と魔力操作を教わった。


六属性を覚えた。


狩りを教わった。


農業を教わった。


建築も教わった。


そして今は、自分たちが別の村へ同じものを渡している。


その村でも、すでに千人が互いに教え始めていた。


その頃。


ガイルたち二十七人は、新しくなった村を見ていた。


防壁の上からは広大な農地が見える。


百万平方メートル。


一万面。


全面への作付けが終わっている。


村の中には新しい集合住宅。


講堂と教室。


大浴場。


公衆トイレ。


地下には下水路が走り、村の外には下水処理場もある。


アンジェラが言った。


「順調ね」


「ああ」


ガイルが答える。


ガイルたちは今日、何も作っていない。


農地を耕していない。


防壁も作っていない。


下水路も掘っていない。


住居も浴場も作っていない。


前の村から来た十人が教え、この村の千人が作った。


四日目。


この村はすでに、自分たちの手で変わり始めていた。





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