109 狩り 解体 調理
翌日。
千人の村人たちは、前の村から同行してきた十人とともに森へ入っていた。
ガイルたち二十七人は村に残っている。
ただし放置しているわけではない。
広域索敵は常時維持されている。
さらにリモートビューイングでも森の様子を監視していた。
何かあればすぐに動ける。
だが、基本的には手を出さない。
今日、狩りを教えるのはアンドリューたち十人だった。
森を進んでいた千人が一斉に反応した。
ウォーターサーチ。
索敵に反応がある。
ホーンラビット。
百体。
アンドリューがテレパシーを使った。
千人全員の頭の中へ声を届ける。
『いいか、忘れるな。索敵を切らすな。捕縛、拘束、窒息だぞ』
千人が散開する。
ホーンラビット百体がこちらへ気づいた。
だが、逃げるより先に魔法が放たれた。
ウォーターウィップ。
千本もの水の鞭が伸びる。
一体のホーンラビットへ何本もの水の鞭が絡みついた。
足。
胴。
首。
完全に動きを封じる。
続いて、
「ウォーターバインド!」
千本の拘束用の水が伸びた。
すでに捕縛されている百体を、さらに拘束する。
そして最後。
ウォーターマスク。
百個の水玉が生まれた。
ホーンラビットの顔面を覆う。
百体が暴れる。
だが、水の鞭と拘束は外れない。
千人は魔力循環を続けながら魔法を維持した。
五分後。
動くホーンラビットはいなくなった。
「まだ解除するな」
アンドリューが止める。
レイラが鑑定した。
一体。
十体。
百体。
死亡。
「大丈夫よ」
その言葉を聞いて、千人が魔法を解除した。
最初の狩りは成功だった。
ホーンラビットは一体三十キロほどある。
百体で三トン。
村人たちはすぐに氷魔法を使った。
氷の台車を二十台作る。
一台につき五体。
百五十キロ。
百人が台車を押し、先に村へ戻っていった。
残る九百人は、そのまま森に残る。
ウォーターサーチも切らしていない。
すぐに次の反応があった。
「来るぞ」
オーク。
三百体。
体長三メートル。
一体三百キロほどもある。
九百人の前方へ、三百体のオークが姿を現した。
アンドリューの声がテレパシーで届く。
『同じだ』
千人で倒したホーンラビットと手順は変わらない。
九百人が魔法を放つ。
ウォーターウィップ。
九百本の水の鞭が飛んだ。
一体のオークへ三本ずつ絡みつく。
三百体が一斉に捕縛された。
続いてウォーターバインド。
九百本の拘束用の水縄。
一体につき三本。
腕。
脚。
胴。
オークの巨体を締め上げる。
三百体が暴れた。
それでも拘束は外れない。
ウォーターマスク。
三百個の水玉がオークの顔面を覆った。
オークたちは必死に水を振り払おうとする。
村人たちは魔法を維持した。
レイラが声を上げた。
「凍れ!」
九百人が魔力を操作する。
水から氷へ。
ウォーターマスクがアイスマスクへ変化した。
三百体のオークの顔面が氷で覆われる。
それでも千人から教えられた手順は崩さない。
捕縛。
拘束。
窒息。
そして死亡確認。
五分後。
オークたちの動きが止まった。
「解除しないで!」
レイラが鑑定する。
三百体。
死亡。
「解除していいわ!」
魔法が消える。
森の中に三百体のオークが倒れていた。
昨日まで魔物を恐れていた村人たちが、自分たちの水属性だけで三百体を仕留めた。
だが、アンドリューは喜んでいる暇を与えなかった。
『索敵を切らすな』
九百人が再びウォーターサーチへ意識を向ける。
そしてすぐに、さらに大きな反応を捉えた。
オークより大きい。
数は三百。
森の奥から姿を現したのは、体長五メートルにもなるハイオークだった。
ハイオーク。
三百体。
一体五百キロほどもある巨体が森を進んでくる。
だが、九百人は逃げなかった。
先ほどオーク三百体を仕留めたばかりだ。
やることは変わらない。
アンドリューの声がテレパシーで届く。
『捕縛、拘束、窒息。索敵も切らすな』
九百人が同時に魔力を操作した。
ウォーターウィップ。
九百本の水の鞭が飛ぶ。
一体につき三本。
ハイオークの腕や脚、胴へ絡みついた。
三百体の動きが止まる。
「ウォーターバインド!」
続いて九百本の拘束用の水縄。
水の鞭で捕縛されたハイオークを、さらに強く拘束する。
ハイオークたちが暴れた。
巨体が地面を踏みしめる。
木々が揺れる。
それでも九百人が維持する拘束は外れない。
ウォーターマスク。
三百個の水玉がハイオークの顔面を覆った。
水を振り払おうと頭を振る。
腕を動かそうとする。
だが、身体は拘束されている。
「凍れ!」
レイラの声が響いた。
ウォーターマスクが凍結する。
アイスマスク。
三百体のハイオークの顔面が氷で覆われた。
九百人は魔法を維持する。
五分。
やがてハイオークの動きが止まった。
「そのまま!」
レイラが鑑定する。
三百体。
一体ずつ死亡を確認していく。
「全滅。解除していいわ」
九百人が魔法を解除した。
三百体の巨体が森に倒れている。
アンドリューは周囲を確認した。
ホーンラビット百体は先行した百人が村へ運んでいる。
残ったオークとハイオークだけでも二百四十トン。
これを台車で運ばせる必要はなかった。
アンとミキが前へ出た。
「収納するわ」
二人がオークとハイオークへ手を向ける。
次々と巨体が消えていった。
アイテムボックス。
その様子を九百人が見ていた。
収納する。
大量の物を持ち運ぶ。
その理解が教導を通して伝わる。
直後だった。
九百人の身体が一斉に光り始めた。
一つではない。
風。
土。
光。
闇。
火。
水属性しか持っていなかった九百人が、残る五属性へ次々と覚醒する。
さらに、
アイテムボックス。
九百人が新しい能力を発現させた。
「出た……」
一人の男が自分のアイテムボックスを確かめる。
周囲でも同じことが起きている。
アンドリューが笑った。
『ちょうどいい。これからは自分で運べるな』
だが、狩りはまだ終わっていなかった。
ウォーターサーチを続けていた九百人が、ほぼ同時に反応した。
先ほどより多い。
しかも大きい。
森の奥から地面を揺らす音が近づいてくる。
姿を現した。
オーガ。
五百体。
体長五メートル。
一体五百キロほど。
災害級と呼ばれる魔物の群れだった。
それでも九百人がやることは同じだった。
ウォーターバインド。
九百本の拘束用の水縄が飛ぶ。
五百体のオーガへ絡みついた。
一本では足りないところには、近くの者が追加する。
拘束されたオーガが暴れる。
森に咆哮が響いた。
だが、水の拘束は外れない。
ウォーターマスク。
五百個の水玉がオーガの顔面を覆った。
オーガがさらに激しく暴れる。
九百人は魔力循環と魔力操作を続けながら魔法を維持した。
レイラが言う。
「凍れ!」
水が氷へ変わった。
アイスマスク。
五百体の顔面が氷に閉ざされる。
五分後。
森が静かになった。
レイラが鑑定する。
死亡。
五百体。
全滅。
「解除していいわ」
拘束が消えた。
九百人の目の前には、災害級の魔物五百体が倒れている。
だが、歓声より先に光が生まれた。
九百人の身体だった。
鑑定。
教導。
二つのスキルが一斉に覚醒する。
レイラは目を瞬いた。
「早すぎない?」
自分自身を鑑定する。
表示された結果を見て納得した。
教導スキル。
レベル五。
一か月前には教わる側だったレイラが、今では九百人を一度に成長させる教師になっていた。
レイラは倒れたオーガを見る。
もう十分だった。
狩りの目的は達成している。
「村へ帰りましょう」
九百人が自分たちのアイテムボックスへオーガを収納していく。
全員で村へ帰還することになった。
九百人が村へ戻ると、先行していた百人と合流した。
二十台の氷の台車で運ばれたホーンラビット百体も広場に並んでいる。
森に残った九百人がアイテムボックスから魔物を取り出していった。
オーク、三百体。
ハイオーク、三百体。
オーガ、五百体。
ホーンラビットを合わせて千二百体。
大量の魔物が広場を埋める。
アンドリューが言った。
「解体するぞ」
千人が一斉に動いた。
昨日、千人全員がすでに解体スキルを習得している。
ウォーターカッターを使う。
皮を切る。
腹を開く。
内臓を取り出す。
肉を部位ごとに切り分ける。
骨。
皮。
爪。
牙。
魔石。
食べるものと素材を分けていった。
昨日はフォレストボアを使って、交代しながら覚えた。
今日は違う。
千人が同時に作業できるだけの魔物がある。
解体スキルを使いながら、ウォーターカッターを動かしていく。
魔物の種類が違っても基本は変わらない。
千人の作業速度は次第に上がっていった。
森に残っていた九百人は、すでに六属性とアイテムボックス、鑑定、教導を覚醒している。
先行して村へ戻った百人だけが、まだ水属性のみだった。
それでも解体作業には困らない。
百人も昨日から使っているウォーターカッターで、次々と魔物を解体していく。
九百人の教導も自然に百人へ届いていた。
風。
土。
光。
闇。
火。
アイテムボックス。
鑑定。
教導。
作業を続けながら、その理解が百人へ伝わっていく。
一時間後。
千二百体の解体が終了した。
ほぼ同時だった。
先行していた百人の身体が次々と光り始める。
風。
土。
光。
闇。
火。
残る五属性へ覚醒した。
さらにアイテムボックス。
鑑定。
教導。
百人も九百人へ追いついた。
これで千人全員が六属性を持つ。
全員がアイテムボックスを使える。
鑑定もできる。
教導もできる。
そして解体スキルと調理スキルは昨日の時点で習得済みだった。
広場には解体された大量の肉と素材がある。
これだけの量を、そのまま置いておくわけにはいかない。
アンドリューが言った。
「次は倉庫だ」
前の村で作ったものと同じだった。
普通倉庫。
冷蔵倉庫。
冷凍倉庫。
レイラが千人へテレパシーを使った。
言葉だけではなく、三種類の倉庫の完成した姿をイメージとして共有する。
普通倉庫には骨、皮、爪、牙、魔石。
冷蔵倉庫には、すぐに食べる肉。
冷凍倉庫には、すぐには食べない肉。
大きさ。
壁の厚さ。
内部の構造。
入口。
千人の頭の中に同じ完成形が浮かぶ。
「作りましょう」
土属性を覚えたばかりの千人が、一斉に魔力を動かした。
地面が隆起する。
土が集まる。
壁を作る。
柱を作る。
屋根を作る。
入口を開ける。
一人で建物を作るのではない。
千人が同じイメージを共有している。
担当する場所が違っても、完成形は同じだった。
普通倉庫が形になる。
続いて冷蔵倉庫。
冷凍倉庫。
冷蔵倉庫の内側には、物が凍らない程度に薄く氷の魔力を張る。
冷凍倉庫には、肉が凍った状態を維持できるように氷の魔力を張った。
一時間後。
三つの倉庫が完成した。
千人はすぐに解体した素材を運び込む。
骨。
皮。
爪。
牙。
魔石。
普通倉庫へ収納する。
すぐに食べる肉は冷蔵倉庫。
それ以外の肉は冷凍倉庫へ。
アイテムボックスを覚醒したばかりの千人が、それぞれ収納と取り出しを繰り返した。
昨日まで食料に困っていた村だった。
だが今は、自分たちで狩った大量の肉がある。
保存する倉庫も自分たちで作った。
アンドリューが千人を見渡す。
「次は飯だ」
解体したばかりの肉を使って、千人はそのまま調理へ取りかかった。
今日の食事に使う肉が運び出された。
ホーンラビット、三トン。
そしてオーク肉、五十トン。
残りの肉や素材は、完成したばかりの倉庫へ保管されている。
千人は前日から広場に置かれている寸胴鍋と石焼き台を使い、調理を始めた。
まずは覚醒したばかりの光属性を使う。
ピュリフィケーション。
解体した内臓や肉を浄化していく。
ホーンラビットの骨、内臓、肉を適当な大きさに切った。
巨大な寸胴鍋を十個使う。
切った骨、内臓、肉を入れる。
水を張る。
千人が交代しながら寸胴鍋へ魔力を注ぎ込んだ。
火は使わない。
魔力で煮込む。
十個の寸胴鍋から、やがて湯気が立ち上り始めた。
レイラが岩塩を精製する。
岩塩を加えて味を整えれば、ホーンラビットのスープが完成した。
その横ではオーク肉の調理が始まっている。
ホルモン。
レバー。
心臓。
ウォーターカッターで適当な大きさへ切る。
ピュリフィケーションで浄化する。
石焼き台へ乗せる。
肉の焼ける音が広場に響いた。
千人が次々と作業する。
切る。
浄化する。
焼く。
裏返す。
岩塩で味をつける。
皿へ盛る。
昨日習得した調理スキルも使っている。
ホーンラビットのスープ。
オークのホルモン焼き。
レバーステーキ。
心臓のステーキ。
大量の料理が完成した。
アンドリューが千人を見渡す。
「食え」
千人が一斉に食べ始めた。
今日は昨日までとは違う。
自分たちで森へ入った。
自分たちで魔物を探した。
自分たちで仕留めた。
解体した。
料理した。
そして今、自分たちで手に入れたものを食べている。
スープを飲む。
肉を食べる。
また肉を取る。
遠慮する者はいなかった。
食事が終わると、そのまま教導へ移った。
アンドリューたち十人が教えるのは、六属性の正しい理解だった。
水。
風。
土。
光。
火。
闇。
属性を持っているだけでは意味がない。
何ができるのか。
どう使うのか。
千人は魔力循環と魔力操作を続けながら教導を受ける。
水で捕縛する。
氷で建屋や器を作る。
風で飛ぶ。
風で捕縛し、拘束する。
土や石で建物を作る。
光で癒やし、浄化し、精製する。
火で燃やす。
闇と影で捕縛し、拘束する。
戦闘だけではない。
狩り。
治療。
建築。
生活。
探索。
六属性の使い方が千人へ教導されていった。
教導が進むにつれて、千人の身体が次々と光り始めた。
テレキネシス。
レビテーション。
テレパシー。
千人全員が三つの能力を覚醒した。
アンドリューはそのまま次へ進む。
「次は飛ぶぞ」
千人がレビテーションを使う。
身体が地面から浮いた。
まずは浮いた状態を維持する。
そこへ風属性を加える。
前へ進む。
止まる。
後ろへ下がる。
左右へ動く。
高度を上げる。
下げる。
千人は教導を受けながら何度も繰り返した。
レビテーションで浮揚し、風属性で移動を補助する。
やがて広場の上を千人が自由に動き始めた。
飛行魔法。
千人全員が習得した。
続いて索敵魔法の教導へ移る。
アンドリューが言った。
「ウォーターサーチはもう使えるな」
千人が頷く。
「そこへ他の属性を混ぜろ」
千人がウォーターサーチを使う。
水属性による索敵。
そこへ一つずつ属性を加えていった。
風。
土。
光。
闇。
火。
六属性を混ぜる。
水だけだった索敵へ、異なる属性の魔力が重なっていく。
千人の感覚が変わった。
捉えられるものが増える。
周囲へ意識を広げる。
村。
森。
地面。
空。
人。
魔物。
千人がそれぞれの位置を捉えていく。
索敵魔法。
千人全員が習得した。
広場へ降りたアンドリューは、千人を見渡した。
三日前。
この村では千人が飢えていた。
怪我人が二百人。
病人が三百人。
森へ狩りに行くこともできなかった。
今は違う。
自分たちで魔物を探せる。
狩れる。
解体できる。
料理できる。
食料を保管できる。
六属性を使える。
飛べる。
遠くの存在を探すこともできる。
そして教導も使える。
覚えた者が、別の者へ教えることができる。
三日目。
アンドリューたち十人による二つ目の村の救済は、順調に進んでいた。




