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戦わずに世界を変えた男――教育と物流で“循環国家”を作ったら、いつの間にか大陸が一つになっていた  作者: 慈架太子


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107 初めての食事

村を出発してから十分ほど。


救援隊は次の村へ到着した。


前の村から同行してきた十人も一緒だった。


十人をまとめる男はアンドリュー。


女性たちをまとめるのはレイラだった。


一か月前まで救済される側だった者たちが、今度は隣村を救済するために来ている。


着地すると、全員がすぐに索敵を開始した。


続いて鑑定。


村人、千人。


怪我人、二百人。


病人、三百人。


さらに状態を確認する。


栄養失調。


千人全員だった。


食料が足りていない。


顔色が悪く、身体に力が入らない者も多い。


アンドリューが言った。


「まず食わせよう」


レイラが頷く。


自分たちも同じだった。


救援隊が前の村へ来た日、最初にしてくれたことは食事だった。


アンドリューたち十人が土魔法を使う。


広場の地面が次々と形を変えた。


十人掛けのテーブル。


椅子。


百基。


千人が一度に食事できる場所を作る。


続いて巨大な寸胴鍋。


百個。


その横には石焼き台を百基設置した。


アイテムボックスから食材を取り出す。


麦。


芋。


寸胴鍋へ水を張り、麦と芋を入れていく。


百個の鍋へ魔力を注ぐ。


ゆっくりと煮込む。


粥だった。


レイラは鍋を確認しながら火力を調整していく。


その横では石板を熱し、レバーを焼き始めた。


肉の焼ける音と匂いが広場へ広がる。


座り込んでいた村人たちが顔を上げた。


レイラは土へ魔力を流した。


岩塩を精製する。


必要な量を作り、粥と肉の味付けに使っていく。


同行してきた女性たちも動いていた。


アン。


ミキ。


マリー。


三人が魔法を使い、食器を作る。


スープ皿。


肉皿。


コップ。


カトラリー。


千人分。


料理の準備が進む一方で、治療も始まっていた。


フェリクス班。


ロイド班。


ブラッド班。


レオン班。


そして同行してきた残る七人。


怪我人と病人のところへ向かう。


まず二百人の怪我人。


鑑定で状態を確認する。


ヒールバレット。


ピュリフィケーションバレット。


治療の魔法が次々と放たれた。


一人ずつ治療する必要はない。


大量のヒールバレットとピュリフィケーションバレットをばらまいていく。


傷が塞がる。


腫れが引く。


身体を起こす者が増えていった。


再び鑑定する。


怪我人、二百人。


全員完治。


次は三百人の病人だった。


同行してきたジミーがアイテムボックスからポーションを取り出した。


体力回復ポーション。


解毒ポーション。


免疫力増加ポーション。


病人の状態を鑑定しながら、次々と飲ませていく。


治療を担当する者たちも手伝った。


三百人へポーションが行き渡る。


再び鑑定。


完治には至っていない。


だが、状態はかなり良くなっていた。


顔色が戻る。


身体を起こす。


自分で立てるようになった者もいる。


「もう一度だ」


フェリクスが言った。


ヒールバレット。


ピュリフィケーションバレット。


大量の魔法を三百人の病人へばらまく。


一発。


二発。


そんな数ではない。


次々と放つ。


癒やす。


浄化する。


再び癒やす。


しばらくして鑑定が行われた。


病人、三百人。


全員完治。


これで怪我人はいない。


病人もいない。


残っているのは、千人全員の飢えと栄養失調だった。


だが、それを解決する準備も進んでいる。


百個の巨大な寸胴鍋から湯気が立ち上っていた。


麦と芋を入れた粥が煮えている。


百基の石焼き台ではレバーが焼かれている。


アンドリューはその光景を見た。


一か月前。


自分も食事が出てくるのを待っていた。


今は、自分たちが食事を作っている。


救済される側ではない。


隣村の千人を救済するために、ここへ来た。


ガイルが千人の村人たちを見渡した。


「席につけ」


村人たちが百基のテーブルへ向かい始めた。


千人分の席が埋まっていく。


料理もできている。


治療も終わった。


ガイルは席についた千人を確認した。


そして、こともなげに言った。


「食え」


千人の初めての食事が始まった。




「食え」


ガイルがそう言うと、千人の村人たちは目の前の料理を見た。


麦と芋を煮込んだ粥。


焼きたてのレバー。


最初は戸惑っていた。


本当に食べてもいいのか。


そんな表情を浮かべる者もいる。


だが、一人が粥を口へ運ぶと、周囲も続いた。


温かい粥が身体へ入る。


二口。


三口。


食べる速度が少しずつ上がっていった。


「まだあるぞ」


アンドリューが寸胴鍋から粥をよそう。


レイラも別の鍋を担当していた。


空いた皿があれば、また入れる。


食べ終われば次をよそう。


百個の寸胴鍋から、粥が次々と消えていった。


石焼き台ではレバーを焼き続けている。


栄養失調だった千人に食事が行き渡ったところで、今度は肉を増やした。


レバーステーキ。


そしてロースステーキ。


アイテムボックスから肉を取り出す。


ピュリフィケーションで浄化する。


適当な大きさに切る。


熱した石板へ乗せる。


ジュウッと音が響いた。


百基の石焼き台が動き続ける。


焼けたものから肉皿へ乗せていく。


「こっち焼けたぞ」


「持っていく」


アンが肉皿を運ぶ。


ミキとマリーも続いた。


同行してきた十人だけではない。


治療を終えた救援隊も調理と配膳へ加わった。


食べる。


焼く。


運ぶ。


また食べる。


大量の肉が消えていった。


最初はゆっくり粥を食べていた村人たちも、身体が温まり、食欲が戻ってくると肉へ手を伸ばした。


レバー。


ロース。


また粥。


食事は止まらなかった。


十トン。


二十トン。


さらに肉が取り出される。


四十トン。


千人の村人たちの胃袋へ、大量の肉が消えていった。


誰も止めなかった。


一か月前、アンドリューたちも腹いっぱい食べた。


まず食う。


話はそれからだった。


やがて食事の勢いが落ち着いた。


皿を置く者が増える。


椅子の背にもたれ、腹をさする者もいた。


子どもを抱きながら食べていた女性が、残った粥をゆっくり口へ運んでいる。


食事前とは顔が違っていた。


病人はいない。


怪我人もいない。


そして今は、空腹でもない。


アンドリューは千人を見渡した。


「話を聞いてくれ」


村人たちの視線が集まった。


アンドリューの隣にはレイラが立つ。


救援隊の者たちは前へ出なかった。


ここから話すのは、この二人だった。


アンドリューが口を開いた。


「俺たちは隣村の者だ」


ざわめきが起きた。


王国から来た人間ではない。


帝都から派遣された役人でもない。


同じ帝国で暮らす、隣の村の住民だった。


「一か月前まで、俺たちの村もお前たちと同じだった」


アンドリューは続ける。


「食うものがなかった。病人もいた。怪我人もいた。農地も荒らされていた」


レイラが言葉を引き継いだ。


「私たちも、この人たちに助けてもらったの」


彼女はガイルたちを見る。


「でも、食べ物をもらっただけじゃない。自分たちで生きていく方法を教えてもらった」


狩りができる。


農業ができる。


治療もできる。


家も工房も自分たちで作れる。


食べ物を保存することもできる。


衣服も作れる。


今では酒や調味料まで自分たちで作っている。


アンドリューが言った。


「だから、今度は俺たちが来た」


千人が静かになる。


「俺たちは隣村の者だ。この村を救済しに来た」


その言葉を聞いても、ガイルは何も言わなかった。


これでいい。


救援隊が帝国中を回り続けるだけではない。


助けられた者が、次の者を助ける。


その流れを作る。


アンドリューとレイラは、すぐに教導を始めた。


最初に教えるのは一つだけ。


魔力循環。


そして魔力操作。


千人の村人たちは席に座ったまま、自分の身体の中にある魔力を意識する。


「止めるな」


アンドリューが言う。


「身体の中で回し続けろ」


レイラも千人を見ながら教導する。


「魔力を感じたら、自分で動かして。急がなくていいから、何度も繰り返して」


救援隊は見守った。


教えているのは、前の村の住民だった。


一時間後。


千人全員が魔力循環と魔力操作を習得していた。


隣村から隣村へ。


救済と教導が、初めて村人たち自身の手で渡された。




千人全員が魔力循環と魔力操作を習得した。


アンドリューはすぐに次へ進まなかった。


千人を見渡してから言う。


「今覚えた二つは、これからずっと続けろ」


村人たちが顔を上げる。


「起きている時も、飯を食っている時も、寝ている時もだ。魔力を身体の中で循環させろ。魔力を自分で動かし続けろ」


それは一か月前、アンドリュー自身が教えられたことだった。


「呼吸と同じにするんだ」


レイラも続けた。


「今だけやって終わりじゃないわ。毎日続けて」


千人が頷く。


ガイルたちは少し離れた場所から、その様子を見ていた。


口を挟む必要はなかった。


教導している内容も間違っていない。


何より、アンドリューとレイラは自分たちが経験した順番を覚えている。


まず食わせる。


怪我人と病人を治す。


腹が満たされ、身体が動くようになってから教える。


いきなり狩りへ連れていくこともしない。


大量の知識を一度に詰め込むこともしない。


今日必要なところから始めていた。


その後、アンドリューたちは村人たちの生活状況を確認した。


十人全員が索敵と鑑定を使う。


食料。


住居。


水。


農地。


倉庫。


使える道具。


村の周囲。


千人を今日一日食わせれば終わりではない。


明日も食事が必要になる。


明後日も必要になる。


レイラが村人の一人に尋ねた。


「農地はある?」


「あ、あります。でも……」


男は村の外を指した。


「魔物に荒らされてから、ほとんど使ってません」


アンドリューとレイラが顔を見合わせる。


自分たちの村と同じだった。


「狩りは?」


「無理です」


別の男が答えた。


「森には魔物がいます。武器を持って行っても……」


「分かった」


アンドリューはそれ以上聞かなかった。


今できないなら、できるようにすればいい。


一か月前の自分たちもそうだった。


その間にも、千人の身体の中では魔力循環が続いている。


食事を片づける者。


家族と話す者。


自分の家へ戻ろうとする者。


何をしていても循環を止めない。


魔力操作も続ける。


レイラが一人の女性へ声をかけた。


「止まってるわよ」


「あっ」


女性は慌てて魔力を動かす。


「最初は忘れるの。だから思い出したらすぐ再開すればいいわ」


「はい」


レイラは笑った。


自分も最初は同じだった。


教える側になったからといって、特別な人間になったわけではない。


ほんの一か月早く教わっただけだった。


夕方。


千人は再び広場へ集まった。


救援隊が食事を用意する。


今度は千人の中から、身体を動かせる者たちも手伝い始めた。


寸胴鍋へ水を張る。


食材を運ぶ。


皿を並べる。


できることはまだ少ない。


それでも、自分たちの食事をただ待っているだけではなかった。


アンドリューはその様子を見ながら、レイラへ言った。


「明日からだな」


「ええ」


明日から水属性の教導を始める。


水を出す。


ウォーターバレット。


ウォーターウィップ。


ウォーターバインド。


ウォーターマスク。


ウォーターカッター。


ウォーターサーチ。


身体強化。


筋肉強化。


ウォーターヒール。


そこまで覚えれば、できることは一気に増える。


だが、今日はやらない。


今日は食わせた。


治した。


そして魔力循環と魔力操作を覚えた。


それで十分だった。


ガイルがアンドリューの横へ来た。


「どうだ?」


アンドリューは少し考えてから答えた。


「俺たちの村と同じです」


「そうか」


「なら、やることも同じです」


ガイルはそれだけ聞くと離れた。


答えを教える必要はなかった。


夜。


千人の村人たちは久しぶりに空腹ではない状態で眠りについた。


身体の中では魔力が循環している。


その流れを意識しながら眠る。


救援隊が新しい村へ来た最初の日。


千人は腹を満たし、怪我と病を治し、そして自分たちの身体の中にある力を動かすことを覚えた。


救済の二つ目の流れが、静かに動き始めていた。




翌朝。


広場には千人の村人たちが集まっていた。


昨日とは顔色が違う。


怪我人はいない。


病人もいない。


腹を満たして眠ることもできた。


そして千人全員が、今も魔力循環と魔力操作を続けている。


アンドリューとレイラは、その様子を確認していた。


「続けられてるな」


「ええ」


昨日教えたことが、一晩で途切れてはいない。


二人にとって、それだけでも十分だった。


そこへガイルが来た。


「今日はどうする?」


アンドリューは答えた。


「水属性を教えます」


ガイルは頷く。


「やってみろ」


それだけだった。


教導の内容を確認することもない。


アンドリューたち十人は、一か月かけて六属性の正しい理解を教わっている。


教導も全員が使える。


千人の前に立ったアンドリューが声を上げた。


「今日は水属性を覚えてもらう」


千人が聞いている。


「昨日と同じだ。魔力循環と魔力操作は止めるな。そのまま俺たちの教導を受けろ」


十人が千人へ教導を始めた。


水。


液体としての水だけではない。


形を変える。


動かす。


飛ばす。


切る。


捕らえる。


身体の中でも使う。


探すためにも使える。


アンドリューたちは、自分たちが教えられた水属性の正しい理解を、そのまま千人へ伝えていった。


しばらくすると、一人の身体が光った。


続いて二人。


十人。


光は次々と広がる。


「出た……」


一人の男が、自分の掌に浮かんだ水を見つめた。


「止めるな。魔力循環を続けろ」


アンドリューが声をかける。


覚醒した者も教導を受け続ける。


まだ覚醒していない者も焦らない。


レイラたちが千人の間を歩きながら教えていった。


時間が経つにつれて、光る者が増えていく。


一割。


三割。


五割。


やがて広場のあちこちで水が生まれるようになった。


救援隊は手を出さなかった。


ガイルも見ているだけだった。


教えているのはアンドリューたち十人。


昨日まで救済されていた村の住民である。


レイラが水属性へ覚醒した女性の前で立ち止まった。


「水を出してみて」


女性が掌を前へ向ける。


水が生まれた。


「次は動かして」


水が揺れる。


形を変える。


まだ不安定だった。


「それでいいわ。繰り返して」


別の場所ではアンドリューがウォーターバレットを見せる。


水を圧縮する。


前へ飛ばす。


「まず形を作れ。威力は後でいい」


千人が練習を始めた。


覚醒した者から試す。


失敗する。


もう一度やる。


魔力操作を続ける。


やがてウォーターバレットが次々と放たれるようになった。


ウォーターウィップ。


水を鞭のように伸ばす。


ウォーターバインド。


水で対象を拘束する。


ウォーターマスク。


対象の頭部を水で覆う。


「これは狩りで使う」


アンドリューが説明する。


「捕縛して、拘束して、仕留める。だが今は人に使うな」


続いてウォーターカッター。


水を刃として扱う。


解体にも使える。


木や植物を切ることもできる。


さらにウォーターサーチ。


水属性を使った索敵。


周囲の存在を探る。


身体強化。


筋肉強化。


そしてウォーターヒール。


水属性を身体の中へ作用させ、傷を癒やす。


十人は次々と教導していった。


千人の身体が光り続ける。


そして四時間後。


最後の一人の身体が光った。


水属性。


千人全員が覚醒した。


広場には千人の水属性魔法使いが立っていた。


アンドリューはその光景を見て、一瞬だけ黙った。


一か月前。


自分も教わる側にいた。


ガイルから水属性の正しい理解を教えられた。


今は、自分たちが千人へ同じものを渡した。


レイラが隣へ来る。


「できたわね」


「ああ」


アンドリューは千人を見渡した。


だが、これで終わりではない。


まだ狩りを知らない。


解体もできない。


農地も荒れている。


住居も直す必要がある。


倉庫も必要になる。


教えることはいくらでも残っている。


それでも最初の一歩は踏み出した。


千人はもう、昨日までの千人ではなかった。


食わせてもらうだけではない。


自分たちで生きるための力を、一つ手に入れた。


そして、その力を教えたのは王国から来た救援隊ではない。


ほんの一か月前まで、同じように飢えていた隣村の十人だった。





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