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戦わずに世界を変えた男――教育と物流で“循環国家”を作ったら、いつの間にか大陸が一つになっていた  作者: 慈架太子


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104 工房

翌朝。


村の広場では、朝食の準備が始まっていた。


料理をしているのは救援隊ではない。


村人たちだった。


五百人が交代で調理を担当する。


狩ってきたホーンラビットを使ったスープ。


フォレストウルフのホルモン焼き。


フォレストウルフの焼肉。


ウォーターカッターで肉を切り分ける。


ピュリフィケーションで食材を浄化する。


火属性で火力を調整する。


最初は教官たちに確認しながら料理していた村人たちも、今では自分たちで作業を進めていた。


「そっち、焼けてるぞ」


「分かった」


「スープもそろそろいい」


五人一班で動くことにも慣れている。


調理を担当する者。


料理を運ぶ者。


食器を用意する者。


食べ終わったものを片づける者。


必要なところへ自然に人が動くようになっていた。


毎日繰り返すことで、村人たちの練度は確実に上がっている。


変化は、それだけではなかった。


ある二十班、百人の身体が光った。


アイテムボックス。


狩った魔物。


食材。


道具。


必要な物を収納して運べる力だった。


別の二十班、百人も新しい力へ覚醒した。


鑑定。


物や人の状態を確認する力。


さらに別の二十班、百人。


教導。


自分が理解したことを、他者へ教える力。


残る四十班、二百人にも変化が起きた。


テレキネシス。


そしてテレパシー。


物に触れずに動かす。


離れた相手へ意思を伝える。


百班五百人の中へ、異なる力が広がった。


ガイルはその様子を見ていた。


全員が同じ力を持つ必要はない。


必要な力を持った者がいる。


そして教導を覚醒した百人がいる。


覚えた者が、まだ覚えていない者へ教えていけばいい。


ガイルが呟いた。


「これでいい。自立の芽は育った」


翌日。


ガイルたちは再び森へ向かった。


同行するのは、テレキネシスを発現させた四十班二百人と、アイテムボックスを発現させた二十班百人。


目的は狩りではない。


材木の調達だった。


全員がレビテーションと風属性を使って飛行する。


村を離れ、森へ入る。


ガイルが周囲を確認した。


「今日は木を持って帰る」


村人たちが作業を開始した。


木を切り倒す。


倒れた木はテレキネシスで支えながら、安全な方向へ下ろしていく。


枝を払う。


幹を適当な長さへ切り分ける。


さらに用途に合わせてスライスする。


一本の木が、次々と材木へ変わっていった。


二百人のテレキネシスが作業を支える。


重い幹も直接持ち上げる必要はない。


空中で保持する。


向きを変える。


必要な位置へ移動させる。


加工された材木は、アイテムボックスを持つ百人が次々と収納していった。


一本。


十本。


さらに次へ。


材木を積み上げる必要もない。


荷車もいらない。


加工が終わったものから、その場で収納する。


十分な量を確保すると、ガイルが声をかけた。


「戻るぞ」


三百人が森から飛び上がった。


レビテーションで浮揚し、風属性で飛行する。


大量の材木はアイテムボックスの中。


村へ戻るまで、運搬に人手を取られることもなかった。


村へ到着すると、材木が次々と取り出された。


まだ生木である。


そのまま加工するのではなく、魔法を使って乾燥させていく。


水分が抜け、材木として扱える状態へ変わった。


アンジェラが一本を手に取った。


「これなら使えるわね」


材木を加工する。


部品を作る。


組み合わせる。


形になったのは糸紡ぎ機だった。


一台。


二台。


同じものを次々と作る。


四十台。


続いてアンジェラは別の機械を作り始めた。


糸を布へ変えるための機織り機。


こちらも四十台。


村人たちは、その作業を見つめていた。


農地にはすでに綿花が植えられている。


綿花が育てば、糸にする。


糸を紡げば、布にできる。


布があれば、生活に必要なものを自分たちで作れる。


食料の次は衣服。


そのための準備が、村の中で始まっていた。




糸紡ぎ機と機織り機が完成すると、今度はそれを使う場所が必要になる。


フェリクス、クリス、キーガン、アルバート、コリンの第二班と、随行する二十班百人が動いた。


担当するのは紡織工房。


「ここに作るぞ」


フェリクスが場所を決めると、百五人が土属性を使った。


地面を整える。


基礎を作る。


壁を立てる。


屋根を作る。


中には四十台の糸紡ぎ機と、四十台の機織り機を置けるだけの空間を確保する。


昨日、村人たちは集合住宅や防壁、下水処理施設、公衆浴場を作ったばかりだった。


土木スキルと建築スキルも覚醒している。


作業は昨日より速い。


村人同士で声を掛け合いながら、次々と建物を形にしていった。


紡織工房が完成すると、アンジェラが作った八十台の機械が運び込まれた。


糸紡ぎ機、四十台。


機織り機、四十台。


一方、ロイド、ブランドン、アンソニー、キャム、ヤラミルの第三班と、随行する二十班百人も作業を始めていた。


こちらは木工工房。


材木を保管する場所。


加工する場所。


作ったものを置く場所。


必要な空間を確保しながら、百五人で建屋を作っていく。


村には住居ができた。


机も椅子も土や石から作れる。


だが、木を加工できれば選択肢はさらに増える。


今日、森から大量の材木も持ち帰っている。


その材木を自分たちで加工するための場所が、木工工房だった。


さらに第五班。


レオン、ガレス、ミリア、エリック、アダムスと、随行する二十班百人は薬房を作った。


土と石を使って建屋を形成する。


作業台。


棚。


薬を作るための場所を整えていった。


建屋が完成すると、レオンたちは魔物から取っておいた脂を運び込んだ。


倉庫に保管していた素材である。


「これを使うぞ」


脂を浄化する。


木灰を用意する。


材料を混ぜ、加熱しながら加工していく。


村人たちはレオンたちの作業を見ながら、自分でも同じ工程を繰り返した。


魔物は肉を食べるだけではない。


皮。


骨。


爪。


牙。


魔石。


そして脂。


使えるものは使う。


脂は石鹸へ変わっていった。


型へ流し込み、固める。


次々と石鹸が作られていく。


公衆浴場はすでにある。


水属性で水も出せる。


ピュリフィケーションも使える。


そこへ石鹸まで加わる。


三つの建物が村に並んだ。


紡織工房。


木工工房。


薬房。


建物が完成したところで、アンジェラは紡織工房へ向かった。


持ってきた綿花を取り出す。


農地へ植えた綿花が育つまで待つ必要はない。


今は持参した綿花を教材にできる。


アンジェラは糸紡ぎ機の前へ座った。


「見てて」


綿花を扱い、糸紡ぎ機を動かす。


繊維が引き出される。


撚られる。


一本の糸になっていく。


ガイル、ライアン、アレックス、シェーン、カイルと随行する二十班百人。


さらにブラッド、キャメロン、ザック、トレバー、ケードと随行する二十班百人も、アンジェラの周囲へ集まった。


合計二百人。


「難しく考えなくていいわ。まず同じようにやって」


四十台の糸紡ぎ機が動き始めた。


一度に作業できるのは四十人。


残りは後ろから見る。


一区切りつけば交代する。


最初の四十人が糸を紡ぐ。


次の四十人へ交代する。


さらに次。


失敗すればアンジェラが教える。


「そこは急がないで」


「はい」


「そう。そのまま続けて」


糸が次々と作られていった。


二百人が交代しながら糸紡ぎ機を使う。


見ているだけでは終わらない。


自分の手で動かす。


自分で糸を作る。


やがて工房の中には、紡がれた糸が大量に並び始めた。


アンジェラはそれを確認すると、今度は四十台の機織り機へ向かった。


「次は、この糸を布にするわよ」


村人たちも移動する。


糸を作った。


次は布。


紡織工房の四十台の機織り機が、一斉に動き始めた。




四十台の機織り機が動き始めた。


アンジェラは一台の前に立ち、自分で紡いだ糸を機織り機へ取り付ける。


「糸を紡いだだけでは服にはならないわ。次は布にするの」


村人たちはアンジェラの手元を見つめた。


機織り機を動かす。


縦糸の間へ横糸を通す。


打ち込む。


再び横糸を通す。


同じ作業を繰り返すたび、少しずつ布が形になっていった。


「やってみて」


四十人が機織り機の前へ座る。


残る者たちは、その後ろから作業を見る。


最初は動きがぎこちない。


糸を扱うこと自体、今日初めて経験した者もいる。


アンジェラは四十台の間を歩いた。


「そこは強く引きすぎないで」


一人の手を止める。


「このくらい?」


「そう。それで続けて」


次の機織り機へ移る。


「こっちはもう少し揃えて」


「分かった」


アンジェラは自分で作業を代わるのではなく、間違っているところだけを直していった。


しばらくすると、最初の四十人が布を織れるようになった。


交代する。


次の四十人。


さらに交代。


糸紡ぎと同じだった。


四十台しかなくても、順番に使えばいい。


作業していない者は、前の者がどう動かしているのかを見る。


自分の番になれば実際に動かす。


一度経験した者は、次の者へ教える。


「ここに糸を通す」


「これでいい?」


「そう。次はこっちだ」


アンジェラだけが教えているのではない。


覚えた村人が、後から作業する村人へ教え始めていた。


四十台の機織り機から、次々と布が生まれていく。


糸だったものが布になる。


村人たちは出来上がった布を手に取った。


自分たちで紡いだ糸。


自分たちで織った布だった。


だが、アンジェラはそこで終わらせない。


「布ができたら、使えるものにするわよ」


出来上がった布を広げる。


必要な大きさに切る。


縫い合わせる。


最初に作るのは下着だった。


毎日使う。


誰にでも必要になる。


村人たちはアンジェラの作業を見た後、自分たちでも布を仕立て始めた。


一枚。


二枚。


次々と下着が出来上がっていく。


別の者たちは布を一定の大きさに切り、端を処理していった。


タオル。


こちらも生活には欠かせない。


昨日完成した公衆浴場でも使える。


下着。


タオル。


工房の中に完成品が増えていった。


最初はアンジェラの手本を見ていた二百人も、次第に自分たちだけで作業を回し始める。


綿花から糸を紡ぐ。


糸から布を織る。


布から下着を作る。


タオルを作る。


一つの工程が次の工程へ繋がっていた。


その時だった。


作業を続けていた二百人の身体が、次々と光り始めた。


「光った……」


一人が手を止める。


その隣でも光が生まれる。


ガイル班に随行する百人。


ブラッド班に随行する百人。


合計二百人。


全員に新しい感覚が生まれていた。


紡織スキル。


糸を紡ぐ。


布を織る。


布を仕立てる。


繰り返した作業が、一つの技術として身についていた。


アンジェラは二百人を見渡した。


「覚えたわね」


村人たちが頷く。


「なら、次からは私がいなくてもできるわ」


四十台の糸紡ぎ機。


四十台の機織り機。


そして二百人の紡織スキル持ち。


農地には綿花も植えられている。


育った綿花を収穫すれば、自分たちで糸にできる。


糸から布を作れる。


布から必要なものを仕立てられる。


ガイルは工房の中を見渡した。


食料だけではない。


衣服も、自分たちで作る流れが生まれ始めていた。


そして村では同時に、木工工房と薬房でも教導が続いていた。




木工工房では、ロイド、ブランドン、アンソニー、キャム、ヤラミルと、随行する二十班百人が作業を続けていた。


森から持ち帰り、魔法で乾燥させた材木が並んでいる。


ロイドが一本を手に取った。


「まず使える形にするぞ」


村人たちは材木を切る。


削る。


寸法を揃える。


必要な形へ加工していく。


テレキネシスを使える者は、重い材木を空中で保持した。


向きを変える。


高さを合わせる。


固定した状態で加工する。


力任せに押さえつける必要はない。


加工した材木を組み合わせる。


板。


棚。


箱。


机。


椅子。


生活の中で使えるものが次々と作られていった。


失敗した者にはロイドたちが教える。


一度理解した村人も、同じ班の仲間へ教え始める。


百人が交代しながら材木を扱った。


やがて、その百人の身体が光り始める。


木工スキル。


二十班百人が、新たな技術へ覚醒した。


「これで俺たちがいなくても作れるな」


ロイドが言うと、村人たちは自分たちで作った家具を見た。


森には木がある。


木を切れる。


材木に加工できる。


乾燥させられる。


そして木工工房がある。


必要なものがあれば、これからは自分たちで作ればいい。


薬房でも同じことが起きていた。


レオン、ガレス、ミリア、エリック、アダムスと、随行する二十班百人。


魔物から取った脂を使い、石鹸を作り続けている。


脂を浄化する。


材料を調整する。


混ぜる。


加熱する。


型へ流す。


固まったものを取り出して切り分ける。


一つ。


十個。


百個。


石鹸が次々と出来上がった。


村人たちの手つきも、繰り返すたびに良くなっていく。


そのうち教官へ聞く回数も減った。


「これでいいか?」


「さっきと同じだ。そのままやれ」


覚えた者が隣の者へ教える。


作業そのものが教導になっていた。


そして百人の身体が光った。


薬師スキル。


レオン班に随行した百人全員が覚醒した。


薬房があるだけでは意味がない。


そこで作れる者がいる。


その技術を教えられる者もいる。


村で必要なものを、自分たちの手で生産する流れができていく。


夕方。


各工房での作業が一段落した。


紡織工房では二百人が紡織スキル。


木工工房では百人が木工スキル。


薬房では百人が薬師スキル。


そして、その前にはすでに百人が教導を覚醒している。


ガイルは工房から出てくる村人たちを眺めた。


「後は教え合っていけばいい」


自分がすべてを教える必要はない。


アンジェラがずっと糸を紡ぐ必要もない。


ロイドたちが家具を作り続ける必要もない。


レオンたちが石鹸を作り続ける必要もない。


教わった村人が作る。


覚えた者が、まだ覚えていない者へ教える。


教わった者が、また次の者へ教える。


それを繰り返せばいい。


食事の時間になると、村人たちは自分たちで料理を始めた。


ホーンラビットのスープ。


フォレストウルフのホルモン焼き。


フォレストウルフの焼肉。


もう救援隊が作る必要はなかった。


村人たちは交代で調理し、料理を並べていく。


五百人が食事を囲んだ。


食べ終われば片づける。


そして一日の作業を終えた者たちは、公衆浴場へ向かった。


水属性で水を満たす。


火属性で湯を沸かす。


薬房で自分たちが作った石鹸もある。


湯気の立つ浴槽へ、村人たちが次々と身体を沈めた。


「はあ……」


あちこちから声が漏れる。


朝から働いた身体を湯に浸す。


石鹸で身体を洗う。


紡織工房で作ったタオルも使われていた。


数日前まで、この村には十分な食料すらなかった。


今は自分たちで狩る。


料理する。


農地を耕す。


食料を保存する。


住居を作る。


衣服を作る。


家具を作る。


石鹸を作る。


そして一日の仕事が終われば、自分たちで作った浴場で湯に浸かる。


救援隊が与え続けているのではない。


村人たち自身が作り、使い、次の者へ教え始めている。


自立の芽は、すでに村の中で育ち始めていた。





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