103 農業
翌朝。
アンジェラは、ガイル班に随行している二十班、百人の村人たちへ尋ねた。
「この村の農地はどこ?」
村人たちの中から、一人の女性が前へ出た。
二十五歳くらいの女性だった。
「あちらです。案内します」
「名前は?」
「ライラです」
ライラの案内で、ガイル、ライアン、アレックス、シェーン、カイル、アンジェラの六人と、二十班百人が村の外へ移動した。
しばらく歩くと、広大な土地が見えてきた。
縦千メートル。
横千メートル。
百万平方メートル。
かつては農地として使われていた場所だった。
だが、今は見る影もない。
魔物に荒らされ、雑草が一面を覆っている。
作物は何も植えられていなかった。
アンジェラは農地だった土地を見渡した。
「広いわね」
百万平方メートルもある。
だが、一枚の巨大な農地として使うには不便だった。
「使い勝手が悪いわ。ここを耕しましょう。見てて」
アンジェラが土属性の魔力を地面へ流した。
土が大きく動く。
表層と下層の土を入れ替え、固くなった地面を崩していく。
天地返しだった。
同時に十メートル四方で区切る。
十メートル。
十メートル。
一面百平方メートルの畑。
それを縦に百面。
横に百面。
合計一万面。
アンジェラは次々と土を動かしていった。
「同じようにやって」
二十班百人も土魔法を使う。
一人で百万平方メートルを耕す必要はない。
百六人で一気に進める。
土を掘り返す。
上下を入れ替える。
固まった土を崩す。
十メートル四方に区切る。
百人が同時に土魔法を使うことで、雑草に覆われていた土地が猛烈な勢いで姿を変えていった。
ガイルたちも作業を続ける。
縦百面。
横百面。
一万面。
百万平方メートルの土地すべてが、十メートル四方に区切られた農地へ作り直された。
アンジェラは休まず次を指示した。
「今度は散水するわよ」
百六人が一万面の畑へ向いた。
ヒールバレット。
ピュリフィケーションバレット。
魔法が次々と放たれる。
一発ではない。
百六人が一万面へ向けて大量にばらまいていく。
乾いていた土へ水が降り注ぐ。
同時に浄化も進んでいった。
一万面すべてへの散水が完了すると、アンジェラは持ってきた種芋と玉ねぎの球根を取り出した。
「次は作付けよ」
アンジェラが二十面を担当する。
種芋。
玉ねぎの球根。
次々と畑へ植えていった。
ライアンも二十面へ向かう。
植えるのは大豆。
アレックスは別の二十面で小麦を植える。
シェーンとカイルも動いた。
二十面には綿花。
さらに二十面には砂糖黍の苗木。
百人の村人たちも加わり、一気に作付けを進めていった。
昨日まで、この村の者たちは狩りを知らなかった。
魔物を解体することも、得た肉を保存することもできなかった。
今日は農地を作っている。
自分たちが覚えた土属性を使い、百万平方メートルの土地を耕した。
作付けが終わると、アンジェラが再び声を上げた。
「もう一度、全部に散水するわよ」
百六人が一万面へ向く。
ヒールバレット。
ピュリフィケーションバレット。
大量の魔法が再び農地へばらまかれた。
水が一万面の畑へ降り注いでいく。
作業が完了すると、アンジェラはライラを呼んだ。
「ライラ」
「はい」
アンジェラは一万面に区切られた農地を示した。
「毎日これを繰り返して」
ライラは頷いた。
「分かりました」
その直後だった。
農地で作業していた百人の村人たちの身体が、次々と光り始めた。
ライラも自分の身体を見る。
新しい感覚が生まれていた。
農業スキル。
二十班百人。
全員が農業スキルへ覚醒した。
アンジェラはそれを確認すると、一万面の農地へ視線を戻した。
魔物に荒らされ、雑草しか生えていなかった百万平方メートルの土地。
そこには今、村人たち自身の手で作り直された一万面の農地が広がっていた。
農地で作業が進められていた頃。
フェリクス、クリス、キーガン、アルバート、コリンの第二班と、随行する二十班百人は村の外周へ向かっていた。
彼らが担当するのは防壁だった。
これまで村を守っていた防壁は、魔物によって荒らされている。
フェリクスは周囲を確認すると、百人へ声をかけた。
「作り直すぞ」
五人と百人。
合計百五人が土属性を使った。
地面が大きく動き始める。
土を持ち上げる。
固める。
積み重ねる。
作るのは高さ十メートル、幅五メートルの防壁だった。
百五人が村を囲むように分かれ、一斉に作業を進めていく。
昨日までに教えられた土属性の建屋、壁、板。
その応用だった。
巨大な壁が少しずつ村の周囲を囲んでいく。
同時に防壁の外側では地面を掘り下げた。
堀。
掘り出した土も無駄にはしない。
そのまま防壁を作るために使っていく。
村を囲む壁と堀が、同時に形になっていった。
防壁が一周すると、次は四方に櫓を作る。
土を持ち上げ、壁よりも高い位置から周囲を見渡せる場所を設ける。
それぞれの櫓には階段も取り付けた。
村人が地上から上がれるようにする。
クリスが完成した櫓へ上った。
高い位置から村の外を見渡す。
「これなら周囲を確認できるな」
「まだ堀が残ってる」
フェリクスが答えた。
百五人が水属性へ切り替える。
水を生み出し、掘ったばかりの堀へ流し込んでいった。
大量の水が堀を満たしていく。
やがて村の周囲には、高さ十メートル、幅五メートルの防壁と、水を満たした堀が完成した。
四方には櫓。
そこへ上がるための階段。
村を囲う防御設備が形になった。
フェリクスは完成した防壁を見上げた。
「これでいい」
その直後だった。
作業していた百人の身体が、一斉に光り始めた。
「まただ」
一人が自分の手を見る。
新しい感覚が生まれていた。
一つではない。
土木スキル。
そして建築スキル。
百人全員が、二つのスキルへ覚醒していた。
フェリクスは百人を見渡した。
「覚えたなら忘れるなよ。これから壊れたところが出たら、自分たちで直せ」
百人が頷いた。
防壁を作って終わりではない。
今後は自分たちで維持できる。
その頃、第三班も別の場所で作業を始めていた。
ロイド、ブランドン、アンソニー、キャム、ヤラミル。
そして随行する二十班百人。
彼らが担当するのは住居だった。
村に残っていた家々を見ながら、ロイドが言った。
「こっちも作り直すぞ」
百五人が土属性を使う。
古い住居に代わり、新しい集合住宅を作っていく。
一棟。
二棟。
土と石を使い、次々と建物を形成する。
作るのは十棟。
内部には十メートル四方の部屋を設けていった。
住居として使う部屋。
そして教導に使える教室。
これからこの村で暮らすだけなら、寝る場所だけでも足りる。
だが、村人たちはすでに教えられる側から、教える側へ進み始めている。
覚えた者が次の者へ教える。
そのための場所も必要だった。
百五人で作業することで、建物は次々と完成していく。
十棟の集合住宅が並んだ。
ロイドは一つの建物へ入り、内部を確認する。
十メートル四方の部屋が並んでいる。
その中には、村人たちが集まって教導を受けられる教室もあった。
「これなら使えるな」
ロイドが外へ出る。
数日前まで、この村は食料すら不足していた。
今では農地が作り直され、防壁と堀が村を囲い、新しい住居と教室まで作られている。
だが、村の再建はまだ途中だった。
第四班は下水処理施設。
第五班は公衆浴場と公衆トイレ。
それぞれ別の場所で、すでに作業を始めていた。
村の別の場所では、第四班が作業を進めていた。
ブラッド、キャメロン、ザック、トレバー、ケード。
そして随行する二十班百人。
担当するのは下水処理施設だった。
ブラッドは村の地形を確認すると、百人へ指示を出した。
「ここに作るぞ」
百五人が土属性を使う。
地面が掘り下げられていった。
土を動かし、固め、下水を集めるための施設を形成する。
村の住居。
教室。
公衆浴場。
公衆トイレ。
人が生活すれば、必ず汚水が出る。
建物だけを新しくしても、汚水をそのまま流していては意味がない。
村の中から下水処理施設へ向けて水路も作っていく。
土を掘る。
石で固める。
勾配をつけ、自然に汚水が流れるようにする。
「そっちは少し下げろ」
ブラッドの指示を受け、村人たちが水路の高さを調整した。
昨日覚えた土属性。
今日になって、その用途はさらに広がっている。
倉庫。
農地。
防壁。
住居。
そして下水。
魔法で攻撃するだけなら、ここまで多くの使い道を考える必要はない。
だが、生活を作るためには違う。
百五人で作業を続け、下水処理施設が形になっていった。
同じ頃。
第五班も別の場所で建設を進めていた。
レオン、ガレス、ミリア、エリック、アダムス。
そして随行する二十班百人。
こちらが担当するのは公衆浴場と公衆トイレだった。
「浴場はこっちだ」
レオンが場所を決める。
百五人が土と石を動かした。
大きな建屋を作る。
内部には浴槽。
洗い場。
水を流す場所。
排水は第四班が作っている下水処理施設へ繋げていく。
水属性があるため、水を確保することは難しくない。
火属性もある。
水を温めれば湯になる。
村人たち自身で維持できる設備として作っていく。
その隣では公衆トイレを建設する。
個室を並べる。
排水路を作る。
こちらも下水処理施設へ繋げた。
作って終わりではない。
村で暮らす五百人が毎日使う。
だからこそ、自分たちで清掃し、修繕し、維持できる構造にする。
建設が進む中、ガレスがレオンへ声をかけた。
「ちょっと森へ行ってくる」
「スライムか?」
「ああ」
ガレスは一人で森へ向かった。
ウォーターサーチを使って周囲を探る。
目的の反応はすぐに見つかった。
スライム。
十体ほど。
ガレスは倒さなかった。
ウォーターウィップを伸ばす。
捕縛。
さらにウォーターバインド。
拘束。
一体ずつ生け捕りにしていった。
十体ほどを確保すると、そのまま村へ戻る。
向かったのは完成しつつある下水処理施設だった。
ブラッドがガレスを見る。
「捕まえたか」
「ああ。十体ほどだ」
下水処理施設の内部に、土と石で檻を作った。
スライムが逃亡できないよう、十分な強度を持たせる。
その中へ生け捕りにしたスライムを入れていった。
一体。
二体。
次々と檻の中へ移す。
十体ほどのスライムが、下水処理施設へ設置された。
これで村から流れてくる汚水を処理できる。
ガレスは檻を確認する。
隙間はない。
スライムが外へ逃げることもできない。
「これでいい」
下水処理施設。
公衆浴場。
公衆トイレ。
三つの設備が完成した。
その直後だった。
第三班に随行して住居を作っていた百人。
第四班に随行して下水処理施設を作った百人。
第五班に随行して公衆浴場と公衆トイレを作った百人。
合計三百人の身体が光り始めた。
新しい感覚が生まれる。
土木スキル。
建築スキル。
三百人全員が、二つのスキルへ覚醒した。
これで防壁を作った百人と合わせ、四百人が土木と建築の技術を身につけた。
村の建物や設備が壊れても、救援隊を待つ必要はない。
自分たちで直せる。
自分たちで新しく作ることもできる。
だが、村に必要な施設はもう一つ残っていた。
怪我人。
病人。
今後は村人たち自身が癒やせる。
そのための場所を、アレクサンドが作り始めていた。
アレクサンドが選んだのは、村の中央に近い場所だった。
住居からも農地からも移動しやすい。
公衆浴場や公衆トイレとも離れすぎていない。
「ここでいいわね」
土属性の魔力を流す。
地面が動いた。
基礎を整え、壁を立ち上げる。
柱。
屋根。
床。
治癒院の建屋が次々と形になっていく。
内部には診察に使う部屋。
治療を受ける者を寝かせる部屋。
薬や道具を置く場所。
土と石を使い、必要な設備を整えていった。
数日前、この村には三十人の病人と六十人の怪我人がいた。
その時はフェリクス班が治療した。
ヒールバレット。
ピュリフィケーションバレット。
さらに鑑定し、必要なポーションを飲ませた。
だが、救援隊がいつまでも村にいるわけではない。
今は五百人全員が水属性と光属性を持っている。
ウォーターヒールも使える。
光属性の癒やしも使える。
ピュリフィケーションも覚えた。
必要なのは、それを村の中で使い続ける場所だった。
アレクサンドは最後に入口を作り、建屋全体を確認した。
治癒院が完成した。
その頃には、五つの班もそれぞれの作業を終えていた。
ガイルたち第一班が担当した農地。
縦千メートル、横千メートル。
百万平方メートルの土地は天地返しされ、十メートル四方、一万面の農地へ作り直された。
種芋。
玉ねぎ。
大豆。
小麦。
綿花。
砂糖黍。
作付けも始まっている。
第二班が担当した村の外周には、高さ十メートル、幅五メートルの防壁が完成した。
その外には堀。
堀には水が満たされている。
四方には櫓があり、階段を使って上がることができる。
第三班が作った集合住宅は十棟。
十メートル四方の部屋を備え、住居だけでなく教導に使える教室も設けられている。
第四班が作った下水処理施設には、ガレスが森で生け捕りにしてきた十体ほどのスライムが、逃げられないよう檻の中へ入れられている。
第五班が作った公衆浴場と公衆トイレも、下水処理施設へ繋がった。
そして治癒院。
数日前までと、村の姿は大きく変わっていた。
夕方。
五百人が広場へ集まった。
農地を作っていた百人は農業スキル。
防壁を作った百人は土木スキルと建築スキル。
住居、下水処理施設、公衆浴場、公衆トイレを作っていた三百人も、土木スキルと建築スキルへ覚醒している。
ガイルは五百人を見渡した。
「今日作ったものは、俺たちのものじゃねえ」
村人たちがガイルを見る。
「お前たちの村のものだ」
防壁も。
住居も。
農地も。
下水処理施設も。
浴場も。
トイレも。
治癒院も。
救援隊が持ち込んだ完成品ではない。
村人たち自身が魔法を使い、自分たちの手で作ったものだった。
ガイルは続けた。
「壊れたら直せ。足りなくなったら増やせ」
土木スキルと建築スキルを覚醒した者がいる。
農業スキルを覚醒した者もいる。
六属性も使える。
何かが壊れるたび、王国や冒険者ギルドから誰かが来るのを待つ必要はない。
「畑も同じだ。アンジェラたちが毎日いるわけじゃねえ」
農地を担当した百人が頷く。
アンジェラから教わったことを続ける。
必要なら他の村人にも教える。
教えられた者が、次の者へ教える。
それでいい。
ガイルはそこで話を終えた。
五百人は、それぞれ自分たちが作ったものを見ていた。
食料はある。
倉庫もある。
狩りもできる。
農地もある。
村を守る防壁がある。
住む場所がある。
水を使える。
風を使える。
土を使える。
光を使える。
火を使える。
闇を使える。
空を飛ぶこともできる。
怪我をすれば癒やせる。
汚れれば浄化できる。
浴場もある。
トイレもある。
下水も処理できる。
そして学んだことを教える場所もある。
救援隊がこの村へ到着した時、五百人は食事を与えられた。
それから数日。
今では自分たちで食料を得て、保存し、生活する場所まで自分たちで作れるようになっていた。
救援隊が村そのものを作ったのではない。
作り方を教えた。
そして村人たちが、自分たちで作った。
村の再建は、すでに村人たち自身の手へ移り始めていた。




