102 倉庫
翌日。
村の広場には、昨日の狩りで得た魔物の素材が大量に残されていた。
ホーンラビット五十体。
フォレストウルフ五十体。
フォレストベア五十体。
合計百五十体。
狩った。
解体した。
そして食べた。
当然、五百人だけで食べ切れる量ではない。
特に一体五トンほどもあるフォレストベアが五十体もいる。肉だけでも相当な量になる。
ガイルは積み上げられた素材と肉を見渡した。
「このまま置いといたら腐るな」
食料を得る方法は覚えた。
だが、獲ったものを毎回その日のうちに食べ切れるとは限らない。
むしろ狩りができるようになったからこそ、次に必要になるものがある。
保管場所だった。
ガイルは五百人を集めた。
「今日は倉庫を作る」
まず必要なのは普通倉庫。
ここには食料以外の素材を保管する。
骨。
皮。
爪。
牙。
魔石。
どれも魔物から得られる資源だった。
次に冷蔵倉庫。
すぐに食べる肉を保管する。
そして冷凍倉庫。
すぐには食べない肉を長期間保管する。
「冷凍しておけば一年くらいは大丈夫だ」
百班が作業を開始した。
昨日の狩りで、三百五十人は土属性へ覚醒している。
その者たちが中心となった。
土属性の魔力が地面へ流れ込む。
土が持ち上がる。
壁になる。
柱になる。
屋根になる。
朝から魔力循環と魔力操作を続けながら、村人たちは自分たちの手で建物を形成していった。
教官たちは必要なところだけを教える。
建屋を作ること自体は、昨日までに教えられた属性の理解の中に含まれている。
村人たちは覚えた力を実際の生活へ使っていた。
普通倉庫が完成する。
続いて冷蔵倉庫。
さらに冷凍倉庫。
外から見れば、いずれも土で作られた倉庫だった。
違うのは内部である。
村人たちは水属性を使い、冷蔵倉庫の内側へ薄い氷の魔力を張っていく。
強くしすぎない。
中に置いた肉が凍らない程度まで弱く調整する。
「冷やせばいい。凍らせるなよ」
教官の指示を受けながら、村人たちは何度も魔力を調整した。
冷蔵倉庫の内部に冷気が満ちていく。
次は冷凍倉庫。
こちらも内側へ薄い氷の魔力を張る。
ただし、冷蔵倉庫とは違う。
肉がしっかり凍るように魔力を維持する。
同じ氷魔法でも、目的によって使い方を変える。
昨日は荷車を作った。
今日は食料を保存する倉庫に使う。
村人たちは、水属性が生活の様々な場所で使えることを実際に経験していった。
倉庫が完成すると、百班が素材の運び込みを始めた。
骨。
皮。
爪。
牙。
魔石。
それぞれを普通倉庫へ運ぶ。
肉は分けた。
近いうちに食べる分は冷蔵倉庫。
すぐに使わない分は冷凍倉庫。
大量にあった素材と肉が、次々と三つの倉庫へ収められていった。
広場が片づいていく。
ガイルは三つの倉庫を見た。
昨日まで、この村には十分な食料すらなかった。
今は違う。
自分たちで森へ行ける。
自分たちで魔物を探せる。
捕縛し、拘束し、安全に仕留められる。
解体できる。
調理できる。
そして余った食料を保存する場所まで作った。
これで当面の食料は確保できた。
だが、教導はまだ続く。
ガイルは五百人へ声をかけた。
「全員、席につけ」
五百人が広場へ移動する。
十人掛けのテーブル五十組。
村人たちは昨日までと同じように席についた。
ガイルが前へ立つ。
「今まで水属性を中心に教えてきた」
昨日の狩りでは、三百五十人が新たに風、土、光、闇、火へ覚醒した。
まだ覚醒していない者も百五十人いる。
だが、ガイルは覚醒するまで待つつもりはなかった。
「今日は六属性について教える」
水。
風。
土。
光。
火。
闇。
ただ属性を持つだけでは意味がない。
何ができるのかを理解して初めて、生活にも狩りにも救助にも使える。
「まず、正しく理解しろ」
ガイルは五百人を見渡した。
六属性の正しい理解。
次の教導が始まった。
ガイルは五百人の前に立った。
「水属性はもう使ってるから分かるな」
村人たちが頷く。
水属性に覚醒してから、まだ数日しか経っていない。
それでも彼らはすでに、水属性を生活の中で使い始めていた。
ウォーターサーチで魔物を探した。
ウォーターウィップで捕縛した。
ウォーターバインドで拘束した。
ウォーターマスクで仕留めた。
ウォーターカッターで解体した。
氷で荷車を作り、今日は冷蔵倉庫と冷凍倉庫まで作った。
「水は弾、穿、刃、斬。鞭にして捕縛、拘束もできる。窒息にも使える」
続いて氷。
弾。
穿。
刃。
斬。
盾。
鎧。
壁。
滑。
圧。
重。
そして戦い以外にも使える。
建屋。
寝台。
机。
椅子。
器。
食器。
鍋。
牢。
檻。
捕縛。
拘束。
「同じ水属性でも熱湯にもできる」
熱湯なら弾、穿、炸、裂、熱。
蒸気なら弾、穿、炸、裂、爆。
さらに体内で使えば身体強化、筋肉強化、癒やし。
索敵と探索にも使える。
ガイルはそこで区切った。
「次。風属性」
風がガイルの手の上で渦巻いた。
「風も攻撃だけじゃねえ」
弾。
穿。
刃。
斬。
嵐。
盾。
鎧。
壁。
圧。
さらに風で相手の呼吸を奪うこともできる。
牢。
檻。
捕縛。
拘束。
「それと索敵、探索」
ガイルの身体がふわりと浮いた。
五百人が一斉に見上げる。
「飛行もできる」
そのまま数メートル上昇してから、ガイルは広場へ降りた。
「次は土」
今度は地面が動く。
土の弾。
穿。
刃。
斬。
盾。
鎧。
壁。
圧。
重。
さらに土が形を変えていった。
建屋。
寝台。
机。
椅子。
器。
食器。
鍋。
板。
牢。
檻。
捕縛。
拘束。
「さっき倉庫を作ったのもこれだ」
土を石へ変えれば、さらに硬いものを作れる。
石弾。
石穿。
石刃。
石斬。
盾。
鎧。
壁。
圧。
重。
そして建屋、寝台、机、椅子、器、食器、鍋、板、牢、檻。
村人たちは真剣に聞いていた。
すでに土属性へ覚醒している三百五十人にとっては、自分たちが使える力の説明だった。
「光属性」
光が生まれる。
弾。
穿。
刃。
斬。
盾。
鎧。
照。
そして癒やし。
浄化。
精製。
索敵。
探索。
村人たちの反応が変わった。
昨日、自分たちが食べたフォレストボアも、救援隊がピュリフィケーションで浄化していた。
ヤラミルが岩塩を精製したところも見ている。
今度は、それを自分たちが使えるようになる。
「火属性」
ガイルの手に小さな炎が生まれた。
「火は弾、穿、燃」
説明は短かった。
だが、村人たちはすぐに用途を考え始めていた。
昨日まで自分たちで料理をしている。
火が生活に必要なことなど、説明されるまでもない。
最後は闇属性。
「闇は弾、穿、縛、飲、消、癒」
さらに影。
影弾。
影穿。
影鞭。
捕縛。
縛。
拘束。
ガイルは六属性の説明を終えると、五百人を見渡した。
「覚えるのは名前じゃねえ」
以前、水属性を教えた時と同じだった。
「何ができるかを理解しろ。理解してりゃ、必要な時に使い方を考えられる」
その時だった。
まだ五属性へ覚醒していなかった百五十人の身体が淡く光り始めた。
一人。
十人。
五十人。
光は次々と広がっていく。
風。
土。
光。
闇。
火。
百五十人が、新たな属性へ覚醒していった。
先に覚醒していた三百五十人と合わせて、これで五百人。
全員が六属性を持った。
村人たちは自分の手や身体を見ている。
だが、ガイルはそこで教導を終わらせなかった。
属性が増えただけでは、まだ使えるようになったとは言えない。
「よし」
ガイルが五百人へ告げる。
「全員覚醒したな。だったら次は使うぞ」
六属性の意味を聞いた。
今度は、それを自分たちの力として身につける番だった。
五百人全員が六属性へ覚醒した。
水。
風。
土。
光。
火。
闇。
だが、属性を持っているだけでは意味がない。
何ができるのかを理解し、実際に使えるようにする。
ガイルはすぐに次の教導へ進んだ。
「まず風からだ」
手を前へ出す。
圧縮された風が弾となる。
風弾。
さらに細く絞れば穿。
薄く伸ばせば刃。
振り抜けば斬。
村人たちはガイルの実演を見ながら、自分でも風を生み出した。
すでに水属性で弾、穿、刃、斬を経験している。
属性は違っても、魔力操作の基本は同じだった。
五百人の周囲で風が動き始める。
さらに風を広げる。
盾。
鎧。
壁。
圧。
牢。
檻。
捕縛。
拘束。
風を相手の周囲から奪えば窒息にも使える。
「次は索敵と探索だ」
村人たちは風を周囲へ広げた。
ウォーターサーチとは違う感覚。
それでも、一度索敵そのものを覚えているため理解は早かった。
木。
建物。
人。
周囲の存在を風の動きから捉えていく。
そしてガイルは、次の教導へ移った。
「飛行を教える。だが、その前に一つ覚えてもらう」
ガイルの身体が静かに地面から離れた。
風は吹いていない。
そのまま数メートルの高さで止まる。
「レビテーションだ」
五百人がガイルを見上げる。
「風魔法だけで身体を浮かせるんじゃねえ。レビテーションで浮く。風魔法はその補完だ」
ガイルは空中に浮いたまま説明を続けた。
「レビテーションで浮揚を維持する。風で前後左右へ動く。加速する。減速する。姿勢を制御する。それで飛行になる」
地面へ降りる。
「魔力循環と魔力操作は止めるな。そのまま自分の身体を浮かせろ」
五百人が集中した。
朝から続いている魔力循環が身体を巡る。
その魔力を操作し、自分自身へ向ける。
しばらくして、一人の身体が光った。
続いて、その隣。
さらに別の場所でも光が生まれる。
十人。
五十人。
百人。
覚醒した者の足が地面から離れた。
「浮いた!」
驚いた瞬間、身体が落ちる。
「集中を切らすな!」
ガイルの声が飛んだ。
再び浮く。
一人が成功すると、それを見た周囲の者も感覚をつかんでいく。
ガイル、フェリクス、ロイド、ブラッド、レオンの五つの教導班も、担当する二十班ずつを回った。
覚醒した者も仲間へ教える。
教導は急速に広がった。
やがて最後の一人の身体が光る。
五百人。
全員がレビテーションへ覚醒した。
「そのまま浮け」
五百人の身体が地面から離れる。
最初は低い位置でいい。
レビテーションで浮揚を維持する。
「次に風だ」
ガイルが風をまとった。
空中を前へ進む。
止まる。
後ろへ下がる。
左右へ移動する。
旋回する。
高度を変える。
「レビテーションを切るな。風で動け」
五百人も続いた。
前へ進む。
止まる。
左右へ動く。
最初は行きすぎる者もいた。
思った方向へ進めず、横へ流れる者もいる。
そのたびに風を弱め、方向を修正する。
何度も繰り返した。
浮く。
進む。
止まる。
曲がる。
上がる。
下がる。
次第に広場の上を五百人が自由に移動し始めた。
レビテーションで浮揚する。
風属性で推進し、姿勢を制御する。
二つを組み合わせることで飛行になる。
ガイルは五百人が地上へ戻ったことを確認した。
「次は土だ」
今度は地面へ魔力を流す。
土弾。
土穿。
土刃。
土斬。
盾。
鎧。
壁。
圧。
重。
さらに土の形が変わる。
建屋。
寝台。
机。
椅子。
器。
食器。
鍋。
板。
牢。
檻。
捕縛。
拘束。
今日、倉庫を作ったばかりである。
先に土属性へ覚醒していた三百五十人は、すでに建屋を作った経験があった。
その者たちが、今日覚醒した百五十人へ教え始める。
「壁はこうだ」
「厚さを揃えろ」
「屋根はこっちから繋げる」
教官だけが教える必要はなかった。
村人が村人へ教える。
土を石へ変えれば、さらに用途は広がる。
石弾。
石穿。
石刃。
石斬。
盾。
鎧。
壁。
建屋。
寝台。
机。
椅子。
器。
食器。
鍋。
板。
牢。
檻。
五百人は次々と形を作っていった。
昨日までは食料すら足りなかった村だった。
今では五百人全員が空を飛び、土と石から自分たちの生活に必要なものを作り始めていた。
ガイルは教導を止めない。
「次。光だ」
六属性の教導は、まだ続いていた。
「光属性だ」
ガイルの手の上に光が集まった。
五百人の村人たちは席を立ったまま、その動きを見ている。
「光も一つずつ確認するぞ」
光を小さくまとめる。
弾。
細く鋭く伸ばす。
穿。
薄い刃へ変える。
刃。
振り抜けば斬。
続いて光を広げた。
盾。
照。
身体へまとわせれば鎧。
村人たちもガイルの実演を真似て、光属性の魔力を操作していく。
水、風、土と繰り返してきたため、弾や穿、刃を作る考え方そのものは理解している。
属性が変わっても、基本となる魔力操作は同じだった。
「次は癒やしだ」
ガイルが光属性の魔力を手へ集める。
村人たちはすでにウォーターヒールを習得している。
今度は光属性による癒やしを教わる。
五つの教導班が百班を回り、魔力の扱いを修正していく。
一人が成功する。
その者が同じ班の仲間へ教える。
やがて五百人が光属性による癒やしを使えるようになった。
「次。浄化」
村人たちの表情が変わった。
ピュリフィケーション。
昨日まで食材の浄化はガイルたちに頼っていた。
今度は自分たちで行う。
光が広がる。
何度か失敗しながらも、村人たちは浄化の感覚を覚えていった。
さらに精製。
索敵。
探索。
一つずつ教導が続く。
ガイルは次へ進んだ。
「火属性」
手の上に炎が生まれる。
火弾。
火穿。
そして燃焼。
村人たちも炎を作った。
火属性の用途を理解するのは難しくなかった。
昨日、自分たちで肉を焼き、鍋を煮たばかりである。
狩りだけではない。
調理にも使える。
暖を取ることにも使える。
五百人は火の大きさを調整しながら、扱い方を身につけていった。
最後は闇属性だった。
「闇は弾、穿、縛、飲、消、癒」
ガイルが一つずつ実演する。
闇を集める。
飛ばす。
伸ばす。
そして影へ移る。
「影も使える」
地面に落ちる影が動いた。
細長く伸びる。
影弾。
影穿。
影鞭。
さらに影が対象へ絡みつく。
捕縛。
縛。
拘束。
村人たちも自分の影を使い始めた。
最初は思うように動かない。
だが、ウォーターウィップとウォーターバインドを覚えている。
捕らえる。
動きを止める。
目的そのものは同じだった。
教官たちが修正を加えながら、五百人に繰り返させる。
一つできれば次へ。
できた者は同じ班の者へ教える。
五人一班という形が、ここでも機能していた。
やがて六属性の教導が一通り終わった。
水。
風。
土。
光。
火。
闇。
さらにレビテーション。
五百人は朝から魔力循環と魔力操作を止めていない。
ガイルは村人たちを見渡した。
「今日覚えたものを、今日だけ使って終わるなよ」
返事が返る。
「魔力循環と魔力操作は呼吸と同じだ。属性魔法も必要な時に使え。使ってりゃ、それが普通になる」
村人たちは頷いた。
数日前。
この村には病人が三十人いた。
怪我人が六十人いた。
食料も足りなかった。
救援隊が来なければ、自分たちだけでどうすればいいのか分からなかった。
だが、今は違う。
五百人全員が六属性を持っている。
索敵できる。
捕縛できる。
拘束できる。
狩りができる。
解体できる。
調理できる。
癒やすことができる。
浄化もできる。
土や石から建物や生活用品を作れる。
レビテーションと風属性を組み合わせれば飛行もできる。
さらに村には普通倉庫、冷蔵倉庫、冷凍倉庫ができた。
骨、皮、爪、牙、魔石を保管できる。
すぐに食べる肉は冷蔵する。
すぐに食べない肉は冷凍しておく。
昨日狩った百五十体の魔物が、今日だけの食事で消えることもない。
当面の食料は確保された。
ガイルは三つの倉庫へ視線を向けた。
食料を持ってきて倉庫へ詰めたのではない。
村人自身が狩り、自分たちで作った倉庫へ、自分たちで保存した。
それが重要だった。
救援隊が去っても、同じことを繰り返せる。
狩る。
解体する。
食べる。
余れば保存する。
足りなくなれば、また狩る。
その流れを自分たちで回せる。
五百人の村人たちは、救援物資を待つだけの人々ではなくなり始めていた。
ガイルはそれを確認すると、短く言った。
「今日はここまでだ」
村人たちはそれぞれの班へ戻っていった。
教導はまだ終わらない。
だが、この村が自分たちだけで生きていくための土台は、確実に形になり始めていた。




