表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
配信者ランキング1位の俺、 実はリアルダンジョンを VR配信だと思われている  作者: 八乙女モモ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

66/67

第65話 最前線、ニューヨーク

 飛行機が到着した。


 空港は、軍用の輸送機と装甲車で埋め尽くされていた。


 民間機なんて、もう、どこにも飛んでいない。


 Mercyが手を回してくれた、特別な便だ。


 タラップを降りると、焦げた匂いが鼻を突いた。


 ここは、まだ被害の少ない街のはずなのに。


 遠くの空が、うっすらと、赤い。


「……ひどいな」


 俺は、思わず、つぶやいた。


 つむぎさんも、剣のケースを背負い直して、唇を引き結んでいた。


『マスター。あちらに、Mercyさんが』


 ノアの声に、顔を上げる。


 ゲートの先で、ひときわ大きな影が、こちらに手を振っていた。



   ◆ ◆ ◆



 近づいて、その大きさに、あらためて圧倒された。


 褐色の肌


 鎧みたいに盛り上がった筋肉


 見上げるような巨体


 VStream世界一位、Mercy


 東京で会ったときよりも傷だらけだった。


「あらぁ……RENくん。ほんとに、来てくれたのねぇ」


 その声だけは、巨体に似合わない、甘ったるい響きだった。


「Mercyさん。お久しぶりです」


「ふふっ。……まさか、二度目に会うのが、こんな場所に、なるなんてね」


 Mercyが力なく笑った。


「東京で約束したでしょ。今度また、一緒に配信しようって。あなたのおすすめのダンジョンに行ってみたいって」


「……はい。コラボの約束」


「ええ。……まさか、その“コラボ”が、こんな地獄になるとはねぇ」


 Mercyの視線がつむぎに移る。


「つむぎちゃんも。来てくれてありがとう」


「当たり前です。戦友が困ってるのに、来ないわけないでしょう」


 つむぎさんが、ふっと笑った。


 ホロダイの世界一位と二位。ゲームの中で、何度も競い合ってきた古い仲だ。


「もぉ……二人とも、泣かせないでよぉ」


 Mercyが、ごしごし、と目元をこすった。


 それから、俺の肩の上に、目を留める。


「ノアちゃんも、久しぶり。会いたかったわぁ」


『……どうも。相変わらず、暑苦しい再会ですね(笑)』


「その毒舌! やっぱり、生で浴びるのが、最高ねぇ」


 ……Mercyさんは、相変わらずノアにメロメロだった


 こんな状況でも、それだけは変わらないらしい。



   ◆ ◆ ◆



「状況を説明するわ」


 Mercyの声が低くなった。戦士の声だ


「最初は西海岸だった。でも、奴らは止まらない。街から街へ、東へ東へ、ゲートを開きながら進んでる」


「そして今——いちばん、ひどいのが」


 Mercyが、赤く染まった東の空を指さした。


「ニューヨーク。あそこに、Nullの幹部、オリオンがいる」


 つむぎの表情がこわばった。


「オリオン……Nullの武力の中心」


「ええ。あいつが、素手で街を潰してる。あたしたちじゃ、足止めが精一杯。一人でも多くの人たちを逃がすので限界なの」


 Mercyが、ぐっと拳を握った。


 それから、ふと、声を落とした。


「……ねえ、RENくん。東京で、あなた言ったでしょ。自分の配信は『本物のダンジョンだ』って」


「……はい」


「あたし、企業秘密の冗談だと思って、笑っちゃった。ごめんなさいね」


「いえ」


「でも、今は。……あれが、本物だったらいいって、本気で祈ってるの。あなたの力が、()()だって」


 Mercyの目は、すがるようで、それでいて、どこか、信じるようだった。


「だから、お願い。力を貸して」


 俺は、頷いた。


「行きましょう。すぐに」


 迷いはなかった。


 助けを待っている人がいる。


 それだけで、十分だった。



   ◆ ◆ ◆



 ニューヨーク


 かつて摩天楼だった街は、瓦礫の山に変わっていた。


 倒れたビル


 割れたアスファルト


 煙の中を人々が必死に逃げていく。


 その隙間を縫うように、無数のモンスターが溢れ出していた。


 ゲートは、いくつも口を開けたまま。


 コルヴスが、どこか別の場所で、開き続けているのだろう。


 モンスターたちは、逃げ遅れた人々に、襲いかかろうとしていた。


「……っ、あそこ。子供がいる」


 つむぎさんが、瓦礫の影を指さした。


 小さな子供を抱えた女性が、崩れた壁際で動けなくなっている。


 その正面に、トカゲのような魔物がゆっくりと近づいていく。


 考えるより、先に体が動きかけた。


 ——だが


 ずん、と。


 地面そのものが揺れた。



   ◆ ◆ ◆



 瓦礫の向こう


 立ち込める煙を、押しのけるように


 巨大な影が、ぬっと、姿を現した。


 丸太のような腕


 4メートルはある巨大な岩のような体


 映像で見たあの男


 オリオンだった。


 手にしたビルの残骸を無造作に放り投げる。


 それだけで、近くの建物が、丸ごと吹き飛んだ。


「ぐははっ。逃げろ逃げろ。そのほうが、踏み潰しがいが、あるってもんだ」


 単純で、無邪気で。


 だからこそ、ぞっとするような、声だった。


 その視線が、ふと、俺たちを捉えた。


「……あぁ?」


 まず、その目が、Mercyで止まった。


「黒いお前は知ってるぞ。しつこい、ハエ野郎だ。何度、潰しても湧いてきやがるな」


「あらやだ。ハエだなんて、失礼しちゃう」


 だが、オリオンの視線は、すぐに、俺へと滑った。


 そして——その、にやけた顔が、ぴたりと、止まった。


「……おい。その、黒髪のガキ」


 オリオンが、ぐっと、身を乗り出す。


「お前、RENか?」


 ……知られていた。


 まあ、当然か。Nullが、海を越えてまで暴れているのは、日本を——俺を、避けたからだ。


「ぐ、ははっ……ぐはははは!」


 オリオンが、突然、腹を抱えて笑い出した。


「マジかよ! あのヴェガを()()()()()()、お前が……自分から、のこのこ来やがった!」


 その目が、ぎらぎらと、輝いていた。


「コルヴスのやつは、『RENとは正面から戦うな』って、しつこく言ってたがなぁ。……知ったことか。俺は、ずっと、てめえと殴り合いたくて、うずうずしてたんだよ!」


 戦いたくて、たまらない。


 全身から、そんな圧が溢れ出していた。


 ——だが、その前に。


 Mercyが、一歩前に出た。


 その背中が、俺とつむぎさんを、かばうように。


「——RENくん。つむぎちゃん」


「はい」


「あいつは、あたしがやる。あなたたちは、街の人を頼むわ」


「Mercyさん、一人で……!」


「いいの」


 Mercyが、振り返らずに、言った。


「あいつとは、もう何度もやり合ってる。手の内は、わかってるつもり。……それに」


 その声が、ぐっと、低く沈んだ。


 甘ったるさが、消えていく。


「ずっと、こいつに、煮え湯を飲まされてきたの。一発お返ししないと、気が、すまないのよぉ」


「……っ、わかりました」


 つむぎさんが、剣を抜いた。


 白い刃が、煙の中で、鋭く光る。


「RENさん。私たちは人を逃がしながら、モンスターを倒します」


「はい」


 俺は、虚空断ちの柄に手をかけた。


 ポケットの奥で、ペンギンのストラップが、かすかに、揺れた気がした。


 ()()()()()()()


 なら、やることは、ひとつだ。



   ◆ ◆ ◆



「ぐははっ。いいぜ、ハエ。先に、お前で、肩慣らしだ」


 オリオンが、にぃ、と、口の端を、吊り上げた。


「REN。逃げんなよ。すぐに、お前の——」


 その言葉の途中で。


 Mercyの体から、ぶわり、と、熱が立ちのぼった。


 拳に、力が溜まっていく。地面が、低く唸る。


 甘い笑顔は、もう、どこにもなかった。


 残っていたのは、ただ一人の、戦士の顔。


「黙りなさい、デカブツ」


 低い声が、英語に切り替わる。


『——Alright. Playtime's over.』


 その瞬間、地獄の戦端が切って落とされる

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ