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配信者ランキング1位の俺、 実はリアルダンジョンを VR配信だと思われている  作者: 八乙女モモ


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第63話 ルカたんの苦悩

 私、瑠花は、自分の部屋のベッドで、目を覚ました。


 見慣れた天井


 ふかふかの枕


 ……あれ。


 ……わたし、何してたんだっけ?……


 ぼんやりした頭に、昨日の記憶が、じわじわ、戻ってきた。


 誘拐されて


 蓮くんが、助けに来てくれて


 そして——


「……っ!!!」


 私は、布団を頭からかぶった。


 言った


 言って、しまった。


 全世界に配信されてる、あの場所で


 蓮くんの、目の前で


 「わたしが、ルカたんです」って


 しかも


 しかも、わたし、過去に


 「結婚して!」とか恥ずかしいことを


 何回も、何回も、スパチャで、送ってた……


 それが全部、本人に、いや、世界中にバレた。


 蓮くんにも、バレた。


「……むりむりむり。もう、外、出られない」


 布団の中で、足をじたばたさせる。


 顔が熱い


 たぶん今、ゆで蛸みたいになってる。


 そのとき


 こんこん、と、ドアがノックされた。


「瑠花殿。朝ごはんで、あります」


 ステラちゃんの声だった


「REN殿が、呼んでいるであります。」


「……い、今、行きます」


 私は、布団から、のろのろ、這い出した。


 逃げるわけにはいかない。


 だって——


 ……蓮くんに、ちゃんと、お礼言ってないもん



   ◆ ◆ ◆



 朝


 俺の部屋に、瑠花さんが、おそるおそる入ってきた。


 なぜか、顔を半分、手で隠している。


「お、おはよう、ございます……」


「おはようございます。瑠花さん、体、大丈夫ですか」


「だ、大丈夫、です……」


 瑠花さんは、座っても、ずっと俯いていた。


 耳まで、真っ赤だった。


 ……熱でも、あるのかな。


『おはようございます、マスター(笑)。それと、ルカたん(笑)』


「ノアちゃん、その呼び方、やめてっ!」


『嫌です。ずっと呼ばせていただきます』


 ノアが、ケラケラと笑って話した。


 昨日の、悲しそうな声が、嘘みたいだった。


 ……ああ。ノアが、いつも通りだ。


 なんだか、それだけで、ほっとした。


「あの、瑠花さん」


「は、はいっ」


「昨日の話、なんだけど」


「ま、待って、待ってください! あれは、その、勢いで……!」


 瑠花さんが、ぶんぶん、手を振った。


「忘れて! 全部、忘れてください! ルカたんのことは、その、墓まで持っていく感じで……!」


「えっ。それは、嫌です」


「……え?」


 瑠花さんが、ぱちぱち、瞬きした。


 俺は、ちゃんと伝えたかった。


「ルカたんさんが、いてくれたから、俺、笑えるようになったんです」


「会ったことないのに、毎日、応援してくれて。『無理しないで』って、心配してくれて」


「それが、瑠花さんだったって、()()()。すごく」


「…………」


「だから、これからも。ずっと、応援してくれませんか」


 瑠花さんの目がみるみる潤んでいった。


「……っ、う」


「あ、すみません、泣かせるつもりは」


「ちが……っ、ちがうの、これは、嬉しくて……っ」


 瑠花さんが、ぐしっと、目元を拭いた。


 それから、すうっ、と、息を吸って。


 ぱあっと、笑った。


「……はいっ! ()()、応援します!」


 ……うん


 その顔は、昨日の泣き顔よりずっといい。



   ◆ ◆ ◆



 それから、瑠花さんはなんというか。


 吹っ切れたのか


 歯止めがなくなった。


「蓮くん、これ食べて! 卵焼き、多めに焼いたの!」


「あ、ありがと」


「お茶もどうぞ! あっ、肩こってない? 昨日あんなに頑張ったんだもん、揉も……揉まなくていいですか、すみませんっ」


『……ルカたん、リミッターが外れましたね』


「ノアちゃんうるさい!」


 ステラちゃんが、その様子を、ふしぎそうに見ていた。


「瑠花殿は、REN殿のことが、好きなのでありますか?」


「ぶふっ」


 瑠花さんが、お茶を吹いた。


「す、ステラちゃん、なんてこと、ストレートに……!」


「? 違うのでありますか」


「ち、違くは、ない、けど……っ」


 瑠花さんが、また、真っ赤になって、俯いた。


 ……俺は、よくわからなかったけど。


 みんなが、笑っているので。


 たぶん、いい朝なんだと、思った。


━━━━━━━━━━━━━━━━

   SNS・トレンド(抜粋)

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>【草の民】ルカたん、昨日のあれ完全に公式コラボ演出だろ。人質役の女の子、ルカたん本人だってさ


>【攻略ガチ勢】手の込んだイベントだったな。ただ、RENのあの戦い方は……まあ、演出ってことかな


>【ノア推し】「結婚して」スパチャの本人登場とか、神イベントすぎる


>【陰謀論者】……お前ら、本気で演出だと思ってるのか? まあ、いい。そのほうが、あの子のためだ


━━━━━━━━━━━━━━━━


 ノアが言うには、視聴者はみんな、昨日のことを「公式の手の込んだ演出」だと思っているらしい。


 瑠花さんの気持ちはちゃんと隠れていた。


『世界はまだゲームだと思ってますからね。おかげで、ルカたんの黒歴史も、台本扱いです』


「黒歴史って言わないで……!」


 瑠花さんは、机に突っ伏した。


 ……まあ、守られてるなら、いいんじゃないかな



   ◆ ◆ ◆



 昼前


 玄関のチャイムが鳴った。


 出てみると、霧島さんが立っていた。


 息が、少し上がっている。


「霧島さん?」


「っ、れ、RENさんっ! ご、ご無事、ですか!」


 ……なんか凄い焦っている


「昨日、その、千葉のダンジョンで、ものすごい魔力反応が、観測されて……っ。何か、異常があったんじゃないかと」


「ああ。瑠花さんを、助けに行ったんです。もう、大丈夫ですよ」


「……ぶ、無事、なんですね」


 霧島さんは、俺の顔を、じっと、見た。


 それから、はあ、と、大きく、息を吐いて。


 その場に、へなへなと、しゃがみ込んだ。


「よかった……ほんとうに……」


「あの、大丈夫ですか?」


「だ、大丈夫です! いつも、見て……っ、いえ、観測して、ますので!」


 霧島さんの顔もなんだか、赤かった。


 ……今日は、顔が赤い人が、多い日だな。


 部屋の中から、瑠花さんが、ひょこっと、顔を出した。


 霧島さんと、目が合う。


 二人とも、ぴしっと、固まった。


「……霧島さん、何しにきたのでしょうか?」


「……私は職務で、蓮さんを監視する義務があるので」


 なぜか、火花が散った気がした。


 女の人同士の、あれはいつもよくわからない。


『はいはい。お二人とも、マスターのファン同士、仲良くしてください』


「「ファンじゃ(ありません)!」」


 ……声が揃ってた


 ……仲良いんだな



   ◆ ◆ ◆



 帰り際


 霧島さんは、何度も振り返りながら、言った。


「ほ、報告書には、『対象は通常状態。異常なし』と、書いておきます」


「ありがとうございます」


「……あの、昨日の魔力反応のことは、その。AEGISの機材の不具合かもしれませんし」


 霧島さんは、少しだけ言葉を濁した。


 ……ほんとうは、機材の不具合では、ないと、わかっていた。


 でも、今、目の前にいるのは


 いつも画面で見ている、穏やかで、ちょっと天然なREN、そのままで


 昨日の、あの、ぞっとするような数値とは、結びつかなかった。


「……気のせい、ですよね。きっと」


 霧島さんは、そう、自分に言い聞かせるように呟いて


 帰っていった。



   ◆ ◆ ◆



 夜


 瑠花さんが台所に立った。


「今日こそ、作ります! あの日の、リベンジ!」


 大きな鍋で、ことこと、カレーが煮えていた。


 ステラが隣で卵焼きを手伝っている。


「瑠花殿。卵焼きは、これくらいの、厚さで、あります?」


「うん、ばっちり! ステラちゃん、筋がいいね」


「……ふっ。武人は、料理も、極めるであります」


 ノアは、ミニ擬人化の姿で、テーブルの上に、ちょこんと座って


 ペンギンのストラップを、ぷらぷら、揺らして、遊んでいた。


 やがて、カレーができた。


「いただきます」


 ひとくち食べる。


 ……うまい


 ちゃんと、温かくて


 甘くて、ちょっと、辛い


「……おかわり、いい?」


「ふふっ。やった。絶対、おかわりすると思った」


 瑠花さんが、嬉しそうに、よそってくれた。


 昨日、命を懸けて、助けに行った人が


 目の前で、笑って、カレーをよそっている。


 ……ああ


 ……()()()()()()()


 いつも通りの日常


 昨日より、ほんの少しだけ


 あたたかい、日常だった。

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