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配信者ランキング1位の俺、 実はリアルダンジョンを VR配信だと思われている  作者: 八乙女モモ


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【おまけ】ホロダイ最強レイドに挑むものたち


 ホロダイには、レベルという概念がない。


 強さは、ただ一つ。プレイヤー自身の腕前だけ。


 どれだけ課金しても、どれだけ時間をかけても、下手な者は下手なまま。


 逆に、本物の技を持つ者は、初日からランキングを駆け上がる。


 だからこそ、ホロダイのランキングは、本気で己のプレイングを競う場所になっていた。


 そして、その日


 ホロダイ運営は、史上最大のレイドイベントを開催した。


 レイド名は「ニーズヘッグ襲来」


 ボスはニーズヘッグ。


 世界樹(せかいじゅ)の根を蝕む、黒竜だ。


 ホロダイに実装されて以来、ただの一度も、討伐されたことのないS級の魔物。


 今までは誰も倒せなかった。


 いつも、ボスの体力が尽きるより先に


 挑んだプレイヤーが、全員ボスにやられるか、リタイアしていた。


 今日も、何百人ものプレイヤーが挑み、何百人もが、消えていった。


 残ったのは、三人だけだった。



   ◆ ◆ ◆



 仮想空間の、荒れ果てた大地


 黒い竜が、山のように、横たわっていた。


 翼を広げれば、空を覆う


 吐く息は、大地を焼く


 その前に、三人のプレイヤーが、立っていた。


 一人目


 プレイヤーネーム、Mercy


 ホロダイ世界ランキング一位の男


 褐色の肌の、見上げるような大男


 筋肉が、鎧みたいに、盛り上がっている。


 武器は己の素手のみ


 丸太のような腕の先、拳を、ぐっと握って、にっこり笑っている。


 二人目


 プレイヤーネーム、つむぎ


 ホロダイ世界ランキング二位の女


 細身の女性剣士


 腰に細剣を差している。


 静かに、間合いを計っていた。


 三人目


 プレイヤーネーム、裕福な武人


 ホロダイ世界ランキング圏外、最近始めたばかりの初心者らしい。


 ……名前のセンスが、独特だった。


 見た目は小さい女の子


 しかし、大きな鎌を、軽々と肩に担いでいる。


 その三人だけが、何百人ものプレイヤーが全滅している中で、まだ、立っていた。



   ◆ ◆ ◆



「あらやだ、つむぎちゃんじゃなーい!」


 Mercyが、巨体に似合わない、甘ったるい声で、手を振った。


「やっぱり生き残ってると思ったのよぉ。世界二位が、こんなとこで脱落するわけないものねぇ」


「Mercyさん。久しぶりです」


 つむぎが、ふっと笑った。


「Mercyさんも残ってると思いました。こういうイベント好きですよね?」


「もぉ、よくわかってるじゃないの。あたし、こういう絶望的なの、大好きっ」


 ごつい大男が、くねっと、腰をくねらせた。


 ……相変わらず見た目と、口調のギャップがすごい


 つむぎは、もう慣れたのか、平然としていた。


「で、つむぎちゃん。そっちの子は?」


 Mercyが、三人目を見た。


 鎌を担いだ、金髪の女


「初めて見る顔ねぇ。お友達?」


「いえ。わたしも、さっき会ったばかりです」


「あら。じゃあ、自己紹介しなくちゃね」


 Mercyが、鎌の女ににっこり笑いかけた。


「あたし、Mercy。よろしくねぇ。あなた、お名前は?」


「……裕福な武人で、あります」


「……ゆ、裕福な武人って名前なの?」


「はい。最近、豪邸に住み始めたので、裕福で、あります」


「……そ、そう。個性的なお名前ねぇ」


 Mercyが、ちょっと引いていた。


 つむぎは、横で、その名前に首をかしげていた


 ……裕福な武人?


 ……変な名前


 ……でも、この喋り方


 ……どこかで、聞いたことあるような?


 でも、今は、考えている場合じゃなかった。


 目の前で、黒竜が、ぐるり、と頭を持ち上げた。


 地響きがした。



   ◆ ◆ ◆



「来るわよぉ」


 Mercyが拳を構えた。


 その瞬間


 甘ったるい声が消えた。


「……Alright. Playtime's over.(さあ、お遊びは終わりだ)」


 低い、別人のような声だった。


 目つきが変わっていた。


 戦士の目になった。


「自己紹介は、あとでいい。まず、こいつを黙らせる」


「同感です」


「異論、ないであります」


 三人の声が揃った。


 会ったばかりの三人目も、いつの間にか、息が合っていた。


 ニーズヘッグが咆哮した。


 空気が震えた。


 その口の奥に、赤い光が、集まっていく。


 広範囲のブレスだ。


 大地を焼く、灼熱の息


 これで、何百人もが、焼かれて、消えた。


「ブレスがきます! 散開してください!」


 つむぎが、叫んだ。


 三人が、同時に、地を蹴った。


 次の瞬間


 ニーズヘッグの口から、灼熱のブレスが放たれた。


 大地が、抉れ、燃え上がる。


 でも、三人は、もうそこにいなかった。


 左右と、上に


 完璧に散っていた。



   ◆ ◆ ◆



 まず、動いたのは、Mercyだった。


 ブレスを、横に跳んで、かわすと


 そのまま、低く、地を這うように、竜の足元へ、突っ込んだ。


 走りながら、右の拳を、後ろに引く


 その拳に


 光が集まり始めた。


 ぐぐぐ、と


 空気が、唸る


 Mercyの足元の地面が、拳に引かれるように、ひび割れていく。


「……凄い、地面が震えている」


 つむぎが、それを見て、息を呑んだ。


 Mercyの戦い方は、極めて単純


 武器は使わず、自分の拳で殴る


 ただ、それだけ


 でも、その一撃の威力が桁外れだった。


 Mercyが、竜の前脚の付け根にたどり着いた。


 そして、溜めきった右拳を


 思いっきり振り抜いた。


「"DIE."(くたばれ)」


 ドゴォン!!!


 鈍く、重い音が、響いた。


 山のような竜の巨体が


 ぐらり、と、傾いだ。


 あの、ニーズヘッグが


 たった一撃で、よろめいた。


「……すごい」


 つむぎが、目を見開いた。


 Mercyが、拳を振り抜いた姿勢のまま、ぎらりと笑った。


「俺の拳は、溜めるほど重くなる。……ただ、溜めてる間は、無防備だ。Cover me.(援護しろ)」


「任せてください」


 つむぎが、剣を抜いた。



   ◆ ◆ ◆



 よろめいた竜が、怒りに身をよじった。


 太い尾が、鞭のように、しなって、Mercyに襲いかかる。


 Mercyは、まだ、拳を振り抜いた体勢で、まだ動けない


「させません」


 つむぎが、間に割って入った。


 細剣を構えて


 そして、消えた


 いや、消えたように見えた。


 それくらい、動きが速かった


 迫る尾に、つむぎの剣が走る。


 一閃、二閃、三閃


 目にも止まらぬ、連撃


 竜の尾が、いくつもの、細かい切り傷に、刻まれていく。


 つむぎは、尾の上を、駆け上がりながら、斬り続けた。


 速さで、勝負する剣


 一撃の重さはない。


 でも、手数が、尋常じゃない。


 あっという間に、竜の尾は、傷だらけになった


 怒り狂った竜が、尾を、振り回す


 つむぎは、ひらり、と宙を舞って、着地した。


「ふう。一撃は軽くても、数で削れば、いずれ効きます」


 つむぎが、剣を構え直した。


 ……でも


 ……これだけじゃ、決定打にならない


 ……ニーズヘッグの体力は、まだ、半分以上ある


 その時だった



   ◆ ◆ ◆



「……お二人とも。お見事で、あります」


 裕福な武人が、ゆっくりと、前に出た。


「ですが、このままでは、削りきる前に、こちらの体力と集中が尽きます。長期戦は不利」


「じゃあ、どうすんだい」


 Mercyの低い声


「急所を、一撃で断つであります」


 女が、大きな鎌を、両手で構えた。


 その構えを見て、つむぎは、また、引っかかった。


 ……あの、構え


 ……自分より大きい鎌を、あんなに、軽々と


 ……どこかで


 女が、地を蹴った。


 Mercyが殴り、つむぎが斬って、傷だらけになった竜。


 その、首へ


 まっすぐ向かっていった。


「Mercy殿。つむぎ殿。最後の溜めと、足止めをお願いするであります」


「……OK. One more.(わかった。もう一発だな)」


「足は止めます」


 Mercyが、再び、拳を引いて、溜め始める。


 つむぎが、竜の脚を、高速の斬撃で、めった刺しにして、その場に縫い止める。


 竜が、苦悶の咆哮を上げた。


 動けない間


 その首が


 がら空きになった


「いただくであります」


 大きな鎌を振り上げ、跳んだ


 高く


 竜の首の高さまで


 大きな鎌が、月のように、弧を描く


 その刃に、迷いは、なかった。


 一度見た急所は、二度と、外さない


「必殺:富裕層の裁き」


 ……技名のセンスも、独特だった。


 鎌が、竜の首を深く薙いだ。



   ◆ ◆ ◆



 「ギシャアアアアアアアアアア」


 ニーズヘッグは大きな叫び声を上げた。


 黒竜の巨大な首に


 鎌が深く刺さった 


 急所に入ったため、ニーズヘッグの体力ゲージが


 ぐん、と、大幅に減った


 残りわずか


 もう倒せる手前までいった


「今です! Mercyさん!」


 つむぎが叫んだ。


「"FINISH IT."(とどめだ)」


 Mercyの溜めきった拳が


 唸りを上げて


 竜の首の付け根に


 叩き込まれた。


 ドゴオオオオン!!!


 黒竜の巨体が


 光の粒子になって


 ゆっくりと崩れた。


 大地に、静寂が戻る。


 ニーズヘッグの体力ゲージが


 ゼロになった。


 仮想空間に、巨大な文字が浮かんだ。


 『レイドボス・ニーズヘッグ 討伐』


 『ホロダイ史上初の討伐です。おめでとうございます』


 ……しん、と、なった


 それから


 世界中の配信が


 いっせいに爆発した。



   ◆ ◆ ◆



「……やった」


 つむぎが、剣を収めた。


「やりました。誰も倒せなかったやつを倒しました!」


「あーん、やったわねぇ、つむぎちゃーん!」


 Mercyの声が、また、甘ったるいのに、戻っていた。


 ごつい大男が、嬉しそうに、ぴょんぴょん、跳ねている。


 さっきまでの、頼もしいが口汚い戦士は、どこにもいなかった。


「もぉ、最っ高だったわぁ。久々に、本気出しちゃった」


「Mercyさん、人格変わりますよね。毎回びっくりします」


「いやぁねぇ、スイッチが入っちゃうのよぉ。普段はこんなに、おしとやかなのに」


「……おしとやか?」


「あら、違った?」


「いえ。なんでもないです」


 つむぎが、苦笑した。


 ……相変わらず、忙しい人だ


 でも、その腕は本物だった。


 現実は世界一の配信者であり、最近では、海外の探索者としても活躍し始めたMercy


 ゲームの実力は少しも鈍っていなかった。


「つむぎちゃんも、相変わらず、いい腕してたわねぇ。世界二位、伊達じゃないわ」


「Mercyさんの拳も、健在で安心しました」


「ふふっ。今度、現実でも、一緒に潜りましょ。また日本に行くからね」


「ぜひ。心強いです」


 二人は笑い合った。


 長年の戦友みたいに


 そして、二人は、同時に振り返った。


 大鎌の女に



   ◆ ◆ ◆



「裕福な武人さん」


 つむぎが、声をかけた。


「あなた、何者ですか? その鎌捌き、見たことが……」


 でも


 大鎌の女は、もう、ログアウトの光に包まれていた。


「お役に立てて、何よりであります。私は、そろそろ、晩ごはんの、時間なので」


「あ、ちょっと」


「とても、楽しかったであります。また、どこかで」


 女の姿が、すうっ、と、光に溶けて、消えた。


 あとには、つむぎと、Mercyだけが、残された。


「……行っちゃった」


「謎の子だったわねぇ。可愛い顔して、とんでもない大鎌使い」


「……Mercyさん」


「なぁに?」


「あの人の、鎌の振り方と実力」


 つむぎは、消えた場所を、じっと、見ていた。


「……わたし、知ってる気がするんです。最近、すごく、近くで見たような」


「あら。お知り合い?」


「……たぶん。でも、まさか、ね」


 つむぎは、首を横に振った。


 ……いや


 ……あの子が、ゲームなんて、するはず……


 ……いや、でも、あの大鎌は


 確信はなかった。


 でも、胸の奥に、小さな引っかかりだけが残った。


「ま、いっか。気になるなら、今度、聞いてみたら? また会えるわよ」


 Mercyが、軽く伸びをした。


「それじゃ、つむぎちゃん、またね」


「はい。ありがとうございました。」


 二人は、笑って、それぞれ、ログアウトした。


 ホロダイ史上、初のレイド討伐


 その立役者の、三人目が誰だったのかは


 しばらく、誰も知らないままだった。



   ◆ ◆ ◆



 その頃


 瑠花の家のリビング


 ステラが、コントローラーを置いて、ぐっ、と伸びをした。


「ふう。いい、運動になったであります」


「ステラ、なんか、いいことあった?」


 俺は、卵焼きをつまみながら、聞いた。


「はい。みんなで協力して、大きな竜を倒したであります。とても、強い二人と、一緒で」


「へえ。よかったね」


「はい。……一人、見覚えのある、剣捌きの人が、いた気もするのですが」


「ふうん」


「気のせい、でありますね。きっと」


 ステラは、そう言って、またゲームを始めようとしていた。


「あと、一戦だけ、で、あります」


「……晩ごはん、できてるよ」


「……あと、一戦だけであります」


 ……ステラ、今日もニートだ。平和だな


 俺は、ぼんやり、そう思った。



┏━━━━━━━━━━━━━━━┓

┃ ホロダイ公式・速報(抜粋)  ┃

┗━━━━━━━━━━━━━━━┛


>【公式】レイドボス「ニーズヘッグ」、実装以来、初の討伐を確認しました


>【攻略ガチ勢】は? あれ、倒せるの!? 何百人で挑んでも無理だったのに


>【holodive_master】討伐者は三人か。Mercy、つむぎ、そして……「裕福な武人」? 誰だこれ?


>【海外視聴者】MERCY WAS THERE. AND HE PUNCHED A DRAGON TO DEATH


>【ノア推し】つむぎちゃん、ゲームでも世界二位の実力。さすがだな


>【陰謀論者】問題は三人目だ。「裕福な武人」。突然現れて、ランカー狩りまくってた、あの大鎌使いか、どこかで見覚えがあるな


>【草の民】金髪美少女の鎌使い…武人の口調…はて、どこかで?


>【攻略ガチ勢】↑気のせいだろ。そんな人いたらもっと話題になるはずだろ


┗━━━━━━━━━━━━━━━┛

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