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配信者ランキング1位の俺、 実はリアルダンジョンを VR配信だと思われている  作者: 八乙女モモ


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第59話 豪邸が広すぎて落ち着かないし、真面目だった居候がニートになった

 Nullの本拠地


 円卓の間に、四人が揃っていた


 ボス、コルヴス、オリオン


 そして、ボロボロのマントのまま、立っているヴェガ


「報告いたします」


 ヴェガの声は硬かった


「REN討伐任務……失敗いたしました」


 しん、とした


 オリオンが、目を見開いた


「……は? ヴェガが、負けた?」


「……ああ」


「黒鞘の間まで、使ってか?」


「……使った上で、だ」


 ヴェガが、ぐっ、と拳を握った


「終ノ太刀まで、撃った。それでも、届かなかった」


「……マジかよ」


 オリオンが、椅子の背にもたれた


 巨体が、ぎしり、と音を立てた


「幹部全員でかかっても、無傷のお前が……」


「事実だ。笑いたければ笑え」


「いや、笑えねえよ。そんなの」


 その時だった


 ぴし、と


 小さな音がした


 ヴェガの、仮面から


 戦闘で入っていたヒビが、ゆっくり、広がって


 ぱきん


 仮面が割れた


 白い破片が、ばらばらと、床に落ちる


 その下から、現れたのは


 青い長い髪に縁取られた


 くりっとした、大きな目の


 子供みたいに、あどけない顔だった


「…………」


「…………」


 沈黙。


 オリオンが、ぷっ、と噴き出した


「……ぶっ、はははは! 相変わらず、身体は大人なのに、顔だけガキだな、ヴェガ!」


「……っ、笑うな!!」


 ヴェガが、真っ赤になって、叫んだ


 すらりとした長身の、大人びた立ち姿


 なのに、顔だけが、幼い


 そのちぐはぐさが、余計におかしくて、オリオンは笑い続けた。


「だ、だってよぉ、敗北報告の途中で、仮面がぱきーんって……ぶふっ」


「オリオン! 貴様、あとで斬る!」


「負けて帰ってきた奴が言うなって!」


「ぐ……っ」


 ヴェガが、ぐぬぬ、と黙った


 コルヴスが、ため息をついた


「……茶番は、そこまでにしろ」


 静かな声だった


 でも、円卓の空気が、すっと冷えた


「ヴェガ。報告の続きを。お前が本当に伝えるべきは、敗北のことではないだろう」


「……ああ」


 ヴェガが、顔を引き締めた


 童顔のまま、真剣な目になった


「ボス。あの男の使い魔……ノアについて、報告します」



   ◆ ◆ ◆



「終ノ太刀を防がれました」


「……ほう」


 ボスが、初めて声を出した


「RENが、防いだのか」


「いいえ。あの使い魔が、です」


 ヴェガは、見たままを話した


 白い髪と、二枚の光る翼


 黄金色の、見たことのない紋様の盾


 都市を消した終ノ太刀が、完全に受け止められたこと


「あれは、人間の魔法ではありません。あんなもの、見たことがない」


「……」


「正体はわかりません。ですが、確信があります。あれは……ただの使い魔ではない」


 ボスは、黙っていた


 長い、長い沈黙だった


 コルヴスとオリオンが、顔を見合わせた


 ボスが、こんなに長く黙るのは、珍しかった


「……白い髪に、二枚の翼」


 ボスが、ぽつりと、つぶやいた


「黄金の盾、か」


「……ボス?」


「ヴェガ。よく確かめてきた。任務は果たされた」


「は……」


 敗北したのに、任務は果たされた


 ヴェガには、意味がわからなかった


 ボスは、静かに、続けた


「一つ、命じておく。全員、よく聞け」


「……はい」


「ノアには、決して、《《手を出すな》》」


 その声は、低く、有無を言わせなかった


「傷つけることも、奪うことも、許さん。これは、絶対だ」


「……理由を、伺っても?」


 コルヴスが、聞いた


「必要ない」


「……承知しました」


 コルヴスは、それ以上、聞かなかった


 でも、その目は、何かを考えていた


 ……ボスが、あの使い魔に、執着している


 ……これは、覚えておくべき情報だ、と



   ◆ ◆ ◆



「さて」


 コルヴスが立ち上がった。


「次の手の話を、しよう」


 円卓の中央に、資料を広げた


「ステラが正面から当たり、寝返った。ヴェガが全力で当たり、敗れた。これが、現状だ」


「……次は俺が行く」


 オリオンが、腕を組んだ


「正面から、ぶっ潰す。それだけだろ」


「オリオン。お前は、ヴェガより強いのか」


「……いや」


「なら、結果は同じだ」


「ぐ……」


 オリオンが、黙った


 コルヴスは、淡々と続けた


「正面からの戦闘で、あの男には勝てない。二度、証明された。三度目をやる意味はない」


「じゃあ、どうすんだよ」


「簡単だ」


 コルヴスが、薄く笑った


「戦わなければいい」


「……あ?」


「RENは強い。だが、強いのは、REN本人だけだ」


 コルヴスは、指を一本、立てた


「あの男の、周りを見ろ。守るべきものが、増え続けている。使い魔。元仲間のステラ。AEGISの人間。そして……日常そのものだ」


「……」


「ならば、《《奪えばいい》》」


 円卓が、静かになった


「RENの、大切なものを奪う。あの男を、戦いの土俵から、引きずり下ろす。剣の届かない場所で勝負を決める」


「……えげつねえな、相変わらず」


 オリオンが、顔をしかめた


「俺は、正面から殴り合う方が、性に合うぜ」


「お前の出番も、ちゃんと用意してやる。安心しろ」


「……ふん」


 ヴェガは、何も言わなかった


 ただ、童顔の眉を、わずかに寄せていた


 ……剣士として、好む手では、ない


 ……だが、私は、負けた


 ……口を挟む資格はない


「まずは、監視だ」


 コルヴスが、言った


「RENの周辺を、徹底的に調べる。何を大切にしているのか。誰が、あの男の急所なのか」


 コルヴスの目が、冷たく光った


「……それが、わかった時。この勝負は、終わる」



   ◆ ◆ ◆



 その頃


 俺は、瑠花さんの家で、困っていた


 ……この家、広すぎる


 用意してもらった部屋は、たぶん前の家の五倍くらいあった


 天井が高い


 窓が大きい


 ……落ち着かないな


 前のアパートは、六畳だった


 手を伸ばせば、大体のものに届いた


 寝転がったら、部屋の端から端まで見えた


 あれが、ちょうどよかった


「……うーん」


 俺は、家の中を歩き回った


 リビングは広すぎる


 客間も広すぎる


 廊下の突き当たりに、小さな引き戸があった


 開けてみた。


 三畳くらいの、物置部屋だった。


 使っていない座布団と、扇風機が置いてあった


 ……お


 ……ここだ


 俺は、横になった。


 幅はぴったりだった。


 壁が近く、天井がほどよく低い


 ……落ち着くな


 ごろん、と転がったところで、瑠花さんが通りかかった


「……れ、蓮くん!? なんで物置に!?」


「ここ、落ち着く」


「広いお部屋、用意したのに……!」


「あっちは、広すぎてダメかも。なんか、そわそわする」


「そ、そんなぁ」


 瑠花さんがしょんぼりした


『……マスター(笑)』


 ノアが、肩の上で、ため息をついた


『豪邸に住んで、三畳の物置を選ぶ人、初めて見ました』


「狭いと、安心するんだよ」


『……まあ、マスターらしいですけど』


 瑠花さんは、ちょっと考えてから、ふふっ、と笑った


「じゃあ、ここ、蓮くんのお部屋にしましょう。お掃除しますね」


「お、ありがと」


 ……うん


 ……この家で、いちばんいい部屋、見つけた



   ◆ ◆ ◆



 もう一人の居候のお話


 ステラだ


 引っ越して、三日目


 ステラは、リビングのソファから、動かなくなっていた。


 原因は、瑠花さんの家にあった、ホロダイだった。


 ホロダイには、配信機能のほかに、バーチャルダンジョンで戦うゲームモードがある。


 瑠花さんのお父さんのものだが、ほとんど使っていなかったらしい。


 ステラは、初日に、それを見つけた。


「REN殿。これは、何でありますか」


「あー、たぶんゲームだね。仮想のダンジョンで戦うやつ」


「仮想のダンジョン?」


「うん。やってみる?」


 軽い気持ちで、教えた


 それが、すべての始まりだった



   ◆ ◆ ◆



 三日後、ステラの一日


 朝になっても起きてこない


 昼前。寝癖のまま、パジャマのまま、ソファに座る


 そして、ゲームを起動する


 夜まで、そのまま


「ステラ」


「……はい、で、あります」


返事はするが、こちらに見向きもしない


「ご飯だよ」


「……あと、一戦だけ」


「さっきも、それ言ってた」


「……このボスを、倒したら」


 俺は、ステラの横顔を見た


 目の下に、うっすら、クマがあった


 仮面を外した日の、あのクマと同じだった


 ……理由は、だいぶ違うけど


『……ステラさん』


 ノアが、テーブルの上から、腕を組んで言った


『家事は、どうしたんですか。家事』


「……っ」


 ステラの肩が、びくっ、とした


『お掃除、三日してませんよね? お洗濯も、瑠花さんに任せきりですよね?』


「……め、面目ない、で、あります」


『あんなに、ぴしぴし、やってたのに』


「……仮想ダンジョンが、悪いので、あります。私の、武人の血が、騒ぐので」


『言い訳が、武人っぽく見えて、ただのゲーマーです』


 ステラは、うっ、と詰まって


 でも、ゲームはやめようとしなかった


「……あと、一戦だけ、セーブしてないので」


『……だめだ、この人』


 ノアが、頭を抱えた


 俺は、横で見ていて、ちょっと笑った


 ……まあ、いいんじゃないかな


 ……組織にいた頃は、訓練と任務だけだったんだろうし


 ……ごろごろして、ゲームして


 ……それも、たぶん、ステラに必要だったやつだ


「ステラ」


「……はい」


「楽しい?」


「……っ」


 ステラが、初めて、こちらに視線を向けた


 ちょっと、気まずそうに


 でも、正直に言った


「……《《楽しい》》、で、あります。すごく」


「うん。ならいいや」


「……いいの、でありますか?」


「うん。ここ、ステラの家でもあるし」


「……っ」


 ステラが、ぐっ、と何かをこらえる顔をした


 それから、ぴしり、と頭を下げた


「……家事は、明日から、ちゃんとやるであります」


『……その「明日から」発言が、既にニートの始まりなんですよ』


 ノアの突っ込みがリビングに響いた



   ◆ ◆ ◆



 ちなみに、ステラの腕前は、とんでもないことになっていた


 一度見た敵の動きは、二度目には、完璧に対応する


 一度見た技は、すぐに、自分のものにする


 ステラお得意の完璧コピーだ


 始めて三日で、ステラのランクは、とんでもない速度で、上がっていた


「REN殿。ランク戦で、五十連勝したであります」


「お、すごいじゃん」


「次の相手は、ランキング上位の、有名な剣士プレイヤーだそうです」


「ふうん。頑張って」


「はい。型を一度見れば、勝てるであります」


 ……あとで知ったけど


 この頃、ホロダイのゲームランキングには、ちょっとした騒ぎが起きていたらしい


 突然現れた、正体不明の鎌使いの新人が


 歴戦のランカーたちを、片っ端からなぎ倒している、と



   ◆ ◆ ◆



 夜


 俺は、三畳の物置部屋で、布団に入った


 ちょうどいい、狭さ


 ノアが、枕元で丸くなった


「ノア」


『はい』


「なんか、平和だな」


『……はい。ヴェガさんの襲撃から、まだ数日なのに』


「ステラはゲームしてるし。瑠花さんのご飯は、おいしいし」


『……平和ですね』


「うん。このまま、平和だといいな」


『……そうですね』


 ノアが、少しだけ、間を置いた


『……マスター』


「うん?」


『……いえ。なんでもないです。おやすみなさい』


「うん。おやすみ」


 俺は目を閉じた


 その夜


 お屋敷の、高い塀の上に


 一羽の、黒いカラスが、とまっていた


 カラスは、じっと、屋敷を見ていた


 長い間、動かずに


 まるで、何かを、調べるように


 やがて、カラスは、音もなく、夜の空へ飛び立った


 暗い方へ


 暗い方へ


 誰も、それに、気づかなかった



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   配信コメント(最近の話題・抜粋)

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>【攻略ガチ勢】RENの配信、再開まだか? 腕の怪我、心配だ


>【ノア推し】ノアちゃんの盾の考察動画、めっちゃ伸びてるな 一日で百万回超えたぞ


>【陰謀論者】Nullからの声明はなしか、静かすぎる。嵐の前だぞ、これは


>【holodive_master】それより聞いてくれ。ゲームモードのランキングが、今、大変なことになってる


>【草の民】↑あれだろ、金髪美少女の鎌使い。五十連勝のやつ


>【holodive_master】今朝の時点で、七十連勝。上位ランカーが、次々狩られてる


>【攻略ガチ勢】動きが、ゲームの域じゃないって噂だな。何者なんだ?


>【草の民】まあ、世界は広いってことよ


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