表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
配信者ランキング1位の俺、 実はリアルダンジョンを VR配信だと思われている  作者: 八乙女モモ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

6/9

第6話 E級ダンジョンから何か出てきたんだけど(前編)

 朝。いい天気だ。


 今日はS級ダンジョンの深層を配信する予定だ。昨日は休みだったし、体調もいい。深層は中層と違ってモンスターの質が上がるから、コメント欄も盛り上がるだろう。


『マスター(笑)。今日の配信、準備完了してます。ルート設定は第六十層からの直行でいいですか?』


「うん。六十層から八十層くらいまで行けたらいいな」


『了解です。二時間コースですね。回復薬は三本、いや、念のため五本持っていきましょう』


「五本もいる?」


『深層は油断すると死にますよ。マスター(笑)は油断しかしないので、多めに持っておくべきです』


「ひどい言い方だな……」


 アパートを出た。


 いつもの道を歩く。向かいの豪邸の前を通り、コンビニの前を通り過ぎ、商店街を抜ける。


 E級ダンジョンの観光ゲートの前を通りかかった。


 いつもなら素通りする場所だ。看板の「スライムと記念撮影しよう!」の文字が朝日に照らされている。平日の朝だから、まだ観光客は少ない。スタッフが入口の掃除をしている。


 横を通り過ぎようとした瞬間。


 足が止まった。


「……ノア」


『はい?』


「今、何か感じなかった?」


『何か、とは?』


「地面が……一瞬、揺れたような」


 気のせいだろうか。足元を見る。コンクリートの地面。ひびはない。揺れている感じもしない。


 でも、足の裏に残った感覚がある。S級ダンジョンの深層で、上位モンスターが目覚める直前に地面に伝わる、あの微かな振動に似ていた。


 ダンジョンの中で三年間過ごした体が覚えている。この種の振動を、俺は無視できない。


『……マスター。ちょっと待ってください。スキャンします』


 ノアが翼を広げた。古代遺物のセンサーが起動する。俺には見えないけど、ノアには魔力の流れが見える。


 数秒の沈黙。


『…………これは』


「どうした?」


『E級ゲートの魔力濃度が通常の三倍を超えてます。しかも上昇中です。マスター、これは――』


「暴走の前兆?」


『はい。ゲートが不安定になっています。このまま上昇が続くと、内部のモンスターがランクを超えて出現する可能性がある。いわゆる……ブレイクです』


 ブレイク。


 ダンジョンの門が暴走し、本来そのランクにいないはずの上位モンスターが地上に溢れ出す現象。ニュースで聞いたことはあるけど、実際に遭遇するのは初めてだ。


「ノア、これ、いつ起きる?」


『正確な予測は困難ですが……魔力濃度の上昇速度から逆算すると、早ければ三十分以内。遅くても一時間以内かと。AEGISに通報すべきですが、対応が間に合うかは……』


 三十分。


 観光ゲートの入口には、もう数人の観光客が並び始めている。スタッフが笑顔でチケットを売っている。誰もゲートの異変に気づいていない。


 普通の人には魔力の揺れは感じられない。E級ダンジョンの管理システムも、この規模の異常を検知できるかどうか怪しい。


「……ノア」


『はい』


「S級、今日はやめる」


『……ですよね。そう言うと思いました。二回連続ですね、予定変更』


「ここにいる。様子を見る」


『了解です。……配信はどうしますか?』


 少し考えた。


「……つけよう。万が一何か起きたとき、映像が残ってた方がいい」


『なるほど。では始めます。三、二、一――』



┏━━━━━━━━━━━━━━━┓

┃      LIVE       ┃

┗━━━━━━━━━━━━━━━┛


>【草の民】お、今日も配信キタ!


>【攻略ガチ勢】今日はS級深層か?楽しみ


>【ルカたん】¥10,000「今日も応援してます!深層がんばれー!」


>【ノア推し】ノアちゃんおはよう!ファンクラブ会員数6000人突破したよ!


┗━━━━━━━━━━━━━━━┛



「こんにちは。今日も配信やっていきます。ルカたんさん、いつもありがとうございます。えっと、今日はちょっと予定が変わりまして」



┏━━━━━━━━━━━━━━━┓


>【草の民】?


>【攻略ガチ勢】予定変更?珍しいな


>【ルカたん】どうしたの?大丈夫?


┗━━━━━━━━━━━━━━━┛



「大丈夫です。ちょっと気になることがあって、E級ダンジョンの近くにいます」



┏━━━━━━━━━━━━━━━┓


>【草の民】E級?格下すぎんかwww


>【攻略ガチ勢】S級プレイヤーがE級エリアに何の用だ


>【holodive_master】E級って初心者マップだろ。RENが行くとこじゃなくね?


┗━━━━━━━━━━━━━━━┛



 コメント欄は平和だ。当たり前だけど、誰もゲートの異変に気づいていない。


 俺はゲートから少し離れた場所に立って、観察を続けた。カメラはゲートの方向を映している。


 見た目には変化がない。E級ダンジョンの入口は、いつも通りの青白い光を放っている。観光客が楽しそうに入っていく。スタッフは何事もなく、「いってらっしゃーい」と手を振っている。


 でも、足の裏の振動は、少しずつ強くなっている。


「ノア、今の濃度は?」


『通常の四・二倍。まだ上がってます。上昇速度も加速しています。三十分前の予測を修正します。ブレイクまで、推定十五分から二十分』


 十五分。


 観光客がまだ中にいる。スタッフも気づいていない。管理システムのアラートが鳴った様子もない。


「ノア、管理事務所に匿名で通報できる?」


『できます。やりますか?』


「うん。お願い」


『了解。……通報完了。「E級ゲートに魔力異常の兆候あり、至急確認を」と送っておきました。匿名の通報なので、対応が早いかどうかはわかりませんが』



┏━━━━━━━━━━━━━━━┓


>【草の民】REN何見てんの?ぼーっとしてね?


>【攻略ガチ勢】カメラがE級ダンジョンのゲート映してるけど、何の意味が?


>【ルカたん】なんか雰囲気が違う……いつもの配信と全然違う


>【陰謀論者】……おい。RENの足元、見ろ。地面が微かに揺れてないか?


>【草の民】↑?? 画面じゃわかんないけど


┗━━━━━━━━━━━━━━━┛



 陰謀論者さん、目がいいな。画面越しでも気づくのか。


 揺れは確かに強くなっている。さっきまで「足の裏で感じる」程度だったのが、今は地面の小石が微かに跳ねるくらいになっている。


『マスター。濃度五・八倍、と上昇が加速しています。ブレイクまで推定十分以内に修正します』


「管理事務所は動いた?」


『……動いてません。通報を確認した形跡がないです。E級の管理体制はこんなものですかね。おそらく予算削減の影響でしょう』


 十分。


 中にまだ観光客がいる。スタッフは気づいていない。通報も無視されている状況。


 俺は一つ決断をした。


「ノア。俺、あのゲートの前に行く」


『……予想はしてましたけど、正気ですか? ブレイクが起きたらC級、最悪B級相当のモンスターが出てきますよ。一般人の前でS級の戦闘を見せることになります』


「見せるとかじゃなくて、あの人たちが危ない」


『…………はい。わかりました。マスター(笑)は昨日も迷子を助けてましたし、今日は世界を助けるんですね。スケール感がおかしいですけど』


「世界は大げさだろ」


『さあ、どうでしょうね』


 俺はゲートに向かって歩き出した。


 配信のカメラは回ったままだ。コメント欄に新しいコメントが流れてくる。



┏━━━━━━━━━━━━━━━┓


>【草の民】REN動いた。どこ行くの?


>【攻略ガチ勢】E級ゲートに向かってる。なんかイベントか?


>【ルカたん】なんか怖い……RENくん大丈夫?


>【陰謀論者】おい。ゲートの色、変わってないか? 青白かったのが紫っぽくなってるぞ


>【草の民】↑マジだ。色変わってね?


>【攻略ガチ勢】E級ゲートの色が変化……? ホロダイでこの演出見たことないぞ


┗━━━━━━━━━━━━━━━┛



 ゲートの前に着いた。


 近くで見ると、異変は明らかだった。


 ゲートの表面が脈動している。呼吸するように、膨張と収縮を繰り返している。色が変わっている。本来の青白い光が、紫色に濁り始めている。


 これは、上位の魔力がゲートに流れ込んでいる証拠だ。E級のゲートに、C級かそれ以上の魔力が逆流している。


 スタッフがようやく気づいた。


「え……? なんか、ゲートの色が……?」


「おかしいな。こんなの見たことない。管理センターに連絡を――」


 その時だった。


 地面が、大きく揺れた。


 今度は俺だけじゃない。全員が感じた。観光客が悲鳴を上げる。子供が泣き出す。スタッフが慌てて無線に手を伸ばす。


『マスター。濃度、一気に跳ね上がりました。通常の十二倍。ブレイク、発生します。今すぐです』


 ゲートが裂けた。


 青白い表面に亀裂が走り、紫色の光が溢れ出した。空気が一変する。E級ダンジョンの穏やかな魔力とはまるで違う、重くて冷たい圧力が押し寄せてくる。


 亀裂の奥から、何かが這い出てこようとしている。


 巨大な影。E級のスライムとは比べ物にならない大きさ。


 こいつらはC級のモンスターだ。


 いや。


『マスター。出てきます。魔力反応から推定……C級が三体、B級相当が一体。最悪のパターンです』


 B級。


 一般の探索者が精鋭チームを組んで挑むランクのモンスターが、観光地のど真ん中に出てこようとしている。


 周囲にいるのは、観光客と、スタッフと、泣いている子供たち。


 全員、普通の人間だ。


 探索者はいない。AEGISの対応も間に合わない。


 いるのは、俺一人だけだ。


「ノア」


『はい』


 俺はリュックから愛剣虚空断ち(こくうだち)を抜いた。


「対応する。避難誘導を頼む。あと――」


『あと?』


「…………お前も出てくれるか」


 ノアが一瞬黙った。


『……私が、ですか。擬人化は魔力消耗が激しいですよ。数分しか持ちません』


「数分でいい。あの人たちを逃がす時間だけ稼いでくれ」


『…………了解しました。マスター』


 いつもの(笑)がなかった。



┏━━━━━━━━━━━━━━━┓


>【草の民】え、ゲートが割れた!?


>【草の民】なんか出てきてる!!!


>【攻略ガチ勢】待て。これE級のモンスターじゃないぞ。サイズも色もおかしい


>【ルカたん】RENくん!? えっ、危なくない!?


>【陰謀論者】……来たぞ


┗━━━━━━━━━━━━━━━┛


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ