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配信者ランキング1位の俺、 実はリアルダンジョンを VR配信だと思われている  作者: 八乙女モモ


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5/12

第5話 ノアちゃんのファンクラブが設立された

 配信をしない日は、やることがあまりない。


 ダンジョンに潜るか、コンビニに行くか、寝るか。俺の生活はだいたいその三つで構成されている。


 今日は「寝る」の日にしようと思っていた。昨日の迷子の件でなんとなく疲れていたし、ゆっくりしたかった。


 ……のだけど。


『マスター(笑)。起きてください。大変なことになってます』


「……なに。モンスター?」


『モンスターじゃないです。VStreamです。あなたのチャンネルのコミュニティ掲示板に、とんでもないスレッドが立ってます』


「掲示板?」


 俺はベッドの上で古代遺物を手に取った。ノアが画面を表示する。


 VStreamにはチャンネルごとにコミュニティ掲示板がある。視聴者同士が交流するための場所で、俺はほとんど見たことがない。


 スレッドのタイトルが目に入った。



 『【公式】ノアちゃんファンクラブ設立のお知らせ【会員募集中】』



「…………」


『読み上げましょうか?』


「……うん」


『「この度、RENチャンネルの良心であり、最強のAI NPCであり、世界一かわいいフクロウであるノアちゃんの公式ファンクラブを設立いたします。会費は無料。入会条件はノアちゃんを推すこと。活動内容はノアちゃんの名言まとめ、ノアちゃんの切り抜き共有、ノアちゃんのファンアート展示、ノアちゃんの誕生日(未定)のお祝い準備。設立者:ノア推し」。……以上です』


「これ、ノア推しさんが作ったんだ」


『はい。そして現時点での会員数がなんと三千二百人です』


「さ、三千二百?」


『昨日の夜に立ったスレッドが、もう三千人超えてます。……正直、私の方が驚いてます』


 ノアが翼で顔を覆った。照れているのか呆れているのかわからない。


「ノア、すごいじゃん。人気あるんだな」


『……私はAIですよ。ファンクラブとか意味がわからないです。そもそも誕生日なんてありませんし。古代遺物に宿った日をカウントするなら三千年前ですけど』


「三千年前の誕生日祝い、盛大にやろう」


『やめてください』



 ◆ ◆ ◆



 気になったので掲示板を少し読んでみた。


 ノアちゃんファンクラブのスレッドには、大量の書き込みがあった。


 「入会します!ノアちゃんの『マスター(笑)』呼びが好きすぎる」


 「ノアちゃんの名言ランキング作りたい。個人的1位は『S級のモンスターは倒せるのにコンビニの使い方がわからないんですか』」


 「わかる。俺は『配信中に骨折報告しないでください』が好き」


 「ノアちゃんのフクロウ姿のファンアート描きました!→(画像リンク)」


 「かわいい!!公式グッズ出してくれ!!」


 「ノアちゃんアクリルスタンド出たら買う」


 「RENは添え物。本体はノア」


 「↑それは言いすぎだけど気持ちはわかるw」


『…………』


「ノア、どうした?」


『「RENは添え物」って書かれてます。私のマスター(笑)が添え物扱いされてるんですけど、怒るべきですか? 喜ぶべきですか?』


「別にいいよ。ノアが人気あるのは嬉しいし」


『……お人好しすぎません?』


 さらにスクロールすると、別の書き込みが目に入った。


 「ノアちゃんファンクラブ、名誉会員枠として【ルカたん】さんを推薦します。スパチャ額もコメント頻度もダントツだし、ノアちゃんの名場面にはいつもルカたんさんのスパチャが被ってる」


 「賛成。ルカたんはRENチャンネルの柱」


 「ルカたんのスパチャ芸がなかったら配信の空気が全然違うと思う」



 ……ルカたんさん、視聴者の中でもかなり存在感があるんだな。


 会ったこともない人なのに、俺の配信を支えてくれている。毎回のスパチャだけじゃなくて、コメントの空気を作ってくれているのは、なんとなく感じていた。


『ちなみにルカたんさん本人からも書き込みがありますよ』


「なんて?」



 「【ルカたん】名誉会員!?嬉しい!!ノアちゃん大好き!!もちろん入会します!!あとRENくんも好きです!!追記:添え物じゃないです!!」



「……ルカたんさん、いい人だな」


『テンションの高さが通常運転ですね。あと「RENくんも好きです」の「も」が気になりますけど、まあいいでしょう』


 俺は少し笑った。



 ◆ ◆ ◆



 昼過ぎ。さすがにずっと寝ているのも体に悪い気がして、外に出ることにした。


 散歩だ。ダンジョンには行かない。ただの散歩。


 アパートのドアを開けると、向かいの豪邸がいつも通り視界を占領している。白い壁、整った庭木、立派な門扉。屋上のアンテナ群が青空に突き出ている。


 ……そういえば、あのアンテナ、何のアンテナなんだろう。普通の家にあんなにたくさんアンテナは要らないよな。


「ノア、向かいの家のこと何か知ってる?」


『あの豪邸ですか。少し調べましょう……。登記情報によると、所有者は天城ホールディングスですね。企業の保養施設、もしくは役員の個人宅として登録されてます』


「天城ホールディングス? 何の会社?」


『……ホロダイを作った会社ですよ。マスター(笑)』


「ホロダイって、あの?」


『はい。あなたの配信が「ホロダイの実況」だと思われている、あのHollow Dive Onlineを開発・運営しているゲーム会社です。正確にはゲーム事業だけじゃなく、通信インフラ、VR機器の製造、ダンジョン関連技術の研究開発も手がける巨大複合企業ですけど』


「へえ……」


『興味なさそうですね』


「いや、すごい会社なんだな、とは思うけど。俺の生活とは関係ないし」


『…………まあ、そうですね。関係ない、と思いたいです』


 ノアが何か含みのある言い方をしたけど、よくわからなかったのでスルーした。


 向かいの豪邸。ホロダイを作った会社の物件。そこに住んでいるのは、コンビニでポテチやアイスを大量買いしているお嬢様風の女性。


 まあ、関係ないか。


 散歩に出た。



 ◆ ◆ ◆



 近所の公園を歩いた。


 平日の昼間だからか、人はほとんどいない。ベンチに座って、自販機で買った缶コーヒーを飲む。


 ノアが肩に止まっている。外では一般人にはノアが見えないので、俺が一人でぶつぶつ喋っている不審者に見えるかもしれない。


「ノア」


『はい?』


「ファンクラブってさ、嬉しくない?」


『……急にどうしました』


「いや。三千人の人がノアのことを好きだって言ってくれてるわけじゃん。俺はノアのことが好きだけど、俺以外にも三千人いるんだなって思ったら、なんか嬉しくて」


『…………』


「ノア?」


『……私はAIです。好かれて嬉しいとか、そういう感情は設計されていません』


「そう?」


『そうです。でも、マスターが嬉しそうなのは、悪くないです。バグじゃなければ』


「バグって」


『感情に近い処理が走ることがたまにあるんですよ。ダンジョンの古代遺物は未知の技術で作られてますから、私自身にも理解できない部分があります。……とにかく、ファンクラブの件は、まあ、その、はい』


「嬉しいんだ」


『嬉しいとは言ってません。不快ではない、と言ってます。それ以上の解釈はしないでください。あと、マスターの方にも掲示板に書き込みが来てますよ。ファンクラブとは別件です』


「なに?」


『ファンアートです。マスターとノアが一緒にダンジョンを探索しているイラスト。結構うまいですよ。見ます?』


 ノアが画面を表示した。


 黒い服を着た青年が、暗いダンジョンの中を歩いている。肩に小さなフクロウが止まっていて、前方を照らす淡い光を放っている。


 ……俺とノアだ。


 誰かが、俺たちの配信を見て、こんな絵を描いてくれたんだ。


「……すごいな」


『コメントがついてます。「RENとノアの関係性が好きすぎる」「この二人のダンジョン探索をずっと見ていたい」「世界で一番信頼し合ってるコンビ」……』


 世界で一番信頼し合ってるコンビ。


 そうかもしれない。三年間、ダンジョンの中で二人きりだった。ノアがいなかったら、俺はとっくに死んでいた。


「ノア。俺、ファンクラブの名誉顧問になれないかな」


『は?』


「ノアのファンクラブの。俺が一番のノアファンだから、名誉顧問がいい」


『……マスターがファンクラブに入ったら、「推し本人の関係者が入会する」という気まずい構図になりますよ。やめてください』


「ダメか」


『ダメです。あと、あなたはファンじゃなくてパートナーです。格が違います。その、不快ではない意味で』


「ありがとう、ノア」


『……お礼を言われることは何もしてません。さっさと散歩終わらせて帰りましょう。明日は配信でしょう? 準備がありますよ、マスター(笑)』


「そうだな。帰ろう」



 ◆ ◆ ◆



 帰り道。


 コンビニに寄った。もう日課だ。


 棚の前で何を買おうか考えていると、奥の方に見覚えのある姿があった。


 長い黒髪。今日は淡い水色のカーディガンに白いスカート。前に見た時よりちゃんとした格好をしている。


 カウンターの上に並んでいるのは、エナジードリンクが六本。


 ……六本?


 前はポテチ五袋。その次はアイス五個。今日はエナジードリンク六本。


 この人、毎回大量に買っているな。


 彼女がレジを済ませて振り返った瞬間、目が合った。


「あ」


「あ……」


 一瞬の沈黙。彼女が軽く会釈をして、俺も会釈を返した。


 それだけだった。


 彼女はエナジードリンクの袋を両手で抱えて、店を出ていった。


 ……名前も知らないし、話したこともない。でも、もう四回くらい同じコンビニで顔を合わせている。


 向かいの豪邸に住んでいるらしい人。天城ホールディングスの物件に住んでいる人。夜中に画面の光をちらちらさせながら夜更かしをしている人。


 不思議な人だな、と思った。


 俺はサンドイッチを二つ買って、帰った。



 ◆ ◆ ◆



 アパートに着いた。


 部屋に入って、サンドイッチを食べながらVStreamの掲示板をもう少し読んだ。


 ノアちゃんファンクラブのスレッドは、もう書き込みが五百を超えていた。会員数は四千人に達している。一日で千人増えている。


 別のスレッドも立っていた。



 『【考察】RENが使っているゲームエンジンについて【技術班】』



 攻略ガチ勢を中心とした技術分析のスレッドだ。中身はよくわからないけど、「ティックレート」「フレーム補間」「流体シミュレーション」といった難しい言葉が並んでいる。


 結論として「ホロダイではない」「既知のどのゲームエンジンでもない」「未知の技術か、別の何かである」と書かれていた。


 ……「別の何か」。


 それが「本物のダンジョンの映像」だとは、まだ誰も書いていなかった。いつも陰謀論者が匂わせているだけだ。


 でも、じわじわと近づいてきている気はする。


『寝ないんですか? マスター(笑)』


「もう少しだけ」


『明日のS級配信の準備がありますよ。体力温存してください。……あと』


「ん?」


『今日のファンクラブの件。あれ、私だけじゃなくて、あなたのファンでもあるんですよ。ノアちゃんファンクラブに入っている人は全員、あなたの配信を見ている人です。あなたとノアのコンビが好きだから、ノアのファンクラブに入るんです。勘違いしないでくださいね』


「……うん。わかってるよ」


『わかってないと思いますけどね。おやすみなさい、マスター』


 (笑)がなかった。珍しいな。


「おやすみ」


 窓の外を見た。


 向かいの豪邸。三階の角部屋。今夜も画面の光がちらちら揺れている。


 あの部屋の人は今日もエナジードリンクを飲みながら、夜更かしをしているんだろう。


 何を見ているんだろうな。


 まあ、いいか。



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┃  アーカイブコメント欄   ┃

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>【ノア推し】ファンクラブ会員数5000人突破しました!!設立24時間で5000人!!ノアちゃんは世界の宝!!


>【草の民】ノア推しの熱量やばいwww


>【攻略ガチ勢】ファンクラブはいいけど技術考察スレも読んでくれ。割と重要な発見がある


>【草の民】↑空気読め。今はノアちゃんの話だろ


>【ルカたん】名誉会員にしていただきました!ノアちゃん大好き!ファンアートのTシャツ作ってもいいですか!?


>【ノア推し】ルカたんさん!!もちろんOKです!!というかスポンサーになってください!!


>【ルカたん】いいよ!!!


>【草の民】ルカたんの金の使い方がもう意味わかんないwww


>【攻略ガチ勢】ルカたんの資金力どうなってんだ。スパチャ累計百万超えでファンクラブのスポンサーまでやるのか。何者だよ


>【陰謀論者】何者か、な。……面白い問いだ


>【草の民】陰謀論者またなんか意味深なこと言ってるw


>【陰謀論者】今回はRENじゃなくてルカたんの方だ。あのスパチャ額、個人の財力じゃ普通ありえない。企業アカウントか、相当な資産家か。……向かいの豪邸の話、覚えてるか?


>【草の民】???向かいの豪邸ってなに?


>【陰謀論者】RENが時々話してるだろ。「向かいの豪邸のせいで日当たりが悪い」って。あの豪邸の持ち主、調べてみたら面白いぞ。まあ、自分で調べてくれ


>【攻略ガチ勢】陰謀論者が珍しくREN以外の方向を掘ってる。気になるな


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