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配信者ランキング1位の俺、 実はリアルダンジョンを VR配信だと思われている  作者: 八乙女モモ


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第2話 S級モンスターは倒せるが電車の乗り方がわからない

 朝起きたら、左腕が治っていた。


 昨夜飲んだ回復薬が効いたらしい。ダンジョンの中層で採れる薬草を煮詰めて作った自家製のやつだ。味は最悪だけど、骨折くらいなら一晩で治る。


 こういう素材が手に入るのも、ダンジョンに潜り続けている利点のひとつだと思う。普通の探索者(ハンター)は素材を業者に卸すだけで、自分で薬を作ったりはしないらしい。でも俺は三年間ダンジョンの中で自給自足していたから、薬の調合も料理も全部自分でできる。


『おはようございます、マスター(笑)。寝起きの顔がひどいですよ』


「……おはよう」


 枕元に置いた古代遺物。見た目はスマホくらいの石板だ。その上で、ノアがフクロウの姿で羽繕いをしていた。


「昨日の配信、なんかコメント来てた?」


『来てたどころじゃないですよ。アーカイブのコメント数が三千超えてます。大半は「このゲーム何」です。あと「物理演算がおかしい」と「MODの名前教えろ」が各四百件ほど』


「MODって何?」


『ゲームを改造するプログラムのことです。あなたの配信映像があまりにも高品質なので、既存のVRゲームを改造して画質を上げていると思われてるんですよ』


「……改造も何も、カメラ回してるだけなんだけど」


『ええ。ただカメラを回してるだけで、世界最高峰のゲームエンジンを超える映像になる。当然です、本物なんですから。でもそう思う人は誰もいません』


 ノアが翼の先で自分の頭を掻いた。困っているときの癖だ。


『あと、VStream(ブイストリーム)の配信者ランキングが更新されてました。RENは現在、日本五位です』


「五位?」


『先月は二十七位でしたから、かなりの急上昇です。一位はホロダイのプロプレイヤー、白波つむぎ。この人は毎月一位ですね』


「白波つむぎ……。すごい人がいるんだな」


『VStreamの総合ランキングで十二ヶ月連続一位。ホロダイの最難関コンテンツをソロでクリアした唯一の配信者で、同時接続の最高記録は四十万人です。まあ、マスターがやってることと比べたら「ゲームの中で強い人」でしかないんですけど』


「ノア、それ失礼じゃない? その人だって頑張ってるんだし」


『……はいはい。お優しいことで』



 ◆ ◆ ◆



 窓を開けた。


 全然眩しくない。


 向かいの豪邸が完全に朝日を遮っているからだ。三階建ての白い洋館。塀の向こうに庭木が見えて、屋上にはなんかアンテナみたいなものがいっぱい立っている。


 あの家、誰が住んでるんだろう。昨日コンビニで見たお嬢様っぽい人がいたけど、あの人だろうか。ポテチ五袋買ってた人。


「……まあいいか」


 特に興味はない。


 朝飯は、昨日ダンジョンで狩った魔物の肉の残りをフライパンで焼いた。味付けは塩だけ。ダンジョンの三年間で身についた食習慣が抜けない。


『普通の肉を買ったらどうですか。スーパーというものがこの世にはあります』


「スーパー……あの、広いコンビニみたいなやつ?」


『もういいです』



 ◆ ◆ ◆



 今日は配信の予定はない。


 でもやることはある。先月倒したA級ダンジョンのボスからドロップした魔石を換金しに行かないといけない。


 問題は、換金場所が池袋にあることだ。


 俺は池袋に行ったことがない。


 というか、電車に乗ったことがほとんどない。


 地上に戻ってきてから五年経つけど、基本的にダンジョンとアパートとコンビニの三角地帯で生活が完結している。電車に乗る必要がなかった。


『マスター。池袋まで電車で三十分ですよ。最寄り駅から二回乗り換えです』


「乗り換え……」


『電車を降りて、別の電車に乗り換えるだけです。案内表示の通りに歩けば着きます』


「案内表示ってどこにあるの」


『……天井とか柱に書いてあります。矢印の方に進んでください』


「切符はどうやって買うの」


『ICカードを使えば切符は要りません。改札にかざすだけです。マスターのICカードは去年私が登録しました。リュックの内ポケットに入ってます』


「あった。……ノア、これ残高いくら?」


『四百二十円です』


「足りる?」


『片道で足りなくなります。チャージしましょう。駅の券売機で現金を入れればチャージできます。一万円札も使えます』


「券売機……あのボタンがいっぱいあるやつ?」


『ボタンがいっぱいあるのは切符の券売機です。チャージは別の機械でできます。いえ、もう現地で教えますよ。行きましょう』



 ◆ ◆ ◆



 最寄り駅に着いた。


 改札の前で立ち止まる。人が多い。みんな当たり前のようにICカードをかざして通り抜けていく。


 俺はICカードを取り出して、改札にかざした。


 ピッ。


 通れた。


「……通れた」


『当たり前です。何を感動してるんですか』


 ホームに立つ。電車が来た。ドアが開いた。人が降りて、人が乗る。


 俺も乗った。


 車内は満員ではないけど、それなりに混んでいた。つり革を掴む。左手で。昨日まで骨折していた腕だけど、もう完全に治っている。


 隣に立っている女の人が、ちらちらとこっちを見ている気がする。


『マスター。あなた、リュックの横に剣がはみ出してますよ』


「……え?」


 見下ろすと、リュックのサイドポケットから黒い剣の柄がわずかに覗いていた。虚空断ち(こくうだち)。俺の武器。いつも持ち歩いている癖で、今日も入れたままだった。


『刃物を電車に持ち込むのは法律違反ですよ』


「え、そうなの?」


『はい。銃刀法違反です。ちなみに罰則は二年以下の懲役または三十万円以下の罰金です。ダンジョンに無資格で入る罪と合わせると、マスターの前科はなかなかのラインナップになりますね』


「…………」


『冗談です。刃渡りの基準がありますし、鞘に入ってるのでギリギリセーフだと思います。たぶん。おそらく。きっと』


「全然安心できないんだけど」


 隣の女の人が明らかに距離を取った。



 ◆ ◆ ◆



 池袋に着いた。


 乗り換えは意外とスムーズだった。ノアが耳元で「次、右です」「階段を降りてください」「その電車じゃないです」とナビしてくれたおかげだ。


 ダンジョンの最深部ではノアの指示で火球を避けている。都心の乗り換えも、本質的には同じことなのかもしれない。


 ……いや、ぜんぜん違う気がする。


 換金場所は、池袋駅から十分ほど歩いた雑居ビルの三階だった。看板のない古いドア。ノアが見つけてくれた非正規の換金業者だ。


 探索者資格がないと、魔石を正規ルートで売ることはできない。国の認定した買取所では探索者証の提示が必須だからだ。


 だから俺は闇市場を使っている。価格は正規の七掛けくらいだけど、身分証明が要らない。


 ドアを開けると、中には小太りの中年男が一人だけ座っていた。


「おう、何を持ってきたんだ?」


「A級のボスドロップです」


 リュックから赤い結晶体を取り出す。拳大の魔石。A級ダンジョンのボスからしか出ない高純度の結晶。


 男が鑑定器でしばらく調べた後、金額を提示してきた。


「……八百万」


「ノア、適正価格は?」


『正規ルートなら一千二百万程度ですね。七掛けで八百四十万。まあ許容範囲です』


「じゃあ、それでお願いします」


 現金で受け取る。振り込みは足がつくから、と男が言った。俺は分厚い封筒をリュックに詰めた。


 八百万円。


 俺のアパートの家賃が三万八千円なので、十七年分くらいになる。配信のスパチャを合わせると、お金の面で困ることはあまりない。


 ……のに、俺は相変わらずボロアパートに住んでいる。なぜなら引っ越し方がわからないからだ。



 ◆ ◆ ◆



 帰り道。


 池袋の駅前を歩いていると、大きなモニターにVStreamの広告が映っていた。


 『VStream 配信者ランキングTOP5 今週の注目配信者は――』


 一位の欄に、白波つむぎという名前と、かわいらしいアバターの画像が表示されている。


 二位以下は知らない名前が並んでいて、五位に「REN」と書いてあった。


「あ、俺だ」


『街頭モニターに名前が出る配信者が、電車の乗り方を知らないんですよ。恥ずかしくないんですか』


「別に恥ずかしくはないけど……。なんか不思議な感じだ。俺の名前が街にあるって」


 立ち止まって、しばらくモニターを見上げていた。


 白波つむぎ、一位。REN、五位。


 この人はどんな人なんだろう。毎月一位をずっと取り続けてるって、相当すごいことだ。ホロダイっていうゲームのことはよくわからないけど、努力している人なんだと思う。


「いつか会えたりするのかな」


『配信者同士のコラボは珍しくないですよ。ただ、マスターの場合、コラボ先が「本物のダンジョン」になるので、相手を選びますね』


「そっか……」


 一緒にダンジョンに行ってくれる人がいたらいいな、と思った。


 でもそれは今日考えることではない。


 帰ろう。



 ◆ ◆ ◆



 夕方。最寄り駅に戻ってきた。


 帰り道にコンビニに寄る。今日で三日連続だ。


 棚の前で何を買うか悩んでいると、奥の方に見覚えのある姿があった。


 長い黒髪。昨日はワンピースだったけど、今日はジャージにサンダルという格好。手にはアイスを四つも抱えている。五つ目をどれにするか棚の前で真剣に悩んでいる。


 ……昨日はポテチ五袋。今日はアイス五個。


 あの人、いつも大量に買ってるな。


 目は合わなかった。というか、彼女の方は完全にアイスの棚に集中していて、周囲が見えていない様子だった。


 特に話しかける理由もないので、俺は肉まんを二つ買って店を出た。


『マスター、肉まんは今日は自分でレジに頼めましたね。成長です』


「昨日教えてもらったからな」


『まあ、昨日教えてもらったことを翌日できるようになるのを「成長」と呼ぶのは、幼児の発達基準ですけどね』


「うるさいな……」


 夜道を歩きながら肉まんを食べる。うまい。温かいものを外で食べるのは好きだ。ダンジョンの中では火を使うと位置がバレるから、冷たいものしか食べられなかった。


 アパートに着く。向かいの豪邸の窓から、かすかに明かりが漏れている。三階の角部屋だけ、いつも遅くまで明かりがついている。


 たまに画面の光がちらちらと見える。パソコンかテレビだろうか。


 あの家の人も、夜更かしなんだな。


 俺は部屋に入って、魔石の売上金をクローゼットの奥に押し込んで、シャワーを浴びて、寝た。


 明日は配信しよう。昨日のアーカイブが盛り上がってたみたいだし。


『マスター。おやすみ前に一件。VStreamから公式メッセージが来ています。登録者数十万人突破のお祝いと、パートナー契約の案内です』


「パートナー?」


『広告収入が入るようになります。あと、配信カテゴリの上位に表示されやすくなります。サインしましょうか?』


「うん、お願い」


『了解です。……ちなみにこの契約、本名と住所の登録が必要なんですが、マスターの住民登録、まだ"行方不明者"のままですよ。直さなくていいんですか?』


「……今度やる」


『半年前から「今度やる」って言ってますね。まあ、今までもなんとかなってるので、もうしばらくなんとかなるでしょう。おやすみなさい、マスター(笑)』


「おやすみ」



┏━━━━━━━━━━━━━━━┓

┃  アーカイブコメント欄   ┃

┗━━━━━━━━━━━━━━━┛


>【攻略ガチ勢】昨日のアーカイブのフレーム解析結果を共有する。ボス撃破時の粉塵の舞い方、流体シミュレーションのレベルが既存のどのゲームエンジンとも一致しない。特に粒子の散り方が乱流モデルに従っていて、これはプリレンダではなくリアルタイム計算。ホロダイのエンジンではこの計算は不可能


>【草の民】↑長い。三行で


>【攻略ガチ勢】1. この映像はホロダイじゃない 2. 既存のどのVRゲームでもない 3. じゃあ何なのかは知らん


>【陰謀論者】3の答え、俺はずっと前から言ってる


>【草の民】またリアル厨で草


>【ルカたん】今日RENくん配信なかったけど元気かな。昨日の骨折ちゃんと治ったかな


>【ノア推し】ルカたんの心配の仕方がガチ恋勢のそれなんよ


>【ルカたん】ガチ恋じゃないです!!応援してるだけです!!


>【草の民】否定が早いなwww


>【攻略ガチ勢】あと気になったんだが、RENがランキング5位に入った。このペースで行くと月内に3位もありえる。1位の白波つむぎと同じカテゴリで競ってるけど、片方はホロダイのトップランカーで、片方は……ホロダイなのか、何のゲームかわからないやつ。この構図、面白くなりそうだな


>【陰謀論者】面白くなるよ。お前らが思ってる以上にな


┗━━━━━━━━━━━━━━━┛


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