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97話 スティアの憂鬱


「難しいわね……」


 私、スティア・オーラライトは、来年も入学試験に向けて、家庭教師から習った勉強の復習をしていた。


 人間ずっと覚えているなんてことは出来ず、前まで解けてた問題に何度か苦戦しつつ、王妃教育のためにも『勉強に慣れる』ことから覚え直している。


 しかし、そんなこと全て忘れてしまう事が起きた。



「失礼いたしますお嬢様」


 オーラライト家の執事長、ハンリがノック音と共に扉を開く。


「スティア様、旦那様と奥様がお呼びです。大広間までお越しください」

「わかったわ」


 教材を開きっぱなしにして椅子を降り、大きく伸びをしながら大広間に向かう。


「お父様、お母様、どうされたの?」

「スティア、取り敢えず座りなさい」

「はぁい」

「スティア、ちゃんと返事をしなさい!」

「はい!」


 大広間にはお父様とお母様、メイド長のレイナ、私を呼びに行ったハンリの五人。


 そしてもう一人、見知らぬ男の子供がいた。


「お父様、この子は一体……」


 少しボサボサだが黒色の綺麗な髪をしており、澄んだ水色の瞳は怯えるように揺れている。


「この子はダイア。訳あって暫く家で預かることになった」

「訳あって?」

「両親が他界してね、行き場を失った時に出会ってね」

「このまま施設に入るより、家に来ないかって!」

「なるほど」


 いきなりでびっくりするし、あんまり納得はいってないけど、オーラライト家の子供は私一人で、後継がいない現状。


 打算的に考えたら男の子は欲しい。


「…………わかったわ」


 釈然としないが今は頷く。


「養子縁組をするかどうかはダイアの勉強の意欲やスティアとの関係を見てから考えるから、安心してね」

「はい」


 お父様はそう言うが、きっと男の子は欲しい。


「ダイア、スティアに挨拶しなさい」

「はい……」


 お父様に背中を押され、ゆっくり私の方へと歩いてくる。


「初めまして。えっと、ダイアと申します」

「……」


 ぎこちない礼を一つしているが、あまり気持ちがこもっていない。


 というか、私に強く怯えている。


「初めまして。スティア・オーラライトですわ? あなたお幾つですの?」

「ご……五歳です」

「なら勉強を始める時期ですけど……」


 果たして勉強は出来るのだろうか。



「取り敢えず、顔合わせはこれくらいで良いかな? ハンリ、彼の身体を綺麗にしてきてくれ」

「承知いたしました」


 ハンリはゆっくりダイアに近づき、膝をついて目線を合わせる。


 ダイアは思わずといった様子で後退りするが、ハンリは臆することなく優しい笑顔を作る。


「今からお風呂に行きますよ。少しお身体を綺麗にしましょう」

「わ……わかりました……」


 それからダイアは、怯えながらもハンリの後をついて大広間から去っていった。


「スティア、ダイアがいない内に、彼の家族について話そう」

「わかりました」


 少し緊張の入ったお父様の声は、無意識に背筋を立たせる。


「彼の両親は賊に殺されたんだ」

「賊? そんな輩がこの国に?」


 ナンパや誘拐からまだしも、金目のために人殺しを行うクズがいるとは……。


「いや、他国に行っている時って言ってたかな? 王国に戻ってる最中に襲われたんだ。両親はダイアの目の前で死んで、ダイア自身は偶々通りかかった御者に拾われて王国に戻ってきた」

「そう……なんですね」

「賊に襲われたからかしらね? 極度に人を怖がるのよ」

「……」


 お父様とお母様も困ったようにしている。


 てっきり貴族にトラウマが植え付けられたのかと思ったが『人間』という括りとは思わなかった。


「だからスティア、ダイアと無理に関わる必要はないけど、見ていてくれると嬉しいよ」

「当然ですわ!」


 事情が分かった以上、最初の釈然としないモヤっとした気持ちなんて既にない。


「それに、私はあと半年もすれば、お腹の子で手一杯になっちゃうもの」

「……え? お母様?」


 お母様は自分のお腹を摩って笑顔を浮かべている。


「スティアにはもう少し内緒にしてようかと思ったけど、良い機会だしね?」

「そうだな。今お母さんのお腹の中には赤ちゃんがいるんだよ」

「嘘!?」


 シャイナ、ヒカリちゃん、レオン。


 私、もう直ぐ姉になります!


 果たして子供が生まれるのが先か、ダイアが認められて養子縁組が先か!


 何にせよ、家族が増えそう!

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