96話 塾の先駆け
あれから数日。
「うーん……」
「ユース、どうしたの?」
コウの勉強を見てくれているユースが、勉強終わりに頭を抱えていた。
「ヒカリ様、申し訳ございません、私情なのでお気になさらず」
「ユース!」
「……よろしいのですか?」
「今更何に気を使うの?」
僕の勉強を四歳〜十歳まで見てくれて、コウの勉強も一年間しっかり見てくれている。
家族ではないにしろ、親戚のような間柄だ。
「実は……コウ様の家庭教師を退こうかと思いまして」
「なんでぇぇぇ!?」
いや大事件! どうしてそうなった!
「処遇改善ならするわ! お父様に掛け合うわ! だからーー」
「難しい言葉を知っているのですね? そうではないのですけどーー」
「じゃあどうして!?」
何が納得出来ないのか、いつも楽しそうに教えていたように見えたのに。
「すみません、私の言い方がダメでした。少し前にオズワルド様とご相談したことがありまして」
「お父様と? コウのことで?」
「はい。正確には『家庭教師を必要としている子どもたち』についてですが……」
そこからユースは、現状家庭教師が不足していることを教えてくれた。
ほぼ毎日家に来てくれる家庭教師は、最早貴族の私物化しており、平民たちに行き届かない現状が何十年と続いているらしい。
平民は、本や親の教え、殆ど独学で学園に入学しているとのこと。
「なので、家庭教師を必要としている子供たちを一か所に集めて教えられないかと思いまして」
「塾みたいな感じか」
「じゅく?」
「ううんなんでもない。確かに良いと思うわ?」
「はい。まだ企画段階で何も準備も出来ていないのですが、貴族の子供も何人か居れば『貴族至上主義』の考えも幼い頃から意識改革出来るのではと」
「凄く良いじゃない!」
貴族生活に慣れて全然気付かなかった。
というか、立場が恵まれ過ぎててそういう現状だということに気づけなかった。
「なので、もし実現した場合、コウ様専属の家庭教師ではなくなってしまいます」
「そうね、それはコウ次第だけど、私は大賛成よ!」
「ありがとうございます」
取り敢えず不満爆発案件じゃ無くて一安心だ。
話し終えたタイミングで応接室にノック音が響き渡り『ガチャリ』と扉が開く。
「あ、ヒカリ様もいたんだ!」
「ルカ! 言葉遣い!」
「はっ! ヒカリ様もいらしたのですね!」
「ルカ久しぶり!」
相変わらず敬語が苦手そうなルカだ。
「ナツは?」
「ナツは今日彼氏とデート。ハイス子爵様からの過剰なアプローチもなくなってスッキリしてそうでした。改めてありがとうございます」
綺麗な九十度のお辞儀を見せてくれた。
「どういたしまして! そういうルカは好きな人はいないの?」
「うーん…………」
凄く頭を傾けて考えている。
「昔はヒカリ様好きだったけど、今はいないかな?」
「え!?」
なんか凄い衝撃発言だったけど、本人目の前にいるよ?
「なんか、高嶺の花過ぎて、冷めちゃいました」
「あはは……」
「ルカ、目の前にヒカリ様いるのよ……?」
要は自分とは絶対釣り合わないから諦めたんだ。切ない恋だ全く。
「でも、今は恋愛はいいかなって。勉強ついていくのに必死だし」
「良いと思うわ? 恋愛が全てじゃない……って私が言っても説得力ないでしょうけど」
「ヒカリ様、なんか達観してますね?」
「あはは……なんでだろうね……」
前世で恋愛経験ゼロだからだよ。達観どころか悟りだよ。
まぁ今はレオンというとても優秀な人にくっついているけど。元男のくせに。
「そういえばヒカリ様、今年の新入生にとんでもない人がいたんですけど」
「レオン第三王子様のこと?」
「いやそうじゃなくて!『セイナ・スカラ侯爵令嬢』って人なんだけど」
「セイナ・スカラ……」
流石にその名前は覚えている。
スカラ侯爵『貴族至上主義』の筆頭。
ハイス子爵とトラブルがあった時もアリアちゃんが『これだから『スカラ派閥』は嫌なのよ』と吐き捨てていた。
「もうことあるごとにレオン第三王子にベッタリ。嫌がってるのがわかんないかなってくらい」
「あはは……」
手紙を送り続けてる侯爵の中にセイナも入ってるんだろうな……。
「侯爵ってあんなのばっかりなのかな? 僕の学年の侯爵もすげぇ傲慢なんだよね?」
「あはは……」
苦笑いしかできません。
確か『オウ侯爵』ってところが『公平主義』だったけど、会ったことないんだよな……。
「ヒカリ様みたいな貴族様もっと増えて欲しいな……」
「それは……私もそう思う……」
四大貴族と王族、そして多くの侯爵、見事に質と量で派閥の均衡は保たれているのだ。




