94話 未来のクラス
「んで、なんでそんな泣いてんだ?」
「……色々ありました」
この場で説明するのも大変なので、適当にお茶を濁す。
「知りたかったら泣いている女の子にケーキ一つ奢ってください」
「図太いなお前? アリアが聞いたらビックリするぞ?」
結構本気で頬を引き攣っている。
「まぁそれくらいならいいけどな? ルージー侯爵令嬢と一悶着あったっぽいし?」
「……どこから見てたんですか?」
「え? ルージー嬢が入って来た時から?」
「助けてくださいよ!?」
最初から最後まで見てるじゃん!?
なんでのほほんと今来ましたみたいに現れてんだこいつ!
「助けようかなって思ったけど、俺部外者だし?」
「うっ……」
確かに今回の騒動は、レオン第三王子の婚約者候補同士の衝突だ。
ユアン様には関係ない。
「そもそもアリアとフラン、えっと俺のもう一人の婚約者候補のシロ侯爵もギスギスしてるし、そんなものかなって思って」
そういえば、シャイナちゃんも『婚約者候補同士はもっと出し抜きあうものだと思ってた』って言ってたけど、それが事実だったらしい。
まぁそれはそれ、これはこれだ。
「……アリアちゃんに言いつけてやる」
「ヒカリちゃん、紅茶もつけてあげるよ」
「乗った」
「今日の服かわいいね? アリアの髪色と同じスカートが良く似合ってるよ」
「ケーキ一つで許してあげます」
調子の良い僕はアリアちゃんを引き合いに出されただけで陥落してしまう。
「ロアさん、冷たい瓶ありがとうございました」
そんなわけで奢ってもらうことも確定し、ある程度痛みも引いてきたので瓶を返す。
「あ、どうも……」
少し目を泳がせたあと、何事もない様子を振る舞って瓶を受け取る。
「ハネットさん、席借りても良いですか?」
「良いわよ? ご注文は?」
「私はショートケーキと紅茶」
「おいケーキ一つで許すってーー」
「初対面で私を口説こうとした分これでチャラにしてあげます」
「この女……!」
ユアン様を連れて二人席に腰掛け、注文を待つ。
「んで、これからどうするんだ?」
「何がですか……?」
どうすると言われても、何がなんだかわからない。
「ヒカリちゃん、学園で確実に絡まれるぞ」
「それはもう散々言われました」
流石にこれだけ頻繁に言われれば覚悟も出来る。
「侯爵家もだけど、同学年の男子からもだ」
「それも聞きました。あくまで婚約者『候補』だから近寄ってくるーー」
「そうじゃない」
少し強めに割り込み、かなり真剣な目つきで僕を見つめる。
「女の子が虐められて、男子がそれを守る構図が出来上がるんだよ。しかも伯爵は上積みの貴族でもないから『しっかり守れば自分が婚約者になれるかも』と変な期待をする奴もいる」
「……うわぁ」
ちょっと嫌だ。
冗談抜きで、僕一人がクラスを左右する力を有することになる。
まだそうなったと決まったわけではないけど、現状そうなる可能性が高い。
「俺のクラスにもいるんだよ、男爵なのに侯爵と婚約取り付けた人が。子爵と伯爵からすげぇ嫌がられてて……」
「……学園って本当に公平なんですよね? 貴族平民関係ないんですよね?」
明らかに肩書だけの公平になっている気がする。
「ちょっと愚痴に走っちゃったけど、ヒカリちゃんはこれから絡まった糸の中心に行くことになるんだ」
「急に詩的な言い方になりましたね?」
「ウダウダ説明するよりわかりやすいだろ?」
「はい、とても」
嫌になるほど理解出来た。
「大変そうな話してますね?」
「わぁ! 美味しそう!」
そのタイミングで注文のショートケーキと紅茶が届き、嫌な話が甘い匂いでかき消される。
そして何故か苺が二つ乗っていた。
「はいこれ。タルト四つね? ケーキの苺は私とロアからの、慰めの品?」
「良いんですか! ありがとうございます!」
「良いのよ! ヒイカちゃんみたいな可愛い子引っ叩くなんて許せないわ?」
「えへへ!」
「可愛い!」
ハネットさんは癒しを求めるように僕の頭を撫で、自然と笑みが溢れ出す。
「役得だなぁ?」
「ユアン様も撫でて欲しいの?」
「え!? 王子様を撫でるのは不敬に当たりませんか?」
「やらんで良い!」
目をギョッと丸くしてツッコミを入れた。
「それじゃあごゆっくり!」
「ありがとうございます!」
紅茶の匂いとハネットさんの癒しで、だいぶ重かった気持ちが晴れました。




