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91話 婚約者候補


「元婚約者候補の侯爵令嬢がどうかされたんですの?」


 長々とした文字だが、当てつけにはもってこいの言葉だ。


 そして容赦なく言い切るスーちゃんは流石の傲慢さである。


「手紙を送ってきたり、贈り物を届けたりするんだ。何度か直接断ったんだけど、納得いかないらしくて……」

「……四年前の話ですよね? どうしてそんなに躍起になるの?」


 前世含めて恋愛なんてしたことないけど、四年も経てば失恋の傷なんて癒えるものじゃないのか?


「なるほど、原因はヒカリちゃんですわね?」

「…………そうなんだよ」

「え? 私?」

「なんか……納得だわ?」

「なんで!?」


 スーちゃんとシャイナちゃんは腑に落ちた顔をしているが、僕は何がなんだかさっぱりだ。


 そもそも六歳の時のお茶会以降、侯爵家の人間と一切関わっていない。


 それなのに自分に原因があると言われても非常に困ってしまう。


「簡単よ? ヒカリちゃんが婚約者候補に残っているのが納得いかないのよ」

「えぇ……」


 トワ様が呆れたように呟く。多分手紙の内容も見たことあるのだろう。


「手紙には時々、ヒカリの恨み節のようなことも書かれててね……」

「本当になんで!?」


 なんで一切関わっていない人間の恨み節が出てくるの!? 理解できない!?


「嫉妬って厄介な感情よね? 気付けば恨みに変わってるもの」

「……」


 前世のアニメやドラマなんかでも、色恋沙汰が原因で虐めに発展した描写がいくつもあったし。


 まさか自分がそれに当てはまるとは……。


 そして王妃様の言葉がやけに重いのは、体験談だからだろう……。


 トワ様は元平民の婚約者候補。現公爵ということを忘れたおバカな学生が虐めたのだろう。



「なんか……怖いな……」


 明確に買ってしまった恨みなら謝罪とか巻き返しでどうにかなるけど、顔すら忘れた相手からの恨みは得体が知れない。


「大丈夫よ! ヒカリちゃんは私が守るわ!」

「スーちゃん……!」


 タルトを頬張りながらニカリと笑うスーちゃんは、何故か凄く頼もしく見えた。


「スティア、今僕が言おうとしてたんだが……」

「あら遅かったわね? 私が先に言っちゃったわ?」

「スーちゃん……」

「あはは……」


 婚約者候補に弄ばれる王子様である。


「スティアはいつもこうなんだよ、気が強くて格好いいから僕の立つ背がなくなっちゃう」

「王子様が情けないわね? そのうち私から切っちゃうわよ?」

「もう少し慎重に選ばせて欲しいな?」


 最早夫婦漫才のように見える。


 きっとこれがスーちゃんとレオンの関わり方なんだ。


 婚約者候補だからと言ってベタベタしたりせず、ありのままの自分で歩んでいる。



「でも不思議ですね?」

「シャイナちゃん?」


 シャイナちゃんは全員を見回し、クスリと笑う。


「婚約者候補同士って、もっとギクシャクするものかと思ってたのだけど、一緒にいてこんなに楽しいなんて!」

「それは私も思った」


 言ってしまえば一人の王子様の奪い合い。


 それなのにこんなに和やかで、スーちゃんとレオン様の関わりを見ても、少し妬くけど、お似合いの二人って気持ちの方が前面に出てくる。


「多分、ヒカリちゃんのお陰なんだけどね?」

「え、私?」


 まさか自分の名前が呼ばれるとは思っていなかった。


「だってヒカリちゃん『誰がレオン様と結ばれてもこの人ならしょうがないって思いたい』って言ってたじゃない?」

「あぁ……言ってたような……?」


 遥か昔の記憶過ぎて覚えてないけど、似たようなことを言った記憶はある。


「私、出し抜き合うより凄く良いなって思ったの! だから皆んなで集まっても楽しいのかなって?」

「シャイナちゃん!」


 この子、いい子過ぎる!


「シャイナはいつも二人の話を楽しそうにするんだ」

「うふふ、レオン、あんまりもたもたしてると私が二人とも取っちゃうわよ?」

「僕の婚約者がいなくなっちゃうよ!」


 シャイナの冗談に全員が笑いに包まれる。


「冗談よ! いくら二人のこと大切でも、レオンの隣には私が居たいもの!」

「私もそうね! いなくなったらつまらなさそうだもの!」

「私も!」


 全員が全員、ちゃんと婚約者候補なんだ。


「だからレオン!」

「ヒカリ?」


 僕はしっかりとレオンを見つめる。


「学園で目移りなんかしないでね!」

「っ!」


 三者三様、しっかり笑顔を溢れさせる。


「うん、ありがとう三人とも!」


 こうしてレオンの入学祝いは幕を閉じた。



 そして、ヒカリちゃんが学園入学まで、あと一年。

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