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90話 温かな世界


 最後の魔法の授業は、今日までのおさらいだった。


 しっかり気持ちを作って魔法で髪を染めて、どれだけ持続するか。


 二、三回それをやっただけで終了。


 ちなみに今日までの成果、僕は三十分、レオンは四十五分。


 二人揃って一時間すら持たなかったのだ。


「二人ともよく保つようになったわね?」


 それでもトワ様は大いに褒めて下さった。


 まぁ魔法に関しては学園で習うことの先取りだし、十二歳〜二十歳の八年かけて鍛えるものだ。


 それでようやく三時間保つ人が現れるのだから、たった一年にしては上出来だろう。



「疲れたね……?」

「うん」


 体力不足と違って、気持ちを作るのはかなり難しかった。


 何せ『やりたくないな』って気持ちが混ざってたら直ぐに魔法が切れてしまう。


 だからこそブレない気持ちや折れない気持ちが必要なんだけどね。


「さて、少し早いけど今日はここまでかしらね?」

「はい! 一年間ありがとうございました!」


 トワ様に礼を一つ捧げ、そっとスーちゃんとシャイナちゃんの方を見る。


 二人と目が合い、さっと屋敷に入って行った。


 手作りタルトケーキを持ってきてくれる間、僕は直ぐ帰らぬよう時間稼ぎだ。


「レオンも一年間付き合ってくれてありがと?」

「それは僕の台詞だよ。僕がわがままでついてきたのに、練習に参加させてくれてありがとう」


 ニカリと笑う姿は、魔法で少し疲弊しているはずなのにに爽やかで『これだからイケメンは!』とドアを叫びたくなるほど清々しくて綺麗だ。


 そこからトワ様とレオンと三人で雑談をして、ようやくーー


「きた!」

「何が……あれは!」


 スーちゃんとシャイナちゃんがワゴンを引きながらゆっくり僕らの下まで到着。


「ヒカリちゃんこっち!」

「うん!」


 シャイナちゃんの手招きに応じて二人と並び、ワゴンの上に置かれていたクロッシュを三人で持ち上げる。


「「「レオン様、ご入学おめでとうございます!」」」


 言葉は全く仕込んでいなかったけど、嬉しいことに言いたいことが綺麗に重なる。


「これは……!」

「まぁ! 素敵じゃない!」


 目を丸くするレオンと、喜びが抑えられないトワ様。


「ヒカリちゃんが『入学祝いしよう』って!」

「シャイナちゃんが手作りしたいって言ったので、皆んなで作りました!」

「なんだかんだスーちゃんが一番張り切って作ってたわね?」


 皆んなでヨイショの仕合いをしたが「三人とも頑張られてました」とシャルが一言で締める。


「タルトにしようって言ったのはシャルよね?」

「よくお気づきですねトワ様」

「話した人がシャルだけだしね? ナイスよ!」

「ありがとうございます」


 そしてトワ様が最後にシャルをヨイショする。



「三人とも……ありがとう!」


 思わずと言った様子で笑みが溢れる。


「えへへ!」

「大成功じゃない?」

「大成功に決まってるでしょ!」


 僕たちも嬉しくなってしまい、節々に声が漏れる。


「さて、では切り分けましょう」


 そんなわけでシャルが包丁で六等分に切り分け、レオンには二つ、四人には一つずつタルトを配る。


 しかしーー


「君は食べないの?」


 唯一タルトが二つあるレオンが、シャルを見つめる。


「私はメイドですので」

「でも、三人と一緒に作ってくれたのでしょ?」

「私はお手伝いしただけで、何もーー」

「シャル!」


 全否定する前に僕が声を上げる。


「ヒカリ様…………。そうですね、では、ありがたく頂戴します」

「うん。シャルと言ったね? 君も僕のためにありがとう」

「とんでもございませんレオン様。コウ様、半分個しましょう」

「うん! しゃるありがとう!」

「…………」


 なんか、こういうところ好きだな。


 少し前、コメンさんやゲンさんにちゃんと労ったように、身分が下の人にもちゃんと大切に扱ってくださる。


 スーちゃんとシャイナちゃんもそうだけど、そういうところがすごい好き。


「レオン、最近ちょっと疲れてたから嬉しいんじゃない?」

「それはもう……とても嬉しいです!」

「入学準備とか忙しいの?」


 そんな素ぶり見えなかったが、時期が時期だし疲れているのかもしれない。



 しかし、自分の想像とは違った、あるいは想像通り通りの疲労だった。


「ちょっと、婚約者候補から外れた侯爵の人が……ね?」


 苦笑いで答えているが、確実に大きな悩みだった。


 それは、きっと僕にも訪れる未来。

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