88話 タルト作り
お父様に厨房まで案内され、僕もスーちゃんもシャイナちゃんも普段入らない場所に訪れたからか、目新しさに目を泳がせている。
「トワ様とレオン様が来るのは午後からだし、ある程度時間はあるけど、あんまり失敗は出来ないね」
お父様が厨房の時計を見つめ、眉間に皺を寄せる。
「旦那様、一応レシピは書いておきましたけど、子供三人で作らせるには危ないと存じます」
「そうだね」
名の知らぬ料理人は僕らを見つめて不安に瞳を揺らす。
まぁ雇い主の娘と公爵の娘二人だもんね『何かあったらどうしよう!』どころじゃないよね。
「シャルはお手伝い出来ないのかな……?」
「出来ますよ?」
「うわぁ!?」
なんとなく声を出してみれば知らぬ間に背後に立っていた。
「私も自分の子供に焼いたことありますし、オーブンの一角され使えれば出来ますよ」
キリリと言い放つシャルは、女性なのにどこか男前に感じた。
「因みに、レオン様はタルトが好きだと王妃様が言っておられました」
「どこで仕入れたのその情報……」
「そうなんだ……」
「なんで知ってるの……かしらね……?」
抜かりないどころじゃなくて……有能過ぎません?
スーちゃんとシャイナちゃんに至ってはかなり引いている。
まぁトワ様が幼い頃からメイドでずっと一緒だし、世間話の一つくらいする……のかな? 王妃様だよ?
「とりあえずタルトにしましょう! シャル、お手伝いお願いね?」
「おまかせください」
なんにせよ方針が決まった。
若干引いていたシャイナちゃんもウズウズし出したし『レオン様入学祝いサプライズ計画』開始です!
*
「まず、卵を黄身と卵白に分けます」
「シャル……助けてぇ」
「ヒカリ様、自分で頑張ってください」
黄身が割れながらもなんとか分けることが出来た。
「次に、バターを混ぜて下さい」
「シャルさん、バターだけで混ぜるのですか?」
「はい」
「…………本当に?」
シャイナちゃんは固形のバターを混ぜると言う不思議な行動に手が固まる。
「はい、砂糖を入れてもっと混ぜて」
「スーちゃん変わってぇ……腕痛い……」
「しょうがないわね!……なんでこんなバラバラなのよ」
スーちゃんはバターと砂糖が入り混じった砂みたいな光景に固まる。
「お嬢様方、袋を温めたらお菓子が出来上がるなんてことはないのです。不思議に思っても、こうやって一から作らないと、見慣れたお菓子にはならないのです」
もの凄い講釈垂れてるシャルだが、今の僕たちにはよく刺さってしまう。
何せまだタルトの原型すら見えてこない。
初めて早々心が折れかけている。
「大丈夫です、皆様なら完成させられます。レオン様がびっくりするお姿見たくないですか?」
「……見たいわ、凄く見たい!」
心が折れかけてたシャイナちゃんは目に輝きを取り戻す。
「スーちゃんも見たくないの! レオン様がビックリする姿!」
「……見たい。超見たい!」
「私も見たい!」
それを皮切りに僕とスーちゃんも元気を取り戻す。
そうだよ、元々前世からお菓子作りなんてしたことないんだし、この程度でへこたれるほど柔な婚約者候補たちじゃない!
「ねぇシャルさん、このあとはどうするのかしら!」
「そうですねーー」
やる気スイッチの入ったスーちゃんは凄く元気で、そこからシャルを一切疑うことなく指示に従って作り進めていく。
クリームを作り、生地を焼き、フルーツで盛り付けーー
「「「出来たぁぁ!」」」
おおよそ一時間。
お店で見かけるようなタルトケーキが出来上がった!
「お菓子って……こんなに大変なのね……!」
「私も、知らなかったわ……!」
「職人さんって凄いんだね?」
たった一時間で疲労困憊の令嬢三人。
少し焦げたり、フルーツの配置が微妙だったり、お世辞にも綺麗とは言えないが、どのお菓子よりも愛情はてんこ盛りだ。
「どうせなら、ちょっと食べたいね?」
「ダメよスーちゃん! レオン様のためのものなんだから!」
完成したタルトに目を輝かせている。
正直僕も食べたいから気持ちはわかるけどね。
「じゃああとは、レオン様が来るのを待つだけね!」
「「うん!」」
気付けば三人揃ってお腹の虫がなり、達成感に浸りながら皆んなで昼を過ごした。




