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86話 私の足で


 翌朝。


 先に目が覚めた僕とアリアちゃんは、早いうちに食堂へ向かおうとしたが「アリアちゃん先に行ってて?」と言葉を残して、僕は客室に残った。


 綺麗になった服に着替えて起きるのを待つ。


 コウがまだ寝ているというのが五割。


 もう五割の理由がーー


「んん……」

「あ、カルラくんおはよう?」

「あ……ヒカリちゃん、おはようございます」


 大きく伸びをして目を擦り、ふにゃふにゃのカルラくんが挨拶をする。


「お姉ちゃんは?」

「先に食堂向かったよ?」

「ヒカリちゃんは……コウくんなら僕が案内しましたよ?」

「それもあるんだけど、昨日ちゃんとお礼言えてなかったから!」

「お礼……?」


 不思議そうに首をコテンと傾ける。


 僕はクスリと笑ってカルラくんのベッドの隣に立つ。


「昨日は私の我儘に付き合ってくれてありがとう!」

「……子供の親を探した事ですか? あれは全然我儘なんかじゃ……それに僕がついていきたかったからついていっただけでーー」

「それでもだよ?」


 カルラくんの頭を撫で、溢れる笑みを向ける。


「ありがとうカルラくん、格好良かったよ?」

「っ!!」


 すると、カルラくんは真っ赤になって硬直した。


「さっ! コウも起こして皆んなで食堂行こっか!」

「は……はひぃ!」


 ぎこちない返事をしたカルラくんは、目がぱっちり開いているのに動けなさそうにしていた。


 そんなことがありつつ、コウを起こして二人は着替え、三人で食堂へ向かう。



「おはよう三人とも……あら、カルラ顔真っ赤だけど、どうしたの?」

「い……いや何も、ないですお母様……」

「?」

「あはは……」


 僕のせいなんだけどね?


 ちょっとやり過ぎたけど、お礼言わないよりマシでしょ。


 そんなわけでセルライト家とウィンガート家揃って食事をして、雑談して、目一杯団欒の時間を過ごした。





「また泊まりに来てね!」

「勿論だよアリアちゃん!」


 お昼前、ウィンガート家が全員で馬車に乗り帰る直前の中、僕とアリアちゃんは清々しく別れの挨拶をしている一方。


「……」


 カルラくんは非常に名残惜しそうにしている。


「コウ、二人にお別れの挨拶しようね?」

「うん、またね!」


 コウは窓から小さな手を振ってニコニコ顔で二人を見つめる。


「コウくんも、いつでも来てね?」

「ん! ありがとうありあしゃん!」

「ありがとね!」


 アリアちゃんの顔が溶けてる。そりゃコウは可愛いからね。


「かるらくんも!」

「コウくん……!」


 カルラくんもコウの柔らかさに負けて笑みがこぼれ落ちる。


「それじゃあ、出発するよ?」

「お願いします!」

「あい!」

「楽しかったわね?」


 馬の鳴き声とともにゆっくり馬車が動き出す。


「ヒカリちゃん!」

「ん?」


 カルラくんが大声で僕の名を呼ぶ。


「今度は……その……なんでもない! またね!」

「ん?」


 結局、カルラくんがなんて言おうとしたのかわからなかったが、最後は元気そうな笑みが見れた。



「楽しかったね、コウ?」

「たのちかった!」


 コウにカルラくんという新たなお友達も出来たし、アリアちゃんにも懐いてたし、個人的には大満足だ。


 お泊まりするのは想定外だったけど、コウが楽しんでくれて良かった。


 そしてーー


「お母様」

「なぁに?」

「カルラくん、私のこと本気で好きみたいなんだけど」

「あら良いじゃない! 将来は王族か公爵家ね?」

「そうじゃなくて!」


 言葉だけ見れば大安泰の人生になりそうだが、問題はそこじゃない。


「どうすれば良いのかなって……」

「それは、今すぐ決めることじゃないな」

「お父様?」


「ヒカリはまだ十歳だ。二人の気持ちとちゃんと向き合う時間はたくさんあるんだ」

「うん」


 前世含めて恋愛なんてロクにしたことない。


 答えどころかヒントすら無い状態だ。どう進めば良いのかなんてわからない。


「二人とも良い人なんだから、自分の目でしっかり見て、誰と一緒になりたいか決めれば良い。レオン様か、カルラくんか、はたまた今は知らない誰かか」

「うん、そうする」

「うふふ! ヒカリったらいつのまにこんなモテてたの?」

「お母様!?」


 今までが前世の力に頼り過ぎていた。その分アドバンテージを活かせないと少し怖くなってしまった。


 でも、もうそんな領域は通り過ぎている。


 ヒカリちゃん、そろそろ自分の足で立たないとね?



 こうして名目上お父様の領地経営相談は、お泊まり会へと姿を変えて幕を閉じたのだった。

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