80話 迷子の親
「ママぁぁぁ!」
三人でゆっくり歩き、ナナちゃんが必死に声を上げて探す。
「……」
「ヒカリちゃん凄い冷たいよ……」
「あはは……ちょっと寒いね……」
ナナちゃんは寒さなんて忘れるくらい必死なのだろうけど、僕は正直寒さに負けかけてる。
雨足はだいぶおさまり、声もよく通るようになってきている。
でも、その分風が出てきてかなり寒い。
そんな風に心が折れかけていた時ーー
「ナナァァ!」
「ママの声!」
「ナナちゃん!」
「ちょっ、ヒカリちゃん!」
遠くから子供を呼ぶ声が聞こえ、ナナちゃんは反射的に走り出す。
容赦なく水溜りを踏み、声のする方まで三人で駆ける。
「ナナ!?」
「ママァ!」
ようやく見つけたお母さんは、傘を捨ててナナちゃんに駆け寄り、濡れるのをお構いなしに抱きつく。
「よかった無事で……!」
「ママァァァ!」
再びボロボロと泣き出したナナちゃんは、満足するほど抱きついた後、僕らの方を向く。
「おねえちゃんありがとう」
「よかったね?」
「ん!」
そしてようやく満面の笑みを見せてくれた。
「あの、ありがとうござい……ヒ、ヒカリ様!?」
「え?」
お母さんはお礼の途中で僕の正体に気付いた。
なんでバレた?
「私のこと知って……」
「ウィンガート伯爵家でメイドをしていて……あの、娘がご迷惑をかけたようで、申し訳ございません」
「あー……」
お父様の雇用者でしたか。
そりゃ雇用主の娘が、雨でびしゃびしゃになりながら自分の娘を助けてくれたなんて、腰の抜ける話だ。
そして周囲の人から「あの子伯爵の娘なのか」とか「なんで下町に?」なんて声が聞こえてくる。
元々身分隠してたわけじゃないし、バレたものはしょうがない。
「気にしないで? ナナちゃんが無事でよかった!」
「本当にありがとうございます!」
お母さんは何度も頭を下げて去っていった。
「ヒカリちゃん、僕らも帰ろう。風邪ひいちゃう」
「だね? ちょっと恥ずかしい……」
気付けば日は少し傾いており、夕の鐘が鳴りそうな夕焼けに染まっていた。
*
「ど……どうしたのヒカリちゃん!?」
「あはは……」
セルライト公爵家正面玄関。
たまたまアリアちゃんとコウと帰る時間が被り、アリアちゃんと目が合った瞬間に声が響く。
「と、取り敢えずお風呂!」
「ありがとう……」
有無を言わさず手を引かれて屋敷に入る。
「ただいま戻りました! ねぇ、急いでお風呂沸かしてくれる?」
「承知いたしました!」
「カルラ、説明出来る?」
そしてそばにいたメイドに一言伝達し、全く怒りを隠さないままカルラくんを睨む。
「アリアちゃん、カルラくんは何の悪いことしてなくて、私が勝手にやったことで……」
「それはカルラに聞いてから私が判断するわ」
「お姉ちゃん怖い……」
カルラくんが怯えてますよ?
そんなわけで僕とカルラくんの二人で事の顛末を説明。
「わかったわ? でも、ヒカリちゃんもあんまり危ないことしないでね?」
「危ないこと?」
「危ないわよ! 迷子のためとはいえ、雨の中転んだらどうするの! カルラが傘を買うまで待つべきだったわ!」
「心配かけてごめんね」
確かにそうだ。別に待つ時間程度ならあったはずなのに、気持ちが先走ってしまった。
「まぁいいわ? 取り敢えずお風呂に行きましょ? この格好のままだと風邪ひいちゃうし、カルラにとっては毒よ!」
「お姉ちゃん!! はっ、ごめんヒカリちゃん!」
カルラくんは思い出したように目を逸らす。
「あはは……。カルラくん、コウのことお願いね?」
「わかりました」
そんなこんなでアリアちゃんに手を引かれて浴場まで案内された。
「広い!」
「そう? どこも大して変わらないわよ!」
既に湯気がポカポカたっており、扉越しでも温かい熱気が入ってくる。
冷え切った身体を温めるために服を脱いでいると、隣のアリアちゃんも脱ぎ出した。
「アリアちゃんも入るの?」
「入るわ! ヒカリちゃんとのんびりしたいし! 後でコウくんもどうかしら? 雨降って体も冷えちゃったし!」
「アリアちゃんがいいなら甘えちゃおっかな?」
「えぇ!」
そんなわけで急遽、アリアちゃんとのんびり裸の付き合いをすることになりました。




